甲状腺と心臓弁膜症 [日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー検査 甲状腺機能低下症 長崎甲状腺クリニック 大阪]
長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。心臓疾患の治療を行っておりません。
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門・動脈硬化の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会年次学術集会で入手した知見です。
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Summary
心臓弁膜症に甲状腺機能亢進症が合併すると心不全悪化・不整脈誘発。僧帽弁狭窄症による心房細動は甲状腺機能亢進症/バセドウ病誘発性と鑑別。甲状腺機能亢進症/バセドウ病の30%に僧帽弁逸脱症。バセドウ病、甲状腺機能低下症では僧帽弁の粘液水腫性変化で僧帽弁閉鎖不全症(MR)、僧帽弁腱索/乳頭筋断裂。甲状腺癌患者の大動脈弁狭窄症(AS)は人工心肺により癌細胞が全身に飛び散るため経カテーテル大動脈弁留置術(TAVI)適応。速脈は甲状腺機能亢進症や大動脈弁閉鎖不全症(AR)で出現。甲状腺機能亢進症/バセドウ病による高拍出量性右心不全で三尖弁閉鎖不全症。
Keywords
心臓弁膜症,甲状腺機能亢進症,僧帽弁狭窄症,バセドウ病,甲状腺機能低下症,僧帽弁逸脱症,大動脈弁狭窄症,経カテーテル大動脈弁留置術,大動脈弁閉鎖不全症,僧帽弁閉鎖不全症
心臓弁膜症とは
心臓弁膜症と甲状腺機能亢進症
心臓弁膜症による慢性心不全が基礎疾患として存在すると、甲状腺機能亢進症が加われば、
ドーパミン受容体刺激薬のガベルゴリン(カバサール®)で心臓弁膜症が悪化
TSH不適切分泌症候群(SITSH)の一つ、TSH産生下垂体腺腫は、下垂体からTSH(甲状腺刺激ホルモン)と同時に成長ホルモン・プロラクチンが分泌される事があります。プロラクチン産生下垂体腺腫にはドーパミン受容体刺激薬のガベルゴリン(カバサール®)を使用します[保険適応はプロラクチン産生下垂体腺腫だけですがTSH産生下垂体腺腫・成長ホルモン産生下垂体腺腫(先端巨大症)にも有効]。
副作用として心臓弁膜症の悪化があり、事前に心臓超音波検査を行い、心臓弁の異常がないか確認する必要があります。
僧帽弁狭窄症の約半数に心房細動(Af)を合併します。
僧帽弁狭窄症(MS)が原因で起こる心房細動(Af)と、甲状腺機能亢進症/バセドウ病に伴う心房細動(Af)は紛らわしいですが、写真のように心臓超音波(エコー)検査して、左心房の拡張と僧帽弁の狭窄を確認すれば一目瞭然。
僧帽弁狭窄症(MS)では
- 肺うっ血;慢性肺疾患にかかり易い
- 右心不全;左心不全と異なり、進行が緩やかで症状が出にくく見逃される事が多い
疲れやすい、息切れがするなどの症状、頚静脈怒張、足のむくみ(下腿浮腫)を認める
僧帽弁狭窄症(MS)の心音所見は
- I音の亢進
- II音直後に高調な僧帽弁開放音
- 汎拡張期雑音
リウマチ性僧帽弁狭窄症 (RMS) は、連鎖球菌感染症における自己免疫性後遺症であり、死亡率を増加させます。リウマチ性僧帽弁狭窄症 (RMS)患者では、 橋本病(慢性甲状腺炎)の合併頻度が高い。[J Heart Valve Dis. 2008 Nov;17(6):635-8.]
機械弁置換術後は、ワルファリン(ワーファリン)による抗凝固療法が生涯続きます。直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)[direct oral anticoagulant] は血栓塞栓症予防効果が不確実です。
僧帽弁逸脱症は人口の5-10%に存在し、女性は男性の2倍です。よって循環血液量・心拍出量が増加する甲状腺機能亢進症/バセドウ病、非自己免疫性家族性甲状腺機能亢進症に合併する率も高くなります。(J Clin Endocrinol Metab. 1999 Apr;84(4):1459-62.)
未治療甲状腺機能亢進症/バセドウ病の30~40%との報告があります。
ほとんど無症状ですが、胸痛・不整脈による動悸もおこし、甲状腺機能亢進症状と紛らわしいです。
僧帽弁閉鎖不全・感染性心内膜炎(原因の1/3)をおこすと予後不良(突然死、敗血症など)。
聴診で収縮中期クリック・収縮後期雑音があれば疑わしく、心エコーすべきです。胸痛や不整脈による動悸に甲状腺機能亢進症と同じくベータ遮断薬が有効です。
僧帽弁閉鎖不全症(MR)は、
- 僧帽弁破壊:動脈硬化、リウマチ熱による僧帽弁の石灰化、感染性心内膜炎
- 僧帽弁逸脱:閉塞性肥大型心筋症、甲状腺機能亢進症の30%に起こります。
- 乳頭筋障害・心筋障害:
拡張型心筋症、虚血性心疾患(狭心症/心筋梗塞)
心筋梗塞(右冠状動脈、回旋枝梗塞)による乳頭筋断裂
虚血性心疾患(狭心症/心筋梗塞)では腱索/乳頭筋が断裂しなくても、左室・左房・僧帽弁輪拡大、壁運動低下により僧帽弁閉鎖不全症(MR)
甲状腺機能亢進症/バセドウ病、甲状腺機能低下症/橋本病(下記)
などが原因となります。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病、甲状腺機能低下症/橋本病では僧帽弁腱索/乳頭筋断裂の頻度が高い(Endocr Rev. 2005;26(5):704–728.)。
自己免疫性に粘液多糖類の蓄積による僧帽弁の粘液水腫性変化が生じます
- 甲状腺機能亢進症/バセドウ病の33%
- 甲状腺機能低下症/橋本病の36%
(Thyroid. 2002 Mar; 12(3):193-5.)
