亜急性甲状腺炎と鑑別、風疹・流行性耳下腺炎(おたふくかぜ、ムンプス)[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺専門の検査/治療/知見③ 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 大学院医学研究科 代謝内分泌病態内科学で得た知識・経験・行った研究、毎年どこかで開催される日本甲状腺学会で入手した知見です。
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長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。風疹・流行性耳下腺炎(おたふくかぜ、ムンプス)の診療を行っておりません。
Summary
亜急性甲状腺炎と鑑別を要する風疹は子供なら不顕性感染が多い、成人は重症化しやすい、妊婦は胎児の先天性風疹症候群(難聴、遅発性の甲状腺炎・甲状腺機能低下症・甲状腺機能亢進症)。耳介後部の有痛性リンパ節腫脹後、発熱、全身の網状疹、手指関節炎、風疹脳炎。亜急性甲状腺炎と鑑別を要する流行性耳下腺炎(おたふくかぜ、ムンプス)は唾液腺炎(耳下腺炎・顎下腺炎)、無菌性髄膜炎、内耳炎、膵炎、精巣炎(睾丸炎)・卵巣炎(不妊の原因)、亜急性甲状腺炎、乳腺炎、心筋炎を起こす。風疹ウイルス、ムンプスウイルス自体が亜急性甲状腺炎の原因。
keywords
亜急性甲状腺炎,鑑別,おたふくかぜ,ムンプス,流行性耳下腺炎,風疹,先天性風疹症候群,甲状腺機能低下症,甲状腺,妊婦
感染症法上の五類感染症のうち、全数把握対象疾患である梅毒、風疹、麻疹(はしか)、後天性免疫不全症候群、薬剤耐性アシネトバクター感染症について、発生動向調査によるそれぞれの患者数の年次推移。
風疹は都心部を中心に周期的な大流行をきたし、8割以上が20代〜40代の男性です。小さい子供や夫人が風疹に感染して、家族内感染するケースが多いです。
- 昭和40年以前生まれの男女は、風疹ワクチン予防接種が行われていないが、ほとんどは風疹に自然感染して免疫がある(小学校でよく学級閉鎖になりました)
- 昭和50年ごろ生まれの男性は、自然感染が減少して、風疹に免疫がない。女性だけは、中学生の時に風疹ワクチン集団予防接種を受けて免疫がある
- 昭和54年4月2日~昭和62年10月1日生まれの男女は、中学生で風疹ワクチン予防接種対象だったが、医療機関での個別接種だったため、接種率が低い。
- 平成2年生まれの男女とも幼児の時に予防接種を受ける対象となっていたため免疫がある。
2018年、風疹の大流行を機に、届出基準が全数報告対象の5類感染症に変更され、2019年には全額公費による風疹抗体検査とワクチン接種が始まりました。風疹ワクチン接種に風疹抗体価の測定は必須でなく、風疹抗体価が高い状態で再接種しても特に有害事象はないため、時間的余裕がない場合は風疹抗体価測定なしに接種してもよい(風疹抗体価が高けりゃ別に接種の必要もないんだが)。
風疹は感染者によって問題は異なり
- 子供なら不顕性感染が30%
- 成人は重症化しやすい
- 妊婦は胎児の先天性風疹症候群の危険があります[妊娠4~6週の感染では100%の発症率;長崎甲状腺クリニック(大阪)では妊娠中の甲状腺機能低下症/橋本病の管理で受診される方も多いですが、風疹にも要注意]。
風疹の症状は、
- 数週間続く全身リンパ節、特に耳介後部、後頭部、頚部の有痛性リンパ節腫脹と倦怠感(潜伏期間)
これを亜急性甲状腺炎と勘違いして長崎甲状腺クリニック(大阪)を受診される方がおられます。
その後、
- 発熱(約半数の例では発熱なし)
- 全身の発疹(網状疹);顔から体幹、四肢まで、3日程度で消失
- 手指関節炎;風疹の多発関節炎は、数カ月以上持続する場合あり、一過性に抗核抗体(ANA)が陽性になる場合もあります。
- 風疹肝炎(Intern Med. 1993 Jul;32(7):580-3.)
- 風疹脳炎(約5000人に1人)、血小板減少性紫斑病(約5000人に1人)
風疹は学校保健安全法の「第二種感染症」(学校で流行しやすい飛沫感染)で、「発疹が消失するまで出席停止」であるため、亜急性甲状腺炎と鑑別せねばなりません.
風疹発症後1カ月して亜急性甲状腺炎を発症した報告もあり、風疹ウイルス自体が亜急性甲状腺炎を引き起こす事があります(Endocrinol Jpn. 1990 Feb; 37(1):79-85.)。
風疹の検査
血清中抗風疹IgM抗体価が上昇;皮疹出現後3日までは偽陰性の事があるため、更に2日後に再検。
先天性風疹症候群では、
- 感音性難聴は最も頻度が高い(80~90%)
- 低出生体重(50~85%)、活気不良、啼泣は弱い。
- 白内障(35%)
- 心奇形;動脈管開存症(PD)(30%);第二肋間胸骨左縁にLevine 2/6 の連続性雑音
- 心奇形;肺動脈狭窄(25%)
- 肝腫大・精神遅滞・髄膜脳炎・血小板減少性紫斑病(10~20%)
(Clin Infect Dis 2000;31:85-95.) - 遅発性糖尿病;13~21 歳の間に1.1%が1 型糖尿病を発症(Diabetes Care 2005;28:2331-2.)
