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甲状腺と整形外科の病気①(頸肩腕);コラーゲン,頚椎後縦靱帯骨化症OPLL,甲状腺マッサージ,石灰沈着性頸長筋腱炎[長崎甲状腺クリニック 大阪]

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甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪

甲状腺専門長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会 学術集会で入手した知見です。

長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等において学術目的で使用可能なもの(Creative Commons License)、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。尚、本ページは長崎甲状腺クリニック(大阪)の経費で非営利的に運営されており、広告収入は一切得ておりません。

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長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。整形外科の診療を行っておりません。

Summary

甲状腺ホルモンは骨、軟骨細胞、腱細胞(線維芽細胞)増殖・分化、コラーゲン、細胞外基質に影響。甲状腺ホルモン異常は関節障害を引き起こし、甲状腺機能正常化後も約半数に残る。石灰沈着性頸長筋腱炎の頸部痛は甲状腺と位置が違う。副甲状腺機能低下症は頚椎後縦靱帯骨化症(OPLL)、脊柱靱帯骨化症に関与。甲状腺マッサージは甲状腺組織を障害し甲状腺腫瘍内出血甲状腺のう胞内出血(嚢胞内出血)の危険。

甲状腺機能低下症甲状腺機能亢進症/バセドウ病では五十肩(肩関節周囲炎・凍結肩・癒着性関節包炎)、腱炎、肩腱板断裂、関節障害を起こしやすい。胸郭出口症候群は甲状腺機能低下症で悪化。。閉経前のヘバーデン結節(Heberden 結節)患者は、全例が甲状腺疾患(バセドウ病橋本病腺腫様甲状腺腫)を有していたとされる。ドケルバン病(狭窄性腱鞘炎)と亜急性甲状腺炎ド・ケルバン甲状腺炎)は全くの別物。甲状腺機能低下症による免疫力低下も骨折術後感染・術後創傷感染症の危険因子になると考えられる。

Keywords

甲状腺,コラーゲン,石灰沈着性頸長筋腱炎,OPLL,副甲状腺機能低下症,後縦靱帯骨化症,腫瘍内出血,甲状腺マッサージ,甲状腺ホルモン,整形外科

甲状腺,五十肩,肩関節周囲炎,凍結肩,甲状腺機能低下症,胸郭出口症候群,肩腱板断裂,ヘバーデン結節,甲状腺機能亢進症,バセドウ病

甲状腺機能異常による筋骨格障害

甲状腺ホルモンは骨、軟骨細胞、腱細胞(線維芽細胞)の増殖・分化、コラーゲン、細胞外基質に影響するため、甲状腺ホルモンの異常は関節障害を引き起こします。(Semin Arthritis Rheum. 1995;24:282–90. )(Cell Death Dis. 2013;4:e705.)

甲状腺ホルモンはコラーゲン代謝に関与し、

甲状腺機能低下症では、

  1. コラーゲン合成と分解、コラーゲン代謝そのものが低下(Physiol Rev. 2001;81:1097–142.)
     
  2. エピメラーゼ活性が低下、コンドロイチン硫酸が減少、ヒアルロン酸が増加し、マトリックス(基質)が弱くなる(Arch Intern Med. 1961;108:751–6.)
     
  3. 細胞外マトリックスに粘液多糖体グリコサミノグリカンが蓄積し、腱が石灰化する下地になる(Arch Intern Med. 1961;108:751–6.)、また、こわばり、関節痛、関節腫脹、ピロリン酸カルシウム沈着、膝窩関節嚢胞、靭帯の緩み、屈曲筋腱鞘肥厚を引き起こす。

甲状腺機能亢進症ではコラーゲン分解が促進されます(Physiol Rev. 2001;81:1097–142.)

甲状腺機能異常による筋骨格障害の予後

甲状腺機能異常による筋骨格障害は、甲状腺機能正常化後も約半数に残り、長期的に大多数の患者で影響が残るとされます。(Clin Rheumatol. 1993;12:341–5.)

