メトトレキサート(MTX)誘発性悪性リンパ腫/メトトレキサート関連リンパ増殖性疾患(関節リウマチと甲状腺)[橋本病 バセドウ病 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外(Pub Med)・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科(内分泌骨リウマチ科)で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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※長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。関節リウマチ/メトトレキサート(MTX)誘発性悪性リンパ腫の診療を行っておりません。
Summary
関節リウマチの活動性高いほど悪性リンパ腫(ML)発症リスクは高く約2倍。メトトレキサート(MTX)誘発悪性リンパ腫[メトトレキサート関連リンパ増殖性疾患(MTX-LPD)]が増加。エプスタイン・バール・ウイルス(EBウイルス)感染が原因とされる。橋本病女性は健常女性より67-80倍の高頻度で甲状腺原発悪性リンパ腫が発生する。関節リウマチと橋本病の合併症例に発生したメトトレキサート(MTX)誘発甲状腺原発性悪性リンパ腫もある。メトトレキサートは速やかに中止しリンパ節(または甲状腺)生検。メトトレキサート中止で30%は悪性リンパ腫が消失、60%は治療必要。
Keywords
関節リウマチ,悪性リンパ腫,メトトレキサート誘発悪性リンパ腫,MTX,メトトレキサート関連リンパ増殖性疾患,MTX-LPD,EBウイルス,橋本病,甲状腺原発悪性リンパ腫,甲状腺
関節リウマチの診断後、禁忌がなければメトトレキサートを開始します。
関節リウマチ(RA)における悪性リンパ腫(ML)の発症リスクは、報告により異なりますが、約2倍とされます。関節リウマチの活動性が高いほど悪性リンパ腫(ML)の発症リスクは高くなるとされます(Arthritis & Rheumatism 2006;54:692-701)。
関節リウマチ(RA)に対して抗炎症剤・ステロイド剤は関節破壊を止められず、抗リウマチ薬の早期使用が推奨されます。しかし最近、メトトレキサート(MTX)誘発悪性リンパ腫[またはメトトレキサート関連リンパ増殖性疾患(MTX-LPD)]が増えています。メトトレキサート関連リンパ増殖性疾患は、「メトトレキサートの免疫抑制によって、主に関節リウマチ等の自己免疫疾患患者に発症するリンパ腫あるいはリンパ腫瘍病変」と定義されます。(N Engl J Med 1993;328:1317-21)
メトトレキサート(MTX)誘発悪性リンパ腫/メトトレキサート関連リンパ増殖性疾患(MTX-LPD)は、肺, 肝臓, 腋窩リンパ節, 卵巣など全身臓器に発生します。甲状腺にも、よく発生します(甲状腺悪性リンパ腫)。長崎甲状腺クリニック(大阪)でも、関節リウマチに合併した橋本病・甲状腺悪性リンパ腫は年間数例見つかります。メカニズムは不明ですが、ほとんどB細胞型で、メトトレキサートで免疫低下したB細胞にヘルペスウイルスの一種、エプスタイン‐バールウイルス (EBV)が感染するのが原因とされます。
メトトレキサート関連リンパ増殖性疾患(MTX-LPD) の組織型は、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)、Hodgkinリンパ腫が多いものの様々です。
メトトレキサート中止で30%は悪性リンパ腫が消失しますが、60%は治療が必要になります。特にエプスタイン‐バールウイルス (EBV)陽性例で寛解率が高く、メトトレキサート中止後1-2週間で腫瘍が退縮する場合が多い。(J Rheumatol. 2007 Feb;34(2):322-31. Epub 2006 Nov 15.)
関節リウマチの治療中に悪性リンパ腫を認めた場合、関節リウマチの治療は速やかに中止して、リンパ節生検をおこない確定診断することが必要です。
メトトレキサート関連リンパ増殖性疾患(MTX-LPD) の長期予後の報告は少なく、
- 関節リウマチにおけるリンパ増殖性疾患は一般のリンパ腫より予後不良とされ、メトトレキサート投与の有無で差は無いとされる
- 予後不良因子は、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)、高齢(70歳以上)(Eur J Haematol. 2013 Jul;91(1):20-8.)
- びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)の5年生存率は58~74%との報告がある
- 予後が良くメトトレキサート中止で退縮するのは、びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)以外の悪性リンパ腫、エプスタイン‐バールウイルス (EBV)陽性例
関節リウマチにおける悪性リンパ腫(ML)発症リスクは、約2倍とされます。また、橋本病(バセドウ病の報告もあり)の0.5%(200人に一人)に甲状腺悪性リンパ腫(甲状腺内のリンパ球が癌化したもの)が発生するとされます(N Engl J Med 1985; 312: 601-604.)(Br J Haematol. 2011; 153:236-243.)。よって、関節リウマチと橋本病(もしくはバセドウ病)の両方をもっていれば、悪性リンパ腫の発生頻度はさらに高くなると予想されます。
関節リウマチ、橋本病(もしくはバセドウ病)が原因であれ、メトトレキサートが原因であれ、甲状腺悪性リンパ腫の3割はMALTリンパ腫で、
- 比較的悪性度が低い
- 異型性に乏しく(正常リンパ球と鑑別し難く)細胞診による診断が難しい
- 悪性リンパ腫のマーカーであるsIL-2Rが上昇しにくい
ため、悪性リンパ腫の診断自体が困難[組織生検(コア生検)とGaシンチするしかない](診断が付かない甲状腺MALTリンパ腫)。
メトトレキサート中止で病変が退縮、消失すれば自ずとメトトレキサート関連リンパ増殖性疾患(MTX-LPD)による甲状腺悪性リンパ腫の診断が付いてしまいますが・・・。(Ned Tijdschr Geneeskd. 2008 Oct 25;152(43):2351-6.)(Clin Endocrinol (Oxf). 2006 Jun;64(6):716-7.)
ケース①
(自験例)関節リウマチに合併した橋本病・甲状腺悪性リンパ腫の症例は、病変が比較的小さいため、特に自覚症状なく、メトトレキサート中止で縮小・消失しませんでした。組織型はMALTリンパ腫、甲状腺内に限局していたため、(旧)大阪市大病院内分泌外科(大阪公立大学になって内分泌外科はなくなりました)で甲状腺全摘術行い完全治癒しました。メトトレキサート中止で縮小・消失しなかったため、メトトレキサート(MTX)誘発悪性リンパ腫ではなく、単なる橋本病を基盤とする甲状腺悪性リンパ腫だった様です。
ケース②
ケース③(他院)
他院(福岡徳洲会病院)の報告では、甲状腺悪性リンパ腫が増大し、気管圧迫による呼吸困難から気管切開術まで行うも、メトトレキサートとタクロリムスを中止すると急速に縮小し寛解したそうです。(第56回 日本甲状腺学会 P2-079 関節リウマチ患者に対するメトトレキサートおよびタクロリムス治療によって生じ、両薬剤中止により寛解した甲状腺リンパ増殖性疾患の一例)
口腔内メトトレキサート関連リンパ増殖性疾患が多く報告されています。(WHO Classification of Tumors of Haematopoietic and Lymphoid Tissues, IARC Press, Lyon, 2008, p350-35.)
- 治らない口腔粘膜潰瘍
- 頬部痛から歯肉炎と診断され、歯科で抜歯されても治らない→発熱も起こり歯髄の骨髄炎を疑われるも感染の所見なし→歯肉生検で悪性リンパ腫が確定
などです。
メトトレキサート関連リンパ増殖性疾患(MTX-LPD) は、どの場所にできても不思議ではなく、陰嚢部潰瘍もあります。
※EBウイルス(エプスタイン・バールウイルス:Epstein-Barr virus:EBV):ヘルペスウイルスの一種で伝染性単核球症の原因として有名です。また、EBウイルスは、感染したB細胞を形質転換し、腫瘍細胞のように増殖させる腫瘍原性があります。B細胞由来の悪性リンパ腫、バーキットリンパ腫・ホジキンリンパ腫に深く関連しています。
EBウイルス再活性化による慢性活動性FBV感染症では、VCA(外殻抗原)-IgG抗体やEA-DR(早期抗原)-IgG抗体が高値になります。
伝染性単核症のEBウイルス初感染ではVCA-IgM抗体陽性、ウイルスが潜伏後から発現するEBNA(核内抗原)陰性が特徴。
メトトレキサート(Methotrexate: MTX)における、その他問題点として、
