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甲状腺の手術合併症②手術後の痛み、違和感、反回神経麻痺と上喉頭神経麻痺、術創部(手術の傷)の治癒不全[橋本病 長崎甲状腺クリニック 大阪]

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甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪

甲状腺の手術合併症、反回神経麻痺

甲状腺専門長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外(Pub Med)・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会 年次学術集会で入手した知見です。

長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。

甲状腺・動脈硬化・内分泌代謝に御用の方は 甲状腺編    動脈硬化編  内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等  クリックください

長崎甲状腺クリニック(大阪)は、内科系甲状腺専門クリニックです。甲状腺外科は行っておりません。

Summary

甲状腺手術後の周囲組織・頚筋の炎症が完全に消えず、痛み、違和感が何年も続く場合もある。熟練した甲状腺専門外科医が手術しても0.2-0.4%に永続性反回神経麻痺がおこり誤嚥、高齢時の誤嚥性肺炎に至る危険。術中の甲状腺剥離操作だけでなく牽引時に発生し予測困難。甲状腺がんで両側反回神経麻痺の危険。右鎖骨下動脈起始異常による右非反回下喉頭神経(NRILN)に注意。神経刺激モニターで術中の反回神経の位置を確認。上喉頭神経外枝損傷で輪状甲状筋が麻痺し高い声が出にくくなる。副腎皮質ステロイド投与中や糖尿病で術創部(手術の傷)の治癒不全。

Keywords

甲状腺,手術,合併症,痛み,甲状腺癌,反回神経麻痺,非反回下喉頭神経,上喉頭神経,神経刺激モニター,誤嚥

術創部(手術の跡)の痛み、違和感

メスで切った跡なので、当然、痛み、違和感はあります。痛みは徐々に消えていきます。しかし、皮膚の切り跡・甲状腺を剥がした後の周囲組織・頚筋の炎症が完全に消えて固まるのに10年は掛かるため、違和感が何年も続く可能性もあります。固まった後は、癒着を起こすため、引きつれによる違和感が生じる場合があります。

甲状腺全摘出後

甲状腺全摘出後数週 超音波(エコー)画像

甲状腺全摘出後数週 超音波(エコー)画像;甲状腺周囲組織・頚筋は浮腫(むくみ)が強く腫大し(腫れている)、境界不明瞭、高エコー(白く見える)で不均質(目が粗い)。炎症が非常に強いためです。

甲状腺全摘出後数週 (垂直断)超音波(エコー)画像

甲状腺全摘出後数週 超音波(エコー)画像

バセドウ病甲状腺全摘出後 2カ月 超音波(エコー)画像

バセドウ病甲状腺全摘出後 2カ月 超音波(エコー)画像

バセドウ病甲状腺全摘出後 2カ月 超音波(エコー)画像

バセドウ病甲状腺全摘出後2カ月 超音波(エコー)画像

甲状腺全摘出後 数カ月 超音波(エコー)画像

甲状腺全摘出後 数カ月 超音波(エコー)画像;術後数カ月も経てば炎症もある程度沈静化。腫れもマシになり、境界もやや明瞭になります。しかし、依然として、周囲組織・頚筋は高エコー(白く見える)で不均質(目が粗い)。炎症がまだ残存しているためです。

バセドウ病 甲状腺全摘手術後 7か月 超音波(エコー)画像

バセドウ病で甲状腺全摘出後 7カ月 超音波(エコー)画像

甲状腺全摘出後数年 超音波(エコー)画像

甲状腺全摘出後数年 超音波(エコー)画像;術後数年で炎症も沈静化。腫れも消えて、境界明瞭になります。ただ、写真の右(患者の左側)頚筋は高エコー(白く見える)で不均質(目が粗い)で、炎症の傷跡(瘢痕化)です。

甲状腺全摘術後数年 嚥下時の違和感

バセドウ病にて甲状腺全摘術後数年。右顎下に嚥下時の違和感を認めるも、同部は超音波(エコー)上、特に異常なし。おそらく、同部の皮膚を剥がした後に癒着して、引きつれによる違和感が生じているのでしょう。

甲状腺半切除後

甲状腺半切除後 3カ月の炎症 超音波(エコー)画像

甲状腺半切除後 3カ月の炎症 超音波(エコー)画像;甲状腺腫瘍で右葉を切除した後。

甲状腺半葉切除後 数カ月の炎症 超音波(エコー)画像

甲状腺半葉切除後 数カ月の炎症 超音波(エコー)画像;切除した左側の頸筋に強い炎症を認める他、非切除側の右頸筋にも炎症を認めます。

術直後の後頭部痛、後頚部痛

甲状腺手術時は頚部伸展位の状態を1-2時間続けるため、手術術直後は後頭部の痛み、後頚部の痛みが生じる事が多 い。大抵、一過性だが、関節リウマチ、頚椎症など、元々、頚が悪い人にはつらい様です。

皮下気腫

甲状腺手術で、

  1. 術中気管・胸膜損傷
  2. 挿管時に喉頭鏡のブレードやスタイレットで気道損傷
  3. 開放式ドレーンからの吸込み(日臨外会誌 73(11),2774-2777,2012)
  4. 全くの原因不明(Case Rep Anesthesiol. 2017;2017:8206970.)