骨・軟骨・腱の構造に不可逆的な障害が生じたと言う事でしょう。

五十肩(肩関節周囲炎・凍結肩・癒着性関節包炎)

肩関節周囲炎とは肩・肩周囲の炎症で、中年に起こり易いため五十肩と呼ばれます。初期には肩関節を動かしても動かさなくても痛み、特に夜間の痛みが強くなります。数か月-数年で、肩関節を動かしにくくなり、服を着替えるにも困難が生じます。

五十肩は学術的な病名ではなく、国際的には癒着性関節包炎(adhesive capsulitis)や凍結肩(frozen shoulder)と呼ばれます。

肩関節周囲炎(癒着性関節包炎・凍結肩)は、糖尿病や甲状腺疾患との関連が強い[Am Fam Physician. 2008 Feb 15;77(4):453-60.]。

糖尿病の10%から20%に五十肩(肩関節周囲炎・凍結肩・癒着性関節包炎)が発病するとされますが、その原因は不明です。甲状腺ホルモンは、骨、軟骨、腱に影響するため、甲状腺機能低下症甲状腺機能亢進症も、五十肩の発病に関連あるとされます。(J Biol Regul Homeost Agents. 2016 Jul-Sep;30(3):867-870.)(Arthritis Rheum. 1987 Aug;30(8):936-9.)

甲状腺機能低下症の重症度と、五十肩(肩関節周囲炎・凍結肩・癒着性関節包炎)の重症度に相関が認められます。(J Shoulder Elbow Surg. 2017 Jan;26(1):49-55.)

潜在性甲状腺機能低下症糖尿病は、肩関節手術後に生じる肩のこわばり(手術が無効になる状態)の危険因子とされます(Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2017 Jul;25(7):2208-2216.)

甲状腺機能低下症により上腕二頭筋腱長頭部が自然断裂した症例が報告されています(J Med Case Rep. 2016 Jan 13;10:2.)。甲状腺機能低下症による腱炎は、通常の腱炎より治療抵抗性とされます。腱炎は甲状腺機能低下症の徴候的な症状で、甲状腺機能が改善すると腱炎症状も軽減します。

五十肩(肩関節周囲炎・凍結肩・癒着性関節包炎)自体の治療は、

  1. 抗炎症剤(NSAIDs)による鎮痛と消炎
  2. 肩関節が固まらないようにするための運動療法
五十肩体操

肩腱板断裂と甲状腺

近年、肩腱板断裂の発生率が増加しています。当然ながら、肩腱板腱には甲状腺ホルモン受容体が存在し、腱の代謝と維持に関与しています。肩腱板断裂の関節鏡手術や小開放手術を受けた患者は、男女ともに高頻度で甲状腺疾患を持っていたとする報告があります。(Muscles Ligaments Tendons J. 2014 Nov 17;4(3):309-14.)

年齢(歳) 女性(%) 男性(%)
20–40 50.00 14.81
40–60 56.44 19.3
60–80 63.6 22.67
80-90 27.27 0.00
 肩腱板断裂 MRI T2強調画像

肩腱板断裂 MRI T2強調画像;矢印は断裂部。断裂部より外側は腱板が欠損して白く見えます。

肩腱板断裂の縫合

肩腱板断裂の縫合

石灰沈着性頚長筋腱炎

頸長筋は前椎骨筋を構成する筋の1つで、第1頸椎から第3胸椎の前方に存在します。

石灰沈着性頸長筋腱炎(Calcific Tendinitis of the Longus Colli Muscle)は20~50歳に多く、頸長筋腱の虚血・過使用によって発症する炎症で、石灰沈着を伴います。

