甲状腺の社会問題;脳死・橋本病に対する偏見・ヒヤリハット、チウラジールとチラーヂン・ノセボ効果・トランスジェンダー・法医学[長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 エコー検査 長崎甲状腺クリニック(大阪)
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外(Pub Med)・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。
甲状腺・動脈硬化・内分泌代謝・糖尿病に御用の方は 甲状腺編 動脈硬化編 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等 糖尿病編 をクリックください
甲状腺編 では収録しきれない専門の検査/治療です。
Summary
脳死移植ドナーでは脳浮腫などで下垂体機能低下症に至るためデスモプレシン、高容量の副腎皮質ステロイド薬、甲状腺ホルモンチラーヂンS静注液200μg)を点滴静脈注射。橋本病に対する偏見で生命保険に入れない事も。チウラジールとチラージンは名前が似ており、ヒヤリハット、処方ミスの原因に。甲状腺ホルモン剤のノセボ効果の報告あり。死亡時画像診断[オートプシー・イメージング]は法医学の検死に欠かせない。頸部絞殺など甲状腺に強い外力が加わった窒息、致命的な脳外傷では心臓血のサイログロブリンが高値。
Keywords
脳死移植,甲状腺ホルモン,チラーヂンS,橋本病,生命保険,チウラジール,ヒヤリハット,オートプシー・イメージング,法医学,甲状腺
2010年、臓器移植法の改正により、ドナーカードが徐々に普及し、移植ネットワークもそれなりに機能して、脳死患者からの移植は緩やかに増加してきました(2017年で76件)。対照的に、生体腎移植・生体肝移植は目覚ましい発展を遂げています。
欧米なら「死ねばただの物体、魂は肉体を離れ、主の御許に旅立たれた」と割り切れる人が多いでしょう。日本人特有の死生観では、死んでいても人格が尊重されるべき一個人であり、丁重に体を荼毘に付さねばならない。「例え機械で心肺が動いていても、脳が死んでいれば人の死である」と頭で分かっているが、肉体は物体ではなく一個人であり、生前ドナーカードで臓器提供の意思を持っていても家族が死を認めない、あるいは認めても臓器提供を承諾しないのは普通です。
強制はしないと言いつつ医療者側は、臓器提供のプレッシャーを掛けてきます(「命のリレー」と美化)。
また、筆者の個人的な考えですが、臓器を提供するに値する病気なの?(例えば、不節制の限りを尽くし、周囲の人に受動喫煙の害を撒き散らし、挙句の果ての心筋梗塞、糖尿病腎症、タバコ肺)と疑問を持たざる得ません(それおかしいで!?心臓移植の基準)。
臓器移植はドナーとその家族の善意で成り立っているため、日本で脳死移植が定着するのは難しいと思います。
脳死移植ドナーでは脳浮腫などにより下垂体機能低下症に至ります。脳が不可逆的に機能を停止しているため、当然です。また、時間との闘いでもあるため、迅速な投薬が必要になります。
- 脳死患者の約80%で尿崩症;抗利尿ホルモン(ADH, AVP, バソプレッシン)測定は間に合わないので臨床的尿崩症と診断し、デスモプレシン補充開始
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中枢性(続発性)副腎皮質機能低下症;副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)・コルチゾール測定は間に合わない。高容量の副腎皮質ステロイド薬は、ドナー臓器の炎症、脳浮腫を抑える効果もあるので最初から投与
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中枢性甲状腺機能低下症;甲状腺ホルモン(FT4,FT3)・甲状腺刺激ホルモン(TSH)測定は間に合わないので、血行動態不安定な場合、心機能低下している場合、デスモプレシン、副腎皮質ステロイド薬に併用して甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS静注液200μg)を点滴静脈注射
※長崎甲状腺クリニック(大阪)では、生命保険に対するサポートを一切行っておりません。相談等も、一切お受けしておりません。
医療情報の氾濫により、間違った知識・病気に対する偏見が広まる事例が多々あります。「橋本病は治らない病気だから難病だ」と言う、あまりにも短絡的な誤解が世間に蔓延している現実があります。
こうした社会の偏見は橋本病患者に負の烙印(スティグマ)を押します。就職、就学、結婚、生命保険加入で不利益を被るケースもあります。人間の偏見はゾンビより恐ろしいのです。スティグマを恐れるあまり橋本病であること隠す方もおられます。
東京都予防医学協会の調査報告によると、生命保険会社16 社中、橋本病患者の加入不可1 社、条件付きで加入可10 社、加入可1 社、回答できない4 社(ダメなんでしょうね)との事です。(第55回 日本甲状腺学会 P2-02-05 橋本病患者が被っている社会的不利益の現状)
確かに橋本病は治らないでしょうが、治療方法は100%確立しています。甲状腺ホルモン剤を飲むだけで健康な人と同じ生活ができるのです。不治の病であっても難病ではないのです。
糖尿病はどうでしょう?薬を飲んでも良くならない人が多く、毎日インスリンの自己注射までしてもコントロール不良で、透析・網膜剥離に至る人が後を絶ちません。これこそ難病やん!