などで、皮下気腫が形成されます。痛みはありませんが、触診にて皮下握雪感(雪を握ったような感じ)を呈し、術後の患者に与える不安は大きいと考えられます。

皮下気腫が陰圧の縦隔に吸い込まれ縦隔気腫→縦隔気腫が増大し縦隔内圧が高まると胸膜が破れ気胸(Aneth Analg 1960;39 :420-429)。(甲状腺手術後の合併症、皮下気腫→縦隔気腫→気胸

反回神経麻痺

術後反回神経麻痺

どんな熟練した甲状腺外科専門医が手術しても、0.2-0.4%の確率で永続性反回神経麻痺の合併症がおこるとされます。反回神経の走行自体に個人差があり、また、巨大な甲状腺、変形した甲状腺、甲状腺癌に巻き込まれた反回神経を温存するのは大変です。

反回神経損傷は、術中の甲状腺剥離操作だけでなく、牽引時にも発生し(Traction injury)予測困難な場合があります。

声帯麻痺(反回神経麻痺)

反回神経は、声門閉鎖筋[甲状披裂筋(内筋)、外側輪状披裂筋(側筋)、披裂筋(横筋)]と声門開大筋[後輪状披裂筋(側筋)]を司り、障害されると発生に影響が出て、嗄声(かすれ声)になります。

反回神経麻痺で最大の問題は誤嚥(ごえん)です。甲状腺癌の術中に片側反回神経を切断し1年以上経過した19例中、

  1. 誤嚥が無いもの31.5%
  2. 術後のみ水様物の誤嚥があったが消失したもの26.3%
  3. 術後より誤嚥が続いているもの26.3%

との報告があります(日外会誌82: 1307-1313, 1981.)。

数十年、生涯で考えるなら、術後に問題なくとも誤嚥を起こし易くなる高齢時が要注意です。誤嚥性肺炎・びまん性誤嚥性細気管支炎がおきる危険があります(誤嚥性肺炎・びまん性誤嚥性細気管支炎)。

甲状腺がんで両側反回神経麻痺

  1. 甲状腺癌が、左右両側の反回神経に浸潤
  2. 甲状腺癌が、片側の反回神経に浸潤)+甲状腺全摘時、残りの反回神経を損傷
  3. 甲状腺癌が、片側の反回神経に浸潤)+甲状腺全摘後、I-131 内照射により残りの反回神経を損傷

すると、左右両方の声帯が麻痺し全く声が出なくなり(両側声帯麻痺)、呼吸困難をおこして気管切開になります。両側反回神経麻痺は、甲状腺片葉切除では起こらないため、甲状腺全摘出時、甲状腺外科医は対側(病側と反対側)の反回神経操作に極度の緊張を強いられます。

浸潤部を切除後に反回神経再建しても、両側反回神経麻痺の危険がある場合、手術中に気管皮膚瘻を形成します。

甲状腺の手術合併症、反回神経麻痺

右側非反回下喉頭神経(NRILN)

右側の非反回下喉頭神経(non-recurrent inferior laryngeal nerve;NRILN)は、反回する事無く、下喉頭神経が直接迷走神経から出ています(0.3-2.0%)(World J Surg. 2004 Jul;28(7):659-61.)。

右鎖骨下動脈起始異常(変な場所から右鎖骨下動脈が枝分かれしている)が原因とされます。胎生期、発生した右鎖骨下動脈が、右下喉頭神経を押し下げ、反回神経が形成されるはずが、肝心の右鎖骨下動脈が本来の場所に無いため、反回神経が形成されません。

左側の非反回下喉頭神経(NRILN)は、さらに稀です。(日耳鼻 116: 793―801,2013)

(図;March 2017PeerJ 5(3)より改変)

右側非反回下喉頭神経(NRILN)
右鎖骨下動脈起始異常

術前に右鎖骨下動脈起始異常を3D-CTやMRAで見つければ、右側の非反回下喉頭神経(NRILN)の存在が疑われます。(図;Radiopaediaより改変)

通常走行の反回神経では、術後反回神経麻痺は0.2-2%(施設により、ばらつきある様です)、一方、非反回下喉頭神経(NRILN)の術後神経麻痺は約13%とされます。

[Nihon Jibiinkoka Gakkai Kaiho. 2000 Nov;103(11):1205-11.][Laryngoscope. 2001 Oct;111(10):1756-9.][J Laryngol Otol. 2004 Feb;118(2):139-42.]

