高齢者甲状腺機能亢進症/バセドウ病[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 甲状腺機能低下症 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。
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長崎甲状腺クリニック(大阪)ゆるキャラ 甲Joう君 (動脈硬化した血管に甲状腺が!バセドウ病の甲状腺がモデル)
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バセドウ病で長崎甲状腺クリニック(大阪)を受診される方への注意
バセドウ病の治療開始(再開)後は、頻回の副作用チェックが必要なため①大阪市と隣接市の方に限定②来院できず薬を自己中断する方をお受けできません。
Summary
高齢者甲状腺機能亢進症/バセドウ病は若年性・中年性バセドウ病と異なり①甲状腺が腫れにくい[バセドウ抗体(TRAb)に対する反応性低下]②体重減少(るいそう)起こし易い[胃腸が弱く食事を摂れない]③異常な代謝亢進に体が耐えられず抑うつ④代謝亢進症状に乏しく発汗・暑がり・頻脈/動悸は少ない(老化のため体が反応を起こしにくい)④眼球突出は小さい(老化のため体が反応を起こしにくい)が、眼筋炎による複視の頻度が高い。ステロイド全身投与や視力低下に対する眼窩減圧術をできない場合がある⑤心房細動(Af)合併率は年齢と共に上昇、男性に多い。
Keywords
高齢者,甲状腺機能亢進症,バセドウ病,体重減少,るいそう,抑うつ,症状,老化,甲状腺眼症,心房細動
高齢者甲状腺機能亢進症/バセドウ病は、若年性バセドウ病や中年性バセドウ病と異なる症状を呈します[Arch Intern Med. 1988 Mar;148(3):626-31.]。
- 甲状腺が腫れにくい(甲状腺が小さい)ため、甲状腺の病気が見逃され易い[バセドウ病抗体(TRAb)に対する反応性低下]。
- 食欲低下が多い
- 体重減少(るいそう)を起こし易い[胃腸が弱くなっているため、新陳代謝(糖・脂肪・タンパクの分解)を上回る量の食事を摂れない] 。ガンによる体重減少と思い込む方もおられます。
- 体の異常な代謝亢進に耐えられず、抑うつ傾向になります
- 代謝亢進症状に乏しく、発汗・暑がり・頻脈/動悸は少ない(老化のため体が甲状腺ホルモンに対する反応を起こしにくい)
- 眼球突出の程度は小さい(老化のため体が反応を起こしにくい)が、眼筋炎による複視の頻度が高い(高齢者の甲状腺眼症)
- 心房細動(Af)合併率は年齢とともに上昇、70歳以上の約10%になります。また男性に多い。[甲状腺機能亢進症/バセドウ病の心房細動(Af)]
狭心症が顕在化(甲状腺機能亢進症/バセドウ病から急性冠症候群、冠攣縮性狭心症、弁膜症、肥大型心筋症、突然死)
心房細動(Af)や狭心症から甲状腺機能亢進症/バセドウ病がみつかる場合もあります。[Nihon Ronen Igakkai Zasshi. 1996 Mar;33(3):191-5.] - 特に老年期女性は元々、閉経後骨粗鬆症があるため、さらに骨が悪くなる。[高齢者バセドウ病の大腿骨頚部骨折と大腿骨転子部骨折(脚の付け根の骨折)]
高齢者の甲状腺眼症は、眼球突出の程度は小さい(老化のため体が反応を起こしにくい)が、眼筋炎による複視の頻度が高いのが特徴です。高齢者の活動性甲状腺眼症は、
- ステロイド全身投与の適応
- 視力低下など視神経症状がある場合は眼窩減圧術の適応
となりますが、本人が希望しない・全身状態から判断して治療できないケースが多々あります。
甲状腺眼症の発症時期は二峰性のピークがあり、
- 女性では40-44歳および60-64歳
- 男性では45-49歳および65-69歳
よって、高齢者の甲状腺眼症は珍しくありません。
80歳以上の高齢者における甲状腺眼症は、若年者の甲状腺眼症と比べて、
- 眼球突出の程度は小さい(老化のため体が反応を起こしにくい)
- 眼筋炎による複視の頻度が高い
- 喫煙率が低い
- 甲状腺機能低下症が多い
- 重症筋無力症の合併率が高い
- 眼瞼下垂は少ない
- 両側性が多い
- 視神経障害の頻度は変わらない;ステロイド全身投与と眼窩減圧術が行われる
- Clinical activity score (CAS)は高くないが、Thyroid eye disease (TED) 重症度は高い
- 斜視手術の頻度が高い
[Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol. 2022 Aug;260(8):2727-2736.]
