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腎臓癌(腎細胞癌)治療薬と甲状腺、分子標的薬スーテント(スニチニブ)、インライタ(アキシチニブ)、ニボルマブ (オプジーボ)[長崎甲状腺クリニック 大阪]

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甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪

甲状腺専門長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。

長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの(Creative Commons License)、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。尚、本ページは長崎甲状腺クリニック(大阪)の経費で非営利的に運営されており、広告収入は一切得ておりません。

腎臓癌(腎細胞癌) 分子標的薬スーテント(スニチニブ)

甲状腺・動脈硬化・内分泌代謝病に御用の方は 甲状腺編    動脈硬化編   甲状腺以外のホルモンの病気(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊など)  糖尿病編 をクリックください。

[Br J Pharmacol. 2023 Dec;180(23):2937-2955.]

長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。腎臓癌の治療を行っておりません。

Summary

腎細胞癌治療薬の分子標的薬(生物学的製剤)スーテントカプセル®(スニチニブ)、インライタ錠®(アキシチニブ)、ヴォトリエント錠®(パゾパニブ)は血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)阻害薬。甲状腺のチロシンキナーゼも阻害し、甲状腺内血流低下と組織破壊から約30%に甲状腺機能低下症破壊性甲状腺炎をおこす。甲状腺腫瘍や腎臓癌の甲状腺転移も縮小させる。また、肝臓の3型脱ヨード酵素を誘導し消費性甲状腺機能低下症もおこす。甲状腺機能低下症がおきれば腎細胞癌の無増悪生存期間と生存率が改善。0.3%に原発性副腎皮質機能低下症も起きる。

Keywords

腎細胞癌,分子標的薬,スーテント,スニチニブ,インライタ,アキシチニブ,甲状腺機能低下症,甲状腺炎,パゾパニブ,甲状腺

分子標的薬スーテントカプセル(成分:スニチニブ)、インライタ錠(成分:アキシチニブ)

チロシンキナーゼ阻害薬の甲状腺機能障害

腎臓に発生する腎細胞癌の治療薬に、バイオ技術で開発された分子標的薬(生物学的製剤)が使われます。これらは、癌細胞に発現し細胞増殖刺激を受けるアンテナ(VEGF 受容体, PDGF 受容体など)に連動するチロシンキナーゼ酵素を阻害、癌細胞増殖を抑える薬です(Tyrosine Kinase Inhibitor: TKI)。

(表 スズケンDIアワー)

スニチニブ(スーテント®)

しかしながら、

  1. 甲状腺のチロシンキナーゼも阻害するため、血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)阻害による甲状腺組織内血管内皮障害(微小血管障害)で血流低下→甲状腺細胞機能低下(可逆性)と甲状腺組織の破壊(不可逆性)→甲状腺機能低下症(J Natl Cancer Inst. 2007;99:81-83)
    強度の虚血により破壊性甲状腺炎無痛性甲状腺);破壊された組織から一気に甲状腺ホルモンが放出(Ann Endocrinol (Paris). 2018 Oct;79(5):569-573.)
     
  2. 甲状腺における
    ヨード(ヨウ素)摂取障害[ヨード(ヨウ素)を取り込むナトリウム-ヨード シンポーター(NIS)の抑制](J Natl Cancer Inst. 2007 Jan 3;99(1):81-3.)
    ヨード有機化障害;ヨード(ヨウ素)有機化し甲状腺ホルモン合成を行う甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)阻害(Thyroid. 2007 Apr;17(4):351-5.)。山梨大学の報告によると、甲状腺萎縮後も、ヨードシンチグラフィ(I-123 シンチグラフィ)の24時間ヨード(ヨウ素)摂取率は11%も認められ、ごく軽度の低下でした。あまり関係ないかもしれません(第57回 日本甲状腺学会 P1-056 スニチニブ投与後に著しい甲状腺萎縮と不可逆性の甲状腺機能低下をきたした一例)
     
  3. 肝臓の甲状腺ホルモン不活化酵素である3型脱ヨード酵素を誘導し、消費性甲状腺機能低下症もおこします(J Clin Endocrinol Metab. 2011 Oct;96(10):3087-94.)。

