高血圧、実は副腎の病気/副腎腫瘍(原発性アルドステロン症)[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 エコー 長崎甲状腺クリニック 大阪]
内分泌代謝(副甲状腺・副腎・下垂体)専門の検査/治療/知見 長崎甲状腺クリニック(大阪)
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甲状腺専門・内分泌代謝の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外(Pub Med)・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 大学院医学研究科 代謝内分泌病態内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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アルドステロンは、血液中でアンジオテンシノーゲン→アンジオテンシンI→アンジオテンシンIIの順に生成されたアンジオテンシンIIの刺激により、副腎皮質球状層から分泌されるホルモンです。
アルドステロンは遠位尿細管から集合管に作用し、ナトリウムと水の再吸収を促進します。そのため、循環血液量が増加し血圧が上昇します。
Summary
副腎腫瘍による原発性アルドステロン症は高血圧の15%だが本態性高血圧と間違えられ治療されている。心血管障害が多く予後不良。超音波検査やCTで見つかりにくい、普通の降圧薬が効きにくい、血圧変動激しい、ノンディパー型、低カリウム血症(カリウム正常の方が多い)で筋力低下、脱力発作、不整脈、腎性尿崩症、血圧下がってもアルドステロンそのもので動脈硬化が進行し脳卒中・心筋梗塞・心房細動。血漿アルドステロン濃度/血漿レニン活性比、カプトプリル負荷試験などで診断。治療は腹腔鏡下手術、スピロノラクトン(アルダクトンA)・エプレレノン(セララ)・エサキセレノン(ミネブロ)。
Keywords
副腎,副腎腫瘍,原発性アルドステロン症,高血圧,動脈硬化,甲状腺,アルドステロン,レニン,カプトプリル負荷試験,低カリウム血症
クッシング症候群は、 高血圧・糖尿病・メタボ、実は副腎の病気/副腎腫瘍(クッシング症候群)、 アレルギー性鼻炎薬で副腎の病気に? を御覧ください。
褐色細胞腫は、 高血圧・糖尿病、実は副腎の病気/副腎腫瘍(褐色細胞腫) を御覧ください。
原発性アルドステロン症は日本人における高血圧の15%を占める事実が判明し、衝撃を与えています。ただの遺伝的・加齢による高血圧(本態性高血圧)として間違って治療されているケースが大多数です。
原発性アルドステロン症は、高血圧以外の症状に乏しいが、心血管障害の発症が多い予後不良の高血圧です。
良性の副腎腺腫からアルドステロンという血圧上昇ホルモンが過剰産生されるのが原因です。体細胞遺伝子変異が複数報告されていますが、臨床的特徴との関連は不明な点が多いです。
- KCNJ5(カリウムチャンネル)遺伝子変異[日本人の70%に見られ、診断年齢若く、腺腫大きい、アルドステロン分泌能の高い重症例。腫瘍摘出後の降圧効果・心肥大改善効果が大きい(第113回日本内科学会、教育講演3 副腎領域の進歩 P80 アルドステロン産生腫瘍における体細胞遺伝子変異解析の臨床的意義)]
- ATPase遺伝子変異
- CACNA1D(電位依存性Caチャンネル)遺伝子変異
による細胞内Ca流入⇒自律的なアルドステロン過剰産生
2cm以下の小さいものがほとんどで、超音波検査やCTで見つかりにくい難点があります。両側過形成腺腫・非機能性腺腫の合併が多いです。
- 普通の降圧薬が効きにくく、血圧変動が激しい、夜間血圧下降しないノンディパー型高血圧
- 低カリウム血症(カリウム正常の方が多い);筋力低下(手足に力が入らない、突然の脱力発作)(膝がガクッとなってしゃがみ込む)、不整脈、腎性尿崩症(多飲・多尿)
日本人の原発性アルドステロン症患者の20.4%に低カリウム性周期性四肢麻痺 を認めるとの報告あり[Jpn J Med (Jpn) 3238:13, 1986.]
