小児バセドウ病の治療 [日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺機能亢進症 甲状腺超音波エコー検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科学教室で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会 学術集会で入手した知見です。
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長崎甲状腺クリニック(大阪)は小児科ではありません。小児甲状腺機能亢進症/バセドウ病(疑い含む)の診療を行っておりません(20歳以上のみ)。
小児甲状腺機能亢進症/バセドウ病疫学・問題点・症状・検査所見・超音波(エコー)検査・生活上の注意・再発
小児甲状腺機能亢進症/バセドウ病の治療 (本ページ)
Summary
小児甲状腺機能亢進症/バセドウ病治療は小児バセドウ病ガイドライン2016に準じ①抗甲状腺薬メルカゾール[PTU(プロパジール、チウラジール)は重症肝障害、ANCA関連血管炎の副作用のため原則禁忌]②βブロッカー③ヨウ化カリウム(KI)④アイソトープ(放射性ヨウ素)治療;慎重投与、放射線誘発性甲状腺癌の発症を防ぐためI-131を多い目に使用⑤甲状腺全摘手術;合併症頻度は成人より多い、手術適応は成人ほぼ同じ。メルカゾールとチラーヂンのブロック補充療法は不安定バセドウ病に有効だが寛解率は上がらない。
Keywords
小児,甲状腺機能亢進症,バセドウ病,治療,メルカゾール,プロパジール,肝障害,副作用,アイソトープ,手術
小児甲状腺機能亢進症/バセドウ病治療は、
小児甲状腺機能亢進症/バセドウ病治療は「小児バセドウ病ガイドライン2016[Clin Pediatr Endocrinol. 2017;26(2):29-62.]」に準じて
抗甲状腺薬MMI(メルカゾール、メチマゾール)が第一選択薬。初期治療量は体重1kgあたり0.2 mgから0.5 mgを一日1回または2回に分けて投与(Thyroid. 2011 Jun;21(6):593-646.)。体重換算で成人の投与量を超える場合、原則として成人量(MMI 15mg/日)、重症例ではその倍量。
しかしながら、小児甲状腺機能亢進症/バセドウ病は活動性が高く、15 mg/日でも制御できないケースが多いため、高容量の使用を余儀なくされます。そして、メルカゾールの副作用は容量依存性なので、無顆粒球症をおこす危険が高まります。帝京大学の報告では、無顆粒球症をおこした12~14歳児の2/3が高容量メルカゾール(20-45 mg/日)服用者だったそうです[Clin Pediatr Endocrinol. 2011 Apr;20(2):39-46.]。
また、高容量メルカゾール(20 mg/日;1 mg/kg/日)投与4か月後に無顆粒球症を発症した6歳児の報告もあります。[Int J Pediatr Endocrinol. 2016;2016(1):16.]
プロピルチオウラシル(PTU;プロパジール、チウラジール)は重症肝障害、および抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連腎炎やANCA関連血管炎の発生率が高いため、原則禁忌(以下の様に例外あり)です。米国ではプロピルチオウラシル(PTU;プロパジール、チウラジール)重症肝障害による肝移植例の多いことが報告されています。
成人の重篤(重症)な肝障害が1/10,000の頻度に対し、小児では1/2,000-4,000と非常に高い。[N Engl J Med. 2009 Apr 9;360(15):1574-5.]
しかし、副作用などでメルカゾールが使えない場合、小児バセドウ病ガイドライン2016では、プロピルチオウラシル(PTU;プロパジール、チウラジール)を「副作用として重篤(重症)な肝機能障害をきたす可能性を十分に説明し、同意を得たうえで慎重に投与」して良い事になっています。
初期治療量は体重1kgあたり2 mgから7.5 mgを一日3回に分けて投与。体重換算で成人の投与量を超える場合は原則として成人量(PTU 300mg/日)、重症例ではその倍量。
小児におけるPTUとMMIの比較試験では、初期治療による甲状腺機能正常化率や副作用発現頻度(あくまで初期治療時のみ)、長期使用後の寛解率は両者に有意差を認めませんでした(J Pediatr Endocrinol Metab. 2011;24(5-6):257-63.)
