甲状腺と低リン血症、リフィーディング症候群[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]
内分泌代謝(副甲状腺・副腎・下垂体)専門の検査/治療/知見 長崎甲状腺クリニック(大阪)
甲状腺専門・内分泌代謝の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学大学院医学研究科(現、大阪公立大学大学院医学研究科) 代謝内分泌病態内科学で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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リフィーディング症候群で医学史にも名を残す豊臣秀吉
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長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。リフィーディング症候群、低リン血症の診療を行っておりません。
Summary
リフィーディング症候群は神経性食欲不振症、アルコール中毒などの飢餓状態にいきなり栄養投与してが致死的な不整脈・心停止をおこす病態。血糖、インスリンが急上昇、エネルギー代謝が活発になり、リン、マグネシウム、カリウム、補酵素ビタミンB1がさらに低下。低リン血症は致命的でヘモグロビンの酸素親和性が低下、酸欠による臓器障害。急激なビタミンB1欠乏による高拍出量性心不全(脚気心)も伴う。低リン血症は進行がん患者で多く、筋肉の麻痺、横紋筋融解症、意識障害、けいれん、複視、嚥下障害、構音障害、心拍出量低下、血圧低下、心室性不整脈、呼吸不全、溶血性貧血に。
Keywords
リフィーディング症候群,神経性食欲不振症,飢餓,ビタミンB1,低リン血症,脚気心,溶血性貧血,意識障害,甲状腺,甲状腺クリーゼ
リフィーディング症候群(再栄養症候群:refeeding syndrome)とは
ネグレクト・児童虐待などで保護された子供が、いきなり食物を多量摂取するとリフィーディング症候群をおこす危険
リフィーディング症候群(再栄養症候群:refeeding syndrome)は、飢餓状態での急激な栄養投与により、致死的な不整脈・心停止に至る病態。古くは、戦国時代、籠城戦で兵糧が尽きて降伏した敵兵に、豊臣秀吉が「いきなり腹一杯食うな死ぬぞ」と注意した記録があります。この頃、既にリフィーディング症候群は知られていたのです。(実際、降伏時まで生き延びた敵兵の半数がリフィーディング症候群で死亡した)
神経性食欲不振症、がん患者、低栄養の高齢者、胃バイパス術後、手術後患者、アルコール依存症、ネグレクト・児童虐待などの飢餓状態では筋肉/脂肪組織がケトン体/遊離脂肪酸に分解され、エネルギーとして利用されると同時に血中のリン、マグネシウム、カリウムも低下しています。
いきなりの栄養投与により血糖が急上昇すると、インスリンも上昇、エネルギー代謝が活発になり、リン(P)、マグネシウム(Mg)、カリウム(K)、代謝の補酵素ビタミンB1がさらに低下します。
- ATP産生が亢進し、大量のリン酸が必要になるため低リン血症に(致命傷):
赤血球内2,3-diphosphoglycerateが減少し、ヘモグロビンの酸素親和性が低下、末梢組織への酸素供給が低下。
末梢組織でもATP産生低下しエネルギー失調から、臓器障害に至ります。 - 急激なビタミンB1欠乏(乳酸アシドーシス、高拍出量性心不全、ウェルニッケ・コルサコフ症候群)
- 急激な循環血液量の増加による心負荷増大
- 過剰な栄養を代謝するため肝臓の負担増大→脂肪肝→肝不全
リフィーディング症候群の症状
栄養療法開始後24~72時間以内に急激な血清リン(P)値の低下がおこり、1.0 mg/dL 以下になると意識障害・けいれん、心不全・不整脈、呼吸不全を来します。
リン酸貯蔵量が正常な場合、5~10日後に遅れて発症する事もあります。
リフィーディング症候群に甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)を投与してはダメ
リフィーディング症候群では、低T3症候群(ノンサイロイダルイルネス)、低T3,T4症候群(low T3,T4 syndrome)、低T3,T4,TSH症候群(low T3,T4,TSH syndrome)になっています。血液検査で甲状腺の値から甲状腺機能低下症、中枢性甲状腺機能低下症と誤認し甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)を投与してはダメ。
