甲状腺ホルモン剤チラーヂンSの副作用・アレルギー・肝障害[橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー検査 甲状腺機能低下症 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 大学院医学研究科 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。
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Summary
甲状腺ホルモン自体は人間の体内に存在する自然物質なので副作用がおこるはずは無い。唯一、チラーヂンS錠(一般名:レボチロキシン ナトリウム)は添加物にトウモロコシデンプン[レボサイロキシン「サンド」®ではバレイショ(じゃがいも)デンプン]、三二酸化鉄などを含み、薬剤アレルギー(扁平苔癬など)/薬剤性肝障害(Ⅳ型アレルギー)の原因になる。チラーヂンS散はトウモロコシデンプンのみ。潜在性/顕在性甲状腺機能低下症では動脈硬化が進行し、隠れ狭心症・心筋梗塞の可能性がある。チラーヂンS(チラージンS)投与により顕在化するため、特に高齢者では少量から開始。
Keywords
甲状腺ホルモン,副作用,チラーヂンS,レボチロキシン,アレルギー,肝障害,甲状腺機能低下症,狭心症,チラージンS,レボサイロキシン
※英語でThyradin®、発音はチラーディンとなるため、「チラーヂンS」と「チラージンS」、「ヂ」と「ジ」どちらが正しいと言う訳ではありません。日本での商標は「チラーヂン®」になっています。
チラーヂンS錠で副作用(本ペ-ジ)
甲状腺ホルモンそのものは、人間の体内に、自然に存在する生体物質です。甲状腺機能低下症では、不足分の甲状腺ホルモンを補充するだけなので、副作用がおこるはずありません。
問題は、チラーヂンS錠(一般名:レボチロキシン ナトリウム)に含まれる添加物で起きるアレルギー反応[Endocr J. 2015;62(8):719-24.][Nihon Naika Gakkai Zasshi. 2013 Jan 10;102(1):143-6.]。
および(潜在性)甲状腺機能低下症で動脈硬化が進み、隠れ狭心症・心筋梗塞になっている状態で、チラーヂンS(チラージンS)を投与すると、甲状腺ホルモンの心臓刺激作用により、それらが顕在化します。
チラーヂンS錠(一般名:レボチロキシン ナトリウム)には、添加物として部分アルファー化デンプン、トウモロコシデンプン、D-マンニトール、三二酸化鉄(Fe2O3)、その他3成分(非公表)が含まれており、薬剤アレルギーの原因になります。
- チラーヂンS錠12.5μg、25μgのピンク色は三二酸化鉄(色付きの方が処方間違い・飲み間違いは少なくなるので良いが・・)
- チラーヂンS錠100μgの黄色は黄三二酸化鉄(〃)
- チラーヂンS錠・S散ともにトウモロコシデンプン含有
サンド製薬のレボサイロキシン ナトリウム「サンド」®にはバレイショ(じゃがいも)デンプン含有
チラーヂンS錠による薬剤性肝障害(アレルギー性肝障害)は、特に着色料の三二酸化鉄(Fe2O3)が原因と考えられています。よって、チラーヂンS錠12.5μg、25μg、100μgでおこるが、無着色のチラーヂンS錠50μg、75μgでは起こらない可能性があります。[日本内科学会雑誌 102(1) 143-146 (2013.1)][Endocr J. 2015;62(8):719-24.]
稀ですが、
を起こします。チラーヂンS錠が原因か調べるのにリンパ球刺激試験(DLST)を行います。リンパ球刺激試験(DLST)が陽性でもチラーヂンS錠が原因とは断定できません(不確かな検査です)。
リンパ球刺激試験(DLST)はⅣ型アレルギーを診断する検査です。薬剤アレルギー症状が見られても、発症直後は陰性が多く、陽性になるのは1~2 ヵ月後で役立たずのことが多い。(午後・休日前は検査センターが受け付けてくれません)
現にリンパ球刺激試験(DLST)が陰性だった報告があります。[Intern Med. 2007;46(14):1105-8.][Endocr J. 1999 Aug;46(4):579-83.]