そのため、約30%に甲状腺機能障害[(ほとんど)甲状腺機能低下症(軽症)や(散発的に)破壊性甲状腺炎]をおこします。多くは可逆性とされますが、長期投与では上記の理由で不可逆性になります。[J Natl Cancer Inst. 2007 Jan 3;99(1):81-3.](第55回 日本甲状腺学会 P2-10-01 スニチニブによる一過性甲状腺中毒症の一例)

分子標的薬スーテントカプセル®(一般名:スニチニブ)、インライタ錠®(一般名:アキシチニブ)で甲状腺機能障害

腎細胞癌に使用する分子標的薬(生物学的製剤)にはスーテントカプセル®(一般名:スニチニブ)、インライタ錠®(一般名:アキシチニブ)があります。

スーテントカプセル®(一般名:スニチニブ)の添付文書には、甲状腺機能低下症(14.4%)、甲状腺機能亢進症破壊性甲状腺炎による甲状腺中毒症と思われます)(0.3%)と記載されていますが、

  1. クリーブランドクリニックの報告では84%に甲状腺機能低下症を認めました[J Natl Cancer Inst. 2007 Jan 3;99(1):81-3.]。
     
  2. 横浜市立大学の報告では35 名中、甲状腺機能低下症は62.9%におこり、スニチニブ投与終了後3ヶ月間生存していた8名中7例が不可逆性の甲状腺機能低下症だったそうです。(第55回 日本甲状腺学会 P2-10-03 当院のスニチニブ投与における甲状腺機能障害の頻度と不可逆性甲状腺機能低下症を来たした一例の経過)

スーテントカプセル®(一般名:スニチニブ)、インライタ錠®(一般名:アキシチニブ)による甲状腺機能障害の機序として、

  1. スニチニブは甲状腺内の毛細血管を障害し、血流が低下するため甲状腺が萎縮します。スニチニブを中止すると、早期なら甲状腺機能低下症は回復しますが、遅れると回復しません。また、肝での甲状腺ホルモン不活化酵素、3型脱ヨード酵素を誘導し、消費性甲状腺機能低下症をおこします。
    スニチニブは薬剤性心筋障害もおこします。
     
  2. アキシチニブは投与後4週間で早々に甲状腺ホルモン異常をおこします。アキシチニブは薬剤性白質脳症もおこします。アキシチニブによる甲状腺機能低下症は18.3%、甲状腺中毒症は0.6%と報告されています。

    ソラフェニブも同様のマルチキナーゼ阻害薬ですが、なぜか甲状腺の副作用は言われません。むしろ放射性ヨウ素治療抵抗性の局所進行または転移性の分化型甲状腺がんに治療適応が認められ、甲状腺乳頭癌で発現するBRAFを阻害します。
     
  3. パゾパニブ(ヴォトリエント®錠)も同じ系統のマルチキナーゼ阻害薬で、血管内皮細胞増殖因子受容体(VEGFR)、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)、幹細胞因子受容体(c - Kit)を阻害します。悪性軟部腫瘍と腎細胞癌患者を対象とした第三相試験で12.6%に甲状腺機能障害が起こるとされます。
     
  4. mTOR(哺乳類ラパマイシン標的タンパク質)阻害薬エベロリムス、スニチニブは膵神経内分泌腫瘍にも有効です。

スニチニブ投与で甲状腺機能低下症がおきた方は、腎細胞癌の無増悪生存期間と生存率が改善するとされます[Med Oncol. 2017 Apr;34(4):68.][Chemotherapy. 2012;58(3):200-5.]。

まれながら、スニチニブ投与で高アンモニア血症と甲状腺機能低下症を同時におこした報告がありますが、そのメカニズムは不明です[Am J Ther. 2016 Mar-Apr;23(2):e583-7.]。

スーテントカプセル®(一般名:スニチニブ)は原発性副腎皮質機能低下症

スーテントカプセル®(一般名:スニチニブ)は原発性副腎皮質機能低下症も起こします(添付文書では0.3%)。[Cancers (Basel). 2022 Sep 22;14(19):4610.][Ann Endocrinol (Paris). 2023 May;84(3):374-381.]

