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甲状腺と低血糖;インスリン自己免疫症候群,IGF-2産生膵外性腫瘍[甲状線機能亢進症・バセドウ病 甲状腺機能低下症 橋本病 長崎甲状腺クリニック 大阪]

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甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪

甲状腺専門長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 大学院医学研究科 代謝内分泌病態内科学で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。

長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの(Creative Commons license)、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。尚、本ページは長崎甲状腺クリニック(大阪)の経費で非営利的に運営されており、広告収入は一切得ておりません。

甲状腺と低血糖

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(低血糖症状 糖尿病サイトよ)

長崎甲状腺クリニック(大阪)甲状腺専門クリニックです。糖負荷試験・低血糖症自体の治療を行っておりません。

Summary

甲状腺ホルモンは腸管での糖吸収を促進。甲状腺機能亢進症は食後過血糖、反動で反応性低血糖症に。バセドウ病治療薬メチマゾール(メルカゾール)は高容量でインスリン自己免疫症候群低血糖症を誘発(プロパジール、チウラジールでは起こらない)。甲状腺クリーゼは肝不全による低血糖甲状腺機能低下症は糖吸収障害、橋本病副腎皮質機能低下症(アジソン病など合併で低血糖症。多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)では下垂体腺腫による中枢性甲状腺機能低下症インスリノーマ合併による低血糖症甲状腺癌IGF-2(インスリン様成長因子2)産生膵外性腫瘍による低血糖症

Keywords

甲状腺,低血糖,メルカゾール,甲状腺機能亢進症,甲状腺機能低下症,バセドウ病,甲状腺癌,橋本病,IGF-2,インスリン自己免疫症候群

甲状腺ホルモンは腸管から血糖の吸収を促す作用があります。

甲状腺機能亢進症と低血糖症

  1. 甲状腺機能亢進症では食後の過血糖及びその反動による反応性低血糖症が起こります
     
  2. 甲状線機能亢進症/バセドウ病治療薬のメチマゾール(メルカゾール)は、インスリン自己抗体を誘導し、インスリン自己免疫症候群による低血糖症を起こします。
     
  3. 甲状腺クリーゼでは、右心不全に伴う肝不全による低血糖を生じます[Endocr J. 2009;56(6):747-52.]。低血糖後代謝性脳症で脳死状態になり死亡した報告例もあります。(第53回 日本甲状腺学会 P-93 著明な低血糖と肝不全を呈した甲状腺クリーゼの一例)[甲状腺クリーゼの危険性(死亡原因と後遺症)]

1. 食後の反応性低血糖症

甲状腺機能亢進症/バセドウでは、過剰な甲状腺ホルモンの作用で

  1. 消化管蠕動運動が亢進
  2. 腸管Na+/グルコース共輸送体(SGLT1)発現の増加(Biochem J. 1998 Sep 15;334 ( Pt 3):633-40.)

により、腸からの糖吸収が亢進。食後の過血糖及びその反動で反応性低血糖症が起こります。。

2. インスリン自己免疫症候群

甲状線機能亢進症/バセドウ病治療薬のメチマゾール(メルカゾール)によるインスリン自己免疫症候群

インスリン自己免疫症候群

[Int J Endocrinol. 2023 Feb 15;2023:1225676.より改変]

甲状線機能亢進症/バセドウ病治療薬のメチマゾール(メルカゾール)によるインスリン自己免疫症候群は、

  1. メチマゾール(メルカゾール)のSH基(スルフヒドリル基)が持つ強力な還元作用(酸化還元反応の還元)により、インスリンが自己抗原化するの原因とされます[Intern Med. 1999 Jun;38(6):482-5.]
    ※PTU(プロパジール、チウラジール)はSH基を持たないため起こりません。但し、メチマゾール(メルカゾール)で誘発された抗インスリン抗体は、PTU(プロパジール、チウラジール)に切り替えた後も4-12ヶ月は消えないため、あたかもPTUで誘発されたような錯覚をおこします。
     
  2. インスリン自己抗体が産生されるには、特定の遺伝子HLA-DRB1*04:06を有するHLA-Bw62/Cw4/DR4(HLA-DRB1*0406/0901など)が関与し、アジア系に多いとされます(オッズ比>1,000)。[Intern Med. 1999 Jun;38(6):482-5.][Exp Ther Med. 2014 Nov;8(5):1581-1584.][J Clin Endocrinol Metab. 1993 Jul;77(1):249-54.]
         
