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甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)の診断[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]

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甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪

甲状腺専門長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外(Pub Med)・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会 年次学術集会で入手した知見です。

長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。尚、本ページは長崎甲状腺クリニック(大阪)の経費で非営利的に運営されており、広告収入は一切得ておりません。

長崎甲状腺クリニック(大阪)では甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群:RTH)の負荷試験、遺伝子診断等を行っておりません。

summary

甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群:RTH)診断アルゴリズムは最終的にTSH産生下垂体腺腫の鑑別。ダイナミック下垂体MRIで下垂体腫瘍を否定。TRH負荷試験は正常反応。保険適応外の性ホルモン結合蛋白SHBG, TSHのαサブユニットが正常。TRβの遺伝子変異を調べる検査で確定。ただし、甲状腺ホルモン不応症の15%は、TRβ遺伝子に変異を認めず、受容体に結合するコファクター(転写共役因子)の異常とされる。TRβの遺伝子変異が確認できなかった時のみT3抑制試験行う。片親の正常TRβも存在するため、部分的に抑制されるが、明確な判定基準もなく、リスクを伴う。

Keywords

甲状腺ホルモン不応症,レフェトフ症候群,RTH,診断,TSH産生下垂体腺腫,ダイナミック下垂体MRI,TRH負荷試験,TRβ,遺伝子変異,T3抑制試験

甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群:RTH)診断アルゴリズム

SITSH診断アルゴリズム

甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群、syndrome of resistance to thyroid hormone:RTH)診断アルゴリズムが厚労省研究班から出されています。

真のSITSH(TSH不適切分泌症候群)であるケースは少なく、約80%は

  1. 無痛性甲状腺炎の経過中:TSHの低下がFT3.FT4上昇に遅れる
  2. 甲状腺ホルモン剤服薬中:脱ヨード酵素の関係で、FT4のみ上昇する場合がある
  3. FT3,FT4偽高値, TSH偽低値
  4. 未成年者のFT3高値(未成年者のFT3高値は成人より高値)

です。(甲状腺ホルモン不応症の臨床検査所見と鑑別診断.甲状腺疾患 改訂第2版.大阪:最新医学社;2012.pp.78-88.)

甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)の診断手順

注意!甲状腺専門医以外の医療従事者の方へ

前項でも述べたように、SITSH(TSH不適切分泌症候群)の約80%は真のSITSHでは無く、約90%は甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)ではありません。TRβの遺伝子変異を調べる検査は、各都道府県の甲状腺専門医を通して、本当に甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)が疑われる方のみに行うべきです。

甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)の診断は、TSH産生下垂体腺腫がないことを証明した上で、遺伝子解析になります。

ダイナミック下垂体MRI

ダイナミック下垂体MRI:大阪公立大学病院(旧 大阪市立大学病院) 代謝内分泌内科、あるいは東住吉森本病院に依頼。TSH産生下垂体腺腫が存在しない事を確認。下垂体の偶発腫瘍(インシデンタローマ)の頻度は高く、TSH産生下垂体腫瘍は稀なので、下垂体腫瘍が見つかってもTSH産生下垂体腫瘍と即断してはいけません。

TRH負荷試験

TRH負荷試験:大阪公立大学病院(旧 大阪市立大学病院) 代謝内分泌内科に依頼(短期入院)

  1. TRHを静注。マクロアデノーマでは下垂体卒中に注意・妊婦は禁忌
  2. 注射前、30分、60分後にTSHとプロラクチン(PRL)を測定
    注射前と120分後にT3を測定、増加したTSHの生物活性(甲状腺を刺激できる正常な構造のTSHかどうか)を確認   します
  3. 健常人や甲状腺ホルモン不応症では、TSHはTRHに反応して増加[TSH頂値≧10μU/ml(30分後]
    TSH産生腫瘍の92%がTRHに反応しません
  4. 副作用として一過性の熱感・発汗、悪心・嘔吐、めまい、尿意。

保険適応外検査(血中の性ホルモン結合蛋白SHBG, TSHのαサブユニット)

保険適応外検査として、血中の

  1. 性ホルモン結合蛋白(SHBG)が正常
  2. TSHのαサブユニット、あるいはαサブユニット/TSHモル比が正常
    αサブユニット/ TSHモル比>1.0(ただし、ゴナドトロピンのαサブユニットが混ざるので閉経後・妊娠中の女性は除きます)

TRβの遺伝子変異

2020年にTRβの遺伝子検査が保険適用になりました。

しかし、遺伝子を扱う倫理上の問題や、遺伝子診断に伴い発生する責任などのため手続も煩雑で、病院の倫理委員会を通さねばなりません。そして、遺伝カウンセリングを受ける必要があります。

TRβ遺伝子診断が可能な医療機関は、ネットで調べれば簡単に見つかりますが、日本甲状腺学会誌にて公示されている医療機関として、国立病院機構 京都医療センター、群馬大学 病態制御内科学、名古屋大学 環境医学研究所などがあります。

TSH不適切分泌症候群(SITSH)診断アルゴリズムでは、早期にTRβ遺伝子診断を行うよう推奨されています。ただし、甲状腺ホルモン不応症の15%はTRβ遺伝子に変異を認めず、受容体に結合するコファクター(転写共役因子)の異常が疑われますが、まだ証明はされていません。

報告されているTRβの遺伝子変異は、R243Q,R243W,M313T,A317T,R320C,R320L,R338W,R438W,P453S,P453T,M310V(hetero)など、かなりの種類があります。いずれも下図に示す3つのクラスター上に存在します。(図;バーチャル臨床甲状腺カレッジより引用)