- 遅発性の甲状腺炎・甲状腺機能低下症・甲状腺機能亢進症(5%)
- 遅発性の成長ホルモン欠損症(まれ)(Infectious Disease of the Fetus and Newborn Infant 7th 25ed.
- 血小板減少、血清IgM 高値
妊娠後の血液検査(妊婦健康診査)で風疹HI 抗体価が16倍以下の低抗体価(8倍未満が陰性)だった場合、風疹に罹らないよう厳重に注意しなければなりません。風疹ワクチンは生ワクチンなので、妊娠後の接種はできません。
本来、妊娠前のブライダルチェックで甲状腺機能と同時に風疹HI 抗体価を測定し、風疹ワクチン接種で風疹に対する免疫を獲得しておくべきでした。
せめて、次回も妊娠の可能性があるなら、出産後の風疹ワクチン接種が勧められます。
先天性風疹症候群と甲状腺
先天性風疹症候群で難聴になった青年の甲状腺自己免疫抗体[抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)、抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)]陽性率は23.3%で、コントロール群(先天性風疹症候群以外の原因で難聴になった青年)の12.0%と比べ有意に高かった。先天性風疹症候群で難聴かつ甲状腺自己免疫抗体陽性青年の19.6%は甲状腺機能低下症でした。(J Pediatr. 1984 Mar;104(3):370-3.)
甲状腺機能亢進症を3歳で、1型糖尿病を17歳で発症した先天性風疹症候群の報告あり(Acta Paediatr Scand. 1980 Mar;69(2):259-61.)。
流行性耳下腺炎は、2~3週間の潜伏期(平均18日前後)→発熱、頭痛などの前駆症状がおこり、その後、
- 唾液腺炎(耳下腺炎・顎下腺炎);片側(約25%)あるいは両側の唾液腺(主に耳下腺、顎下腺)の腫脹(おたふく顔貌)、
甲状腺とは全く場所が違いますが、甲状腺と勘違いして甲状腺専門医を受診する方がいます。
通常1~2 週間で軽快
- 最も多い合併症は無菌性髄膜炎;約10%、季節性無し、エンテロウイルスに次いで2位。唾液腺炎発症後3~10日して出現。軽症で、後遺症はない。
- 内耳炎(約0.1%と稀だが重症。片側の急性高度感音性難聴で非可逆性)
- 急性膵炎(稀だが重症)
- 精巣炎(睾丸炎)(思春期以降の男性の約20~30%)、卵巣炎(思春期以降の女性の約5%);男性不妊、女性不妊の原因。小児期の流行性耳下腺炎は不妊症の原因にならない。
- 甲状腺・乳腺(亜急性甲状腺炎、30%で乳腺炎)
- 心筋炎(成人ムンプスの約15%)
(Mumps.Krugman's Infectious Diseases of Children,10th ed. 1998, pp280‐ 289 Mosby‐Year Book,Inc.)
ムンプスウイルスは亜急性甲状腺炎の原因ウイルスとしても有名です(Pediatr Infect Dis J. 2001 Jun; 20(6):637-8.)。流行性耳下腺炎の流行中に診断された亜急性甲状腺炎患者の20%で、甲状腺組織からムンプスウイルスが培養された報告があります(Lancet. 1957 May 25; 272(6978):1062-3.)。
麻疹、流行性耳下腺炎の自然感染、またはワクチン接種は、甲状腺自己抗体を抑える効果を有するとの報告があります(Pediatrics. 1999 Jul;104(1):e12.)。
流行性耳下腺炎(おたふくかぜ、ムンプス)と鑑別を要するものとして、
- コクサッキーウイルス、パラインフルエンザウイルスなどによる耳下腺炎
- 特発性反復性耳下腺炎;軽度の痛みがあるが発熱を伴わない。1~2 週間で自然に軽快。
- 橋本病(慢性甲状腺炎)合併シェーグレン症候群(ドライアイ,口内乾燥)
などがあります。
流行性耳下腺炎(おたふくかぜ、ムンプス)の予防接種(弱毒生ワクチン、任意接種)で終生免疫が獲得できます。確実に抗体を獲得するには2 回接種がよい。定期予防接種(決められた年齢では無料で受けられる予防接種)と思われがちなムンプスワクチンですが、実は任意接種(してもしなくてもよい予防接種)なのです。成人になってから流行性耳下腺炎(おたふくかぜ、ムンプス)ウイルスに感染すると重症化するため、定期予防接種にするべきだと筆者は考えられます。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。