甲状腺癌の終末期医療(ターミナルケア)/緩和ケア/ベストサポーティブケア(BSC)[橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外(Pub Med)・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、年次開催される日本甲状腺学会で入手した知見です。
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甲状腺編 では収録しきれない専門の検査/治療です。
※長崎甲状腺クリニック(大阪)では甲状腺癌の終末期医療(ターミナルケア)/緩和ケア//ベストサポーティブケア(BSC)/在宅医療を行っておりません。
Summary
高齢、末期で全ての治療適応が無くなった甲状腺がん患者は終末期医療(ターミナルケア)/緩和ケア/ベストサポーティブケア(BSC)以外、選択肢は無くなる。①骨転移の骨痛には痛み止め(アセトアミノフェンなど)、トラムセット®、鎮静剤、モルヒネ。②肺転移の呼吸苦は酸素投与、吸入、気管支拡張薬、鎮静剤、モルヒネ。③気道圧排、気道狭窄は酸素投与、吸入、鎮静剤、モルヒネ。④甲状腺分化癌(甲状腺乳頭癌・甲状腺濾胞癌)ならTSH抑制療法で、癌の増大速度を抑え、若干の縮小効果も期待でき症状を緩和。
Keywords
甲状腺がん,終末期医療,ターミナルケア,緩和ケア,ベストサポーティブケア,BSC,痛み止め,鎮静剤,モルヒネ,TSH抑制療法
甲状腺癌の終末期医療(ターミナルケア)/緩和ケア/ベストサポーティブケア(BSC)は、具体的に、どのようになるのでしょうか?
- 骨転移から生じる骨痛には、放射線外照射、ビスフォスフォネート剤と抗RANKL抗体デノスマブ(ランマーク®、プラリア®)、神経ブロック痛み止め(アセトアミノフェンなど)、トラムセット®、鎮静剤、モルヒネ。
- 肺転移から生じる呼吸苦には、酸素投与、吸入、気管支拡張薬、鎮静剤、モルヒネ。
- 気道圧排、気道狭窄には、酸素投与、吸入、鎮静剤、モルヒネ。
特に甲状腺未分化癌に対しての気道管理は、生活の質を落とす気管切開より、手術による腫瘍切除が推奨されます(Thyroid. 2012 Nov; 22(11):1104-39.)(Head Neck. 2016 Jan; 38(1):85-8.)
- 全てに共通して、甲状腺分化癌(甲状腺乳頭癌・甲状腺濾胞癌)ならTSH抑制療法で、癌の増大速度を抑え、うまくいけば若干の縮小効果も期待でき、1-3.の症状を緩和します。
クエチアピン(セロクエル®)25-50mg投与は有効、夜眠れて、夜間せん妄も抑える効力があります。肺転移・気道圧排、気道狭窄による呼吸苦、骨転移による骨痛を和らげ安らかな睡眠を誘導します。呼吸抑制や舌根沈下ガ起こらないよう、25mgを初期量として、効果が薄いなら慎重に12.5mgずつ増やすのが良いかもしれません。糖尿病性ケトアシドーシス、高血糖高浸透圧症候群をおこす危険性があるため、糖尿病患者には禁忌。
リスペリドン(リスパダール®)は、SDA(セロトニン・ドーパミン拮抗薬)で、クエチアピン(セロクエル®)ほど効きません。しかし、リスパダール内用液®があるので飲みやすい。
WHO がん疼痛治療4 原則
WHO がん疼痛治療4 原則
- 経口投与が最も望ましい
- 決まった時刻に規則正しく投与;頓用しなくてもよい量を維持
- 患者ごとの適切量;オピオイド鎮痛薬に標準投与量はない。痛みが消えるのが適切量
- 細かい配慮;嘔気や便秘など予想される副作用について患者にあらかじめ説明。制吐薬や下剤は予防投与。
トラムセット配合錠®、トアラセット配合錠®は、トラマドール塩酸塩/アセトアミノフェンの合剤で、非がん性慢性疼痛や抜歯後の痛みに保険適応がありますが、当然、癌性疼痛にも有効です。トラマドール塩酸塩は、モルヒネよりも弱いオピオイド鎮痛薬で、特有の副作用として、吐き気や嘔吐、便秘、めまい、眠気などが現れやすく、甲状腺機能低下症状態での使用は要注意です。また、アセトアミノフェンを含むのでアスピリン喘息には禁忌です。
トラマール®、ワントラム錠®(トラマドール塩酸塩)単独は、癌による痛み、手術後の痛みにしか使用できません。甲状腺癌の骨転移に伴う痛みに有効。鎮痛効果はモルヒネの10分の1。μ オピオイド受容体刺激作用と、セロトニン・ノルアドレナリンの再取り込み阻害作用とを併せ持つため、甲状腺機能亢進症/バセドウ病と似ているセロトニン症候群 を起こす危険があります。(Br J Anaesth. 2020 Jan;124(1):44-62.)