甲状腺ホルモン受容体 beta型(TRbeta)遺伝子変異部位

I250F(exon8)(新規変異)(第55回 日本甲状腺学会 P1-07-10 甲状腺ホルモン受容体β遺伝子に新規の変異を検出した甲状腺ホルモン不応症兄妹例)

Y321C(exon9)[BMC Pregnancy Childbirth. 2018 Dec 3;18(1):468.](第55回 日本甲状腺学会 P1-07-09 甲状腺ホルモン受容体β遺伝子の新規変異を認めた甲状腺ホルモン不応症の1例)

R320H[Bioorg Med Chem. 2005 Jun 1;13(11):3627-39.](第56回 日本甲状腺学会 O8-7 SITSH2 症例におけるTRH 負荷試験併用T3 抑制試験を用いた甲状腺ホルモン作用の評価)
 
R429Q(exon10)[Hong Kong Med J. 2005 Apr;11(2):125-9.](第57回 日本甲状腺学会 P2-101 心房細動を契機に診断したR429Q 変異甲状腺ホルモン不応症の一例)
中毒性多結節性甲状腺腫(TMNG; toxic multinodular goiter)を合併した報告[Clin Endocrinol (Oxf). 2001 Jan;54(1):121-4.]
 
P452L;熊本大学が甲状腺がん(甲状腺乳頭がん)の発生を報告(Endocrinol Diabetes Metab Case Rep. 2016;2016:160003.)(第60回 日本甲状腺学会 P2-10-1 うっ血性心不全を契機に診断された僧房弁逆流症、心房細動合併 甲状腺ホルモン不応症の一例)
 
P453A(exon10);日本での報告例は日本甲状腺学会の1例を合わせ計3例で、全て家族歴のない弧発例の疑い(第57回 日本甲状腺学会 P2-102 繰り返す動悸を契機に診断に至った家族歴を有さない甲状腺ホルモン不応症(RTH)の1 例)
トルコの報告では家系が見つかっています[Exp Clin Endocrinol Diabetes. 2009 Jan;117(1):34-7.]

TRβの遺伝子検査で異常が見つかった場合

TRβの遺伝子検査では、遺伝形式から1人に異常が見つかれば、血縁者における遺伝子異常の確率まで自動的に判ってしまいます。そのことは、前述の遺伝カウンセリングで患者に説明されます。実際に血縁者がTRβ遺伝子診断を受けるかは、その血縁者自身が遺伝カウンセリングを受けて決めることになります。

T3抑制試験

T3抑制試験:T3製剤で部分的にTSHが抑制されます[優性遺伝では片親の正常TRβも存在するため、全く抑制されない訳ではありません(部分的に抑制)]。[明確な判定基準もなく、いくら甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)と言えども心臓血管系へのリスクを伴うため、TRβの遺伝子変異が確認できなかった時のみおこないます。]

T3抑制試験は即効性の甲状腺ホルモン剤[合成トリヨードサイロニン(LT3)]を大量に負荷して

  1. 50、100、200μg/日のT3を12時間毎に各3日間、計9日間経口投与
  2. 投与前日(day0)と各量最終日(day3,6,9)に
    血液検査[甲状腺機能、コレステロール、クレアチンキナーゼ(CK,CPK)、フェリチン、性ホルモン結合蛋白(保険適応外)]
    T3抑制下TRH負荷試験[TSHとプロラクチン(PRL)を測定]を行います[T3非抑制下ではTSH頂値≧10μU/ml(30分後)が正常]。甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)では、健常人と比較してT3抑制下のTSH分泌に抑制が掛からない(下図)。
  3. 体重、睡眠中脈拍、基礎代謝、食事摂取量の測定は毎日行います。

(図;バーチャル臨床甲状腺カレッジより引用)

T3抑制試験判定
T3抑制下TRH負荷試験 甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)の場合

LT3 (リオチロニン:チロナミン)の力価をLT4(レボチロキシン:チラーヂンS)に換算すると、LT3 25μg=LT4(チラーヂンS)100μgに相当するため、いくら甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)と言えどもT3抑制試験は心臓血管系に対して非常に危険な検査です。しかも、LT3 は即効性なので、心臓血管系への影響は待ったなしです。

あまりに危険なので、筆者は行ったことがありません。

LT3 25 μg/日の低用量を1週間使用する方法も提唱されています。[Endocrine. 2023 Dec;82(3):586-589.]

LT3とLT4(チラーヂンS)の換算

軽症の甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)

甲状腺ホルモン不応症が軽度の場合、TRH負荷試験併用T3抑制試験で、

  1. TSH前値はT3の用量依存性に低下(T3で抑制される)
  2. T3 増量投与後のTRH 負荷試験でTSH の反応は徐々に鈍くなり消失(T3で抑制される)

と言う結果になります。T3 抑制試験で軽症の甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)を診断するのは困難です。(このような場合、TRβ 遺伝子検査の方が有用です)(第56回 日本甲状腺学会 O8-7 SITSH2 症例におけるTRH 負荷試験併用T3 抑制試験を用いた甲状腺ホルモン作用の評価)

甲状腺関連の上記以外の検査・治療・知見    長崎甲状腺クリニック(大阪)

長崎甲状腺クリニック(大阪)とは

長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市,生野区,天王寺区も近く。

長崎甲状腺クリニック(大阪)


長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査等]施設で、大阪府大阪市東住吉区にある甲状腺専門クリニック。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市近く

住所

〒546-0014
大阪府大阪市東住吉区鷹合2-1-16

アクセス

  • 近鉄「針中野駅」 徒歩2分
  • 大阪メトロ(地下鉄)谷町線「駒川中野駅」
    徒歩10分
  • 阪神高速14号松原線 「駒川IC」から720m

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