腎臓癌(腎細胞癌)と甲状腺癌,甲状腺転移,腎臓転移,腎臓の原発性甲状腺様濾胞癌,結節性硬化症[橋本病 バセドウ病 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。
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Summary
腎臓癌(腎細胞癌)は甲状腺に転移。臨床的に問題となる転移性甲状腺癌で最も多く、原発巣摘出後、かなり長期で見つかる。孤立性が多く、特異的な超音波(エコー)所見が無いため腺腫様結節、濾胞性腫瘍と鑑別難。淡明細胞型腎臓癌は穿刺細胞診でも甲状腺濾胞癌明細胞型と鑑別難だが甲状腺転写因子(TTF-1)やサイログロブリン染色陰性、CD10陽性。甲状腺癌が腎臓に転移すると腫瘍破裂・腎被膜下出血。甲状腺濾胞癌の腎臓転移は腎臓の原発性甲状腺様濾胞癌(Primary thyroid-like follicular carcinoma of the kidney)との鑑別が必要。
Keywords
腎細胞癌,転移性甲状腺癌,転移,超音波,エコー,細胞診,腎臓癌,腎臓の原発性甲状腺様濾胞癌,鑑別,甲状腺
腎臓癌と甲状腺癌(本ページ)
腎臓癌(腎細胞癌)の甲状腺転移(転移性甲状腺癌、腎臓癌甲状腺転移)
腎臓癌(腎細胞癌)は甲状腺に転移して、転移性甲状腺癌になります。剖検で最も多い転移性甲状腺癌の原発巣は肺癌で、腎臓癌(腎細胞癌)は2番目に多く12-34%を占めます(Cancer. 1997 Feb 1; 79(3):574-8.)。
一方、臨床的に問題となる転移性甲状腺癌で、もっとも多い原発巣は腎臓癌(腎細胞癌)です。
腎臓癌甲状腺転移が多い理由は、肺を経由せず(肺転移を認めず)、傍脊椎静脈叢(Batson’s plexus)を通り、直接甲状腺に転移するためと考えられます(外科診療 1979;101:745-747)。
腎細胞癌甲状腺転移は、原発巣摘出後、かなり長期(年単位)で見つかる事が多く、平均7.7(3.3-13)年とされます(ANZ J Surg. 2021 Apr;91(4):708-715.)。腎細胞癌(腎細胞癌)切除後、
- 9年して甲状腺転移が見つかる(Int J Surg Case Rep. 2015;16:59-63.)
- 十数年して甲状腺転移が見つかる(第55回 日本甲状腺学会 P1-06-12 腎細胞癌による転移性甲状腺腫瘍の2例)
- 20年で膵臓転移が見つかり、24年して甲状腺転移が見つかる。(第59回 日本甲状腺学会 P3-1-6 原発巣手術から27 年目に診断に至った腎細胞癌甲状腺転移の1症例)
腎細胞癌(腎細胞癌)には特異的な腫瘍マーカーが無く、転移性甲状腺癌(腎臓癌甲状腺転移)にも特異的な超音波(エコー)所見が存在しないことが、診断を遅らせる原因の一つです。
転移性甲状腺癌(腎臓癌甲状腺転移)超音波(エコー)所見
腎臓癌甲状腺転移は孤立性(単発性)が多く、反回神経麻痺、頚部リンパ節転移、喉頭気管食道浸潤、内頸静脈浸潤をきたす場合もあります(Surgery. 2010 Jan;147(1):65-71.)。
腎臓癌甲状腺転移の超音波(エコー)検査所見は、
- 約9割が境界明瞭
- 円形または楕円形
- 低エコー性
- 充実性(嚢胞部分が混在する場合もある)
- 石灰化は認められない
- 血流が豊富
などで、腺腫様甲状腺腫、濾胞性腫瘍[良性濾胞腺腫(淡明細胞型)、悪性の甲状腺濾胞癌]と見分けが付きません。(Ultrasonography 2017; 36(3):252-259.)
破壊性にサイログロブリンが上昇する事もあるので、益々、診断が付きにくくなります。
腎細胞癌の甲状腺転移;のう胞変性(嚢胞変性)が著明で、腺腫様甲状腺腫、濾胞性腫瘍[良性濾胞腺腫(淡明細胞型)、悪性の甲状腺濾胞癌]と見分けが付きません。あえて言うなら、甲状腺濾胞癌を疑います。よく見ると、石灰化を伴っているようです。[Eur Thyroid J. 2023 Dec 22;12(6):e230121.]

腎細胞癌(腎細胞癌)の甲状腺転移;超音波(エコー)上は、腎細胞癌(腎細胞癌)の甲状腺転移かどうか判断できませんが、悪性を疑う所見です。第一に甲状腺乳頭癌や甲状腺低分化癌を疑います。よく見ると、石灰化を伴っているようです。[Eur Thyroid J. 2023 Dec 22;12(6):e230121.]
転移性甲状腺癌(腎臓癌甲状腺転移)細胞診・組織診所見
腎細胞がん甲状腺転移における穿刺細胞診の診断率は低く11%です。さらに、診断不能 22%、良性判定 44%、鑑別困難・異型細胞 22%と惨憺たる結果です。(Ultrasonography 2017; 36(3):252-259.)
