甲状腺乳頭癌と多発性内分泌腺腫症1型(MEN1)[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌病態内科学教室で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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多発性内分泌腺腫症(MEN)は、複数の内分泌臓器に良悪性の腫瘤が生じる常染色体優性遺伝性疾患です。3-4万人に1人の頻度で発症し、MEN1型と2型に分かれ、原因遺伝子は異なります。
長崎甲状腺クリニック(大阪)では甲状腺以外の診療を行っておりません。多発性内分泌腺腫症1型(MEN1)の遺伝子検査も行っておりません。
Summary
多発性内分泌腺腫症(MEN)は複数の内分泌臓器に良悪性腫瘤が生じる常染色体優性遺伝性疾患。多発性内分泌腺腫症1型(MEN1)は95%に原発性副甲状腺機能亢進症、60%に膵消化管内分泌腫瘍、50%に下垂体腫瘍[プロラクチン産生(20%)・非機能性(15%)・成長ホルモン(5%)・ACTH(稀)・TSH産生(稀)]、20%に副腎腫瘍(ほぼ非機能性)、15%に甲状腺腫瘍、2%に甲状腺癌(甲状腺髄様癌でなく甲状腺濾胞性腫瘍と甲状腺乳頭癌)、7%に胸腺・気管支神経内分泌腫瘍(NET)(ほぼ悪性)。MEN1遺伝子変異検査はMEN2のRET遺伝子変異ほど有用でない。
Keywords
多発性内分泌腺腫症,MEN1,原発性副甲状腺機能亢進症,膵消化管内分泌腫瘍,下垂体腫瘍,副腎腫瘍,甲状腺乳頭癌,神経内分泌腫瘍,甲状腺,遺伝子変異
内分泌の専門家でも知らない方が多いのですが、MEN1型(教科書的には原発性副甲状腺機能亢進症、膵消化管内分泌腫瘍、下垂体腺腫を主徴)でも20%に副腎腫瘍、2%に甲状腺癌を合併します。
15%に甲状腺腫瘍を合併するが、多発性内分泌腺腫症2型と異なり、甲状腺髄様癌でなく、甲状腺濾胞性腫瘍と甲状腺乳頭癌です。(病理と臨床 1997 ; 15 : 670–677.)
ただ、これまでの報告では多発性内分泌腺腫症1型(MEN1)に合併する甲状腺乳頭癌では、従来のMEN1遺伝子変異[メニン(menin)]が認められず、未知の新規変異があるのか、ただの偶然の合併か不明です。(Yonsei Med J. 2008 Jun 30;49(3):503-6.)(Ann Surg Oncol. 2001 May; 8(4):342-6.)(Mod Pathol. 1999 Sep; 12(9):919-24.)
そもそもMEN1遺伝子検査自体が、偽陰性率が比較的高く(20%)、簡単でない不確かなものです(J Clin Endocrinol Metab 2001 ; 86 : 5658–5671.)。
原発性副甲状腺機能亢進症患者の1.7%~6%に(非髄様癌性)甲状腺癌を認めるとされ、高カルシウム血症が原因なのか、それとも副甲状腺を調べるための超音波(エコー)検査を行うため偶然発見されるのか不明です。(Head Neck. 1993;15:20–23.)
常染色体優性遺伝性に腫瘍抑制遺伝子(癌抑制遺伝子)のMEN1遺伝子の機能喪失型変異が90%に認められます。MEN1遺伝子はメニン(menin)と呼ばれる蛋白をコードしていて、転写調節、ゲノム安定性、細胞増殖など多くの機能に関与します(J Intern Med. 2003 Jun; 253(6):606-15.)。
ただし、甲状腺乳頭癌・甲状腺濾胞腺腫・副腎皮質過形成・肝局所性結節性過形成・腎血管筋脂肪腫などの非神経内分泌腫瘍に見られるのはMEN1遺伝子のヘテロ接合性です[Mod Pathol. 1999 Sep;12(9):919-24.]。
多発性内分泌腺腫症1型(MEN1)は常染色体優性遺伝性疾患なので、50%の確率で血縁者に患者が存在します。保険適応はありませんが、発症前遺伝子診断でMEN1変異遺伝子保有者を見つければ、定期検診により早期発見が可能になります。アメリカ甲状腺学会のガイドラインでは、MEN1で10歳前後、MEN2で幼児期の発症あるため、それ以前の遺伝子診断を推奨しています。(Revised American Thyroid Association Guidelines for the Management of Medullary Thyroid Carcinoma Thyroid. 2015 Jun 1; 25(6): 567–610.)