腎細胞癌と共に片方の腎臓を摘出した場合、副腎も同時に摘出されて、残り1個の状態です。スニチニブの組織障害が残りの副腎に及ぶと、甲状腺機能低下症のみならず副腎皮質機能低下症もきたします。(第56回 日本甲状腺学会 P2-081 分子標的治療薬使用中に甲状腺機能異常と低血糖症を認めた腎細胞癌の一例)

腎細胞がん両側性肺転移・副腎転移に対するスニチニブ投与で、甲状腺中毒症破壊性甲状腺炎)を伴う急性副腎不全をおこした報告もあります。[Jpn J Clin Oncol. 2012 Aug;42(8):764-6.]

甲状腺腫瘍も縮小させる

甲状腺内の血流低下は、甲状腺腫瘍を縮小させる予想外の効果をもたらします。腎臓癌の甲状腺転移のみならず、特に血流豊富な甲状腺腫瘍では縮小効果も大きい様です。(第59回 日本甲状腺学会 P4-6-2 アキシチニブ投与後に著明な縮小と血流低下を呈した甲状腺腫瘍の一例)[Cancer Chemother Pharmacol. 2014 Dec;74(6):1261-70.][Eur J Endocrinol. 2017 Oct;177(4):309-317.]

分子標的薬スーテントカプセル®(一般名:スニチニブ)による甲状腺以外の副作用

分子標的薬スーテントカプセル®(一般名:スニチニブ)による甲状腺以外の副作用としては、

  1. 骨髄抑制;
    汎血球減少(0.1%)、血小板減少(26.4%)、白血球減少(19.6%)、好中球減少(27.3%)、貧血(22.2%)
  2. 血栓性微小血管症(頻度不明)
  3. 播種性血管内凝固症候群(DIC)(頻度不明)
  4. 横紋筋融解症(頻度不明);甲状腺機能低下性横紋筋融解症も加わる。細胞内AMPキナーゼを阻害するため、重度で広範囲な心筋運動性低下と筋原線維の破壊がおこる[Case Rep Oncol Med. 2018 Jul 19;2018:3808523.]

など重篤(重症)なものがある(添付文書より)。[Hinyokika Kiyo. 2012 Nov;58(11):639-46.][Drug Saf. 2009;32(9):717-34.]

血栓性微小血管症による著明な血小板減少が起きた中で、甲状腺機能障害の治療を行わねばならないケースもある[Case Rep Med. 2014;2014:958414.]。

分子標的薬スーテントカプセル®(一般名:スニチニブ)における腎細胞がん以外の保険適応

分子標的薬スーテントカプセル(成分:スニチニブ)における腎細胞がん以外の保険適応は

  1. イマチニブ抵抗性のKIT(CD117)陽性消化管間質腫瘍;4週間ON-2週間OFF のサイクルで投与
  2. 膵内分泌腫瘍;連日投与

ネクサバール®(一般名:ソラフェニブトシル酸塩)

御存知のネクサバール錠(ソラフェニブ)は根治切除不能、放射線内照射(I-131 治療)抵抗性の分化型甲状腺癌(甲状腺乳頭癌甲状腺濾胞癌)に保険適応がある分子標的薬(ネクサバール)。ついに腎臓がんにも保険適応が。

ニボルマブ (オプジーボ®)

ニボルマブ(商品名:オプジーボ)は、悪性黒色腫(メラノーマ)、非小細胞肺がんのみならず切除不能な腎細胞癌、再発又は難治性の古典的ホジキンリンパ腫、再発又は遠隔転移を有する頭頸部癌などにも適応が拡大されています。更に適応される癌の種類が増える勢いです。

やはり、無痛性甲状腺炎破壊性甲状腺炎)・橋本病(慢性甲状腺炎)を始め、甲状腺・内分泌系の副作用が多いです。

免疫チェックポイント阻害薬による甲状腺機能障害

インターフェロン製剤

分子標的薬が現れる以前は、手術をするしないに関わらず腎臓がん治療の花形でした。現在でも、腎臓がんの転移巣肺転移のみ、サイズが小さい、転移数が少ないなどの条件下で、初期治療として使用される事もあります。15~20%ほどで腎臓がんが半分以下に縮小しますが、分子標的薬に比べると効果が劣ります。甲状腺の副作用が多いのは有名です(インターフェロンαと甲状腺)。

甲状腺関連の上記以外の検査・治療        長崎甲状腺クリニック(大阪)


長崎甲状腺クリニック(大阪)とは

長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。

 

長崎甲状腺クリニック(大阪)


長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査等]施設で、大阪府大阪市東住吉区にある甲状腺専門クリニック。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市近く

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