TSH産生下垂体腺腫の鑑別診断;橋本病など原発性甲状腺機能低下症が原因の下垂体過形成[橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。尚、本ページは長崎甲状腺クリニック(大阪)の経費で非営利的に運営されており、広告収入は一切得ておりません。
甲状腺・動脈硬化・内分泌代謝に御用の方は 甲状腺編 動脈硬化編 甲状腺以外のホルモンの病気(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊など) 糖尿病編 をクリックください。
下垂体過形成 単純MRI画像[Medicine (Baltimore). 2018 Oct;97(42):e12703.]
Summary
橋本病など原発性甲状腺機能低下症(甲状腺自体の障害で甲状腺機能低下症)では、下垂体TSH産生細胞が過形成し、TSH産生下垂体腺腫の様に。鑑別点として下垂体過形成は①TSH高値だが甲状腺ホルモン(FT4,FT3)低値②甲状腺機能低下症症状(徐脈、低血圧、便秘、むくみ等)③超音波エコー検査で甲状腺の破壊・低形成・萎縮など甲状腺自体の異常④TSHのα-サブユニットが正常。治療的診断は甲状腺ホルモン剤(チラーヂン)服薬し甲状腺機能が正常に近づくと下垂体が縮小。不活性型TSH産生下垂体腺腫は、萎縮性甲状腺炎・TSH受容体不活性型変異による下垂体過形成と鑑別難。
Keywords
橋本病,原発性甲状腺機能低下症,甲状腺,下垂体,TSH産生下垂体腺腫,下垂体過形成,甲状腺ホルモン,不活性型TSH産生下垂体腺腫,萎縮性甲状腺炎,TSH受容体不活性型変異
下垂体過形成では、
- TSH高値だが、甲状腺ホルモン(FT4,FT3)低値であり[TSH産生下垂体神経内分泌腫瘍では甲状腺ホルモン(FT4,FT3)高値なので逆!]
- 甲状腺機能低下症の症状(徐脈、低血圧、便秘、むくみ等)がある(TSH産生下垂体神経内分泌腫瘍では甲状腺機能亢進症の症状なので逆!)
- 甲状腺超音波(エコー)検査で甲状腺に重度の破壊性変化[橋本病(慢性甲状腺炎)]、甲状腺の低形成・無形成、甲状腺の萎縮(萎縮性甲状腺炎、TSH受容体不活型変異)など甲状腺自体の異常を認める
- 下垂体造影MRI;下垂体全体が均一に造影され、TSH産生下垂体腺腫を疑わせる欠損像(造影されない箇所)は無い(下記)
- TSHのα-サブユニットが正常(異常なら、TSH産生下垂体腺腫、下記の不活性型TSH産生下垂体腺腫。ここまでしなくても、大抵は診断が付きますが・・)
などのため、TSH産生下垂体腺腫と間違える事は普通あり得ません。間違えてTRH負荷試験をやろうとした医者を見たことがありますが、もし止めなければ下垂体卒中を起こしてたやろな・・。
[Medicine (Baltimore). 2018 Oct;97(42):e12703.](Ann Palliat Med. 2020 Nov;9(6):4359-4370.)
萎縮性甲状腺炎に下垂体過形成を認めた症例報告では、
- 血液検査:TSH 977.200 μIU/mL、freeT3 0.45 pg/mL、freeT4 0.08 ng/dL、TPO-Ab 223.1 IU/mL、Tg-Ab 529.8 IU/mL、TSBAb(TSHレセプター抗体[阻害型]、甲状腺刺激阻害抗体) 63.5 %(<13.1 %)
- 下垂体MRI 検査では著明な下垂体腫大を認め、視神経交叉が下方より圧迫されていた
(第56回日本甲状腺学会 P2-047 学校検診で高度肥満・脂質異常症を指摘され発見し得た萎縮性甲状腺炎女児例)
成長障害をきたした5歳男子の報告では、TSH 990.5 μIU/mL、FT3 0.26 pg/mL、FT4 0.09 ng/dL、TPO-Ab 158 IU/mL TSBAb(TSHレセプター抗体[阻害型]、甲状腺刺激阻害抗体) 82.1 IU/mL(正常範囲<45.6)。MRIでは下垂体過形成を認めるも、甲状腺ホルモン補充療法後に正常サイズに回復。[J Pediatr Endocrinol Metab. 2011;24(7-8):591-4.]
原発性甲状腺機能低下症による下垂体過形成は、治療的に診断可能です。甲状腺ホルモン剤(チラーヂン)を服薬し、甲状腺機能が正常に近づくにつれ、下垂体が縮小していきます。早い場合、治療開始後約1週間、大体1カ月-18カ月で正常サイズに戻るとされます。(J Neurosurg 2005;102(4 suppl):413–6.)
下垂体過形成の症状は、甲状腺機能低下症症状の他に
- 頭蓋内圧亢進による頭痛、視神経を圧迫し視覚障害
- 高プロラクチン血症 (無月経、乳汁漏出);①TRHがプロラクチン産生細胞を刺激、②プロラクチンクリアランスの減少が原因(Ital J Pediatr 2011;37:15.)
- 成長ホルモン分泌不全(45%)、中枢性(続発性)副腎皮質機能低下症と甲状腺異常(頻度不明)、高ゴナドトロピン血症(13%)、低ゴナドトロピン血症(27%)(Turk J Pediatr 2009;51:624-30.)
- TSH(甲状腺刺激ホルモン)のゴナドトロピン様作用で卵巣嚢腫[Cureus. 2021 Feb 26;13(2):e13573.]
例外的に、生理作用を持たないTSH(不活性型TSH)を産生する不活性型TSH産生下垂体腺腫では、高TSH、甲状腺ホルモン(FT4,FT3)低値を呈し、血液検査だけで原発性甲状腺機能低下症と鑑別できません。
鑑別のポイントは、
- 甲状腺における破壊の程度と甲状腺ホルモン(FT4,FT3)値が解離していないかどうか。
原発性甲状腺機能低下症の最も多い原因である橋本病は、甲状腺超音波(エコー)検査にて甲状腺の破壊が確認できます。
不活性型TSH産生下垂体腺腫なら、甲状腺ホルモン(FT4,FT3)値が低いのに、甲状腺における破壊の程度は軽微なので不自然。
ただし、萎縮性甲状腺炎・TSH受容体不活型変異でも、破壊性変化はほぼ無いので鑑別難です。しかし、萎縮性甲状腺炎・TSH受容体不活型変異の場合、甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)の服薬でTSHは低下しますが、不活性型TSH産生下垂体腺腫では変化無いため鑑別可能です。
- 下垂体造影MRI;不活性型TSH産生下垂体腺腫を疑わせる欠損像(造影されない箇所)を認める
- TSH α-サブユニット高値なら、不活性型TSH産生下垂体腺腫
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
も御覧ください
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,浪速区,天王寺区,東大阪市,天王寺区,生野区も近く。