※長崎甲状腺クリニック(大阪)では、多発性内分泌腺腫症1型(MEN1)の遺伝子検査は行っておりません。
多発性内分泌腺腫症1型(MEN1)の各病変は異なる時期に発症し、生涯浸透率も異なるため、診断に時間が掛かる事があります。
病変 | 浸透率 | 特徴 |
---|---|---|
原発性副甲状腺機能亢進症 | 95% | 若年発症(40歳までにほぼ全例が発症) 多腺性(過形成) 軽症(18%は副甲状腺ホルモンか血清Ca濃度が正常) 骨密度低下は非遺伝性より高度 |
膵・消化管内分泌腫瘍 | 60% | 膵消化管神経内分泌腫瘍(NET)の6-10% 75%が2個以上の腫瘍 一部悪性 ガストリノーマは胃十二指腸にも発生 インスリノーマの25%は成人前に診断 非機能性腫瘍が2cmを超えると肝転移の危険性 機能性腫瘍は手術適応 遠隔転移・切除不能時は ①分子標的薬(エベロリムス、スニチニブ) ②ストレプトゾシン ③オクトレオチド徐放剤(ガストリノーマ、VIP産生腫瘍) |
下垂体腫瘍 プロラクチン産生下垂体腺腫(20%) 非機能性下垂体腺腫(15%) | 50% | 逆に、プロラクチン産生下垂体腺腫 ・成長ホルモン産生下垂体腺腫(先端巨大症)で MEN1型は1%未満に過ぎません。 臨床像は、散発性の機能性・非機能性下垂体腺腫との違いに乏しい。 |
副腎皮質腫瘍 | 20% | ほとんどが非機能性、副腎皮質過形成。手術を要する大きさになる場合は少ない。 |
胸腺・気管支神経内分泌腫瘍 (NET;neuroendocrine tumor) | 7% | ほぼ全例悪性。副甲状腺手術時に予防的胸腺摘出する事もある。 |
皮膚腫瘍 | 40% | 顔面血管線維腫、皮膚脂肪腫 |
甲状腺乳頭癌 | 2% | |
甲状腺腫瘍 | 15% | 甲状腺濾胞腺腫 |
- 若年性原発性副甲状腺機能亢進症はMEN1型の可能性が高いです。
- その他、内臓脂肪腫、平滑筋腫、肝局所性結節性過形成、腎血管筋脂肪腫もあります[Mod Pathol. 1999 Sep;12(9):919-24.]。
MEN1遺伝子変異が陰性で家族性が証明できない場合、多発性内分泌腺腫症1型(MEN1)なのか、多発性内分泌腺腫症1型(MEN1)に似た新しい病気なのか分かりません。例えば、副甲状腺癌、甲状腺乳頭癌、機能性副腎腫瘍(プレクリニカルクッシング症候群と原発性アルドステロン症の両方)の3者を合併した報告があります。(第61回 日本甲状腺学会 O34-3 副甲状腺癌に甲状腺乳頭癌、機能性副腎腫瘍を同時に合併した1例)
多発性内分泌腺腫症4型(MEN4)のひとつとして、原発性副甲状腺機能亢進症、先端巨大症(下垂体腫瘍)、甲状腺乳頭癌、腎細胞癌、膵嚢胞を合併したケースがあります。既報のMEN遺伝子で該当するものはないそうです。[Cardiorenal Med. 2016 Feb;6(2):129-34.]
多発性内分泌腺腫症1型(MEN1)2型(MEN2)とも、常染色体優性遺伝で、50%の確率で遺伝するため、子供を作るか、産むか、妊娠・出産が難しい問題となります。多発性内分泌腺腫症(MEN)が、若年発症で、若くで(生殖可能年齢、あるいはその前に)診断が付いてしまうため起こる問題です。
正直、筆者には答えがありません(全く分かりません)。このような問題は、ごく一部の、高度医療病院の遺伝カウンセリングで、遺伝相談のプロにしか対処できないでしょう。
最終的には、患者自身の価値観に委ねられるのでしょうが、もはや医学的な問題を越え、社会的な問題、生命倫理の問題になるため、筆者(おそらく、大多数の医師)は中途半端に関われないのです。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,生野区,天王寺区,東大阪市も近く。