石灰沈着性頸長筋腱炎の症状は、

  1. 急性の頸部痛;むしろ喉(のど)の奥に生じる痛みで、甲状腺とは明らかに位置が違います
  2. 嚥下痛

血液検査では炎症所見を認めます。咽後膿瘍(後咽頭膿瘍)や化膿性脊椎炎、甲状軟骨骨折、甲状舌骨靭帯症候群との鑑別が重要[J Yeungnam Med Sci. 2023 Nov;40(Suppl):S129-S133.]。咽後膿瘍(後咽頭膿瘍)は甲状腺に到達すると急性化膿性甲状腺炎と甲状腺膿瘍を引きおこすので要注意。

頸椎単純X線・CTで第1-2頸椎前面の頸長筋腱付着部に石灰化。MRI では椎前間隙-咽頭後隙の腫脹・浮腫・液体貯留。

石灰沈着性頸長筋腱炎は通常1-2週間で自然寛解するため、痛み止め(NSAID)と頸部固定による局所安静で症状改善。嚥下障害や呼吸困難を伴う重症例はステロイド投与。

頸長筋

頸長筋(AJNR Am J Neuroradiolを改変;Nippon Jibiinkoka Gakkai Kaiho(Tokyo)116  1200-1207 2013)

石灰沈着性頚長筋腱炎 CT画像

石灰沈着性頚長筋腱炎 CT画像(第 369 回 東京レントゲンカンファレンス)

石灰沈着性頚長筋腱炎 MRI画像

石灰沈着性頚長筋腱炎 MRI画像(第 369 回 東京レントゲンカンファレンス)

胸郭出口症候群

胸郭出口症候群の原因は確定されていないが、胸郭の出口で頸・肩・腕に行く神経の束、腕神経叢が圧迫されて生じると考えられています。

なで肩の女性、筋肉の発達した男性、外傷で起こり易い。

胸郭出口症候群の症状は、頸・肩・腕の痛み・シビレ・異常知覚。モーレイテストは有用。

胸郭出口症候群

胸郭出口症候群は、睡眠障害、女性ホルモン(エストロゲン)欠乏、甲状腺機能低下症関節リウマチ線維筋痛症、脊柱側弯症などの姿勢障害で悪化します。‎

しかし、甲状腺腫瘍甲状腺癌で胸郭出口症候群を起こした報告はありません。胸郭出口症候群の診断目的のCTで、偶然、甲状腺腫瘍が見つかった報告はあります(AJR Am J Roentgenol. 2010 Nov;195(5):1066-71.)。

胸郭出口症候群の診断目的のCTで見つかった甲状腺腫瘍

副甲状腺機能低下症と頚椎後縦靱帯骨化症(OPLL)、脊柱靱帯骨化症

後縦靱帯骨化症(ossification of posterior longitudinal ligament:OPLL)とは、脊椎後縦靱帯が骨化し、脊髄と脊髄神経根を圧迫、感覚障害や運動障害を呈する病気です。後縦靱帯骨化症(OPLL)は男性に多く、その原因は不明ですが、遺伝的素因、性ホルモン異常、副甲状腺の病気やカルシウム・ビタミンDの代謝異常、糖尿肥満等が関与するとされます。

頚椎の後縦靱帯骨化症(OPLL)の症状は、

  1. 頚肩の凝り、痛み(後頸部痛)で首を回せない、体ごと振り向く
  2. 脊髄・脊髄神経根の圧迫による手足のシビレ、両手指の使いにくさ、麻痺、排尿障害(尿意があっても尿が出にくい)など

で、放置して悪化する事はあっても、改善する事はありません。

後縦靱帯骨化症(OPLL)の手術治療は、

  1. 頸の後方から除圧する
  2. 骨化した後縦靱帯を、頸の前方から椎体ごと除去し、間隙に腸骨を自家移植します

副甲状腺機能低下症では、大脳基底核の石灰化などの異所性石灰化(異所性骨化)が起こりますが、頚椎後縦靱帯骨化症(OPLL)などの脊柱靱帯骨化症の発症にも関与すると考えられます。(日骨代謝会誌 1986;3(3〜4):151-160)