神経刺激モニター[Nerve Integrity Monitor (NIM)]は、反回神経の位置確認に有用

神経刺激モニター[Nerve Integrity Monitor (NIM)]による術中神経モニタリングを使用すると、反回神経の走行を確認できるため、反回神経の温存率が高くなっているようです。[World J Surg. 2006 Jul;30(7):1230-3.]

ただ、癌細胞が反回神経に広がっていれば、場所がわかっても温存できません。もちろん、術前から麻痺があるものには無効。[World J Surg. 2014 Mar;38(3):582-91.]

針金状のプローブで反回神経を電気刺激し、声帯の動きを誘発筋電図として評価するものです。反回神経の走行だけでなく、反回神経が損傷されていないか確認できます。

同時に、上喉頭神経外枝の温存手技も報告され、 手術時の甲状腺牽引で生じるTraction injuryの予見にも有用との事です。[Gland Surg. 2017 Oct;6(5):552-562.]

(第61回 日本甲状腺学会 外科系シンポジウム SSY-1 手術機器の発達に伴う甲状腺手術手技のパラダイムシフト:バセドウ病を中心に)

写真、Inomed Medizintechnik製の神経刺激モニター

神経刺激モニター

術中神経モニタリングには

  1. 術中間欠的神経モニタリング(iIONM)
  2. 術中持続神経モニタリング(cIONM)

があります。[Gland Surg. 2017 Oct;6(5):537-545.]

甲状腺摘出術中の断続的(間欠的)な神経モニタリング(iIONM)でも、牽引性反回神経損傷は7.0%に起こり、その30%は牽引を解放しても回復しません。[World J Surg. 2020 Feb;44(2):402-407.]

最近では、術中持続神経モニタリング(cIONM)として、迷走神経に取り付けた電極の周期的刺激により、反回神経が損傷されていないかリアルタイムで評価できるようになりました。牽引性反回神経損傷(Traction injury)の予防に有用。(第64回 日本甲状腺学会 専門医教育セミナーⅡ E2-2 甲状腺全摘術~合併症に配慮した最新手術)[Gland Surg. 2017 Oct;6(5):537-545.]

しかしながら、術中神経モニタリング(iIONM、cIONMともに)は、甲状腺手術中の一過性、永続性反回神経損傷のリスクを軽減しないとする報告もあります[J Pers Med. 2023 Sep 23;13(10):1429.]

さらには、術中持続神経モニタリング(cIONM)は設定に平均3分要し、術中によく外れます。持続的迷走神経刺激により

  1. 血行動態が不安定になる
  2. 迷走神経運動がおきる

ため、日常的に使用すべきでないとの意見もあります。[World J Surg. 2015 Oct;39(10):2471-6.]

上喉頭神経麻痺

上喉頭神経外枝は輪状甲状筋を動かす運動神経です。甲状腺の手術中に上喉頭神経外枝を損傷すると、輪状甲状筋が麻痺し、高い声が出にくくなります。音程も取れなくなり、歌唱の障害も出るとされます(Trans Am Acad Opthalmol  Otolaryngol 84: 78-89, 1977. )。上喉頭神経外枝の走 行には個体差があるため、避けるのは困難な様です。

上喉頭神経麻痺

甲状腺の手術中に上喉頭神経外枝を損傷すると、輪状甲状筋が麻痺し、高い声が出にくくなります。音程も取れなくなり、歌唱の障害も出るとされます(Trans Am Acad Opthalmol  Otolaryngol 84: 78-89, 1977. )。上喉頭神経外枝の走 行には個体差があるため、避けるのは困難な様です。

術創部(手術の跡)治癒不全(治らない)

甲状腺手術で切開した頚の傷(術創部)が、ふさがり、治らなければ菌が入り感染を起こします。術創部の治癒は、マクロファージや好中球など炎症細胞の集積に続き、線維芽細胞が増殖し、コラーゲンを分泌します。頚の術創部の治癒不全(治らない)の原因として、

  1. 副腎皮質ステロイド投与中;膠原病や自己免疫疾患(関節リウマチなど)で、副腎皮質ステロイド剤を服薬している方。副腎皮質ステロイドは炎症細胞を抑さえるので、術創部の治癒の初期過程を阻害します。
    クッシング症候群 でも同じ事。
     
  2. 糖尿病糖尿病は好中球など免疫細胞機能を低下させ、末梢血流障害により術創部の治癒過程に関わる細胞の機能を低下させます。(糖尿病免疫不全 ) 
  3. 低酸素血症;低酸素下では術創部の治癒過程に関わる細胞の機能が低下します。手術後の酸素を吸入は有用。
     
  4. ビタミンC欠乏;ビタミンCはコラーゲン合成の補酵素で、欠乏すると術創部が修復され難くなります。。

甲状腺関連の上記以外の検査・治療    長崎甲状腺クリニック(大阪)

長崎甲状腺クリニック(大阪)とは

長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区も近く。

長崎甲状腺クリニック(大阪)


長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査等]施設で、大阪府大阪市東住吉区にある甲状腺専門クリニック。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市近く

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