サイログロブリン異常症(サイログロブリン遺伝子異常症)[橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー 甲状腺機能低下症 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 専門医 長崎甲状腺クリニック(大阪)
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会 年次学術集会で入手した知見です。
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サイログロブリン異常症 超音波(エコー)画像。甲状腺は腫大し、腺腫様甲状腺腫の形態。矢印が腺腫様結節。[検査と技術 39巻11号 (2011年10月)]
Summary
サイログロブリン異常症(サイログロブリン遺伝子異常症)のヘテロ型は極軽症、常染色体性劣性遺伝のホモ型でのみ新生児マススクリーニングで見つかる。異常サイログロブリンは分泌されず小胞体に蓄積(小胞体貯蔵病)。ヨード有機化以降の障害なのでパークロレート放出試験陰性。抗サイログロブリン抗体が無いのに血中サイログロブリン低値。甲状腺乳頭癌の合併頻度が高く、手術例の約40%は癌。残存甲状腺もいつか癌化するため全摘術が推奨。乳児期早期の甲状腺ホルモン補充療法開始は甲状腺腫大、腺腫様甲状腺腫と甲状腺癌を抑制。橋本病合併で診断が困難に。
Keywords
サイログロブリン異常症,サイログロブリン遺伝子異常症,新生児マススクリーニング,小胞体貯蔵病,サイログロブリン,甲状腺乳頭癌,甲状腺腫大,腺腫様甲状腺腫,甲状腺癌,橋本病
サイログロブリン異常症(サイログロブリン遺伝子異常症)の発症頻度は67,000人に一人です。変異したサイログロブリン遺伝子保因者の頻度は130人に一人ですが、ヘテロ型では極軽症なので、新生児マススクリーニングに引っ掛かりません。常染色体性劣性遺伝のホモ型でのみ新生児マススクリーニングで見つかります。(例外もあり)
サイログロブリン(遺伝子)異常症においては、濾胞細胞で異常な構造のサイログロブリンで作られ、濾胞細胞内に蓄積。構造異常のため濾胞腔内へ分泌できず、甲状腺ホルモン合成に支障をきたします。
本来、核で合成されたサイログロブリンは、核を取り巻く小胞体で折りたたまれ3次構造が変化し完全形態になります。そして、小胞体から濾胞腔に分泌されます。
しかし、サイログロブリン遺伝子異常によりアミノ酸の配列が異なる異常サイログロブリンは、正常に折りたたまれず、変性タンパク質として小胞体に蓄積されます(小胞体ストレス:ER ストレス→小胞体貯蔵病)。
[Horm Res Paediatr. 2011;75(5):311-21.]
(図;バーチャル臨床甲状腺カレッジより改変)
サイログロブリン異常症(サイログロブリン遺伝子異常症)は、
- (ヨード有機化以降の障害なので)ヨード有機化障害を認めず、パークロレート投与にてヨードの放出を認めない(パークロレート放出試験陰性)
- (抗サイログロブリン抗体が無いのに)血液中のサイログロブリンが低くなる
- 甲状腺内の2型脱ヨード酵素活性が上昇するため、甲状腺内T4が減少し、血中FT3/F4比が増加します(J Clin Endocrinol Metab. 2007 Apr;92(4):1451-7.)
