甲状腺の手術合併症③:頸横動脈仮性動脈瘤,輸血,漿液腫(セローマ),網膜枝動脈閉塞症,下肢静脈血栓症,術後せん妄[長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外(Pub Med)・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会 年次学術集会で入手した知見です。
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甲状腺の手術合併症③ (本ページ)
甲状腺癌術後、頸横動脈仮性動脈瘤破裂
術後感染症
乳び胸水(乳び漏)
輸血と甲状腺
下肢静脈血栓症
術後せん妄
甲状腺摘出後副甲状腺機能低下症
甲状腺の手術合併症①
甲状腺機能低下症で麻酔効き過ぎ
気道閉塞(窒息)
術後肺合併症
甲状腺摘出後出血
甲状腺の手術合併症②
手術後の痛み
反回神経麻痺と上喉頭神経麻痺
術創部(手術の跡)治癒不全(治らない)
Summary
甲状腺癌術後、頸横動脈仮性動脈瘤が生じて破裂する事も。照射洗浄血小板輸血は甲状腺機能低下症患者で高マグネシウム血症の危険。甲状腺癌で免疫力低下した状態に麻酔・手術侵襲が加わると術後日和見感染。リンパ節切除した場所にリンパ液・体液が溜まって漿液腫(セローマ)。甲状腺摘出術時の頸動脈伸展によりアテローム性プラークが破綻して網膜枝動脈閉塞症。広範囲浸潤した甲状腺癌摘出する長時間手術中や手術後に下肢静脈血栓症の危険。入院、全身麻酔下の甲状腺手術という急激・非日常的な環境変化に適応できない高齢者は術後せん妄発症。
Keywords
甲状腺癌,仮性動脈瘤,輸血,甲状腺機能低下症,術後,漿液腫,セローマ,網膜枝動脈閉塞症,下肢静脈血栓症,術後せん妄
甲状腺癌術後、頸横動脈仮性動脈瘤が生じて破裂する事があります。
報告例は、頚椎後縦靱帯骨化症(OPLL)のため頸部伸展位を取れない状態で外深頸リンパ節を郭清した際、頸横動脈の外膜を傷付け仮性動脈瘤が発生したと推察されます。甲状腺癌手術を終え退院後13日目に頸部痛と左肩甲部から前頸部にかけて腫瘤形成が起きた。画像診断にて頸横動脈瘤とその破裂による大出血と診断し、コ イル塞栓術にて治癒したそうです。(日臨外会誌 67 (10), 2289-2293, 2006)
(図、Radiology Keyより)
照射洗浄血小板-LR「日赤」の使用に際し、高マグネシウム血症、甲状腺機能低下症、腎不全患者では慎重投与になっています。照射洗浄血小板製剤はマグネシウム塩を含むため、腎不全患者ではマグネシウムを排泄できず、高マグネシウム血症に至る危険。甲状腺機能低下症/橋本病患者では、腎血流低下に伴いマグネシウム排泄が低下し、高マグネシウム血症になり易い。
輸血中あるいは輸血後6時間以内に、急激な呼吸困難と、両肺にびまん性の浸潤影を認めれば、輸血関連急性肺障害(Transfusion-related acute lung injury:TRALI)が疑われます。
輸血関連急性肺障害(TRALI)の原因として、血液製剤中の
- 抗白血球抗体(抗HLA抗体抗顆粒球抗体)
- 正体不明の生理活性物質
が考えられます。
急性呼吸窮迫(きゅうはく)症候群(ARDS)と同じく非心原性肺水腫で、約80%は48~96時間以内に回復しますが、致死率は5-10%です。(Lancet. 2013 Sep 14;382(9896):984-94.)
