亜急性甲状腺炎の転帰[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波 エコー 検査 甲状腺機能低下症 長崎甲状腺クリニック 大阪]
亜急性甲状腺炎の診療停止について
日本での新型コロナウイルス感染が完全に終息するまで亜急性甲状腺炎の診療は停止(ステロイド投与中のコロナ感染は重症化するため)。
亜急性甲状腺炎のステロイド治療は、新型コロナウイルス感染にすぐ対処できるよう、コロナ病床のある病院で行った方が良いと思います。
甲状腺の基礎知識を初心者でもわかるように、長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が解説します。
その他、甲状腺の基本的な事は甲状腺の基本(初心者用) 橋本病の基本(初心者用)を、高度で専門的な知見は甲状腺編 甲状腺編 part2 を御覧ください。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。尚、本ページは長崎甲状腺クリニック(大阪)の経費で非営利的に運営されており、広告収入は一切得ておりません。
Summary
亜急性甲状腺炎の転帰。自然軽快は多いが再発率は20-30%、再発するとステロイド最大容量を増やして慎重に減量。1年後以降の再発は1-2%で10-20年後もあり、HLA-B35が関与。再発例は1回目に比べて症状が軽い。約半数が6カ月以内で一時的な甲状腺機能低下症に。破壊され尽くし5.9%は永続的甲状腺機能低下症になるが、副腎皮質ホルモン剤で回避率上がる。永続的甲状腺機能低下症時の超音波(エコー)画像所見は萎縮した甲状腺、低エコー輝度、橋本病末期の様。のう胞変性(嚢胞変性)や代償的組織増殖により腺腫様結節(腺腫様甲状腺腫)、数年後に甲状腺損傷が生じ得る。
Keywords
亜急性甲状腺炎,転帰,自然軽快,再発,HLA-B35,甲状腺機能低下症,永続的甲状腺機能低下症,橋本病末期,のう胞変性,腺腫様甲状腺腫
某甲状腺専門病院のホームページには「自然に治る病気なので、慢性化することはなく、再発もめったにありません。」と楽観的なことが書かれています(甲状腺専門医制度が作られる以前、適当に甲状腺診療が行われていた時代の遺物か?)。
確かに、自然軽快する亜急性甲状腺炎は多いが、現実はそんな簡単なものだけではありません。
- 亜急性甲状腺炎の再発
- 亜急性甲状腺炎の10年以上してからの再発
- 本当に存在する数年かかっても完全治癒しない亜急性甲状腺炎
- 永続的甲状腺機能低下症
- バセドウ病に移行することがある。、日本甲状腺学会では毎年、どこかの施設が亜急性甲状腺炎からバセドウ病へ移行した症例を報告しています。
これは、もともとバセドウ病の素因がある人で自己免疫反応が誘発される機序が考えられます。亜急性甲状腺炎の炎症により破壊され、血中へ放出された甲状腺濾胞細胞成分が抗原となりバセドウ病抗体が産生されます。HLA遺伝子を調べてみると、亜急性甲状腺炎のHLA-B35とバセドウ病のHLA-DR3両方を持っていた報告があります(Thyroid. 1996 Aug;6(4):345-8.)。[亜急性甲状腺炎とバセドウ病、橋本病(慢性甲状腺炎)の合併/移行]
- 亜急性甲状腺炎終息後も抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)残存し、橋本病(慢性甲状腺炎)へ移行。ただし、亜急性甲状腺炎発症前の甲状腺の状態が分らない限り、最初から抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)陽性で、橋本病(慢性甲状腺炎)だった可能性を否定できません。
- 腺腫様甲状腺腫になる
- 甲状腺損傷をおこす
亜急性甲状腺炎の再発率は20-30%でかなり高く、再発するとステロイドの最大容量を増やして、慎重に減量せねばなりません。亜急性甲状腺炎再発リスクはHLA遺伝子(組織適合性抗原)依存性で、特異的なHLA-B*35に加えHLA-B*18:01、DRB1*01、C*04:01が関連するとされます(Int J Mol Sci. 2019 Mar 3;20(5):1089.)。
1年以上して再発する亜急性甲状腺炎は1-2%とされ、長崎甲状腺クリニック(大阪)でも10-20年後に再発した亜急性甲状腺炎がありました。10年以上して再発する亜急性甲状腺炎は、組織適合性抗原HLA-B35遺伝子に加えHLA-C3やHLA-A26が関連するされます(Thyroid. 1996 Aug;6(4):345-8.)。HLA遺伝子は生涯変わる事がないため、再発しても不思議はありません。
2回目の亜急性甲状腺炎は、1回目に比べて症状は軽くなります。
日本では亜急性甲状腺炎の数%が不可逆な破壊(永続性甲状腺機能低下症)に至るとされます。Saudi Arabiaでは14.3% (Int J Endocrinol. 2014;2014:794943.)。
隈病院の統計では、53.6%が発症後6カ月以内に一時的に甲状腺機能低下症になるが、永続的甲状腺機能低下症に至るのは5.9%。副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)使用で永続的甲状腺機能低下症になる確率は下がります。永続的甲状腺機能低下症になった人は全員、甲状腺の左右両側に低エコー領域があり(要するに片側だけでは終わらない)、最終的に甲状腺は萎縮したそうです。(J Endocrinol Invest. 2009 Jan;32(1):33-6.)
伊藤病院の報告によると、理由は不明ですが、永続的甲状腺機能低下症になるのは男性が多いそうです。(第65回 日本甲状腺学会 O8-3 亜急性甲状腺炎治癒後に永続性甲状腺機能低下症に至る症例の特徴の検討)
甲状腺全体が破壊され尽くし、永続的甲状腺機能低下症に至った亜急性甲状腺炎の方も長崎甲状腺クリニック(大阪)におられます。また、 亜急性甲状腺炎発症前の甲状腺機能が分らない限り、最初から甲状腺機能低下症だった可能性も否定できませんが・・・。
ケース①
ケース②
ケース③
上記のような事にならなくても、亜急性甲状腺炎により甲状腺組織が破壊されて、さらに代償的の組織増殖が起こると、
- のう胞変性(嚢胞変性);甲状腺組織が溶けてしまい、空洞ができる
- 代償的に組織が増殖し、腺腫様結節(過形成結節)→腺腫様甲状腺腫
が生じます。長崎甲状腺クリニック(大阪)では、亜急性甲状腺炎が終息して数カ月後に、甲状腺超音波(エコー)検査を施行しています。
炎症により組織がもろくなって、数年後に甲状腺損傷をおこす可能性があります。写真は亜急性甲状腺炎後2年で生じた甲状腺損傷の超音波(エコー)画像。痛みを伴い、圧痛部に一致して低エコー領域を認めます。境界明瞭、内部には亀裂で生じた線状組織と、亀裂部に溜まった液体。特に甲状腺損傷をおこす誘因なく生じました。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,天王寺区,浪速区,生野区も近く。