穿刺細胞診後、急激な甲状腺びまん性腫脹(急性反応、急性一過性甲状腺腫大)[橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外(Pub Med)・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、毎年開催される日本甲状腺学会で入手した知見です。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。
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甲状腺編 では収録しきれない専門の検査/治療です。
Summary
甲状腺穿刺細胞診自体はうまく行ったのに直後(1-3分後)から数時間後、急激な穿刺部の痛みと甲状腺腫脹(急性反応、急性一過性甲状腺腫大)がおこる。穿刺刺激により血管透過性物質(サブスタンスP やニューロキニンA などのタキキニン)が放出された可能性。穿刺時出血と鑑別要。超音波エコー画像所見は甲状腺腫大、前頚筋腫大と線状の無エコー帯/樹枝状低エコー/Hypoechoic cracks(ひび割れ)(ドプラーで血流乏しく、エラストグラフィーで軟らかい)を。治療は、念のため入院し局所冷却、ステロイド点滴静注(メチルプレドニゾロン125-250mg程度)。
Keywords
甲状腺,穿刺細胞診,急性反応,急性一過性甲状腺腫大,超音波,線状無エコー帯,樹枝状低エコー,Hypoechoic cracks,治療,メチルプレドニゾロン
甲状腺穿刺細胞診自体は、うまく行ったのに、直後(1-3分後)から数時間後(5-6時間後)、急激な穿刺部の痛みと甲状腺びまん性腫脹を来す症例があります。穿刺細胞診後急性反応、あるいは急性一過性甲状腺腫大と呼ばれます(そのままやな・・)。順天堂大学の報告では、0.13%の確率で起きるとされます(J Ultrasound Med. 2016 Mar;35(3):599-604.)。
穿刺細胞診後急性一過性甲状腺腫大は、まず、穿刺時出血との鑑別が必要です。
穿刺細胞診後急性一過性甲状腺腫大は、穿刺部を中心に超音波(エコー)で、
- 甲状腺びまん性腫大(両側性だが片側性、左右非対称の事も)、あるいは甲状腺外側を取り囲むような前頚筋腫大
- 線状の無エコー帯/樹枝状低エコー/Hypoechoic cracks(ひび割れ)
(ドプラーで血流乏しく、エラストグラフィーで軟らかい):おそらく穿刺刺激により、何らかの血管透過性物質が放出されたためと推察されます。 -
甲状腺推定重量は、穿刺30 分以上すると2倍以上で、甲状腺内部の血管は拡張、
①甲状腺機能・サイログロブリン(Tg)に大きな変化はなく、炎症所見もなし
②甲状腺中毒症になった(Case Rep Endocrinol. 2016;2016:2915816.)
を認めます[J Med Ultrason (2001). 2015 Jul;42(3):417-25.]。
下の写真は、(a)穿刺前→(b)穿刺後→(c)回復後の変化です(Case Rep Endocrinol. 2016;2016:2915816.)
CTでは、甲状腺周囲組織(前頚筋群)、後咽頭・下咽頭腔、縦隔内食道周囲まで浮腫を認める事もあります[J Med Ultrason (2001). 2015 Jul;42(3):417-25.]。
穿刺細胞診後急性一過性甲状腺腫大の治療は、
- 局所冷却
- ステロイド点滴静注(報告例では、腫大時44g位の大きさならメチルプレドニゾロン125-250mg程度で、甲状腺推定重量は3 時間後に著減、24 時間後に元の大きさに)
を行い、念のため入院。一晩、経過を観る必要があります(入院設備が無いとできません)。
※ヒドロコルチゾン 100 mg 程度では全く不十分で、改善が無いため気管内挿管になってしまいます。
穿刺細胞診後、急激な甲状腺びまん性腫脹(急性反応)は、
- 女性の報告がほとんど
- 初診当日、いきなり穿刺を行った患者が多く、不安感と緊張状態(交感神経亢進)が関与している可能性が考えられます。
(第54回 日本甲状腺学会 P142 穿刺吸引細胞診後に急速にびまん性甲状腺腫脹をきたした甲状腺腫瘍の2例)
(第54回 日本甲状腺学会 P150 甲状腺穿刺吸引細胞診直後に急速一過性頚部腫大を来たした5例)
(第55回 日本甲状腺学会 P1-043 超音波ガイド下吸引細胞診後に急激な甲状腺腫脹を認めた1 例)
(Clin Endocrinol (Oxf). 2011 Oct;75(4):568-70.)
(J Med Ultrason (2001). 2015 Jul;42(3):417-25.)
(Thyroid. 2008 Jan;18(1):81-4.)