チラーヂンS錠による薬剤性肝障害(アレルギー性肝障害)は、特に着色料の三二酸化鉄が原因と考えられています。よって、チラーヂンS錠12.5μg、25μg、100μgでおこるが、無着色のチラーヂンS錠50μg、75μgでは起こらない可能性があります。[日本内科学会雑誌 102(1) 143-146 (2013.1)]
しかし、部分アルファー化デンプン、D-マンニトール、その他3成分(非公表)が原因なら、無着色のチラーヂンS錠50μg、75μgでも起こります。
チラーヂンS錠開始後、数カ月間は肝臓の数値を調べる
チラーヂンS錠による薬剤性肝障害(アレルギー性肝障害)は、まれですが一定の割合で認められます。現在、長崎甲状腺クリニック(大阪)でも19人(R2.10現在)おられます。もちろん、AST(GOT)、ALT(GPT)が100を超える前に見つけて、チラーヂンS散に変更し、大事には至りません。
アレルギー性肝障害は、遅延型(遅くに起こる)アレルギーなのでチラーヂンS錠開始後、1年してから起こる事もあります。最低でも数か月間は肝臓の数値を調べるべきです。
長崎甲状腺クリニック(大阪)ではチラーヂンS錠開始後は、必ず甲状腺機能と同時に、肝臓の数値もチェックします。
チラーヂンS錠による薬剤性肝障害(アレルギー性肝障害)が疑われたら
チラーヂンS錠による薬剤性肝障害(アレルギー性肝障害)が疑われたら、迷わずチラーヂンS散に変更してください。チラーヂンS散の添加物はトウモロコシデンプンだけなので、トウモロコシアレルギーが無い限り薬剤性肝障害(アレルギー性肝障害)がおこる確率は極めて低い。
チラーヂンS錠開始後、約1カ月でいきなり急性薬剤性肝炎
極めて稀ですが、チラーヂンS錠開始後、約1カ月でいきなり急性肝炎並みの肝障害が起きた報告があります(急性薬剤性肝炎と言っても良いでしょう)。AST and/or ALT 200-300 IU/Lに急上昇。(Endocr J. 1999 Aug;46(4):579-83.)
中国の報告では、レボチロキシンナトリウム錠(Euthyrox®)服薬後わずか1か月で、総ビリルビン(T-Bil) 27.2 umol/L (3.5〜23.5 umol/L)、AST 1,252 IU/L (7–40 IU/L)、ALT 1,507 IU/L (13–35 IU/L)、アルカリホスファターゼ(ALP) 85 IU/L (23〜140 IU/L)、γ-GT 28 IU/L (7–45 IU/L)の異常高値を認めたそうです。[Endocr J. 2019 Sep 28;66(9):769-775.]
もちろん、急性薬剤性肝炎以外の病気、ウイルス性肝炎、自己免疫性肝炎、胆石症などと鑑別しなければなりませんが、肝生検を含め診断まで時間が掛かります。
まず第一に、チラーヂンS錠をチラーヂンS散に変更すべきでしょう(チラーヂンS錠だけでなく、怪しい薬は全て中止)。最終的にチラーヂンS錠が原因で無かった場合、もとに戻せば良いだけの話です。
日本甲状腺学会での報告は、甲状腺ホルモン剤[レボチロキシン(L-T4);普通に考えるとチラーヂンS錠で、レボサイロキシン「サンド」®でないと思いますが]により起きた重症肝障害。
68歳女性、TSH 44.313 μIU/mL の甲状腺機能低下症/橋本病に対し、甲状腺ホルモン剤(L-T4)12.5 μg 開始。1 か月して25 μg に増量するも、その3日後、AST 3102 IU/L、ALT 1846 IU/L、T-Bil 8.38 mg/dLまで上昇し、重症肝障害を認めたそうです。肝生検にて、小葉中心性に肝細胞の壊死・周囲の胆管内には胆汁栓・門脈域には炎症細胞浸潤の所見を得て薬剤性肝障害と診断。(第59回 日本甲状腺学会 O7-5 甲状腺ホルモン剤にて重症肝障害を来した橋本病の一例)
更に、PMDA(医薬品医療機器総合機構)の報告には死亡例も含まれているため、チラーヂンS錠開始後は、必ず定期的に肝機能を調べねばなりません。
薬剤性肝障害(アレルギー性肝障害)を起こしているのに、チラーヂンS錠を飲み続けたら
チラーヂンS錠による薬剤性肝障害(アレルギー性肝障害)に気付かず、原因不明の肝障害として延々と検査を続け、チラーヂンS錠を中止せずに飲み続けたらどうなるか?