輸血後GVHD(Post-transfusion graft-versus-host disease、またはTransfusion associated graft versus host disease) は、血液製剤中の供血者(血をくれた人)リンパ球が、受血者(血をもらった人)の体を攻撃する病態です。供血者(血をくれた人)リンパ球は、受血者(血をもらった人)のHLAを異物と認識して増殖し、輸血後GVHDがおこります。日本人の非血縁者間における輸血後GVHDの確率は1%未満ですが、血縁者間では2%と高くなります。当然、新鮮血で起こりやすいく、輸血製剤の放射線照射が予防に有効です。供血者(血をくれた人)リンパ球の問題なので、輸血の回数とはあまり関係ありません。
輸血後GVHDは、輸血後1~2 週間後に発熱や紅斑で発症。
筆者が調べた限り、甲状腺との関連は無いようです。
甲状腺に限らず、手術の一般的な合併症である感染症。甲状腺癌など元の病気で免疫力低下した状態に、麻酔・手術の侵襲で更に体が弱ると、普段感染しない弱毒細菌でも肺炎、敗血症、髄膜炎、心内膜炎、骨髄炎など重篤(重症)感染症を引きおこします(術後日和見感染)。
術後MRSA感染症
黄色ブドウ球菌自体は誰の皮膚、鼻粘膜、口腔内にも付着している弱毒菌で、免疫力が正常なら何も問題になりません。例え免疫力が低下して黄色ブドウ球菌に感染しても、通常の抗生物質が効くなら普通に治療できます。
MRSAはメチシリン耐性黄色ブドウ球菌で、通常の抗生物質が効かなくなった(抗生物質耐性遺伝子を獲得した)厄介な菌です。日本では、黄色ブドウ球菌にしめるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)の割合が欧州の平均よりも高い。
MRSAが検出された場合、他の免疫力が低下した患者さんに感染(院内感染)するのを防ぐため、隔離部屋に移る必要があります
甲状腺癌に対する甲状腺亜全摘出術後に網膜枝動脈閉塞症をおこした報告があります。甲状腺摘出術後5日で右眼の上鼻側の視力低下と視野喪失を認め、眼底検査で網膜浮腫・出血を伴う網膜下側頭枝動脈閉塞と診断。直ちに前眼房に穴を開け、眼球マッサージ(眼圧を低下させ動脈内血栓をより末梢へ移動させ、視力・視野障害の改善を図る)しながら抗凝固剤を静脈内投与したにもかかわらず、視野障害は改善しませんでした。術後突発性網膜枝動脈閉塞症における最大の原因は塞栓です。甲状腺摘出術時に頸動脈が伸展され、アテローム性プラークが破綻し塞栓が形成されたと考えられます。[Surg Today. 1993;23(8):750-4.]
元々、甲状腺機能低下症/潜在性甲状腺機能低下症/橋本病のため動脈硬化が進行し、頸動脈プラークのある人は要注意です。(甲状腺と動脈硬化)
整形外科の下肢・骨盤・脊椎手術で静脈血栓塞栓症(VTE)を来すのは有名な話ですが、甲状腺の手術であっても、広範囲に浸潤した甲状腺がんを摘出する長時間手術中や手術後に、下肢静脈血栓症を引きおこす危険があります。血栓が肺に飛び、肺動脈が詰まる肺血栓塞栓症(肺梗塞)は突然死の原因となります。
医療機関によっては、下肢静脈血栓予防のため、
- 弾性ストッキング
- ベッド上での下肢挙上、膝屈伸運動、足の背屈運動
- 間欠的空気加圧法(IPC)
- 輸液による脱水予防
- 早期離床;長期臥床は、呼吸器合併症や下肢深部静脈血栓症の原因となるため、(手術侵襲度によるが)手術当日もしくは翌日から離床を行います。
SpO2モニタリングは肺血栓塞栓症(肺梗塞)の早期診断に有用で、SpO2 が95% 以下になれば疑い濃厚。
術後に生じる甲状腺ホルモン変動が術後せん妄の原因とする説があります。[J Alzheimers Dis. 2008 May;14(1):95-105.]
術後せん妄が生じると、点滴・ドレーンを抜いたり、徘徊して転倒したり、危険な行動を起こします。結果、入院が長期化し、生命予後が悪くなります。また、意志決定が難しくなるためインフォームドコンセントも困難になります。
ベンゾジアゼピン系薬剤の投与は術後せん妄を増悪させます。
Sharon Inouye が考案したConfusion Assessment Method は、せん妄の簡便な評価方法として世界で広く利用されています。項目として、
- 急性発症で状態が変動している
- 注意力が欠如している
- 思考の混乱がある
- 意識レベルの変化がある
周術期に投与された薬物(麻酔薬や抗菌薬)によって、肝内胆汁うっ滞が起きる可能性があります。術後数日して眼球結膜に黄染を認め、総ビリルビン・直接ビリルビン、肝酵素・胆道系酵素が上昇します。
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