それ以外は、成人の甲状腺機能亢進症/バセドウ病とほぼ同じです(抗甲状腺薬)。
『メルカゾール』と『チラーヂン』の併用(ブロック補充療法)
成人での『メルカゾール』と『チラーヂン』の併用(ブロック補充療法;Block and Replacement Therapy or Block-Replacement Therapy)は、メルカゾール単独では、頻回に再発を繰り返す極めて不安定な甲状腺機能亢進症/バセドウ病において、甲状腺ホルモンを安定させるのに有効な(ある意味最終)手段の一つです。(乱用される『メルカゾール』と『チラーヂン』の併用 )
小児バセドウ病でブロック補充療法の有効性は証明されています[Cochrane Database Syst Rev. 2005 Apr 18;(2):CD003420.][Indian J Endocrinol Metab. 2015 May-Jun;19(3):340-6.](J Endocrinol Invest. 2020 May;43(5):595-600.)。
しかし、ブロック補充療法は、バセドウ病を寛解させるのが目的でないため、半永久的に続きます。成人してアイソトープ(放射性ヨウ素)治療や手術療法(甲状腺全摘手術)を安全に行える年齢までの時間稼ぎなら、それで良いと思います。
そうでなければ、小児でメルカゾールを中止できる可能性がゼロになるブロック補充療法を行うべきか、筆者にも答えはありません。
抗甲状腺薬の中止基準
抗甲状腺薬の中止基準は(抗甲状腺薬の中止基準)成人とほぼ同じですが、成人よりも非現実的です。抗甲状腺薬の中止は成人でも至難の業なのに、寛解率がさらに低い小児では机上の空論です。
「小児バセドウ病ガイドライン2016[Clin Pediatr Endocrinol. 2017;26(2):29-62.]」によると、
MMI(メルカゾール、メチマゾール)5mg/2日で6ヶ月以上甲状腺機能正常を維持、甲状腺腫が小さい、TRAb陰性の場合、中止を検討
→成人ですら再発率は20~70%と高率です。当然、小児はそれ以上になります。
中学生や高校生で受験を控えている場合などは、ストレスでバセドウ病が再発しやすいため、抗甲状腺薬の中止には慎重になる必要があります。[Clin Endocrinol (Oxf). 2003 May;58(5):550-5.][Endocrine. 2015 Feb;48(1):254-63.]
頻脈など甲状腺中毒症の強い児には、β遮断薬(βブロッカー)の併用が有用。使用頻度は成人に比べると多くはありませんが、アメリカ甲状腺学会ガイドラインでは、脈拍数が100/分を超える場合、βブロッカーの併用を強く推奨しています[Thyroid. 2011 Jun;21(6):593-646.]。
- プロプラノロール(インデラル®)0.5-2.0 mg/kg/日 分3;β1非選択性、時代遅れ
- アテノロール(テノーミン®)1–2 mg/kg/日 分1;β1選択性だが強力すぎて大人の患者にも使用をためらいます。
- メトプロロール(セロケン®)1.0–2.0 mg/kg/日 分3;β1選択性、肝代謝なので腎障害でも使用可
日本では、プロプラノロールなどβ1非選択性β遮断薬は、気管支喘息患者には禁忌。β1選択性でも気管支喘息を悪化させる危険性は十分あります。
抗甲状腺薬にヨウ化カリウム(KI)を併用する場合があります。昔は甲状腺クリーゼにのみ投与されていましたが、現在は早く甲状腺ホルモン値を正常化したい時にも使用します。
ヨウ化カリウム(KI) 投与量は10〜20 mg/日 分1、あるいはルゴール溶液の3〜4滴/日 分1[ルゴール溶液1滴= ヨウ素(ヨード) 6.3mg ]となっています。医学的には正しいのですが、ルゴール溶液は外用薬なので内服薬として認可されていません。中学生の場合は、ヨウ化カリウム(50 mg)錠(無機ヨウ素:38.2mg/錠)を1-2錠/日となっています。
「小児バセドウ病ガイドライン2016[Clin Pediatr Endocrinol. 2017;26(2):29-62.]」では、抗甲状腺薬を使用できない患者に対しヨウ化カリウム(KI)単独投与可能としています(推奨ではありません)。しかし、ヨウ化カリウム(KI)単独で効果があるのは、あくまで成人患者の研究データですが、
- 小さな甲状腺腫
- FT4 < 2.5 ng/dL、低いTRAb 価
の極軽度甲状腺機能亢進症/バセドウ病に限られます(Endocrine 2014;47:506-11.)。
(これも成人患者のデータですが)チオナミド(メチマゾール、メルカゾール)で副作用をおこした甲状腺機能亢進症患者(※軽症とは限らない)に対して、約67%はエスケープ現象[ヨウ化カリウム(KI)が効かなくなる]を発症せず、38.6%は平均7.4年(1.9-23.0 年)の治療後に寛解を達成したとされます。逆に言うと、約33%の患者はコントロール不能でした。※寛解した患者へ投与されたヨウ化カリウム(KI)は10-400 mg/日で、成人でも100 mg以上は異常な高用量になります。
[J Clin Endocrinol Metab. 2014 Nov;99(11):3995-4002.]
