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2017.10.02

緊急提言!米国甲状腺学会ガイドライン2017(不妊治療)の落とし穴

緊急提言!米国甲状腺学会ガイドライン2017(不妊治療)の落とし穴

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甲状腺(橋本病,バセドウ病,甲状腺エコー等)・動脈硬化内分泌代謝 専門の長崎甲状腺クリニック(大阪)からのお知らせです。日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医として甲状腺機能低下症,橋本病,甲状腺機能亢進症,バセドウ病,内分泌などのホットな話題をお届けします。

米国甲状腺学会ガイドライン2017が発表されましたが、やはりアメリカは橋本病の患者が少ないためか、橋本病の研究者が少ないためか、「理解していない」部分が多くあります。なぜ不妊症で甲状腺ホルモン剤)治療をするのか、原理を理解していないようです。

同ガイドラインによると、「高度生殖補助医療(ART)[体外受精(IVF)や顕微受精(ICSI)]において、

  1. 甲状腺自己抗体の有無によらずTSH値が非妊時基準値上限以上の潜在性甲状腺機能低下症(TSH>5.0 μIU/mL)の場合は、TSH<2.5 μIU/mL 未満を目標としたレボチロキシン(甲状腺ホルモン剤)治療を推奨
  2. 基準値上限以下(TSH<5.0 μIU/mL)でも抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)陽性の場合はレボチロキシン(甲状腺ホルモン剤)治療の潜在的利益を考慮する」

と記載されています。

体外受精(IVF)や顕微受精(ICSI)などでは、

  1. 甲状腺自己抗体が無くTSH 2.5-5.0 μIU/mL の場合、2.5 μIU/mL 未満にしなくても良いんかい?素人でも、矛盾に気付きます。
    具体的には「TSH 2.5-5.0 μIU/mL かつ抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)陰性の女性」は甲状腺ホルモン剤補充の適応外になります(致命的な欠陥)。
     
  2. 「潜在的利益を考慮する」と意味不明な文言です。
    (ガイドラインとは、たとえ専門家でなくても、その通り行えば間違いのない基準なのに、言葉の意味が不明ではガイドラインにならんわ😩)

    甲状腺ホルモン剤を使うのか否か、TSHをいくらにするのか数値目標無し!

    確かに、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)は甲状腺の破壊の程度に相関し(Thyroid Res. 2013 Mar 23;6(1):5.)、TPO抗体陽性妊婦は甲状腺の予備力が低下しているため、妊娠週数が進むにつれ甲状腺ホルモン低下が大きくなります。

    しかし、重要なのは妊娠するか否かの最も初期で、着床時に「甲状腺自己抗体の有無によらず」、TSHが低い=プロラクチン(PRL;授乳ホルモン、妊娠させないホルモン)が低いなのです[Endocr J. 2015;62(1):87-92.]。
     
    また、前述の如く、抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)が陽性化するのは閉経前後の女性ホルモンが欠落した時に多く、若い妊娠可能年齢の女性では甲状腺超音波(エコー)検査で明らかに甲状腺組織が破壊され橋本病(慢性甲状腺炎)の所見でも、抗体が陽性化しない事が多いんだ[橋本病(慢性甲状腺炎)破壊の程度の評価]。

すなわち、「TSH>5.0 μIU/mLであろうが、<5.0 μIU/mLであろうが」、「甲状腺自己抗体(橋本病抗体)の有無によらず」、着床(妊娠成立)するための絶対条件がTSH 2.5 μIU/mL 未満なのです。

さらに付け加えると、日本での現実は以下の通り、

  1. 厚生労働省の統計では、日本人女性の流産率は約13-15%ですが、上條甲状腺クリニックの上條桂一先生(尊敬しております)によると、TSH≧2.5 μIU/mL での流産率は30%以上とされます。
     
  2. 妊娠可能かつ甲状腺の病気がない健康女性のTSH(甲状腺刺激ホルモン)は0.39(ほぼ0.4)~3.0 μIU/mL(95%信頼区間)です(日本甲状腺学会雑誌 5;66,2014)。

    そこで、男女・年齢を問わない一般的なTSHの正常上限値 5.0 μIU/mL を基準にせず、甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)でTSHを 3.0 μIU/mL 未満にすると、84.1%が妊娠し、最終的に59.4%が出産したそうです(Endocr J. 2015;62(1):87-92.)。

ならば、「高度生殖補助医療(体外受精IVF や顕微受精ICSI)」を行わなくても、不妊女性はTSH<2.5 μIU/mL にすべきことは明らかです。 

日本では、挙児を希望するカップルの10~15% が不妊に悩んでおり、不妊女性潜在性甲状腺機能低下症の頻度は約12%、流産リスク顕性甲状腺機能低下症と同程度です。近年、日本の出生率は減少から転じて微増傾向にあります。不妊治療を行う婦人科の先生方にも甲状腺への関心が高まり、甲状腺専門医と協力して管理を行う事で満期出産が増えたのが一因と思います。(必ずしもアベノミクスの恩恵だけでもないと思います)

それに水を差すかのような米国甲状腺学会ガイドライン2017は無視(一蹴)してよいと考えます。アメリカと日本では、人種やヨウ素(ヨード)摂取量の違いによりTSHの基準値は異なるはずで、そのことを考えず米国のガイドラインを鵜呑みにしてはいけません。

今日は「緊急提言!米国甲状腺学会ガイドライン2017(不妊治療)の落とし穴」の話でした。

詳しくは、「米国甲状腺学会ガイドライン2017の落とし穴」をご覧ください。

文責:長崎甲状腺クリニック(大阪)院長 日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 長崎俊樹

長崎甲状腺クリニック(大阪)とは

長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市,天王寺区,生野区も近く。

Summary

米国甲状腺学会ガイドライン2017(不妊治療)には欠陥がある。アメリカと日本では人種やヨウ素(ヨード)摂取量の違いからTSHの基準値は異なるはずで、米国のガイドラインを鵜呑みにしてはいけない。「高度生殖補助医療(体外受精IVFや顕微受精ICSI)」を行わなくても、不妊女性にとっては「TSH>5.0 μIU/mLであろうが、<5.0 μIU/mLであろうが」、「甲状腺自己抗体(橋本病抗体)抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)の有無によらず」、着床(妊娠成立)の絶対条件がTSH 2.5 μIU/mL 未満なのです。

Keywords

米国甲状腺学会ガイドライン2017,TSH,抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体,TPO抗体,着床,妊娠,高度生殖補助医療,2.5 μIU/mL,甲状腺,不妊

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長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査等]施設で、大阪府大阪市東住吉区にある甲状腺専門クリニック。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市近く

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