出産/授乳と橋本病/甲状腺機能低下症[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波(エコー)検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 附属病院 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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出産後は5~10%で甲状腺機能異常が生じます。妊娠中の免疫寛容(母体と半分だけ遺伝子が異なる胎児を攻撃しないための免疫抑制)が、出産後の胎盤ホルモン喪失によって突然解除され、リバウンド的に自己免疫が再開されるためです。
Summary
橋本病妊婦の37.8%、橋本病抗体のない妊婦でも8.2%が出産後甲状腺炎おこす。出産後甲状腺炎の89%が抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)陽性。甲状腺機能亢進症/バセドウ病へ移行(4%)、無痛性甲状腺炎から甲状腺機能亢進症/バセドウ病へ移行(7%)、無痛性甲状腺炎(68%)、一過性甲状腺機能低下(20%)、永続性甲状腺機能低下(0.3%)。計11%が甲状腺機能亢進症/バセドウ病に移行。甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS、レボチロキシンナトリウム錠「サンド」)を飲んでいる甲状腺機能低下症/橋本病の母親でも、甲状腺機能(TSH,FT3,FT4)正常なら授乳に問題なし。
Keywords
橋本病,妊婦,出産後甲状腺炎,TPO抗体,甲状腺機能亢進症,バセドウ病,無痛性甲状腺炎,甲状腺機能低下症,チラーヂンS,授乳
上條甲状腺クリニックの統計では、橋本病妊婦の37.8%が出産後甲状腺炎をおこし、橋本病抗体[抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)]のない妊婦でも8.2%に出産後甲状腺炎が起こります。
出産直後より、妊娠中は抑えられていた甲状腺に対する自己免疫が再活性化されます。橋本病・無痛性甲状腺炎の細胞性免疫に関与するTh1細胞の活動性が急激に上がります。また、同時に甲状腺機能亢進症/バセドウ病の液性免疫に関与するTh2細胞の活動性も、ゆっくり上がりはじめ、出産後3か月で妊娠前の状態にもどり、9か月でピークになり、1年以上続きます。
隈病院の統計では、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)陽性の女性が出産すると63%に出産後甲状腺炎が発症します。出産後甲状腺機能異常の89%で抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)陽性とされます。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病へ移行する(4%)、無痛性甲状腺炎から甲状腺機能亢進症/バセドウ病へ移行(7%)、無痛性甲状腺炎(68%)、一過性甲状腺機能低下(20%)、永続性甲状腺機能低下(0.3%)と多様な病態を呈するのが特徴です。(Thyroid. 1999 Jul;9(7):705-13.)
結果的に、出産後甲状腺炎の11%が甲状腺機能亢進症/バセドウ病に移行する事になります。
出産後甲状腺炎は妊娠回数を重ねるごとに重症化する危険があり、1人目で大丈夫だったからと高をくくってはいけません。
出産後無痛性甲状腺炎の20-40%は永続性甲状腺機能低下症に移行します。
出産後無痛性甲状腺炎 超音波(エコー)画像;下甲状腺動脈血流速度(ITA-PSV)
無痛性甲状腺炎であるため、下甲状腺動脈血流速度(ITA-PSV)は低値です。
無痛性甲状腺炎から甲状腺機能亢進症/バセドウ病へ移行する場合、最初はT3/T4比が高くないけれども、甲状腺中毒症の遷延に伴って、いつの間にかT3/T4比が上昇します。
破壊性甲状腺炎と甲状腺機能亢進症/バセドウ病を鑑別するためのFT3/FT4比カットオフ値は
- 2.96(感度71.7%、特異度88.6%)
- 3.63(感度36.5%、特異度99.3%)
[Int J Clin Pract. 2021 May;75(5):e14003.]
群馬大学の報告では、
- 出産4週後にTSH<0.05 μIU/mL、FT4 1.69 ng/dL、FT3 4.39 pg/mL、FT3/FT4 比=2.60
- 出産12週後にFT4 1.70 ng/dL、FT3 6.53 pg/mL、FT3/FT4 比=3.84
と、T3/T4比が変化したそうです、(第60回 日本甲状腺学会P1-2-9 出産後甲状腺炎に引き続きバセドウ病を発症した一例
出産後甲状腺炎の4%は、甲状腺機能亢進症/バセドウ病への直接移行です。[Thyroid. 1999 Jul;9(7):705-13.]