穿刺細胞診後、急激な甲状腺びまん性腫脹(急性反応、急性一過性甲状腺腫大)がおこる原因は不明ですが、甲状腺内の神経末端からサブスタンスP やニューロキニンA などのタキキニンが放出され、血管透過性を亢進させる可能性などが考えられます(日臨外会誌70(2),375-379,2009)(Clin Endocrinol (Oxf). 2011 Oct;75(4):568-70.)。
だとしたら、穿刺細胞診でなくても、甲状腺内の神経末端から化学物質が放出されれば、同様の反応が起きるはずで、筆者が知る限り
- 褐色細胞腫の高血圧発作時;痛みはない。急激な甲状腺びまん性腫脹と樹枝状低エコー(線状の無エコー帯)[一過性甲状腺腫大(発作性甲状腺腫脹)]
(第54回 日本甲状腺学会 P126 一過性甲状腺腫脹を主訴とした副腎褐色細胞腫の一例)(第59回 日本甲状腺学会 P2-5-2 一過性の甲状腺腫大を契機に傍神経節細胞腫の診断に至った一例)
- 癌性リンパ管炎;通常、痛みはないが、急激に進行する場合は有痛性。
- 甲状腺のう胞内出血で、同側あるいは反対側の甲状腺内に樹枝状低エコー/Hypoechoic cracks(ひび割れ)が出現
-
急性虚血性脳卒中(AIS)に対して、組織プラスミノーゲンアクチベーター(recombinant tissue plasminogen activator:rt-PA :アルテプラーゼ)による血栓溶解療法を行った後。rt-PAはプラスミンを生成し、高分子キニノーゲンからブラジキニンを遊離させるため。[Medicine (Baltimore). 2018 Sep;97(36):e12149.]
甲状腺内出血と鑑別[Neurocrit Care. 2013 Dec;19(3):381-4.][J Cardiovasc Med (Hagerstown). 2008 Sep;9(9):935-6.]
などがあります。
もしも、穿刺部を超音波(エコー)装置で確認し、ステロイド点滴静注する事を知らなければ?
報告例では、穿刺後2時間で呼吸困難を訴え、穿刺細胞診したのとは別の総合病院(おそらく甲状腺をあまり知らない救急外来)を受診。おそらく超音波(エコー)検査などするはずもなく、CTで気管圧排を確認するや気管内挿管(CTで線状の無エコー帯/樹枝状低エコーに相当するものは写りません)。
そのまま、穿刺細胞診した病院のICUへ救急再搬送され、その2日後ようやく、穿刺細胞診した科が診察。遅きに失したがメチルプレドニゾロン250mgを点滴静注後に軽快し抜管。
最後は、再度穿刺細胞診した時の再発を危惧し、甲状腺全摘術になったそうです。
結論として、最初から穿刺細胞診した病院に連絡して、別の総合病院を受診しなければ、ICUで2日以上も気管に管を入れられて苦しむ必要はなかったのです。
(第53回 日本甲状腺学会 P136 甲状腺細胞診後急激な腫張を認め気管内挿管を要した腺腫様甲状腺腫の1例)
穿刺細胞診後、穿刺側片葉のみが無痛性腫大をおこした例もあります。報告では、片葉のみ約2倍に腫れ、非穿刺側は無変化で痛みもないため、本人が気付かない限り、そのまま見逃されてしまいます。(第61回 日本甲状腺学会 O17-6 甲状腺穿刺吸引細胞診後に穿刺側片葉のみが腫大した3症例)
穿刺側片葉のみが1.5倍に拡大したが、痛みや違和感を訴えることはなく、自然に回復した報告もあります[BMC Surg. 2021 Mar 31;21(1):175.]。
そのため、穿刺細胞診後におきる穿刺側片葉のみの無痛性腫大は、高頻度に起こっ ている可能性があります。[J Med Ultrason (2001). 2015 Jul;42(3):417-25.]
穿刺細胞診後、穿刺したのと反対側に急性一過性甲状腺腫大を起こした例もあります。なぜ、穿刺した側・穿刺した腫瘍自体に何も起こらなかったのか理由は不明です。(第63回 日本甲状腺学会 C10-27 穿刺吸引細胞診後に穿刺反対側の著明な甲状腺腫大を認めた1例)
筆者がPubMedで調べた限り、同様の報告は他にありませんでした(2024.4 現在)。
注射針の素材は、アレルギー反応が起こり難いステンレス(Ni:ニッケルを含む)です。まれにステンレスアレルギー(ニッケルアレルギー)のある方は穿刺細胞診後、Ⅳ型アレルギー反応が起こり、穿刺部の皮膚の炎症を起こす事があります。甲状腺自体が腫れる訳ではありません。Ⅳ型(遅延型)アレルギーなので、穿刺直後は起こらず、帰宅後あるいは翌日に起きる事もあります。
ネックレスやピアスなどで起きる金属アレルギー[Ni(ニッケル)アレルギー]のある方は、穿刺細胞診前に主治医に申し出た方が良いです。
穿刺細胞診以外でも急激な甲状腺びまん性腫脹(急性反応、急性一過性甲状腺腫大)を生じる場合があります。サイトカインの影響で、高分子キニノーゲンからブラジキニンが遊離して、血管透過性亢進がおきるためとされます。
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- 甲状腺編
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