軽症とは言え、甲状腺機能亢進症/バセドウ病が寛解するのに年単位を要する患者が大多数です。ヨウ化カリウム(KI)がエスケープ現象で効かなくなり、その時点で中等度-重度の甲状腺機能亢進症/バセドウ病に増悪していれば、結局は抗甲状腺薬を使う羽目になります。元々、抗甲状腺薬が副作用などの理由で使用できない場合、ヨウ化カリウム(KI)使用前より不安定な状態で手術・アイソトープ(放射性ヨウ素; I-131)治療を行わねばなりません。術前コントロールに虎の子のヨウ化カリウム(KI)が使用できず、副腎皮質ステロイド薬(成人ではプレドニゾロン20-30mg)大量投与せざる得ません(成人ではプレドニゾロン10mgなんて屁のようなもので全く効きません。成人でも20-30mgは入院投与した方が安全です)。
更に問題なのは寛解後再発です。ヨウ化カリウム(KI)単独で一時的に甲状腺機能亢進症/バセドウ病が寛解し、一端、ヨウ化カリウム(KI)を中止できても結局再発した場合、
- 再度ヨウ化カリウム(KI)単独投与を行うか
- あきらめて別の方法を取るか[抗甲状腺薬、手術・アイソトープ(放射性ヨウ素; I-131)治療]
になります。意外な事に、ヨウ化カリウム(KI)単独投与寛解後再発の統計的な報告がありません。
また、以前から予測されていた事ですが、ヨウ化カリウム(KI)投与中はヨウ素(ヨード)過剰摂取と同じ状態になるため無痛性甲状腺炎、破壊性甲状腺炎[アミオダロン誘発性甲状腺中毒症2型(破壊性甲状腺炎型)と同じ原理]を起こす可能性があります(Intern Med. 2021 Jun 1;60(11):1675-1680.)。エスケープ現象(Escape現象)との鑑別が必要です。
アイソトープ(放射性ヨウ素; I-131)治療:18歳以下のアイソトープ治療は原則禁忌でしたが、「バセドウ病診療ガイドライン 2016」においてはI-131 内用療法が小児に対しても原則禁忌でなく、「慎重投与」になりました[Clin Pediatr Endocrinol. 2017;26(2):29-62.]。
「慎重投与」に名を借りた解禁状態と言っても過言ではないでしょう。
小児へ放射性ヨウ素(I-131)投与するのに抵抗はありますが、うまくいったという報告を、毎年の日本甲状腺学会でどこかの施設が発表しています。また、海外でも同じような論文が出されています[J Pediatr Endocrinol Metab. 2001 Mar;14(3):229-43.]
5歳以下の幼児は「原則禁忌」です(5歳以下のバセドウ病は、かなり稀ですが)。
小児バセドウ病の場合、成人と異なり、将来的な放射線誘発性甲状腺癌の発症を防ぐ目的で、I-131を多い目に使用し、一度で済ませる事が推奨されています(甲状腺癌の芽を全て破壊するため。中途半端な放射線量では、チェルノブイリ原発事故の二の舞)。若年者であっても最大13mCi 使用します。[J Pediatr Endocrinol Metab. 2001 Mar;14(3):229-43.][J Clin Endocrinol Metab. 2007 Mar;92(3):797-800.](第53回 日本甲状腺学会 O-4-1 若年者バセドウ病においてRI治療後の甲状腺重量変化は甲状腺機能低下を早期に予測できるか?)
