甲状腺と心のう液貯留・心タンポナーデ[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺機能低下症 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック 大阪]
長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。心臓疾患の診療をは行っておりません。
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会 学術集会で入手した知見です。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。
甲状腺・動脈硬化・内分泌代謝・糖尿病に御用の方は 甲状腺編 動脈硬化編 甲状腺以外のホルモンの病気(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊など) 糖尿病編 をクリックください
[Eur Heart J Case Rep. 2020 May 3;4(3):1-5.]
Summary
甲状腺機能低下症/橋本病の1/2-1/3に心のう(心臓を包む袋)液の貯留を認める。滲出性で心嚢内のグリコサミノグリカンの蓄積、心外膜血管の透過性の増加、心嚢内のアルブミン、タンパク質漏出が原因。緩やかなため大量の心嚢液貯留しても心タンポナーデは稀だが報告はある。心タンポナーデおこしても徐脈なので代償性頻脈にならず。診断は心エコー。鑑別は結核性心嚢炎、全身性エリテマトーデス(SLE)心膜炎、尿毒症性など。心タンポナーデをおこさない限り、甲状腺ホルモン補充療法のみで心嚢液は自然消失。心タンポナーデなら心膜ドレナージと甲状腺ホルモン補充療法。
Keywords
甲状腺機能低下症,橋本病,心のう液,心タンポナーデ,原因,心エコー,甲状腺ホルモン,甲状腺,貯留,治療
一般的に心タンポナーデは、心のう(心臓を包む袋)内に液が溜まって心臓が膨らまず、心拍動が妨げられる状態です。心タンポナーデは早期に発見しなければ致死的になります。
心タンポナーデの原因は、
- 外傷性心破裂、急性心筋梗塞に続発する心破裂
- 開心術後、カテーテルアブレーションなどの合併症
- 急性大動脈解離
- 急性心膜炎
- 悪性腫瘍(原発性心臓多形性未分化肉腫・心臓原発悪性リンパ腫・甲状腺癌による転移性心臓腫瘍)
- 稀に甲状腺機能低下症(下記)
心タンポナーデの病態は、
心臓の拡張障害→大静脈からの静脈が返って来れず、うっ滞する静脈還流障害→心臓から全身に送り出す血液量も減少し、低酸素状態になります。
- 静脈がうっ滞し、頸静脈怒張
- 心拍出量減少、血圧、脈圧とも低下
- 低酸素による呼吸困難
- 心拍出量減少に対する代償性の頻脈→動悸(ただし、甲状腺機能低下症では起こり難い)
- 吸気により心臓が肺に圧迫され、静脈還流が更に減ると奇脈[吸気時、10mmHg以上の血圧低下]
- 心音は微弱
が起こります。
甲状腺機能低下症では1/2-1/3に、心のう(心臓を包む袋)液の貯留を認めます。甲状腺機能低下症の心のう液貯留は滲出性で、
- 心嚢内のグリコサミノグリカンの蓄積
- 心外膜血管の透過性の増加
- 心嚢内のアルブミン、タンパク質漏出
が原因です。[Williams Textbook of Endocrinology, 13th ed. Elsevier; 2016.][Heart. 2019 Jul;105(13):1027-1033.]
甲状腺機能低下症の心のう液貯留は、ゆっくり進行するため、心タンポナーデになる事はほとんどありません。(Heart. 2019 Jul;105(13):1027-1033.)
図のように大量の心嚢液貯留しても、
- 呼吸困難、動悸の症状は無い
- 奇脈[吸気時、10mmHg以上の血圧低下]や頸静脈怒張も無い
- 交互脈はある;心臓が浮遊状態となり振子運動をすると、拍動が一拍ごとに強弱を繰り返す
※心収縮力低下による心不全でも起こる
(図;バーチャル臨床甲状腺カレッジより改変)
心タンポナーデをおこさない限り、甲状腺ホルモン補充療法のみで心嚢液は自然消失。(Heart. 2019 Jul;105(13):1027-1033.)
心嚢液貯留の鑑別
心嚢液貯留の鑑別として
- 甲状腺機能低下症
- 結核性心嚢炎;血性心嚢液(結核と甲状腺)
- 全身性エリテマトーデス(SLE)心膜炎(全身性エリテマトーデス(SLE)と甲状腺機能亢進症/バセドウ病)
- 尿毒症性心嚢液の貯留;①ネフローゼ症候群の低蛋白血症によるもの、②腎不全で尿毒素の蓄積が原因
- 原発性・転移性心膜腫瘍
もし心タンポナーデをおこしても、甲状腺機能低下症では脈が遅くなるため、通常の心タンポナーデと異なり、心拍出量低下を代償する頻脈になりません。
稀ながら、心タンポナーデで発見された甲状腺機能低下症の症例も報告されています。重症の甲状腺機能低下症がほとんどです。
- 日本(東京女子医科大学八千代医療センター)の報告では、それほど高齢でない68 歳女性、TSH 152.81 μIU/mL で、かなりの甲状腺機能低下症には違いありません。歩行時の息切れから心タンポナーデが見つかり、心嚢穿刺で1,090mL (1L以上) の心嚢液が抜けたそうです。(第57回 日本甲状腺学会 P1-058 心タンポナーデで発見された甲状腺機能低下症の一例)
- 徳島大学の報告は70歳女性で、炭酸リチウム剤による甲状腺機能低下症/橋本病増悪が原因の心タンポナーデ[J Cardiol Cases. 2013 Apr 24;8(1):e42-e45.]
-
海外の報告も同様で、TSH >100 μIU/mLの重症甲状腺機能低下症[Eur Heart J Case Rep. 2020 May 3;4(3):1-5.][BMJ Case Rep. 2014 May 26;2014:bcr2014204076.]
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,生野区,天王寺区,東大阪市,浪速区も近く。