副腎皮質機能低下症と甲状腺の病気[橋本病 バセドウ病 甲状腺機能低下症 甲状腺機能亢進症 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
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Summary
副腎皮質ホルモン(コルチゾール)は自己免疫を抑えるので副腎皮質機能低下症では自己免疫性甲状腺疾患(橋本病、無痛性甲状腺炎、バセドウ病)発症・増悪。無痛性甲状腺炎、亜急性甲状腺炎、甲状腺機能亢進症/バセドウ病で過剰な甲状腺ホルモンが副腎皮質ホルモン代謝分解を促進、副腎皮質機能低下症悪化。APS(多腺性自己免疫症候群)2型は橋本病・バセドウ病に自己免疫性副腎皮質機能低下症(アジソン病)合併(シュミット症候群)。橋本病,バセドウ病の約5%に隠れ副腎皮質機能低下症、ACTH正常値/コルチゾール低値ならCRH(1μg)負荷試験・インスリン低血糖試験。
Keywords
副腎皮質機能低下症,自己免疫性甲状腺疾患,橋本病,無痛性甲状腺炎,バセドウ病,亜急性甲状腺炎,甲状腺機能亢進症,甲状腺ホルモン,副腎皮質ホルモン,甲状腺
副腎皮質ホルモン(コルチゾール)はステロイドホルモンなので、自己免疫を抑える作用があります。副腎皮質機能低下症では、そのため自己免疫性甲状腺疾患(橋本病、無痛性甲状腺炎、バセドウ病)の発症も多くなります。
急激な副腎皮質ホルモンの低下で自己免疫性甲状腺疾患(特に無痛性甲状腺炎)発症
- 下垂体腺腫術後の下垂体前葉機能低下症(下垂体性副腎皮質機能低下症)で、コルチゾールの補充が不十分な場合、無痛性甲状腺炎を発症
- クッシング症候群で副腎腫瘍の切除後、無痛性甲状腺炎、甲状腺機能亢進症/バセドウ病を発症(Gland Surg. 2021 May;10(5):1627-1637.)(Intern Med. 2021 Jan 1;60(1):99-103.)
無痛性甲状腺炎、甲状腺機能亢進症/バセドウ病が発症すると、過剰な甲状腺ホルモンが副腎皮質ホルモン(コルチゾール)の代謝(分解)を促進し、副腎皮質機能低下症が更に悪化します。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病・甲状腺中毒症での副腎皮質ホルモン(コルチゾール)
甲状腺機能亢進症/バセドウ病・甲状腺中毒症では、
- 血中のコルチゾールの分解が亢進し、血清遊離コルチゾールが低下します。
- 全身の代謝が亢進しているため、末梢組織でのコルチゾール必要量は増加し、相対的副腎不全状態にあります。
- 血中コルチゾールの9割以上と結合しているコルチゾール結合タンパク質(CBG; cortisol binding globulin)の分解が亢進、遊離コルチゾールが増え尿中コルチゾールが増加します。
- 交感神経系が活性化され、下垂体のACTH産生、副腎皮質でのコルチゾール産生が増加します。
以上のバランスにより、コルチゾールは上昇する場合も、低下する場合もある様です。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病
副腎皮質機能低下症に甲状腺機能亢進症/バセドウ病を合併すると、過剰な甲状腺ホルモンが副腎皮質ホルモンを代謝分解し、副腎皮質機能低下症が悪化します[APS(多腺性自己免疫症候群)2型]。甲状腺のホルモンの数値以上に、全身倦怠感・筋力低下・体重減少・脱毛が進みます(甲状腺中毒症だけでは説明し難い著明な症状)。(第56回 日本甲状腺学会 P2-116 褐色細胞腫術後に診断に至った副腎不全を伴うバセドウ病の1 例)
不自然な低血糖から副腎皮質機能低下症が見つかった甲状腺クリーゼ の報告があります(第65回 日本甲状腺学会 O5-1 低血糖を合併した甲状腺クリーゼの一例)。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病の約10%が副腎不全(副腎皮質機能低下症)のリスクを持っています。たとえ自己免疫性の副腎皮質機能低下症(アジソン病)や中枢性(続発性)副腎皮質機能低下症を合併していなくても、甲状腺機能亢進症/バセドウ病では過剰な甲状腺ホルモンが副腎皮質ホルモンを代謝分解するため、約10%に副腎皮質機能低下症を伴うとされます[Endocrine. 2014 Feb;45(1):136-43.]。
甲状腺中毒症だけでは説明し難い著明な全身倦怠感・筋力低下・体重減少・脱毛があれば副腎皮質機能低下症を疑うべきでしょう。(保険適応外の)抗副腎皮質抗体や抗下垂体抗体(PAb-1)、IgG4陰性で自己免疫が否定的なら、甲状腺機能の改善とともに、副腎皮質ホルモン分解も正常化します。[Endocr Pract. 2009 Apr;15(3):220-4.]
