甲状腺癌の予後・生存率 [日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー検査 甲状腺機能低下症 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺の基礎知識を初心者でもわかるように、長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が解説します。
その他、甲状腺の基本的な事は甲状腺の基本(初心者用) 橋本病の基本(初心者用)を、高度で専門的な知見は甲状腺編 甲状腺編 part2 を御覧ください。
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令和4年版厚生労働白書によると、
- 日本で1日に死亡する約3,900人のうち、癌で死亡するのは1,045人(日本人の約4人に1人は癌で死亡)。老衰は417人(日本人の約10人に1人)
- 生涯でがんになる男性は31.6%、女性は25.8%
Summary
国立がんセンターによる癌の5年生存率で甲状腺癌は女性1位、男性3位。甲状腺癌の10年生存率・予後は乳頭癌・濾胞癌、髄様癌、低分化癌、未分化癌の順に低下。甲状腺癌の85%を占める甲状腺乳頭癌の10年生存率は96%で遠隔転移(肺転移・骨転移)、高細胞型、高Ki67-U(MIB-1ラベリング)型は予後悪化。甲状腺濾胞癌の10年生存率は80%前後で、肺・骨へ血行性遠隔転移すれば予後悪化。甲状腺未分化癌は限局型stageⅣAは根治手術可能で生存期間1年以上可能、遠隔転移stageⅣCは根治手術を期待できず平均余命6カ月程。拡大手術した進行甲状腺癌(甲状腺分化癌,低分化癌,未分化癌)の予後は改善。
Keywords
5年生存率,甲状腺癌,10年生存率,予後,乳頭癌,濾胞癌,髄様癌,低分化癌,未分化癌,遠隔転移
当然、甲状腺癌の85%を占める甲状腺乳頭癌と、10%弱の甲状腺濾胞癌、いわゆる甲状腺分化癌の予後が良いためです。非分化癌である甲状腺髄様癌や、甲状腺悪性リンパ腫(MALTリンパ腫)も決して予後は悪くないため、甲状腺癌の5年生存率は高いのです。
ただし、いくら予後の良い組織型が多いと言っても
愛知県がんセンターの公表データ改変(施設データなので教科書とは異なります)
組織型 | 分化癌 | 髄様癌 | 低分化癌 | 未分化癌 | ||
---|---|---|---|---|---|---|
乳頭癌 | 濾胞癌 | |||||
頻度 | 92% | 3% | 2% | 2% | 2% | |
平均年齢 | 52-54歳 | 52歳 | 59歳 | 高 年 | ||
発育速度 | 緩やか | 型による | やや急速 | 急速 | ||
周囲浸潤 | 49% | 17% | 87% | 89% | ほぼ100% | |
頸部リンパ節転移 | 69% | 0% | 87% | 89% | ほぼ100% | |
血行性転移 | 7% | 17% | 0% | 44% | ||
治療法 | 外科手術 | ※ | ||||
10年生存率 | 92% | ほぼ100% | 73% | 56%(5年) | 0% |
※甲状腺未分化癌のうち
- 限局型のstage Ⅳ Aは、根治手術可能で生存期間1年以上が可能です(Ann Surg Oncol 2002;9:57-64.)周囲臓器に進展した(stage Ⅳ B)
- 遠隔転移して(stage Ⅳ C)は、根治手術を期待できず、放射線外照射・化学療法・分子標的薬治療が適応ですが、平均余命6カ月程です。
伊藤病院の報告では、拡大手術(反回神経の合併切除、喉頭・気管の全層切除、咽頭・食道の全層切除、縦隔切開もしくは鎖骨切除)が行われた進行甲状腺癌(甲状腺分化癌,低分化癌,未分化癌)212 例の予後は、
- 3年生存率(98.25%/93.3%/29.3%)
- 局所無再発率(75.2%/46.35%/52.3%)
- 遠隔無再発率(84.2%/41.1%/50.9%)
との事です。(第57回 日本甲状腺学会 P1-063 拡大手術が施行された進行甲状腺癌の経過)
もちろん、術後放射性ヨウ素治療(I-131 内用療法内照射)も併用されているのでしょうが、甲状腺分化癌はこれほどの拡大手術を要する進行癌であっても、3年生存率98.25%と非常に予後が良いです。
さらに驚くべきは、甲状腺未分化癌の予後です。甲状腺未分化癌の平均余命は6カ月で(つまり根治手術するには手遅れ)、手術可能であった症例は1-2年の平均余命が一般的です。伊藤病院の報告は3 年生存率29.3%で、3年以上生存する甲状腺未分化癌が約30%いる事になります。甲状腺未分化癌の治療と予後も参照ください。
甲状腺がんがなく、橋本病(慢性甲状腺炎)だけでも、デルフィアンリンパ節が腫れるのはよくあることです。
逆にデルフィアンリンパ節の腫れが、橋本病(慢性甲状腺炎)の超音波(エコー)診断につながるという論文もあります(Radiology Research and Practice)。
甲状腺結節でなくデルフィアンリンパ節
死因 | 悪性新生物 | 悪性新生物(甲状腺癌除く) | 心疾患 | 慢性閉塞性肺疾患 |
---|---|---|---|---|
甲状腺癌患者 | 51.5%* | 38.6%* | 9.5%* | 0.3%** |
人口動態統計 | 29.9% | 抄録に提示されておらず | 15.6% | 1.3% |
*p<0.0001、**p<0.0009
手術治療された甲状腺癌患者の死因は、一般人口の死因と比べ、
- 甲状腺癌による死亡が有意に多い(当たり前)
- 甲状腺癌以外の悪性新生物(癌)による死亡が有意に多い
①甲状腺癌全摘出後 I-131 アブレーション・アジュバント・治療後の2次発癌・second primary cancerのためか?
②でも、甲状腺癌は予後が良く、甲状腺癌死するまで長い長い年月が掛かるため、別の癌で死亡しても(あるいは老衰で死亡しても)不思議はありません
- 心疾患、慢性閉塞性肺疾患(COPD)による死亡が有意に少ない(相対的に少なくなるだろうね)
結論
手術治療された甲状腺癌患者は、他臓器癌の発生にも注意する必要がある。
米国においては、甲状腺癌患者の
- 甲状腺がん死は31.0%
- がん以外の原因による死亡は46.4%(日本と同じ)。標準化死亡率は、一般集団の約1.6倍(日本と異なる)
心血管疾患は、全死亡の21.3% - 男性は女性に比べ、全ての原因で死亡リスクが高い
- 自殺リスクは、診断後1年目に最も高い
- アルツハイマー病の長期リスクは顕著に増加する
[Front Oncol. 2022 Mar 14;12:852347.]
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
も御覧ください
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。