特に循環血液量・心拍出量が増加する甲状腺機能亢進症/バセドウ病では、僧帽弁腱索/乳頭筋断裂をおこす危険性が増します。(J Endocr Soc. 2018 Sep 17;2(11):1246-1250.)[Endocrinol Diabetes Metab Case Rep. 2022 Jul 1;2022:22-0298.]
僧帽弁腱索/乳頭筋断裂がなく、粘液腫性変性による中等度から重度の僧帽弁閉鎖不全症(MR)なら、甲状腺機能の正常化に伴い改善する可能性があります。[BMJ Case Rep. 2021 Feb 4;14(2):e239626.]
大動脈の動脈硬化が大動脈弁に達し、弁が(ガチガチに)石灰化すると開きが悪くなります[加齢性大動脈弁狭窄症(AS)]。
大動脈弁狭窄症(AS)では、
- 心拍出量が低下、冠動脈血流が減少して狭心症を発症
- 脳血流が減少し失神が現れると3年の命(余命3年)とされる
- 胸骨右縁第2肋間を最強点とする収縮期雑音が頚部へ放散
- 心電図 I, aVL, V5-6 誘導でST低下と深い陰性T波をともなう左室肥大(ストレインパターン)が特徴的
大動脈弁狭窄症(AS)の心筋では、おそらく3型脱ヨード酵素(DIO 3)発現により、甲状腺ホルモンの不活性化が促進されています[Thyroid. 2017 May;27(5):738-745.]。おそらく、心筋を保護するための生理的代償反応
経カテーテル大動脈弁留置術 (TAVI, transcatheter aortic valveimplantation)
甲状腺癌の経カテーテル大動脈弁留置術 (TAVI)
担癌患者でも余命が2年以上ある場合、経カテーテル大動脈弁留置術 (TAVI)の適応になります。甲状腺癌は、甲状腺未分化癌・甲状腺扁平上皮癌を除けば、ほとんどが適応になります。
大動脈弁置換術と胸腔内異所性甲状腺腫切除術の同時手術
大動脈弁置換術と胸腔内異所性甲状腺腫切除術を同時に行った64歳女性の報告があります[J Card Surg. 2012 May;27(3):342-4.]。
潜在性甲状腺機能低下症で大動脈弁置換後の術後心房細動(Af)リスク上昇
潜在性甲状腺機能低下症は、体外循環を伴う大動脈弁置換後の術後心房細動(Af)のリスクを高める(オッズ比 3.14)可能性があります[Thorac Cardiovasc Surg. 2016 Aug;64(5):427-33.]。
常染色体優性遺伝による心筋の収縮単位「サルコメア」異常[心筋収縮関連蛋白(β‐ミオシン重鎖,トロポニンT/I,ミオシン結合蛋白C)異常]。運動時大動脈弁狭窄症と似た症状(脱水で症状増悪)。若年者は突然死、中高年は心不全死や塞栓症死の危険。
心臓エコーは左室流出路狭窄・心臓壁肥大・僧房弁前尖の収縮期前方運動(僧房弁逸脱、収縮早期心筋との摩擦による過剰心音)。頚動脈拍動は左室流出路狭窄びよるspike and dome型
β遮断薬、ベラパミル使用(ニフェジピンなどのジヒドロピリジン系カルシウ ム拮抗薬・ニトロは禁忌)。心室頻拍は植込み型除細動器の適応。経皮的中隔心筋焼灼術や心室筋切除術、難治性心不全は心移植が適応。
長年の経過で心筋が薄くなり拡張型心筋症のようになる拡張相肥大型心筋症があります。
逆流により左室血液量増加し、相対的な大動脈弁狭窄症(AS)をおこします。
脈拍が急激に大きくなり、ついで急激に小さくなる速脈は循環血液量多くなる甲状腺機能亢進症、大動脈弁閉鎖不全症(AR)でみられます。
甲状腺の異常と大動脈弁閉鎖不全症(AR)を合併する疾患として、
- 先端巨大症(成長ホルモン産生下垂体腺腫)[J Endocrinol Invest. 2020 Mar;43(3):279-287.]
- ターナー症候群
- チロシン(アミノ酸の1つ)代謝異常のアルカプトン尿症(アルカプトン尿症と甲状腺)
甲状腺機能亢進症/バセドウ病による高拍出量性右心不全では三尖弁輪が拡大して三尖弁が閉じなくなり、三尖弁閉鎖不全症に至る場合があります。治療により甲状腺機能が正常化すれば、右心不全も三尖逆流も消失する可能性があります(Indian Heart J. 2012 Nov-Dec;64(6):600-2.)(Tex Heart Inst J. 2005;32(2):244-5.)。
逆に三尖弁閉鎖不全症では甲状腺機能亢進症/バセドウ病が疑われます。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
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