頚椎後縦靱帯骨化症
頚椎後縦靱帯骨化症 CT画像

頚椎後縦靱帯骨化症 CT画像

原発性副甲状腺機能亢進症と後縦靱帯骨化症(OPLL)

原発性副甲状腺機能亢進症と後縦靱帯骨化症(OPLL)の合併も報告されています。(日骨代謝会誌 1984;2(2):135-141)

絶対するな甲状腺マッサージ

本当か、ウソか分かりませんが、甲状腺に対応する足つぼがあるそうです。科学的根拠はゼロで、甲状腺が良くなるとは到底思えません。しかし、足裏マッサージは体がリラックスし、疲れがとれるので筆者も足裏マッサージ機を愛用しています。

特に甲状腺の病気がある人は、甲状腺自体をマッサージするのは絶対ダメです。甲状腺に外から力が加わると、甲状腺組織がダメージを受けます。甲状腺腫瘍甲状腺のう胞(甲状腺嚢胞)があれば、腫瘍内部で出血・のう胞内出血(嚢胞内出血)を引きおこす危険があります。

太陽王ルイ14世が「我が国(フランス)の奇跡」と称賛したニノン・ド・ランクル夫人。70歳になっても30歳代にしか見えず、首筋をなでるマッサージで美貌を保っていたと伝えられます。これが、甲状腺マッサージと誤認された様です。

しかし、ネット上の甲状腺マッサージ法をよく見ると、「喉仏の前で手首をあわせ首に密着」させますが、指先から手のひらは甲状腺に触れません(物理的に不可能なのです)。つまり、単なる首の皮膚と筋肉のマッサージです。肩コリもほぐれ、血行が良くなるので、健康・美容に良いかもしれません(甲状腺には無関係)。

ヘバーデン結節と甲状腺

へバーデン結節は、指の第1関節(遠位指節間関節、DIP関節)が変形して曲がる原因不明の病気です。第1関節背側の伸筋腱付着部を挟んで2つの結節が形成されます。

へバーデン結節は、40歳代以降の女性に多く発症し、手を使う仕事の人に多いとされます。変形のみならず、痛みを伴うこともあります。

閉経前のヘバーデン結節(Heberden's node)患者を調べた報告では、全患者が甲状腺疾患(バセドウ病橋本病腺腫様甲状腺腫)を有していたとされます。[Ryumachi. 1990 Apr;30(2):99-102.]

ヘバーデン結節

[NewYork-Presbyterianより改変]

ドケルバン病

ドケルバン病は、親指と手首(手関節)を結ぶ2本の腱(短母指伸筋腱・長母指外転筋腱)と、それらの腱が通るトンネル[腱鞘(けんしょう)]の炎症(狭窄性腱鞘炎)です。

亜急性甲状腺炎ド・ケルバン甲状腺炎とも言いますが、全くの別物です。

ドケルバン病

骨折術後感染・術後創傷感染症

骨折術後感染・術後創傷感染症には、初期から壊死組織や膿瘍を除去をして創部を洗浄するデブリドマンを施行します。治療の遅れは骨髄炎に繋がります。

肋骨骨折に対する開放整復および内固定後の術後創傷感染の危険因子は、

  1. 長時間手術
  2. 貧血
  3. ドレナージの延長
  4. 糖尿病
  5. 喫煙
  6. 高齢

[BMC Infect Dis. 2024 Sep 19;24(1):1013.]

当然ながら、甲状腺機能低下症による免疫力低下も骨折術後感染・術後創傷感染症の危険因子になると考えられます。

甲状腺関連の上記以外の検査・治療    長崎甲状腺クリニック(大阪)


長崎甲状腺クリニック(大阪)とは

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長崎甲状腺クリニック(大阪)


長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査等]施設で、大阪府大阪市東住吉区にある甲状腺専門クリニック。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市近く

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