もし投与すれば、エネルギー代謝が更に促進され、リフィーディング症候群が悪化し、致命的になります。
リフィーディング症候群の予防
リフィーディング症候群の予防は、
- 開始栄養投与量を30kcal/kg/日に抑える
- リン脂質を多く含む脂肪乳剤を投与
- 予め、高リン含有補助食品アルジネート®・ビタミンB1製剤・亜鉛製剤を投与しておく
神経性食欲不振症、がん患者など、口から食べてくれない場合、経静脈的にブドウ糖を含む輸液をするしか方法がありませんが、リフィーディング症候群を起こす危険はあります。リフィーディング症候群を防ぐため、5% ブドウ糖含有電解質輸液から開始し、ゆっくりカロリーを増やす(いきなり20% ブドウ糖含有電解質輸液は禁忌)。ビタミンB1やカリウム、リン、鉄、マグネシウム、亜鉛なども補充。
低リン血症とは
低リン血症は米国では入院患者の2~3%、ICU入院患者の20~30%に見られ、日本でも、進行がん患者の40%近くに認めるとの報告があります。 (Textbook of Medical Physiology eleventh edition. ELSEVIER & SAUNDERS, p.978-992.)(第113回日本内科学会 P191 進行癌患者における低リン血症の実態)
リンは人間の体のエネルギーとなるATP(adenosine triphosphate)を産生するのに必要です。またリンは赤血球が酸素を組織に放出するのに必要な2,3-diphosphoglycerateの原料です。
甲状腺未分化癌による腫瘍性骨軟化症で低リン血症を起こした報告があります。
低リン血症の治療適応
低リン血症は、血清P濃度が基準値を下回る(2.5 mg/dL未満)病態で、
- 血清P濃度が2.0 mg/dL 以上であれば治療の必要なし
- 2.0 mg/dL 以下で無症候性(症状が無い)の場合、牛乳やチーズなど乳製品を積極的に摂取
- 症候性(症状がある)かつ重症(<1.0mg/dL)で経口摂取困難な場合、静注用P製剤(リン酸Na補正液®)を100~150 mg(6時間以上かけて)投与
低リン血症の症状
低リン血症の症状は、
- 筋肉の麻痺、横紋筋融解症(甲状腺機能亢進症/バセドウ病,甲状腺機能低下症/橋本病の様)
- 神経障害:錯乱、けいれん(甲状腺クリーゼの様)、複視(甲状腺眼症の様)、構音障害(橋本脳症の様)、嚥下障害(甲状腺腫瘍の様)、麻痺(橋本脳症の様)、昏睡(甲状腺クリーゼ/粘液水腫性昏睡の様)
- 心拍出量低下、血圧低下、心室性不整脈(甲状腺機能低下症/橋本病の様)
- 呼吸不全(甲状腺クリーゼ/粘液水腫性昏睡の様)
- 赤血球が毛細管を通過時に形を変えにくくなり、赤血球がこわれ、溶血性貧血

クワシオルコル(kwashiorkor)は、飢餓状態の子供が多いアフリカなど発展途上国で普通に見られる低タンパク栄養障害です。蛋白質の欠乏による低蛋白血症(低アルブミン血症)から、
- 手足の浮腫(むくみ)
- 皮膚炎、脱毛・毛髪の退色
- 飢餓性脂肪肝;脂質の輸送・代謝に必要なリポ蛋白質が合成されないため
- 腹水貯留(最大の特徴)
- 無気力・発育障害
適切な治療を行わないと短期間で死亡します。
恐ろしい事に現代日本でも時々報告があるのです。
- 敗血症など重症感染症
- 手術後、重度の外傷や熱傷
- 高齢者の食事摂取困難
- 糖尿病
- 虐待・ネグレクト
- 良かれと思ってか?子供にタンパク質を食べさせない母親などの保護者
- 経口摂取を拒否
特に5.6.は、いたたまれないケースです。
クワシオルコル(kwashiorkor)と甲状腺
クワシオルコル(kwashiorkor)の子供の
- 甲状腺ホルモン値(FT3)は、低T3症候群(ノンサイロイダルイルネス)により低下
- 甲状腺ホルモン値(FT4)は健常児と変わらず
- 甲状腺刺激ホルモン値(TSH)は健常児と比較して有意に高値;原因不明
- 甲状腺重量は健常児と比較して有意に高値;TSH刺激の影響か?
(J Pediatr Endocrinol Metab. 1998 Nov-Dec;11(6):719-24.)
クワシオルコル(kwashiorkor)の回復過程でTSH分泌が増加するとされます(Am J Clin Nutr. 1986 Mar;43(3):406-13.)。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
も御覧ください
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,浪速区,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区も近く。