1年以上飲み続けた報告では、AST 281 IU/L(正常値10-40)、ALT 540 IU/L(正常値5-45) とトンデモナイ値になったそうです。(第56回 日本甲状腺学会 P1-083 チラーヂンS 錠内服後に発症した薬剤性肝障害の1 例)
意外と報告例が少ない、チラーヂンS錠による薬疹(薬剤アレルギー)ですが、甲状腺ホルモンが抗原となり起こるのでなく、チラーヂンS錠の添加物[部分アルファー化デンプン、トウモロコシデンプン、D-マンニトール、三二酸化鉄(Fe2O3)、その他3成分(非公表)]が原因と考えられます。
チラーヂンS散の添加物はトウモロコシデンプンだけなので、トウモロコシアレルギーが無い限り、チラーヂンS散に変更すれば解決します。
トウモロコシアレルギーも持っていて、チラーヂンS散に変更しても発疹が出た方がおられました。幸い軽いⅠ型アレルギーだったので、花粉症・アトピー性皮膚炎で使う抗アレルギー剤で解決しました。
トウモロコシアレルギーがある場合、サンド製薬のレボサイロキシン ナトリウム錠「サンド」®はトウモロコシでなく、バレイショ(じゃがいも)デンプンなので、バレイショ(じゃがいも)アレルギーが無ければ使用可能。ただし、レボチロキシン ナトリウム錠「サンド」®は散剤が存在しません。よって、何らかの添加物(部分アルファー化デンプン、D-マンニトールなどの成分)が薬疹(薬剤アレルギー)の原因となり得ます。
それ以外の方法として、T3 製剤(チロナミン®)へ変更すれば薬疹が改善したとする報告もあります(第57回 日本甲状腺学会 P2-063 Levothyroxine sodium(Thyradin S)により薬疹を認めた慢性甲状腺炎の1 例)。
チロナミン®には部分アルファー化デンプンと三二酸化鉄(Fe2O3)は入っていません。ただし、筆者の考えでは、T3 製剤(チロナミン®)の使用は、最後の手段で、最初から使用すべきでないと考えます。T3 製剤(チロナミン®)は、T4製剤(チラーヂンS)と異なり、半減期が極めて短く、血液中の濃度が安定しません(多過ぎたり、少な過ぎたりします)。また、直接心臓を刺激するため、過剰になれば不整脈・狭心症を誘発する危険が高くなります。
長崎甲状腺クリニック(大阪)では、RASTアレルゲン検査で
トウモロコシとバレイショ(じゃがいも)を調べます。
薬剤誘発性過敏症
チラーヂンS錠の長期投与で扁平苔癬(薬疹の一種)
チラーヂンS錠服薬4年後に扁平苔癬(薬疹の一種)が生じ、リンパ球刺激試験(DLST)にてもチラーヂンS錠が陽性だった報告例があります(第60回 日本甲状腺学会 P2-7-9 チラーヂンSにて扁平苔癬を生じ、チラーヂンS散にて出産に至った1例)。
Ⅳ型アレルギーは、遅延型(遅くに起こる)アレルギーなのでチラーヂンS錠開始後、数年しても起こり得ます。
スウェーデンの報告でも、甲状腺ホルモン剤レボチロキシン(日本のチラーヂンS錠と添加物が異なる可能性がある)は薬剤誘発性口腔扁平苔癬の原因の一つと考えられます。[Oral Dis. 2013 Apr;19(3):313-9.]