高血圧・高脂血症の人は、例外はあっても薬さえ飲めば、健康な人と同じ状態を維持できます。薬を止めれば、もとに戻るため、治った訳ではありません。橋本病と一体、何が違うのでしょうか?高血圧・高脂血症については、子供でも「塩分摂り過ぎは良くない。」「卵はコレステロールが多い。」と知っているのに関わらず、橋本病に対する知識は普及していないのが原因と思われます。人は得体のしれない物に対して排他的になり、偏見を持ちます。
世界甲状腺デーが新設されたのを契機に、日本甲状腺学会も本腰を入れて甲状腺の病気に対する普及活動に乗り出しています。橋本病に対する偏見も消える日は来るでしょうか?
「ヒヤリハット」=インシデント、誤った医療行為などが実施前に発見されたり、誤った医療行為が行われたが患者に影響を及ぼさなかった場合
「処方ミスによりチウラジールとチラーヂンを間違えて飲む」=アクシデント、誤った医療が実施され、患者へ影響を及ぼした場合
ヒヤリハットの語源は、「ヒヤリとした」「ハッとした」で、間違った医療行為が行われそうになる事態です。「ハッ」と間違いに気付き、事なきを得ればよいのですが、間違いに気付かなければトンデモナイ事(処方ミス)になります。甲状腺の世界で長らくヒヤリハット(気付かず処方ミス)の原因であり、いまだに解決される見込みのない「チウラジール」と「チラーヂン」の問題。チラーヂン(チラージン)S錠は、誰でも知ってる国民的な甲状腺ホルモン剤で、甲状腺機能低下症の治療薬です。一方、チウラジール(50mg)錠は、過剰な甲状腺ホルモンを低下させるための甲状腺機能亢進症/バセドウ病の治療薬です。この相反する薬効の2つの薬は、名前が非常に似ています。
甲状腺専門医療機関の門前薬局で働く薬剤師なら間違える事は、まずありません。しかし、あまり甲状腺の患者さんが訪れない院外薬局の薬剤師、甲状腺治療薬の経験に乏しい薬剤師・アルバイト薬剤師の中には、「チウラジール」と「チラーヂン」の区別が付いていない人が少なからずいます。恐ろしいことですが事実です。
特にチラーヂンS(50)錠とチウラジール(50)錠は、数字まで同じなので、最も間違えやすい様です。[厳密にはチラーヂンS 50μg 錠とチウラジール 50mg 錠で単位が違うのですが・・・]
たとえ間違えられても、何度か同じ処方を受けていれば、シートの色が違うので患者さんの方が気付きますが、
- 初めて甲状腺の薬を処方された場合
- 認知症の掛かったお年寄り
ならどうでしょうか?何の疑いもなく飲み続けたら、甲状腺の病気が悪化して悲惨なことになります(下手したら命を失う危険もあります)。
長崎甲状腺クリニック(大阪)では、このようなヒヤリハット(気付かず処方ミス)を予防するため、田辺三菱製薬製の「チウラジール」ではなく、あすか製薬製の「プロパジール」を使用することにしています。
※「チウラジール」も「プロパジール」も、商品名は違えど同じ成分、PTU(プロピルチオウラシル)です。
ニュージーランドでは、テレビ報道によるノセボ効果を実証する社会実験が行われました。甲状腺ホルモン剤(レボチロキシン、日本ではチラーヂンS)の添加物の1つを変更するという製薬会社の決定を、マスコミが「変更すれば副作用が起きる可能性がある」とテレビ報道した後、まだ変更していないのに、副作用報告率が2000倍に上昇しました。さらに、同製薬会社が変更を撤回し、新しい製剤計画を発表しただけなのに、副作用報告率は低下しました。(BMJ Open. 2012 Aug 17;2(4):e001607.)(BMJ. 2009 Dec 29;339:b5613.)