甲状腺機能亢進症/バセドウ病との合併で重症化[Jpn J Med. 1991 May-Jun;30(3):219-23.]。 - 例え血圧が下がってもアルドステロンが高いままでは
動脈硬化が進行
本態性高血圧と比べ脳卒中4倍・心筋梗塞6倍・心房細動(Af)12倍おこしやすくなります。アルドステロンそのものが心筋を障害する心筋障害因子なのです。
- アルドステロンでNaが再吸収されてもANP(心房Na利尿ホルモン)が分泌、Na利尿で体液量を減少させるため浮腫になりません(エスケープ現象)。
以上が当てはまる高血圧の方は一度は、アルドステロン症を疑い検査する必要があります。
まず以下の検査を行う前に、検査値に大きく影響し、間違った値へ導く降圧薬を中止し、影響のない降圧薬(Ca拮抗薬、αブロッカー)に切り替えねばりません。検査の2週間前から切り替えていただく必要があります。
血漿アルドステロン濃度(PAC)/血漿レニン(PRA)活性比(ARR;aldosterone/renin ratio)
安静座位15分後、血漿アルドステロン濃度、血漿アルドステロン濃度(PAC)/血漿レニン(PRA)活性比(ARR;aldosterone/renin ratio)を測定、
低PRA(<1.0 ng/mL・1h)、高PAC(座位>120 pg/mL)、ARR>200が確認されれば、カプトプリル負荷試験を行い診断します。
中には、血漿アルドステロン濃度が正常の原発性アルドステロン症も存在しますが、血漿レニン活性は抑制されています。
ただし、
- アルドステロン様作用をする甘草(グリチルリチン)入りの漢方薬、ミノファーゲン製剤(強力ネオミノファーゲンシー®、グリチロン配合錠®など)を内服・注射している偽性アルドステロン症(偽アルドステロン症)患者を除外しておく
- 塩分摂取量の多い高齢者や、糖尿病患者、慢性腎臓病(CKD)患者は、血漿レニン(PRA)活性が抑制されるため、血漿アルドステロン濃度(PAC)正常または低値でもARRが高値を示す偽陽性になる事も。
その他
低カリウム血症による腎濃縮力の低下による低比重尿、尿量増大
血中ハイブリッドステロイド(18oxoコルチゾール)値は原発性アルドステロン症の診断に有効ですが、まだ一部の施設でしか測定できません。
カプトプリル負荷試験
カプトプリル負荷試験の原発性アルドステロン症に対する正診率は、東京慈恵医科大学の報告では78.7%とされます。カプトプリル負荷試験陰性の原発性アルドステロン症は、陽性症例と比べて、血漿アルドステロン濃度(PAC)は変わりないが、血漿レニン(PRA)活性が高く、血漿アルドステロン濃度(PAC)/血漿レニン(PRA)活性比(ARR)が低くなるとの事です(第115 日本内科学会 227 当院の原発性アルドステロン症(PA)におけるカプトプリル試験陰性例の臨床的特徴)。
大阪公立大学(旧 大阪市立大学) 代謝内分泌内科に入院して行う負荷試験
- フロセミド立位負荷試験:フロセミド静注後2時間立位負荷をかけます。正常では血漿レニン活性が上昇しますが、原発性アルドステロン症では抑制されたままです。
- 生理食塩水(0.9%食塩水)負荷試験は、生理食塩水の投与で循環血液量・腎血流量を増加させてレニン分泌を抑制させます。正常ではアルドステロンの分泌は抑制されますが、原発性アルドステロン症では抑制されません。
副腎静脈サンプリング[大阪公立大学(旧 大阪市立大学) 代謝内分泌内科に入院して行う)
日米のガイドラインでは、外科治療を希望する、原発性アルドステロン症患者の手術適応判定はCTでなく、副腎静脈サンプリング(adrenal venous sampling:AVS)で行います(J Clin Endocrinol Metab 101 : 1889―1916, 2016.)