まあ、確かに放射線誘発性甲状腺癌の芽は全て摘み取られますが、甲状腺以外の臓器に影響はないのでしょうか?「バセドウ病診療ガイドライン 2016」が2017年に発表された後、2019年に大変な論文が出されて世界を震撼させました(次項)。
成人のバセドウ病と同じく、バセドウ病眼症が発症・悪化 する危険もあります。
それ以外は、成人の甲状腺機能亢進症/バセドウ病とほぼ同じです(アイソトープ治療)。
恐れていた事が・・・大人のバセドウ病でもアイソトープ(放射性ヨウ素)治療後、全身の発がんリスクが上昇
第62回 日本甲状腺学会 専門医セミナーⅠでとんでもない話が😱。バセドウ病のアイソトープ(放射性ヨウ素)治療をしても発がんの心配ないよ😄」の根拠となった論文(JAMA. 1998 Jul 22-29;280(4):347-55.)で、更に24年後の患者を追跡した続編が発表されました(詳細は、恐れていた事が・・・バセドウ病でもアイソトープ(放射性ヨウ素)治療後、全身の発がんリスクが上昇 を御覧ください)。
「健常対照者と比べ、すべての固形癌死亡率が6%増加、女性の乳癌死亡率だけで12%増加。😰」
大人でこれなら、小児なら言うまでも無かろう。恐れていた事が現実に・・・。
予想されていましたが、時すでに遅し。「バセドウ病治療ガイドライン 2016」ではI-131 内用療法が小児においても原則禁忌でなく、「慎重投与」の解禁状態になりました。
天下御免の免罪符が出てしまえば、「慎重投与」に名を借りてアイソトープ(放射性ヨウ素)治療に対する慎重さが薄れていきます。
(本当に慎重に考えたの?と首をかしげるような)隣接県の主治医からアイソトープ(放射性ヨウ素)治療を積極的に勧められた17歳の患者が「イヤだ」と長崎甲状腺クリニック(大阪)に父兄同伴で来院された事もありました(今もメルカゾール投与で安定してます)。
アイソトープ(放射性ヨウ素)治療を既に受けてしまった子供さんは成人したら人間ドック・がん検診を定期的に受けるようお勧めします。
手術療法(甲状腺全摘手術)の合併症頻度は、成人より小児の方が多い[Thyroid. 2004 Jun;14(6):447-52.]。しかし、成人と変わりないとの報告もある(World J Surg. 2011 Nov;35(11):2428-31.)
手術適応は
- 薬物治療が効かない・効き悪い[現実はちゃんと薬を飲めていない、患者自体に問題があるなど服薬アドヒアランス(コンプライアンス)不良の場合が多いです。]
- 副作用で薬物治療ができない
- 早期の完全寛解を望む
などです。成人の甲状腺機能亢進症/バセドウ病の手術療法とほぼ同じです。
薬物治療(抗甲状腺薬)のアドヒアランス(コンプライアンス)不良(ちゃんと薬を飲んでくれない)な子供を手術する際、おそらく術後も甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)のアドヒアランス(コンプライアンス)も悪いだろうと気を回し、中途半端な甲状腺亜全摘手術にして甲状腺を残せば大変な事に!。
当然、小児バセドウ病は活動性が高い(活動性が高いから若くで発症する)ので、残存甲状腺に再発し、
- 飲んだり飲まなかったりの抗甲状腺薬では、副作用が出やすい
- アイソトープ(放射性ヨウ素)治療は前項の様に、30年後の癌死亡率の増加・バセドウ病眼症の発症の問題がある
- 2度目の手術は癒着が強く大変、反回神経を傷付ける危険性
等の理由で治療に難渋します。報告では、反回神経の無事と治療効果を確認するため、左右の残存甲状腺を片側ずつ2回に分けて再手術したそうです(お疲れ様)。(第63回 日本甲状腺学会 C3-31 亜全摘術後の再燃で治療に難渋したバセドウ病の1例)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市,天王寺区,生野区も近く。