男性から女性へ性変更するトランスジェンダーに対して、アメリカでは甲状軟骨形成や喉頭形成などが行われています(J Craniofac Surg. 2019 Jul;30(5):1409-1413.)(Facial Plast Surg Clin North Am. 2019 May;27(2):267-272.)
男性から女性へ性変更するのは、喉ぼとけを削る手術ですが、女性から男性に変更する喉ぼとけ形成手術は、手技が難しく、一般的ではない様です。(Plast Reconstr Surg. 2017 Apr;139(4):883e-887e.)
(J Craniofac Surg. 2019 Jul;30(5):1339-1346.)
女性から男性に変更するトランスジェンダーは、テストステロン(男性ホルモン)製剤の投与で外見は男性化しますが、テストステロン(男性ホルモン)製剤が甲状腺に及ぼす影響は分かっていません。性変更していない男性・女性のテストステロン(男性ホルモン)と甲状腺の病気に対する報告はありますが、トランスジェンダーにおいては皆無です(男性に少ない甲状腺の病気、男性ホルモンの影響?)。
長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。法医学を行っておりません。
死亡時画像診断[オートプシー・イメージング(Autopsy imaging、Ai)]
死亡時画像診断[オートプシー・イメージング(Autopsy imaging、Ai)]は、今や法医学の検死に欠かせない手法で、特に事件性のある遺体にCT・MRI撮影し、死亡時の病態把握、死因の究明などを行う方法です。
また、日本では法医学者、監察医が圧倒的に不足しており、司法解剖までできる医師は全国で150人位です。そのため、まともに監察医制度が機能しているのは、東京都23区、大阪市他、地方の大都市だけです。
絶対的な監察医不足を補う目的でも、CT・MRIさへあれば簡単に行えるオートプシー・イメージング(Ai)の普及は必要不可欠です。
事件性のある遺体をCT・MRI撮影すれば、病死か事件死か、おおよその見当がつくため、無駄な司法解剖する必要がなくなります。
オートプシー・イメージング(Ai)画像は生前画像と異なり、死亡後、甲状腺のCT濃度は、生前と比較して低下します。
頸部絞殺と甲状腺
頸部絞殺など甲状腺に強い外力が加わった窒息、致命的な脳外傷では、心臓血のサイログロブリン(Tg)濃度が高値を示すとされます。死後、甲状腺から漏出したサイログロブリンは血液を介して拡散するため、生前より高値になります。
そのため、逆に心臓血のサイログロブリン(Tg)濃度が高値でなければ、頸部絞殺の可能性は低くなります。ただし、絞めた位置が甲状腺とずれていたら、その限りではありません。(https://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/bitstream/
2115/.../Akira_Hayakawa_review.pdf)
また、心臓血(左右の心室)および腸骨静脈血の、血清トリヨードサイロニン(T3)、チロキシン(T4)が有意に高値になるとされます。(Hum Cell. 2020 Jul;33(3):545-558.)
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区にも近い。