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無顆粒球症(治療)[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー検査 甲状腺機能低下症・亢進症 長崎甲状腺クリニック 大阪]

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甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪

甲状腺専門長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。

長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。

既に無顆粒球症を起こした方は、すぐに救急外来と入院設備のある病院を受診ください。1日遅れると手遅れになります。

一般の人は「甲状腺の薬で死ぬ事は少ない」と考えている方が多いです。しかし、甲状腺の薬の副作用をナメテ掛かると大変なことになる可能性があります。

日本全国でメルカゾール無顆粒球症による死亡が2012年で3人、2013年で1人、必ず年間5人未満、報告されています。(あくまで厚生労働省が把握できている数です。)

Summary

甲状腺機能亢進症/バセドウ病無顆粒球症が起これば抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)中止、別の種類の抗甲状腺剤も使用不能。すぐに入院治療。緑膿菌による敗血症を合併しやすくメロペネムとアミノグリコシド、免疫グロブリン製剤、G-CSF(顆粒球コロニー形成刺激因子)[レノグラスチム(ノイトロジン注®)など]を経静脈的投与。陽圧換気個室が好ましい。抗真菌剤フコナゾール同時投与。顆粒球回復までの平均期間は5-9日で、発症時の単球数(Mo)が多いほど早い。ヨード(ヨウ素)アレルギーのバセドウ病患者はヨウ化カリウム(KI)使用不能。

Keywords

無顆粒球症,緑膿菌,G-CSF,顆粒球コロニー形成刺激因子,抗生剤,レノグラスチム,治療,バセドウ病,甲状腺機能亢進症,甲状腺

無顆粒球症が起こったら

無顆粒球症が起こったら

  1. 速やかに抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)を中止し、すぐに救急外来と入院設備のある病院を受診。その際、必ず薬手帳、あるいは薬そのもの、採血の結果を見せないと、他の病気と間違えられる危険性があります。受診するのが1日遅れると手遅れになります。
     
  2. 交差反応があるので、別の種類の抗甲状腺剤も使用不能になります(Med J Aust. 1983 Jul 9;2(1):38-9.)[Br J Clin Pract. 1988 Nov;42(11):474-5.]。
  3. 入院の上、以下の治療を開始
  4. 病状が安定したらアイソトープ(放射性ヨウ素; I-131)治療手術療法(甲状腺全摘出)のいずれかをするしかありません。

無顆粒球症緑膿菌感染

無顆粒球症では緑膿菌による敗血症を合併しやすく、

  1. 広域抗生物質[カルバペネム(メロペネム:MEPM)単独でも緑膿菌に効果]と緑膿菌含むグラム陰性桿菌感染を考慮したアミノグリコシドの併用[カルバペネム耐性腸内細菌が出現しておりチゲサイクリンなどが適用]
  2. CEPM(第4世代セフェム:セフェピム)
  3. TAZ/PIPC(β‐ラクタマーゼ阻害剤配合タゾバクタム・ピペラシリン)

に免疫グロブリン製剤、G-CSF(顆粒球コロニー形成刺激因子)を経静脈的に投与し、敗血症等の重症感染症を防ぐ必要があります。陽圧換気個室での管理が好ましいです。

無顆粒球症と緑膿菌感染

また壊疽性膿瘡皮膚の緑膿菌感染症で、緑膿菌敗血症に伴う特異的な皮膚症状です(壊疽性膿皮症とは異なる)。

無顆粒球症と緑膿菌感染

無顆粒球症時の抗生剤投与

無顆粒球症時の抗生剤は、血液培養検査の検体を採取し後、上記の緑膿菌を前提とした抗生剤に加えて、抗真菌剤フコナゾールも同時に投与します。また、当然、下記のG-CSF(顆粒球コロニー形成刺激因子)製剤も好中球が増えるまで投与します。

具体例として、

  1. メロペネム0.5g×2、硫酸イセパマイシン400 mg(施設により異なります)
  2. 消化管殺菌のため硫酸ポリミキシンB 300 万IU、フルコナゾール100 mg の内服
  3. 発熱持続していれば、嫌気性グラム陰性桿菌を想定し、クリンダマイシン600 mg×2 も併用
  4. 白血球数2,700/μL、好中球36%に回復し、投与していた抗生剤を中止してレボフロキサシン300 mgに変更。
    (厚生労働省;重篤副作用疾患別対応マニュアル 無顆粒球症)

フルコナゾール最大の弱点は、アルぺルギルス属に全く効かない事です。ミカファンギン(ファンガード®)はカンジダ症だけでなくアスペルギルス症にも有効で、真菌細胞壁にあるβ1,3-グルカンの生成を阻害します。施設によっては、フルコナゾールでなくミカファンギン(ファンガード®)を使用する所もあります。

無顆粒球症に対して無効な抗生剤を投与し、感染が長引いたり重症化すれば血球貪食症候群(HPS)が誘発される危険があり、さらに皮疹が出れば抗生剤の副作用と間違える可能性もあります。

メロペネム(メロペネム水和物)は発熱性好中球減少症に適応あり

メロペネム(メロペネム水和物)は無顆粒球症を含む発熱性好中球減少症(febrile neutropenia; FN)に保険適応あります。具体的な条件として、

  1. 1回の検温で38℃以上の発熱、又は1時間以上持続する37.5℃以上の発熱
  2. 好中球数が500/mm3未満の場合、又は1000/mm3未満で500/mm3未満に減少することが予測される場合
    (好中球数が緊急時等で確認できない場合、白血球数の半数を好中球数として推定する事が許容されています。)

