甲状腺癌の早期発見は過剰診断・過剰診療か?浸潤型微小乳頭癌・甲状腺悪性リンパ腫[橋本病 バセドウ病 超音波エコー検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺の基礎知識を初心者でもわかるように、長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が解説します。
その他、甲状腺の基本的な事は甲状腺の基本(初心者用)、橋本病の基本(初心者用)を、高度で専門的な知見は甲状腺編 甲状腺編 part2 を御覧ください。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。
Summary
「甲状腺癌の早期発見は過剰診断、過剰診療」との論説は「若年者の甲状腺微小乳頭がん(1cm未満の乳頭がん)は治療を必要としないため、甲状腺がん検診の超音波(エコー)スクリーニング検査で見つけて治療しても害になるだけ」との主旨。甲状腺がん=甲状腺乳頭がんの前提で書かれており、読む人に誤解を招く。若年者でも甲状腺超音波エコー検査が必要な場合もある。橋本病(慢性甲状腺炎)患者では約80倍の高頻度で甲状腺悪性リンパ腫が発生し、長崎甲状腺クリニック(大阪)にても33歳男性の甲状腺悪性リンパ腫を早期発見し命を助けることができた。
Keywords
甲状腺癌,早期発見,過剰診断,過剰診療,若年者,甲状腺微小乳頭がん,甲状腺がん検診,超音波,エコー,スクリーニング
「甲状腺癌の早期発見は意味がない!、過剰診断だ!、治療すればかえって害になる!過剰診療だ!」との論説がネット上に挙げられています。某大学のHPをよく読んでみると、「若年者の甲状腺微小乳頭がん(1cm未満の乳頭がん)は治療を必要としない大人しい癌だから、超音波(エコー)スクリーニング検査で見つけて治療しても害になるだけだ」との主旨でした。
なるほど一理あります。わざわざ超音波エコー装置を持ち出して、健康な若者に甲状腺がん検診を行う意味はないでしょう。この点については医学的に間違いなく、筆者も賛成です。しかし、読む人(医者、医療関係者、一般の人)によっては違った捉え方、または誤解をするかもしれません。例えば、「若年者に甲状腺超音波エコー検査をおこなう意味は無い」「若年者の甲状腺がんは見つける必要がない」と曲解してしまえば大変なことになります。
某国立大学のHPは、甲状腺がん=甲状腺乳頭がんの前提で書かれています。これが誤解を招く一因とも考えられますが、必ずしも甲状腺がん=甲状腺乳頭がんとは限りません(ほとんど乳頭がんですが)。
以下は長崎甲状腺クリニック(大阪)にて偶然から見つかった33歳男性の甲状腺悪性リンパ腫(命に係わる甲状腺癌)のケースです。早期発見だったので甲状腺全摘手術で完治し、数年経った今も長崎甲状腺クリニック(大阪)に通院されています。
もともと、奥さんが甲状腺機能低下症/橋本病を長崎甲状腺クリニック(大阪)で治療中。「一度、主人も診てやってください」の一言から、特に甲状腺の病気を疑うわけでないのに血液検査と甲状腺超音波エコー検査をおこなったところ甲状腺機能正常橋本病でした。この時(32歳時)は甲状腺悪性リンパ腫を疑う所見はなく1年後の再診を指示しましたが、来院されたのは1年10か月後。 橋本病は甲状腺癌の発生母体であるため、当然のごとく甲状腺超音波エコー検査を施行。
(写真参照)右葉中部に18.5x13.2x8.8 mmの甲状腺悪性リンパ腫を認め、大阪市立大学(現、大阪公立大学) 内分泌外科(現在は業務統合のため廃止)にて甲状腺全摘手術をおこない完治。発見が早かったため甲状腺から外に出ておらず、術後の抗がん剤も一切必要なく経過。今も元気に御夫婦で来院されています。もしも、甲状腺超音波エコー検査を行っていなければ、命を失っていた可能性大です。
繰り返しますが、
「若年者の甲状腺微小乳頭がん(1cm未満の乳頭がん)を見つける目的での甲状腺がん検診は必要ない」
≠ 「若年者に甲状腺超音波エコー検査をおこなう意味は無い」「若年者の甲状腺がんは見つける必要がない」
と、同じではないので間違えてはいけません。
臨床の現場では、「若年者でも甲状腺超音波エコー検査が必要な場合がある」、「若年者でも甲状腺超音波エコー検査を行わないと取り返しのつかない結果を招く場合もある(上記の甲状腺悪性リンパ腫のように)」のです。
下の写真は、前項の33歳男性以外で甲状腺癌の早期発見により命が助かった事例です。
「甲状腺がんの大半を占める甲状腺乳頭がんは大人しい癌なので、甲状腺がんの早期診断・早期治療は有害な過剰診断・過剰診療だ!」との意見が出ています。
原則、その通りかもしれませんが、臨床の世界では例外もあります。
- 大人しくない甲状腺微小乳頭がん(1cm未満の乳頭がん)の浸潤型微小乳頭癌
- 絶対に手術が必要な甲状腺微小乳頭癌
- 増殖能が高い(悪性度が高い)甲状腺乳頭癌亜型
- 甲状腺未分化癌のように急激に大きくなる甲状腺乳頭癌(甲状腺乳頭癌 高MIB-1標識率)
- 甲状腺未分化癌が合併・未分化転化[甲状腺癌の発癌理論(芽細胞発癌:fetal cell carcinogenesis)]
は、甲状腺乳頭癌と言えども早期診断・早期治療が必要なのは疑う余地がありません。ただの甲状腺微小乳頭がん・甲状腺乳頭癌と高をくくっていると痛い目に合います。
そして、甲状腺がんは何も甲状腺乳頭がんだけではありません。頻度は少ないものの
は、早期診断・早期治療が特に重要な甲状腺癌です。教科書に書いてある甲状腺悪性リンパ腫の症状は、「甲状腺が急速に大きくなり、呼吸困難や嚥下障害をおこす」ですが、それでは手遅れです。
橋本病(慢性甲状腺炎)は甲状腺癌の発生母体です[橋本病(慢性甲状腺炎)に発生する甲状腺原発悪性リンパ腫]。
- 橋本病(慢性甲状腺炎)の0.6%(200人に一人)に甲状腺原発悪性リンパ腫が発生(N Engl J Med 1985; 312: 601-604.)(Br J Haematol. 2011; 153:236-243.)
- 橋本病患者では同年代の健常人と比べ67-80倍の高頻度で甲状腺原発悪性リンパ腫が発生(N Engl J Med 1985; 312: 601-604.)(Human pathology 1988; 19; 1444-1448.)。
よって、橋本病(慢性甲状腺炎)を治療している以上は、甲状腺悪性リンパ腫の早期発見に努めるのが筋でしょう。
進行速度が速すぎて早期発見が極めて難しい甲状腺未分化癌、甲状腺原発扁平上皮癌も、万が一、早期発見できれば予後は多少改善するかもしれません。
甲状腺低分化がんは、甲状腺未分化癌ほど進行が早くなく、その10年生存率は、
- stage I,II の場合、甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌) 92%、甲状腺低分化癌 81%
- stage III,IV の場合、甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌) 69%、甲状腺低分化癌 48%
(図説臨床〔癌〕シリーズ, no 11頭頸部癌 pp. 114~122, カルビュー社 (東京), 1987.)
で早期に見つけて治療するに越したことはありません。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。