また、淡明細胞型腎臓癌は穿刺細胞診でも甲状腺濾胞癌の明細胞型と鑑別しにくく、穿刺吸引細胞診では「class2、正常または良性」判定になります。しかし、核内封入体も伴い、免疫染色で甲状腺由来の甲状腺転写因子(TTF-1)あるいはサイログロブリンに染まらず、CD10に染まります(でも、細胞診の検体を免疫染色までしてくれる病理部なんて筆者は見たことがありません)。ただ、正常または良性判定でも、血液(血球)成分がやたら多い(ここがポイント)ので、腎細胞癌の既往がある場合、甲状腺転移を疑う理由になります。
結局、切除標本でしか診断できない事がほとんどです。
[耳鼻咽喉科展望 57(4), 194-197, 2014]
(第55回 日本甲状腺学会 P2-087 腎癌甲状腺転移と診断された一手術症例)
結局は診断が付かないものの、増大傾向があるため手術切除の方針になって、摘出標本で初めて腎細胞癌甲状腺転移が分かります。
診断が付かない甲状腺腫瘍で、①肉眼的血尿(患者に聞けば分かる)、②顕微鏡的血尿(検尿しなければ分からない)があれば、一度、腎臓がんの甲状腺転移を疑いましょう。
慢性腎盂腎炎では腎尿細管が、あたかもコロイド状物質を含んだ甲状腺濾胞のように変性します(Pathol Res Pract. 1983 Mar;176(2-4):284-96.)。
腎臓の原発性甲状腺様濾胞癌(Primary thyroid-like follicular carcinoma of the kidney)は、甲状腺様濾胞癌の腎臓転移と鑑別を要します。腎臓の原発性甲状腺様濾胞癌の特徴は、
- 全例被膜に包まれる
- 卵円形核、核小体も認める。細胞質は好酸性
- 免疫組織検査で甲状腺由来を示すサイログロブリン、甲状腺転写因子(TTF-1)陰性
- 遺伝子検査で淡明細胞型腎細胞がん・嫌色素性腎細胞がんとも異なる
- 悪性度は低いが腎門部リンパ節転移する事もある
(Am J Surg Pathol. 2009 Mar;33(3):393-400.)
結節性硬化症は、常染色体優性遺伝ながら、1万人に1人の発生頻度で、日本人には稀な疾患です。
結節性硬化症では、
- 良性の腎血管筋脂肪腫を発症するのが有名だが、腎細胞癌を合併する事もある。
- 心臓横紋筋腫も発症する。
- リンパ脈管筋腫症(LAM)も合併し気胸を起こす。
- 皮膚症状は
乳児期;体幹や下肢に葉状白斑が多発
幼児期;顔面、鼻部周囲に血管線維腫が多発
思春期;爪囲線維腫(Koenen 腫瘍) - 精神発達遅滞、てんかん(けいれん発作)
結節性硬化症は、TSC1とTSC2とちらかの遺伝子変異が原因で、TSC1遺伝子は膵島細胞、甲状腺濾胞細胞にも発現します。[Mod Pathol. 1999 May;12(5):539-45.]
結節性硬化症患者に胸部CT行うと、20.4%に甲状腺結節が認められ、その半数は多発性、約1%に甲状腺乳頭癌も見つかるそうです(Am J Med Genet A. 2015 Dec;167A(12):2992-7.)。
※解像度の悪いCTで、この結果なので、甲状腺超音波(エコー)検査すれば、更に高い確率になります。
結節性硬化症家系の13歳の少年に発症した甲状腺乳頭癌も報告されています(Curr Oncol. 2017 Oct;24(5):e423-e428.)
腎臓がん、膵神経内分泌腫瘍に適応があるmTOR(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質)阻害薬エベロリムス(アフィニトール®)は、腎血管筋脂肪腫にも使用が認められています。しかしながら、有効性・安全性は確立されていないため、リスクとベネフィットを十分考慮しなければなりません。
エベロリムスの主な副作用は
- 口内炎(約60%)
- 高コレステロール血症(約40%)
- 高血糖(約30%)
- 下痢(約20%)
- 間質性肺炎(約15%)
- まれに甲状腺機能亢進症(0.4%)→おそらくバセドウ病でなく無痛性甲状腺炎(破壊性甲状腺炎)、甲状腺機能低下症 (Trends Endocrinol Metab. 2020 Mar;31(3):239-255.)(第62回 日本甲状腺学会 P14-6 長期投与下で二相性に甲状腺機能異常をきたしたエベロリムス誘 発性甲状腺機能異常症の1例)
甲状腺癌の腎転移は、日本で約30例と極めて稀です。甲状腺癌が腎臓に転移すると、腫瘍破裂・腎被膜下出血をおこす事があります。腫瘍破裂すると
- 背部痛がおこる
- CTで腎腫瘍の破裂を確認できる
- 再破裂予防目的で、無水エタノールによる腫瘍焼却術および腎生検を実施(甲状腺乳頭癌の腎転移と診断)
- 甲状腺乳頭癌を探し、甲状腺全摘出術と放射性ヨウ素治療(I-131 アイソトープ治療)
(第56回 日本甲状腺学会 P2-086 腎転移を認めた甲状腺癌の2 例)
甲状腺様濾胞癌の腎臓転移も報告されています。CTガイド下コア生検と、免疫組織染色によるサイログロブリンおよび甲状腺転写因子(TTF-1)陽性で確定。腎臓の原発性甲状腺様濾胞癌(Primary thyroid-like follicular carcinoma of the kidney)との鑑別が必要。[Case Rep Pathol. 2015:2015:701413.]
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