甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)に橋本病,バセドウ病,甲状腺乳頭癌を合併[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学附属病院(現、大阪公立大学附属病院) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群:RTH)に自己免疫性甲状腺疾患の橋本病/甲状腺機能低下症、無痛性甲状腺炎、バセドウ病/甲状腺機能亢進症の合併が多く、診断・治療を困難にしています。甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)が発見されない原因と考えられ、その頻度は23.3%とされます。(J Clin Endocrinol Metab. 2010 Jul;95(7):3189-93.)
Summary
①甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)に橋本病(慢性甲状腺炎)を合併し甲状腺機能低下症になった場合→甲状腺ホルモン剤投与しても視床下部下垂体に抑制が掛からない→TSHが下がりにくい②甲状腺ホルモン不応症にバセドウ病/甲状腺機能亢進症を合併するとTSHが抑制されてTSH不適切分泌症候群(SITSH)がマスクされる。甲状腺機能が改善するとSITSHに戻る。抗甲状腺薬の調節はバセドウ病/甲状腺機能亢進症発症前の甲状腺ホルモン値を参考に③甲状腺ホルモン不応症でTSHが抑制される場合、低T3症候群を合併した甲状腺機能亢進症/バセドウ病と鑑別難。
Keywords
甲状腺ホルモン不応症,レフェトフ症候群,橋本病,合併,甲状腺機能低下症,甲状腺ホルモン,バセドウ病,甲状腺機能亢進症,TSH不適切分泌症候群,SITSH
甲状腺ホルモン不応症に橋本病(慢性甲状腺炎)を合併し、甲状腺機能低下症になるまで甲状腺が破壊された場合どうなるのでしょうか?
- TSHが通常よりも上昇するため、血中甲状腺ホルモン(FT4,FT3)値を更に上昇させねば、視床下部・下垂体に抑制が掛からない
- 甲状腺ホルモン剤(LT4;チラーヂンS)投与しても、視床下部・下垂体に抑制が掛かりにくい→TSHが通常よりも低下しない
と言う事になります。甲状腺ホルモン剤(LT4;チラーヂンS)の反応性が悪い場合、第一に甲状腺ホルモン剤(LT4;チラーヂンS)の吸収障害を疑いますが、甲状腺ホルモン不応症に橋本病(慢性甲状腺炎)を合併している可能性もあります。
高知医療センターの報告では、FT3 2.40 pg/mL、FT4 1.36 ng/dL、TSH 140.7 μIU/mL、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)190 U/mL、抗サイログロブリン抗体(TgAb) 40000 U/mL の状態にLT4 250μg/日 投与して、FT3 3.75~5.25 pg/mL、FT4 2.93~3.72 ng/dL、TSH 2.69~21.57 μIU/mL と本来の甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)の状態になったとの事です。(第58回 日本甲状腺学会 P2-103 甲状腺ホルモン不応症に慢性甲状腺炎を合併した一例)
甲状腺ホルモン不応症に橋本病(慢性甲状腺炎)を合併した女性の妊娠はかなり複雑です。絨毛膜絨毛生検を行い、胎児遺伝子型に基づいて治療する方法が提案されています。しかし、答えは出ていません。[Thyroid. 2014 Nov;24(11):1656-61.]
甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)に橋本病、バセドウ病/甲状腺機能亢進症を合併した症例が多数報告されています。
- 甲状腺機能亢進症時には、TSH低値、FT3・FT4高値、TRAb強陽性で、TSHが抑制されるためTSH不適切分泌症候群(SITSH)がマスクされます。
※事前に甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)の家系であるのが分からなければ、ただの甲状腺機能亢進症/バセドウ病として治療されます。
※甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)ではT3によるTSH抑制が掛かります(甲状腺機能亢進症/バセドウ病によりT3抑制試験が成立している)。
- バセドウ病治療薬の抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)を投与され、甲状腺機能が改善するとTSHが正常~高値、FT3・FT4高値のTSH不適切分泌症候群(SITSH)に戻ります。
- 抗甲状腺薬の調節は、(もし分かればの話ですが・・)バセドウ病/甲状腺機能亢進症が発症する前の甲状腺ホルモン値を参考に行います。
- 橋本病自体、日本人で最も多い甲状腺の病気なので、甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)の家系と交わり、診断を困難にしています。
日本甲状腺学会の報告例では、両親ともに橋本病。橋本病とバセドウ病はコインの裏と表で、橋本病の50人に1人はバセドウ病に移行します(橋本病とバセドウ病は入れ替わる---元は同じ自己免疫性甲状腺疾患)。
(第53回 日本甲状腺学会 P121 甲状腺ホルモン不応症にGraves 病による甲状腺機能亢進症を合併した一例の下垂体・末梢組織の反応性とメチマゾール内服による治療経験)(Intern Med. 2011;50(18):1977-80.)(Thyroid. 2010 Feb;20(2):213-6.)
甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)に橋本病、バセドウ病/甲状腺機能亢進症を合併した時の治療
甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)に橋本病、バセドウ病/甲状腺機能亢進症を合併した時の治療に対して、統一された基準は存在しません。
- 抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)の調節は、
①(もし分かればの話ですが・・)バセドウ病/甲状腺機能亢進症が発症する前の甲状腺ホルモン値を参考に行います。
②FT3・FT4レベルを正常上限よりわずかに増加させ、TSHレベルを正常化します。
- 放射性ヨウ素(I-131 アイソトープ)療法と甲状腺全摘出術は、甲状腺ホルモン欠乏による下垂体肥大を誘発するので、一般的に推奨されません。
※十分量の甲状腺ホルモン剤(レボチロキシン:チラーヂンS)投与すれば解決する問題と筆者は考えます。
(Clin Case Rep. 2017 Dec 29;6(2):337-341.)
しかしながら、頻脈や心房細動(Af)など心臓に対する悪影響が懸念される場合、放射性ヨウ素(I-131)治療・甲状腺全摘手術・ブロック補充療法では、甲状腺が直接分泌するT3(T3全体の20%)をカットできる利点がありま。[J Med Invest. 2015;62(3-4):268-71.]。[甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)の治療]
橋本病を基盤とする無痛性甲状腺炎を甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)に合併すると、急性期にはTSH低値、FT3・FT4高値→終息後はTSH不適切分泌症候群(SITSH)の状態を繰り返します。無痛性甲状腺炎の経過中は、FT3・FT4の上昇に遅れてTSHが抑制されるため、TSH不適切分泌症候群(SITSH)の状態が続きます。
(第61回 日本甲状腺学会 O34-6 無痛性甲状腺炎を繰り返す甲状腺ホルモン不応症(RTH)の一例)[Thyroid Res. 2019 Oct 25;12:8.][Thyroid. 2013 Jul;23(7):898-901.]
甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)でTSHが抑制される場合、診断は極めて困難になります。TSHが測定感度以下に抑制され、甲状腺ホルモンのFT4は上昇するが、FT3は正常範囲内の下限。全く同パターンを取るのは、甲状腺機能亢進症/バセドウ病に低T3症候群(ノンサイロイダルイルネス、ユウサイロイドシック症候群)を合併する場合です(むしろ、こちらの方が一般的)。
日本医科大学の報告例では、
- TSH<0.1 μIU/mL (↓)、FT3 2.70 pg/mL(→)、FT4 3.6 ng/dL(↑)
- 甲状腺機能亢進症/バセドウ病としてメルカゾール投与後、TSH 265.7 μIU/mL (↑)、FT4 0.4 ng/dL (↓)と効き過ぎる
- メルカゾール減量後、TSH 12.3~18.2 μIU/mL (↑)、FT4 2.0~2.1 ng/dL (↑)とTSH不適切分泌症候群(SITSH)の所見になる。ここで初めて、TSH不適切分泌症候群(SITSH)の家族歴に気が付き、TRβ遺伝子変異から甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)が確定したそうです。
(第59回 日本甲状腺学会 P4-3-6. TSH が抑制された甲状腺中毒症を呈した甲状腺ホルモン不応症(RTH)の一例)
似たような報告が多数あって、いずれもメルカゾール治療後に甲状腺機能が改善して初めてTSH不適切分泌症候群(SITSH)を呈します。[Thyroid. 2010 Feb;20(2):213-6.][J Med Case Rep. 2021 Sep 25;15(1):473.][Clin Case Rep. 2017 Dec 29;6(2):337-341.][Mil Med. 2024 Jan 23;189(1-2):e439-e442.]
甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)に橋本病、甲状腺乳頭癌を合併した報告もあります。確かに、甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)ではTSH(甲状腺刺激ホルモン)が持続的に高く、甲状腺を刺激し続けるので、甲状腺癌の芽があれば増殖する可能性があります。(エコー画像;Oncol Lett. 2017 Sep;14(3):2903-2911.)
甲状腺ホルモン不応症(レフェトフ症候群)では、
- 甲状腺乳頭癌摘出後もTSH(甲状腺刺激ホルモン)高値が持続するため、癌細胞がわずかでも残っていれば、TSHに刺激され再発する危険性が高くなります。(J Clin Endocrinol Metab. 2013 Jun; 98(6): 2210–2217.)
- 甲状腺ホルモンに対する(心臓を除く)全身の反応性悪いため、通常より多くの甲状腺ホルモン剤(チラーヂン)が必要です。再発予防のためにTSH抑制療法を行うなら、さらに多くの甲状腺ホルモン剤(チラーヂン)が必要です。(Endocrinol Diabetes Metab Case Rep. 2016;2016:160003.)
甲状腺関連の上記以外の検査・治療・知見 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
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