  3. 投与開始後4~6 週の発症が多いとされますが、数ヶ月後に起こる場合もあります。報告例は、5ヶ月後に起こり、メルカゾール減量と6分割食で低血糖発作が減少し、甲状線手術に移行できたそうです。(第56回 日本甲状腺学会 P2-012 チアマゾール減量と分割食導入により低血糖発作の発現頻度を減少しえたインスリン自己免疫症候群合併バセドウ病の一例)
    (筆者の経験では、①数年後に見つかる場合もあり、②低血糖症状が軽いため、糖分摂取すれば改善する症例が意外と多い)
     
  4. 特にメルカゾールの量が多い場合(1日12錠など)に起こりやすく、メルカゾールの減量と分割食の導入で軽快した後にインスリン自己抗体が消失するとされます。[Pediatr Diabetes. 2012 Dec;13(8):652-5.]
  5. メルカゾールを減量しなくても、甲状腺機能が正常化していけば、バセドウ病抗体(TRAb)が減少してHLA-DR発現が低下→抗インスリン抗体が減少する可能性もあります。[Intern Med. 1999 Jun;38(6):482-5.]
     
  6. 大抵、食後にメルカゾールを飲むため、メルカゾール内服後1-2時間して、めまい・吐き気などの症状が起こります。医者が詳しく問診すれば、低血糖発作に辿り着きますが、メルカゾールを飲まなければ軽快するため、患者がメルカゾールを自己中断するきっかけになります。
  7. また、甲状腺機能亢進症/バセドウ病が寛解(活動が沈静化)してメルカゾールを一端中止し、再発後にメルカゾール再投与した時にインスリン自己免疫症候群をおこす場合もあります。初回投与で感作が成立し、再投与で抗原抗体反応がおきると考えられます。(第61回 日本甲状腺学会 O9-3 持続グルコースモニター(CGM)で血糖変動を観察したチアマゾールによるインスリン自己免疫症候群と考えられた一例)

インスリン自己免疫症候群自体の詳細は、インスリン自己免疫症候群 を御覧ください。

インスリン自己免疫症候群とは

インスリンは元々体内に存在して、血糖を下げるホルモンです。インスリンが異物として認識されると、自己のインスリンに対する抗体が産生されます。特定の遺伝子HLA-DRB1*04:06を持つ人で起こるとされます(オッズ比>1,000)。

抗インスリン抗体は、1型糖尿病の初期に高頻度で検出されるため、1型糖尿病の予知マーカーとして用いられます。しかし、それとは無関係にインスリン抗体が産生され、低血糖を引き起こすインスリン自己免疫症候群の発症もあります。

血中においてインスリン-インスリン抗体の免疫複合体は、インスリン作用を起こしません。しかし、インスリン自己抗体は、インスリンに低親和性なのに、結合容量が大きい(高結合低親和性)ため、一気に大量のインスリン抗体がインスリンから離れ、自由になった大量のインスリンが低血糖を誘発します。

インスリン抗体が引き起こすこのような病態をインスリン自己免疫症候群と呼びます。インスリン自己免疫症候群は、

  1. 空腹時低血糖
  2. 血中インスリン高値(300 μU/mL 前後の著明高値が多い)
  3. インスリン抗体の存在

の3つで特徴づけられます。

インスリン自己免疫症候群のうち、約半数は強力な還元作用(酸化還元反応の還元)のSH基を持つ薬物が原因です。還元されたインスリンの自己抗原化が原因とされます。女性が94%を占め、原因薬剤はサプリメントのα‐リポ酸が最も多く、広く市販されているために増加傾向です。