年齢とメチルプレドニゾロン累積用量は急性肝障害の重大な危険因子であり、53歳以上の甲状腺眼症患者ではメチルプレドニゾロン累積用量が8.5gを超えてはならないとされます[Thyroid. 2015 Jul;25(7):846-50.]。ただし、ヨーロッパの話で、日本の甲状腺眼症に当てはまるか(抑えきれるか)疑問です。
高齢者の甲状腺眼症で、両眼視神経障害による視力低下を発症し、転倒時に眼球破裂を起こした症例が報告されています。高齢につきステロイド全身投与・眼窩減圧術ができなくても、リニアック照射(放射線外照射:視神経に体外から放射線を当てる治療)・ステロイド局所注射は可能です。しかし、効果不十分。(第56回 日本甲状腺学会 P2-029 視神経症、角膜潰瘍、転倒による眼球破裂を来した高齢者の甲状腺眼症の1 例)
白内障手術を受けるのは、高齢者がほとんどです。眼科医が高齢者の活動性バセドウ病眼症(甲状腺眼症)に気付かず、白内障手術の段取りをするケースがあります。ようやく、抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)を減らし始めた時に、他院、眼科から白内障手術を前提とした診療情報提供書を求められると驚きます
加齢による骨粗しょう症で、ただでさへ骨折しやすいのに、高齢の甲状腺機能亢進症/バセドウ病患者は、甲状腺ホルモンの作用で骨分解が加速され、輪をかけて骨折の危険が高くなります(甲状腺機能亢進症/バセドウ病の骨粗しょう症 )。
高齢者の大腿骨頚部骨折後に骨接合術をしなければ寝たきりになり、認知症・筋肉量減少によるサルコペニアが進行します。転倒しやすい生活環境を改善し、ヒッププロテクターを装着するのもよいでしょう。
また、骨接合術をしても高齢のため手術合併症も多く、
手術当日に
- 褥瘡;甲状腺機能亢進症/バセドウ病により体脂肪も筋肉も分解され、ベッドの圧に対するクッションが無くなっているため、当日にでも生じる
- せん妄;入院・手術と、いきなりの環境変化で、パニック、意識混濁、幻覚が生じる。未治療・治療途中で甲状腺ホルモンが正常化していない甲状腺機能亢進症/バセドウ病では、せん妄が増悪
- 深部静脈血栓症;
未治療・治療途中で甲状腺ホルモンが正常化していない甲状腺機能亢進症/バセドウ病では、血栓ができやすい(甲状腺と血栓症-深部静脈血栓 )
深部静脈血栓症診断の感度がほぼ100%のD-ダイマーを術前に測定し、高値なら静脈エコー検査を行い治療開始すべき。
大腿骨近位端骨折手術での深部静脈血栓症の発生率は、予防を行わなかった場合30~50%、致死的肺血栓塞栓症(肺梗塞)は0.1~7.5%。
術後のギプス固定も静脈血がうっ滞する原因になります
大腿骨近位端骨折手術後、リハビリ開始して胸痛・呼吸困難・血痰がおこれば、剥離血栓による肺血栓塞栓症(肺梗塞)を疑いましょう。
高齢者バセドウ病で、抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)が重篤(重症)な副作用のため使用不能になった時、
を選択しなければなりません。高齢者は、甲状腺機能亢進症/バセドウ病以外にも複数の病気を持っている事が多く、心臓病や呼吸器疾患、コントロール不良・インスリン自己注射不能な糖尿病、悪性腫瘍などのために、全身麻酔手術やアイソトープ(放射性ヨウ素: I-131)治療後の急激な甲状腺ホルモンの変動に耐えられない場合があります。認知症のため、治療そのものができない場合も多い。
巨大甲状腺腫で呼吸困難・嚥下困難のある高齢者バセドウ病は、甲状腺全摘手術を行うべきところですが、心機能や持病、亀背による挿管困難などのため不可能な場合も多い。アイソトープ(放射性ヨウ素: I-131)治療でも、施行後の急激な甲状腺ホルモンの変動に心臓などの臓器が耐えられない可能性もありますが、全身麻酔手術より危険度は低いです。[Z Arztl Fortbild Qualitatssich. 2004 May;98 Suppl 5:55-62.]
巨大甲状腺腫ならば、通常のバセドウ病に使用する量(13.5mCi)では足りず、25-43mCi は必要です(第64回 日本甲状腺学会 33-2 巨大甲状腺腫を呈する高齢者バセドウ病に対する131I内用療法)。
抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)で特に副作用は無いが、頻回に再発を繰り返す極めて不安定な難治性・高活動型バセドウ病には、メルカゾール(またはプロパジール、チウラジール)』と『チラーヂン』の併用(ブロック補充療法)が最終手段の一つになります。
アイソトープ(放射性ヨウ素: I-131)治療、手術療法(甲状腺全摘出) が行えない高齢者には最適の治療です。バセドウ病の寛解を目的とした方法でないため半永久的に続き、高齢者以外では余程の事情が無い限り安易に使用しません。(乱用される『メルカゾール』と『チラーヂン』の併用 )。
とにかく、将来的に抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)を中止する必要性がなく、甲状腺機能亢進症/バセドウ病を安定させたい高齢者こそがブロック補充療法の最適応です。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。