- 生物学的製剤[エタネルセプト(エンブレル®)、インフリキシマブ(レミケード®)、アダリムマブ(ヒュミラ®)]と同様、亜急性甲状腺炎の発症が報告されています。メトトレキサート投与後3年で発症しています。(第65回 日本甲状腺学会 P10-4 関節リウマチ治療中に亜急性甲状腺炎を繰り返した一例)
- メトトレキサート単独では関節リウマチによる骨破壊を止めれないため、他剤の併用が必要になります。副腎ステロイドは関節痛を和らげますが、長期的には予後不良因子(①ステロイド骨粗しょう症→骨折・寝たきり、②動脈硬化促進→脳梗塞・心筋梗塞)なので短期使用に限定されます。
- 元々、抗がん剤を低用量で関節リウマチに使用しているため骨髄造血(赤血球、白血球、血小板を作る)を抑制し、貧血・免疫不全・出血を引きおこします。メトトレキサートは腎排泄のため腎機能が悪いと急激に骨髄抑制がおこります。
- メトトレキサートは腎排泄のため腎機能障害患者には禁忌
①腎糸球体濾過量(GFR)<60 mL/分/1.73m2なら慎重投与。葉酸を併用しながら低用量より投与
②腎糸球体濾過量(GFR)<30 mL/分/1.73m2、早い話Cr(クレアチニン)≧1.0なら使用禁忌
もし、Cr(クレアチニン)≧1.0になれば、すぐに投与中止。骨髄抑制により、再生不良性貧血並みの汎血球減少が急激に起きます(直ちにロイコボリン投与でレスキュー)。
腎尿細管内にメトトレキサートが析出して閉塞、腎後性腎不全をおこします。尿のアルカリ化で予防。
- 易感染性・日和見感染(下記)
- 間質性肺炎(メトトレキサート間質性肺炎);膠原病肺(リウマチ肺)・ニューモシスチス肺炎/サイトメガロウイルス肺炎・器質化肺炎と鑑別要。合併していることも。ステロイド+シクロスポリン(またはシクロフォスファミド)で治療。
- シクロスポリン・タクロリムス・フルオロウラシルとともに薬剤性の白質脳症をおこします
- 長期連用された場合、薬剤性肝障害→肝硬変に至ります
易感染性・日和見感染
メトトレキサート(MTX)と生物学的製剤の重大な副作用の一つが、正常な免疫力まで低下させるためにおきる易感染性・日和見感染です。
- 細菌性肺炎;通常の細菌性肺炎が多いが、複数の起因菌、グラム陰性桿菌のことも
- 真菌感染;ニューモシスチス肺炎。治療開始前のβ-D-グルカン測定は必須
- 口内細菌増殖し口内びらん(ただれ)
- B 型肝炎ウイルスの活性化
- ヘルペス感染・再活性化
- 結核の再活性化;潜在結核の可能性があるときはイソニアジド(INH)の予防内服
ロイコボリンレスキュー
葉酸代謝拮抗剤であるメトトレキサート(MTX)の毒性を軽減させる目的で、ホリナートカルシウム(ロイコボリンカルシウム錠)を使用します。ホリナートカルシウム(ロイコボリンカルシウム錠)は細胞内で活性型葉酸になります。
メトトレキサート(MTX)投与時に症状を伴う血球減少症(骨髄抑制)が発生した場合、メトトレキサート(MTX)をただちに中止し、即効性のある活性型葉酸(ロイコボリン注射薬)でロイコボリンレスキューを回復するまで行います。通常のホリナートカルシウム(ロイコボリンカルシウム錠)では不十分。
関越リウマチ患者の中には、「リウマチが痛いから毎日飲んだ」と、とんでもない誤用をする方がおられます(無顆粒球症をおこし救急外来受診、好中球の激減で発覚する事が多い)。このような誤用を防ぐため、
- もし毎日飲んだら「白血球が作られなくなり、死に至る危険な副作用が起こる」事を念入りに説明する(必ずカルテに記載)
- teach-back methodを用い、患者の口から飲み方を言ってもらう
- 認知症患者で、家に帰ると忘れてしまう可能性がある場合、家人・ケアマネジャーに服薬管理を指導。服薬管理者が見つからない場合、最初からメトトレキサート(MTX)を処方しない
甲状腺機能亢進症/バセドウ病治療薬の抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)については、正しく飲んでいても、高い確率で無顆粒球症が起こります(命の危険:無顆粒球症 )。筆者は、口を酸っぱくして無顆粒球症の危険性を説明をするようにしています。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,生野区,天王寺区,八尾市,東大阪市,浪速区も近く。