を満たせばよいので、無顆粒球症ではためらいなく使用できます。また、投与前に血液培養等を実施することも条件に入っています。

メロペネムの使用量は、

  1. 成人の一般感染症では1日0.5g(1バイアル)〜1g(力価)を2〜3回に分割
  2. 成人の発熱性好中球減少症では1日3gを3回に分割

です。

セフェピム(cefepime; CFPM)

第4世代のセファロスポリン系抗生物質のセフェピム(cefepime; CFPM、マキシピーム®)も広域スペクトラムで、グラム陽性菌とグラム陰性菌に対し幅広い活動範囲があり、発熱性好中球減少症(FN)に適応があります。

G-CSF(顆粒球コロニー形成刺激因子)製剤と甲状腺

無顆粒球症のG-CSF(顆粒球コロニー形成刺激因子)製剤投与は再生不良性貧血に準じて行います。顆粒球回復までの平均期間は5日ほど(5-9日)で、無顆粒球症発症時の単球数(白血球分画ではMo)が多いほど回復が早いとされます。大抵は血液中の好中球数が7日以降に、1000/μlを超えます。[Am J Med., 112:460 (2002)][Ann Hematol.,66:241 (1993)]

具体例として、G-CSF 100 μg 皮下注(ノイトロジン®等)を連日行います(施設により異なります)。筆者の経験では、G-CSF 50 μg または75μg 皮下注では弱いため、100 μg 皮下注の方が良いと思います。ただし、重症例では300 μg 皮下注の事があります(「バセドウ病治療ガイドライン 2019」ではエビデンスレベルD)。血液中の好中球数が1000/μlを超えれば回復とみなします。(厚生労働省;重篤副作用疾患別対応マニュアル 無顆粒球症)

参考までに以下は、甲状腺の病気でG-CSF(顆粒球コロニー形成刺激因子)製剤を使用する基準です

  1. 悪性リンパ腫(甲状腺原発悪性リンパ腫)など造血幹細胞の末梢血中への動員⇒造血幹細胞移植時の好中球数の増加促進
  2. 悪性リンパ腫(甲状腺原発悪性リンパ腫)、小細胞肺癌:がん化学療法剤投与終了後、翌日以降から
  3. 甲状腺未分化癌の抗癌剤治療では好中球数1,000/mm3未満で発熱(38℃以上)あるいは好中球数500/mm3未満が観察された時点から
  4. 再生不良性貧血(下記)/骨髄異形成症候群(MDS)に伴う好中球減少症:好中球数1,000/mm3未満

G-CSF製剤に重大副作用

以下の遺伝子組換え顆粒球コロニー形成刺激因子製剤(G-CSF 製剤)の 

  1. ペグフィルグラスチム(商品名:ジーラスタ皮下注 3.6mg);持続型G-CSF製剤
  2. フィルグラスチム(商品名:グラン注射液他、後発品も)
  3. レノグラスチム(商品名:ノイトロジン注)

は、薬剤誘発性大型血管炎(大動脈、総頸動脈、鎖骨下動脈等の炎症)の副作用が報告されています。

薬剤誘発性大型血管炎の症状は発熱で、血液検査では炎症反応を認めます。造影CTでは大血管に比較的均一な壁肥厚を認め、バセドウ病に合併する大動脈炎症候群(高安病)と画像上、似ているため鑑別要。

基本的にG-CSF製剤の使用を終了すれば、自然に軽快します。(Mod Rheumatol Case Rep. 2020 Jan;4(1):74-78.)

ヨード(ヨウ素)アレルギーのあるバセドウ病患者で無顆粒球症が起きたら

ヨード(ヨウ素)アレルギーのあるバセドウ病患者無顆粒球症が起きたら、頼みの綱である無機ヨウ素剤[ヨウ化カリウム(KI)]を使用できません。当然、メルカゾール、プロパジール、チウラジールは二度と使えず、免疫が低下した状態なので免疫を抑制する副腎皮質ステロイド剤も使用不能。甲状腺ホルモンを下げる代用手段は、せいぜい、炭酸リチウム(リーマス®)コレスチラミン(クエストラン®)、コレスチミド(コレバイン®)程度になるため、甲状腺機能亢進症/バセドウ病をコントロールできません。甲状腺ホルモンが高いままの高リスクな状態で、甲状腺全摘術をせざる得ません。

信州大学の報告では、無顆粒球症を発症し、無機ヨウ素剤[ヨウ化カリウム(KI)]が使えず、短時間で治療方針の決断を迫られたものの、入院後2日目に甲状腺機能が正常化していたため、機を逃さず3日目に甲状腺全摘術を施行したとの事です。すばらしい判断と甲状腺外科との見事な連携を称賛したいと思います。(第59回 日本甲状腺学会 P1-2-7 チアマゾールによる無顆粒球症を発症したヨードアレルギーのあるバセドウ病患者の1 例)

甲状腺関連の上記以外の検査・治療   長崎甲状腺クリニック(大阪)

長崎甲状腺クリニック(大阪)とは

長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,浪速区,八尾市,東大阪市も近く。

長崎甲状腺クリニック(大阪)


長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査等]施設で、大阪府大阪市東住吉区にある甲状腺専門クリニック。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市近く

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