亜急性甲状腺炎
亜急性甲状腺炎により急性副腎不全症を発症した症例報告があります。亜急性甲状腺炎の炎症による副腎皮質ホルモンの需要増加と、甲状腺中毒症による副腎皮質ホルモンの分解亢進が原因です。どの道、亜急性甲状腺炎の治療として副腎皮質ホルモン剤(プレドニゾロン)をレスキュー量以上で使用するので事なきを得ますが、亜急性甲状腺炎の診断・治療が遅れると急性副腎不全症になる危険があります。(第57回日本甲状腺学会 P1-042 亜急性甲状腺炎を契機に急性副腎不全症を発症した術後クッシング症候群の1 例)
スロベニアの報告では、メチルプレドニゾロン24 mg /日(プレドニゾロン30 mg相当)で開始し、5日ごとに4 mg(プレドニゾロン5 mg相当)ずつ漸減する30日間の治療プロトコルの結果、12.3%が副腎不全を発症。あまりにも急激な減量が原因と考えられます。[Endocr Connect. 2023 Oct 3;12(11):e230054.]
無痛性甲状腺炎
軽度潜在性甲状腺中毒症の無痛性甲状腺炎でも副腎皮質機能低下症が悪化します。(第59回 日本甲状腺学会P2-2-1 無痛性甲状腺炎を契機に副腎不全が顕在化したと思われる下垂体機能低下症の1例)
ACTH単独欠損症により無痛甲状腺炎を発症し、副腎皮質機能低下症が悪化した報告があります。[Kurume Med J. 2012;59(3-4):71-7.]
出産後甲状腺炎の無痛甲状腺炎型とシーハン症候群を同時発症した中枢性(続発性)副腎皮質機能低下症の報告もあります。[J Endocrinol Invest. 1997 Jun;20(6):335-7.]
APS(多腺性自己免疫症候群)2型
APSは複数の自己免疫病を合併する病態です。APS2型では橋本病(またはバセドウ病)に自己免疫性の副腎皮質機能低下症(アジソン病)を合併します(シュミット症候群)。
詳しくは、APS(多腺性自己免疫症候群)2型 を御覧下さい。
APS(多腺性自己免疫症候群)1型
多腺性自己免疫症候群(autoimmune polyendocrine syndrome: APS)1型は、自己免疫による副甲状腺の破壊(副甲状腺機能低下症)、副腎不全(アジソン病)と慢性粘膜皮膚カンジダ症(CMCC)の合併。
詳しくは、APS(多腺性自己免疫症候群)1型 を御覧下さい。
甲状腺研究の先駆者かつ大先輩である徳洲会八尾病院の山本智英先生が、自己免疫性甲状腺疾患(橋本病,バセドウ病)に合併する隠れ副腎皮質機能低下症(latent adrenal insufficiency)の存在を証明されました。自己免疫性甲状腺疾患(橋本病,バセドウ病)の約5%に隠れ副腎皮質機能低下症が存在するとの事です。(Eur Thyroid J. 2015 Sep;4(3):201-6.)
自己免疫性甲状腺疾患(橋本病,バセドウ病)治療後、甲状腺機能が正常化し、安定しているにもかかわらず、
- 倦怠感
- 胃腸症状
- 手足のむくみ
- 低血糖
が持続する場合には、隠れ副腎皮質機能低下症の疑いがあります。ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)/コルチゾール(副腎皮質ホルモン)を測定します。
ACTH正常値/コルチゾール低値(早朝 10.98 μg/dl以下)なら、
- CRH(1μg)負荷試験(コルチゾール頂値 18 μg/dL 以下なら確定)
- インスリン低血糖試験(コルチゾール頂値 20 μg/dL 以下なら確定)
を行い確定します[大阪公立大学(旧 大阪市立大学) 代謝内分泌内科に短期入院にて]。確定診断が付けば、副腎皮質ホルモン補充開始。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市,生野区,天王寺区,浪速区も近く。