ACTH負荷副腎静脈サンプリング(AVS):大阪公立大学(旧大阪市立大学) 代謝内分泌内科に入院して行います。左右の副腎静脈にカテーテルを通し、ACTHを負荷後、血漿レニン濃度・アルドステロン濃度をそれぞれ測定。アルドステロン産生腫瘍がある側が高値になります。ACTH 負荷は血漿レニン濃度の絶対値を上昇させますが、局在診断率を向上させるとは限りません。サンプリング技術が確実なら必ずしもACTH 負荷の必要ないと言う報告もあります。
典型的には病側のアルドステロン過剰分泌と、健側の抑制が見られます。
131I-アドステロール副腎皮質シンチグラフィー
アルドステロン産生腫瘍の位置を特定する131I-アドステロール副腎皮質シンチグラフィーは精度が低く最近はあまり行いません。
腹腔鏡下手術治療
合併症ポートサイトヘルニア
腹腔鏡下手術治療後の合併症ポートサイトヘルニアは、腹腔鏡を入れるための穴、ポート孔に小腸などが入り込んで起きるヘルニアです。術直後~1カ月後が多く、腸閉塞(イレウス)で発症。
薬物治療
左右両側性にアルドステロン産生腫瘍があるなど手術不可能な場合、抗アルドステロン性利尿・降圧剤(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)が適応になります。抗アルドステロン性利尿・降圧剤(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)は以下の2種類があり、皮質部集合管のアルドステロン作用に拮抗します。
- スピロノラクトン(製品例 : アルダクトンA)
原発性アルドステロン症の症状改善(ただし根本的治療にならず)。
重症心不全の予後を改善効果もあります。
アルドステロン受容体に選択性が低く、プロゲステロン(黄体ホルモン)等の性ホルモン受容体も阻害し、長期服用で
乳房のふくらみ・痛み、女性化乳房、生理不順、性欲減退、多毛、声が低くなるなどホルモン系副作用 - エプレレノン(製品例 : セララ)エプレレノン(セララ®)は、微量アルブミン尿または蛋白尿を伴う糖尿病患者に投与すると、高カリウム血症をおこすが危険性があるため禁忌。
選択的アルドステロンブロッカーでホルモン系副作用が少ない。
アルドステロン受容体に選択性が高く、プロゲステロン(黄体ホルモン)・アンドロゲン受容体等の性ホルモン受容体に親和性が低い。エサキセレノン(ミネブロ®)は、選択的ミネラルコルチコイド受容体ブロッカーで、中等度腎機能障害、アルブミン尿を有する2型糖尿病患者での安全性が確認されている。また、ステロイド骨格を持たないため、添付文書に女性化乳房の副作用は記載されていない。
左室肥大退縮率を治療4 年後に比較した報告では、手術切除で20%の改善率、スピロノラクトン(製品例 : アルダクトンA)で15%の改善率です(Arch Intern Med 168:80-85)。手術の方が優れているようです。選択的アルドステロンブロッカーであるエプレレノン(セララ)による治療効果の報告は少なく、結論は出ていません。
特発性アルドステロン症は、原発性アルドステロン症の約10%。(内科診断学第2版では20%) を占める両側の副腎皮質球状層の過形成です。片方だけ副腎を摘出しても意味ないため、特発性アルドステロン症に副腎摘出術の手術適応はありません。
特発性アルドステロン症とアルドステロン産生副腎腺腫の鑑別は、ACTH負荷副腎静脈サンプリングになります。2016年の新基準では、lateralized ratio(局在比;左右のアルドステロン比)が4.0以上で、アルドステロン産生副腎腺腫とされますが、実際4.0未満のアルドステロン産生副腎腺腫も存在します。
埼玉医大の報告では、原発性/特発性混在型アルドステロン症が存在します。超選択的副腎静脈サンプリング(SS-AVS)をおこなった450例の内、14例(3%)が原発性/特発性混在型アルドステロン症と考えられたそうです[全ての支脈でACTH刺激後アルドステロン(PAC)を測定し、PAC>14000 pg/mL を特発性アルドステロン症(IHA)、腫瘍部でPAC>38000 pg/mL を原発性アルドステロン症(APA)として]。
更に、その内の2例で摘出した副腎のマイクロダイセクション法による遺伝子変異を調べた所、2例ともAPA部でKCNJ5変異、IHA部は1例でAPT1A1変異、もう1例でKCNJ5変異、APT1A1変異、APT2B3変異を認めたそうです(第115 日本内科学会 229 原発性アルドステロン症の新たなsubtype;アルドステロン産生腫瘍性病変と過形成病変の混在)。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市,天王寺区,浪速区も近く。