フェンタニルクエン酸塩経皮吸収型製剤(フェンタニルテープ)は、貼るだけなので便利です。熱い温度での入浴、サウナ、コタツ・ストーブ・加温ブランケットなどで、貼付部位の温度が上昇するとフェンタニルの吸収量が増加し、過量投与によるオピオイド中毒で死に至る危険があります。激しい運動でも同じ事が起こります。
オピオイド(モルヒネなど)は健常者で使用すると身体依存・精神依存が形成され、退薬により禁断症状(自律神経の嵐)が起こります。しかし、癌性疼痛があると、ダイノルフィン神経系・β-エンドルフィン分泌の活性化がおこるため、精神依存は起きにくい。
モルヒネの副作用である悪心・嘔吐
モルヒネの高頻度副作用である悪心・嘔吐は、
- 投与開始時
- 徐々にモルヒネの効果が減弱し、段階的に増量した時
に出やすい。
オピオイド(モルヒネなど)の副作用による便秘
オピオイド(モルヒネなど)の副作用による便秘は要注意。オピオイド(モルヒネ)は腸液の分泌低下と消化管蠕動運動を低下させるため、便秘になります。甲状腺癌摘出後甲状腺機能低下症は便秘の原因であるため、オピオイド(モルヒネ)使用時、増悪する可能性があります(甲状腺ホルモンと便秘・下痢 )。
オピオイド(モルヒネ)の便秘対策は、便秘が出現してからでなく、オピオイド(モルヒネなど)投与開始と同時に始めねばなりません。下剤は、便を軟らかくする酸化マグネシウムなど塩類下剤と、大腸の蠕動を刺激するピコスルファートナトリウムなどの腸刺激性下剤の併用が良いです。
モルヒネが効かなくなった時
モルヒネが効かなくなった時は、オピオイドの種類や投与経路(座薬、点滴)を変更するか、鎮痛補助薬を併用。
甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)は、正常甲状腺濾胞細胞と同じくTSH受容体を持っており、TSHによって刺激を受け増殖します。
脳下垂体からのTSH分泌を抑制するよう、甲状腺ホルモン剤[チラーヂンS錠(一般名:レボチロキシン ナトリウム)]を通常より多く投与します。
TSH抑制療法で、癌の増大速度を抑え、うまくいけば若干の縮小効果も期待でき、1-3.の症状を緩和します。
分子標的治療薬[ネクサバール錠®(ソラフェニブ)・レンビマ®(レンバチニブ)]からベストサポーティブケア(BSC)への移行
リビング・ウィル(living will)
厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン(2018年版)」では、延命治療の選択、いわゆるリビング・ウィル(living will)が成文化されています。
リビング・ウィル(living will)は病気のあるなしにかかわらず、いつかは理性的判断ができなくなることを想定し、将来、正常な判断ができなくなった時、どのような治療を希望するかを、主治医や家族に事前に述べておく書類です。人生の最終段階を迎えた時、
- 何もしない尊厳死か
- 心肺蘇生など延命処置をするのか
- 心肺蘇生しないまでも点滴や酸素投与を行うか
などです。
終末期医療(ターミナルケア)/緩和ケアに至る前の段階で行うものです。
アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning :ACP)
アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning :ACP)とは、患者さん本人、家族、医療従事者、ケアマネージャーなどが、現在の病気、意思決定能力が低下した場合、終末期を含めた今後の医療・介護について話し合うことです(いわゆる人生会議)。経口摂取出来なくなった時に胃瘻・経鼻胃管を行うのか、心肺蘇生など延命処置をするのか、心肺蘇生しないまでも点滴や酸素投与を行うかどうかを診療録・看護記録等、書面に残します。
終末期医療(ターミナルケア)/緩和ケアを行うに当たり欠かせません。
アドバンス・ケア・プランニングは欧米で普及しつつあるも、日本ではほとんんど行われません。
甲状腺癌終末期に、本人・家族が在宅医療を希望する場合があります。甲状腺癌そのものに対する治療ではないため、甲状腺専門医の出番は無く、在宅医・訪問診療医の管轄になります。
- 在宅酸素療法;多発肺転移による呼吸困難
- 在宅静脈栄養;
①中心静脈栄養法(鎖骨下静脈、大腿静脈などにカテーテル留置)、患者の動きが制限され、管理が大変なので取り扱う在宅医は少数。
②末梢静脈栄養法、点滴1本で牛乳1本分のカロリーしか補充できない。申し訳程度の訪問看護でよく行っています。アミノ酸製剤、脂肪乳剤なども併用し1日最大1,000 kcal 程度のエネルギー投与が可能だが、末梢静脈にルートを確保、点滴交換など24時間管理が必要なので、そこまでできる在宅医療機関、訪問看護はほとんどない。
甲状腺癌末期では、貧血・低栄養(低アルブミン血症)により、血管内の水分が血管外へ逃げて浮腫(むくみ)になっています。輸液量が過剰(輸液過多)なら、浮腫の増悪、肺水腫を起こす可能性があるため注意を要します。
- その他、痛み止め等の対症療法
などの内容。ただ日本の現状医療制度では在宅・看取りは難しく、良くも悪くも最後は病院が一般的でしょう。
甲状腺癌に限らず、甲状腺以外の病気であっても終末期まで甲状腺機能亢進症/バセドウ病治療薬の抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)を必要とするケースがあります。
継続して服薬せねばならないものの、
- 内服困難のために中止を余儀なくされる場合
- 胃瘻などから経管投与できる場合
- メルカゾール注射薬の経静脈投与に切り替える場合
などがあります。(第66回 日本甲状腺学会 O1-5 当院における終末期Basedow病患者の抗甲状腺薬の管理状況)
終末期に発症した、あるいは見つかった甲状腺機能亢進症/バセドウ病において、抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)が副作用で使用できない時は、
を姑息的に使用するしかありません。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
も御覧ください
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。