→甲状腺ホルモン剤(チラーヂン)補充により血中FT3/F4比は改善(第63 日本甲状腺学会 CR4-5 巨大甲状腺腫を呈したTg遺伝子異常症におけるレボチロキシン療法についての再考)
などが、他の遺伝性甲状腺機能低下症と異なります。
サイログロブリン異常症(サイログロブリン遺伝子異常症)で、甲状腺腫は必発ですが、乳児期早期に甲状腺ホルモン(チラージンS)補充療法を開始すれば、甲状腺腫大を抑制できます。しかし、それ以後の治療では、増大する甲状腺腫→腺腫様甲状腺腫と発がんを抑制できません。
サイログロブリン異常症(サイログロブリン遺伝子異常症)では癌の合併頻度が高く、手術例の癌合併例は約40%、ほとんどが甲状腺乳頭癌です。常染色体劣性遺伝性(ホモ接合型)では、持続する細胞分裂により、腺腫様甲状腺腫(軟らかくマシュマロ様)になり、体細胞変異が生じ癌が発生します。癌組織には活性型BRAF変異が認められます。たとえ癌だけ部分切除しても、残存甲状腺もいつか癌化するため全摘術が推奨されます 。
サイログロブリン異常症(サイログロブリン遺伝子異常症)を初めて報告した獨協医科大学がその後おこなった研究では、常染色体優性遺伝性(ヘテロ接合型)サイログロブリン異常症(サイログロブリン遺伝子異常症)でも、もう一方の染色体にDICER1遺伝子変異を認め、腺腫様甲状腺腫が生じるそうです。
サイログロブリン遺伝子は染色体8q24.2-8q24.3に位置する単一コピー遺伝子です。日本では主に3種類のサイログロブリン遺伝子変異が多く、
- アミノ酸C1058R変異;四国に限定
- アミノ酸C1245R変異;日本全国に
- アミノ酸C1977S変異;近畿地方に限定
[J Clin Endocrinol Metab. 2006 Aug;91(8):3100-4.]
海外では、R277X, C1058R, C1977S, R1511X, A2215D, R2223H 変異の頻度が高いです。[Horm Res Paediatr. 2011;75(5):311-21.]
中国の報告では、さらにミスセンス変異体だけでなくtruncating mutation[短縮型変異(フレームシフト変異、ナンセンス変異、スプライスサイト変異の3種)]もあります。[Mol Cell Endocrinol. 2016 Mar 5:423:60-6.]
常染色体優性遺伝のサイログロブリン異常症(サイログロブリン遺伝子異常症)は、成長に伴い、成人になるにつれて現れる緩徐なものです。しかし、
- 両側の染色体(両側アリル)に遺伝子変異を認める常染色体劣性遺伝型
- 常染色体優性遺伝型でも、片側の染色体(片側アリル)に2か所以上の遺伝子変異を認める重症型サイログロブリン遺伝子異常症
では、生下時から甲状腺機能低下症をおこすため、新生児マススクリーニング(NIS)で見つかります。
1.であっても、半数近くは軽症の甲状腺機能低下症です。日本人のヨウ素(ヨード)摂取量は多いため、甲状腺ホルモン合成障害を補完する可能性が考えられます。海外では、重症型サイログロブリン遺伝子異常症の両側アリル(両対立遺伝子)c.6725G>A(p.R2223H)およびc.6396C>T(p.S2113L)変異の報告があります[J Clin Endocrinol Metab. 2010 Mar;95(3):1000-6.]。
2.については、宮崎大学がIle1912Val(hetero)/Tyr2621X(hetero)とサイログロブリン(TG)遺伝子の重複変異を報告しています。(第57回 日本甲状腺学会 P1-051 サイログロブリン(TG)遺伝子の片側アリルに重複変異を認め先天性甲状腺機能低下症を呈した1 家系)
サイログロブリン異常症(サイログロブリン遺伝子異常症)に、橋本病(慢性甲状腺炎)を合併すると、
- 甲状腺の破壊によりサイログロブリンは高値
- 抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)陽性ならサイログロブリンは偽低値になっても不思議はない
- 橋本病(慢性甲状腺炎)を基盤とする腺腫様甲状腺腫のように見える
いずれにせよサイログロブリン異常症(サイログロブリン遺伝子異常症)の存在に気が付かないでしょう。
サイログロブリン異常症(サイログロブリン遺伝子異常症)による甲状腺機能低下症の治療は、通常の甲状腺機能低下症と同じです。TSHが正常範囲に入るように、補充する甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)の量を調節します。
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