(写真 American Academy of Dermatologyより)
そもそも甲状腺機能低下症/潜在性甲状腺機能低下症/橋本病では動脈硬化が進行し、既に狭心症・心筋梗塞の一歩手前の可能性があります(甲状腺機能低下症の動脈硬化、潜在性甲状腺機能低下症の動脈硬化)。
甲状腺ホルモンは直接心臓に作用するため、隠れていた狭心症・心筋梗塞が顕在化する場合があります(これをチラージンS錠の副作用とは言えませんが・・・)。
特に高齢者は狭心症・心筋梗塞の予備軍である可能性を考慮し、甲状腺ホルモン補充は低用量から少しずつ慎重に増量する必要があります。
長崎甲状腺クリニック(大阪)では、初診時に心電図を録らせていただきます、特に高齢者の方については、チラージンS錠投与後にも再度心電図検査検査を行います。
ただ、中にはチラージンS錠投与前の精密検査で狭心症・心筋梗塞の可能性が完全に否定されても、最低量のチラージンS錠で心筋梗塞をおこす場合もあり得ます。群馬大学の報告では、68歳男性、事前に負荷心筋シンチで虚血性心疾患を否定し、チラージンS錠12.5 μg/日の最小量で開始したにも係らず亜急性心筋梗塞を起こしたそうです。高齢者の甲状腺機能低下症は、例え狭心症や心筋梗塞の既往が無くとも、チラージンS錠投与後に発症しうることを忘れてはなりません。(第56回 日本甲状腺学会 P1-070 レボチロキシン補充療法中に心筋梗塞を発症した橋本病の2 例)
喫煙者ではあるが狭心症の既往がない67歳男性(また高齢男性)は、事前の心エコー検査で異常なし。レボチロキシン(おそらくチラージンS)25 µg から開始し、2週間後50 µg、4週間後75 µgに増量し、甲状腺機能は正常化。80日後、急性心筋梗塞になる。[Int Heart J. 2007 Jan;48(1):107-11.]
チラーヂンS 75μg も販売されてはいますが、そこまで多種になると患者さんが混乱する元になります。また、長崎甲状腺クリニック(大阪)の処方箋を多く扱う院外薬局なら問題無いですが、チラーヂンSをあまり多く扱わない院外薬局または不慣れなアルバイト薬剤師が多く来る院外薬局では処方ミスの元になりかねません。
さらに、チラーヂンS 75μg は粒が大きいため、甲状腺が大きく腫れた方や甲状腺腫瘍が喉(のど)を圧迫している方は、飲みにくいようです。長崎甲状腺クリニック(大阪)ではチラーヂンS 75μg を可能な限り使用しない事にしています。(チラーヂンS 50μg +25μg 錠で処方いたします。昔からチラーヂンS 75μg を服用しており、喉(のど)に引っ掛からず飲める人には処方します)
チラーヂンS 100μg はさらに粒が大きく、甲状腺が大きく腫れた方や甲状腺腫瘍が喉(のど)を圧迫している方は、飲みにくいようです。長崎甲状腺クリニック(大阪)ではチラーヂンS100μg を可能な限り使用しない事にしています。用量が大きいだけに、慣れていない薬局・薬剤師が、12.5μg, 25μg, 50μgと間違えて出すとトンデモナイ事になります、 (チラーヂンS 50μg x 2錠で処方いたします。)
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市,天王寺区,浪速区,生野区も近く。