出産後バセドウ病初回発症は、出産後6 ヶ月くらいに多い。細胞障害性T細胞は出産後1-3 ヶ月で、バセドウ病抗体産生を担うB細胞は遅れて出産後6-9 ヶ月でピークになるためです。[J Clin Endocrinol Metab. 1980 Dec;51(6):1454-8.][Clin Endocrinol (Oxf). 2002 Oct;57(4):467-71.][Thyroid. 1999 Jul;9(7):705-13.]
非常に困るのは、出産後バセドウ病は活動性の高いケースが多く、治療薬(抗甲状腺薬)が乳汁に出るため、最悪、断乳せざる得ないことです。{授乳と抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)と補助薬[ヨウ化カリウム(KI)]}
出産後甲状腺炎と紛らわしい周産期心筋症は、出産後に心不全をおこし、甲状腺機能亢進症/バセドウ病・甲状腺機能低下症による心不全(甲状腺心臓,サイロイドハート)との鑑別診断が必要です。
周産期(産褥)心筋症は、心臓の病気のない女性が、妊娠から出産後に突然心不全をおこし、心エコーすると拡張型心筋症に似た心拡大と心収縮力低下を認める病気です。周産期心筋症は、母体死亡にもつながる危険な病気です。
周産期心筋症の治療は、一般的な心不全と同じです。また、2007年、異型プロラクチンが発症に関与しているとの報告が出され、ブロモクリプチンなど抗プロラクチン療法の有効性が報告されています。(Am J Cardiol 2007;100:302-304.)
産後うつ病
産後うつ病は近年、児童虐待に至る要因の一つとして注目され、
産後うつ病の発症には、元々の精神疾患の素因・既往、社会的要因、育児ストレスの他に、女性ホルモン、副腎皮質ホルモン、甲状腺ホルモンなどの変動による内分泌的な要因も加わります。
現在、産後うつ病の明確なバイオマーカー(血液検査で分かるもの)はありません。スクリーニング検査にエジンバラ産後うつ病調査票(EPDS)があります(9点以上で産後うつ病の疑い)。
妊娠中および出産後数週間での抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)陽性者が、産後うつ病を発症しやすいとする報告は複数あります。相対リスクは1.49倍。(J Endocrinol Invest. 2020 Mar;43(3):271-277.)。
一方で、産後うつ病の女性は、健常出産後女性よりも甲状腺機能障害の有病率が低いとの報告もあります(Iran J Psychiatry. 2011 Summer;6(3):117-20.)。
産後の甲状腺ホルモン異常は、甲状腺専門医の領域ですが、産後うつ病自体の治療は精神科専門医の仕事です(お近くの精神科、心療内科などを受診してください)。
マタニティブルーズ
産後うつ病の鑑別にマタニティブルーズがあり、急激な女性ホルモン(エストロゲン)の低下など、内分泌系が劇的に変化するのが原因とされます。
- 発症率は30-50%
- 産後10日ころまでに発症
- 一過性に涙もろくなる、いらいら感、抑うつ、不眠
- 2週間程度で自然軽快。それ以上続くなら、産後うつ病の可能性あり。
マタニティブルーの女性は、初産の場合が多く、産褥(さんじょく)期の甲状腺ホルモン遊離トリヨードサイロニン(FT3)が低くなります[J Obstet Gynaecol Res. 1998 Feb;24(1):49-55.]。
乳汁中に甲状腺ホルモンがどの程度含まれるかは定かではありません。しかし、甲状腺に異常がない母親の乳汁にも甲状腺ホルモンは含まれ、その量は、甲状腺ホルモン剤を飲んで血中甲状腺ホルモン値が正常に維持されている方も同じなのです。
要するに、甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS、レボチロキシンナトリウム錠「サンド」)を飲んでいる甲状腺機能低下症/橋本病の母親でも、甲状腺機能(TSH,FT3,FT4)正常であれば授乳に何の問題もないのです。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,浪速区,生野区も近く。