その他、コエンザイムQ2、抗リウマチ薬のブシラミン、降圧薬カプトプリルや甲状線機能亢進症/バセドウ病治療薬のメチマゾール(メルカゾール)などが報告されています。

※PTU(プロパジール、チウラジール)はSH基を持たないため起こりません。

インスリン自己免疫症候群の大多数は予後良好で、薬剤中止4-12ヶ月後にインスリン自己抗体が消失します。

薬剤と関係ないインスリン自己免疫症候群の場合、

  1. 頻回に食事(1日6分割食など)
  2. 低血糖発作時以外には甘い食物を避ける
  3. 食後のインスリンレベルを下げるために、αグルコシダーゼ阻害薬が有効。逆に低血糖を悪化させる危険もあります。

[Diabetes Metab Syndr Obes. 2020 Apr 1;13:963-978.][Int J Endocrinol. 2023 Feb 15;2023:1225676.]

甲状腺機能低下症低血糖症

  1. 甲状腺機能低下症では糖吸収障害による低血糖症を起こします
    甲状腺機能低下症/橋本病に自己免疫性の副腎皮質機能低下症(アジソン病)を合併する事があります(シュミット症候群)。副腎皮質ホルモン欠乏単独でも低血糖起こすため、シュミット症候群では甲状腺機能低下症単独よりも重症の低血糖症になる[APS(多腺性自己免疫症候群)2型]
     
  2. 甲状腺機能低下症における究極の病態である粘液水腫性昏睡には、副腎皮質機能低下症も加わり、重症の低血糖症になる
     
  3. 多発性内分泌腫瘍症1型(multiple endocrine neoplasia type1; MEN1)では、下垂体腺腫による中枢性甲状腺機能低下症や、インスリンを分泌するインスリノーマによる低血糖症がおこる可能性

甲状腺癌でIGF-2(インスリン様成長因子2)産生膵外性腫瘍による低血糖症

IGF-2(インスリン様成長因子2)を産生する膵外性の巨大腫瘍が引き起こす低血糖[非膵島細胞腫瘍による低血糖症(Non-islet cell tumor hypoglycemia:NICTH)]。約70%は最大径が10cm以上とされます。

肝がん・消化器がん・間葉系腫瘍(線維肉腫・横紋筋肉腫)が産生するIGF-2(インスリン様成長因子2)が原因。

甲状腺良性濾胞腺腫 ・  甲状腺濾胞癌、共にIGF-2(インスリン様成長因子2)を同程度産生しますが、臨床的に問題になる事は稀です。(Eur J Endocrinol. 2005 May;152(5):785-90.)

甲状腺濾胞癌IGF-Ⅱ(インスリン様成長因子)産生した非膵島細胞腫瘍による低血糖症(NICTH)も報告されています。(第55回 日本甲状腺学会 P1-5-1 甲状腺濾胞癌によるIGF-Ⅱ産生Non-Islet Cell Tumor Hypoglycemiaの1例)

IGF-2産生腫瘍は原発巣だけでなく、転移した先でもIGF-2を産生します。甲状腺低分化癌(PDTC)の肺転移で非膵島細胞腫瘍による低血糖症(NICTH)をおこした報告があります(Thyroid. 2014 Feb;24(2):395-9.)。

非膵島細胞腫瘍による低血糖症(NICTH)の検査所見は、

  1. 血中IGF-2高値;ヒトIGF-2測定ELISAキットが市販されていますが、保険適応は無く、保険診療では測定できません。しかし、実際に測定してみても正常域のケースが過半数(糖尿病 54(12):886~887,2011)。 
     
  2. 血中インスリン濃度、成長ホルモン(GH)IGF-1(ソマトメジンC)値は抑制されて低下する

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長崎甲状腺クリニック(大阪)


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