筋萎縮性側索硬化症(ALS)、球脊髄性筋萎縮症、スティッフパーソン症候群と甲状腺[橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学附属病院 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。神経内科の病気(筋萎縮性側索硬化症(ALS)、球脊髄性筋萎縮症、スティッフパーソン症候群、頸髄損傷)の診療を行っておりません。
以下本ページ
- 甲状腺機能亢進症/バセドウ病に間違えられる筋萎縮性側索硬化症(ALS)
- 球脊髄性筋萎縮症(bulbospinal muscular atrophy、Kennedy-Alter-Sung 症候群)
- スティッフパーソン症候群(Stiff person syndrome:stiff-person症候群)
- 頸髄損傷と甲状腺
甲状腺と神経内科(パーキンソン病,多系統萎縮症,アテトーゼ不随意運動・舞踏病・バリズム,本態性振戦)
Summary
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は甲状腺ホルモンの細胞内輸送を司るマイクロ クリステリン蛋白減少の報告あり。甲状腺腫・甲状腺腫瘍、甲状腺機能亢進症/バセドウ病、低カリウム性四肢麻痺、甲状腺機能低下症/橋本病と症状がやや類似(筋力低下、嚥下障害、線維束性収縮等)。球脊髄性筋萎縮症はX染色体上のアンドロゲン受容体遺伝子異常。スティッフパーソン症候群は抗GAD抗体陽性で甲状腺機能亢進症/バセドウ病、甲状腺機能低下症/橋本病、インスリン依存性糖尿病を合併。甲状腺濾胞癌・甲状腺低分化型の頚椎転移による頸椎浸潤と頚髄圧迫の報告あり。
Keywords
筋萎縮性側索硬化症,ALS,甲状腺,甲状腺機能亢進症,バセドウ病,甲状腺機能低下症,橋本病,球脊髄性筋萎縮症,スティッフパーソン症候群,抗GAD抗体
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は人口10万人あたり4-6人の稀な病気。好発年齢は40-60代で、やや男性に多い。原因不明だが約20%は常染色体優性遺伝によるSOD1(Cu/Zn superoxide dismutase)遺伝子変異。
運動神経だけが変性する病気で、上位(脳脊髄)運動神経と下位(末梢)運動神経の両方が障害されます。
甲状腺との関連は皆無とされ、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の甲状腺機能は正常、甲状腺に対する自己抗体(バセドウ病・橋本病抗体)は陰性です(Arch Neurol. 1982 Apr;39(4):241-2.)(Ann Univ Mariae Curie Sklodowska Med. 2003;58(1):343-7.)。
しかし、ある論文では甲状腺ホルモンの細胞内輸送を司るマイクロ クリステリン(μ-crystallin:CRYM)蛋白が、筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の脊髄神経で著しく減少していることを報告しています(Neuropathology. 2018 Jun;38(3):247-259.)。
これが筋萎縮性側索硬化症(ALS)の病態解明につながるか否か、誰にも分かりません。
(図;日本甲状腺学会雑誌 April 2014 Vol.5 No.1 26-31.)
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は甲状腺の病気と症状がやや似ています。
- 両手に力が入らない(急激な遠位筋萎縮と筋力低下);甲状腺機能亢進症/バセドウ病、甲状腺機能低下症/橋本病の筋力低下のよう
- 食事が飲み込みにくい[嚥下障害(球麻痺)];耳鼻咽喉科的な異常なし。甲状腺癌、巨大甲状腺腫瘍、橋本病の巨大甲状腺腫、甲状腺機能亢進症/バセドウ病の巨大甲状腺腫のよう
- 呂律が回りにくい[(構音障害(球麻痺)];甲状腺機能低下症/橋本病による喉頭浮腫のよう
- 舌萎縮(舌下神経核障害);亜鉛、血清鉄正常、貧血無し
- 舌と両上肢に線維束性収縮(脊髄前核細胞障害);甲状腺機能亢進症/バセドウ病のよう
- 腱反射亢進・腹壁反射消失(錘体路障害)
- 呼吸筋障害(呼吸ができなくなる);甲状腺機能亢進症/バセドウ病による低カリウム性四肢麻痺のよう
甲状腺機能亢進症/バセドウ病では全身の痩せ・筋力低下、腱反射亢進(アキレス腱反射の弛緩相俊敏化)、腫れた甲状腺の気道圧迫による嚥下障害がありますが、
- 振戦や不随意運動ある点
- 腹壁反射正常で病的反射が無い点
- 構音障害(球麻痺)・舌下神経核障害による舌萎縮が無い点
が筋萎縮性側索硬化症(ALS)と異なります。
筋萎縮性側索硬化症(ALS)の検査所見は
- 神経伝達速度は正常
- 頭部MRI異常なし
リルゾールは神経保護作用があって、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の進行を遅らせる薬ですが、効果はほとんど無いと思います。エダラボンは脳保護剤で、活性酸素を除去し脳神経を保護する働きを持ちます。海外では筋萎縮性側索硬化症(ALS)にも使用されますが、癌の治療に使われる免疫チェックポイント阻害薬による甲状腺機能障害(甲状腺irAE)を抑える報告があります(Int Immunopharmacol. 2019 Dec;77:105967.)。
球脊髄性筋萎縮症(bulbospinal muscular atrophy、Kennedy-Alter-Sung 症候群)は、人口10万人あたり1-2人の極めて稀な病気で、X連鎖性劣性遺伝のため成人男性(30~60歳ごろ)だけに発症します(女性には発症しない)。
X染色体上のアンドロゲン受容体遺伝子異常により、
- 延髄の運動神経が変性;ろれつが回り難い(甲状腺機能低下症/橋本病による喉頭浮腫のよう)・舌萎縮(舌下神経核障害)、むせ返る・嚥下障害(甲状腺癌、巨大甲状腺腫瘍、橋本病の巨大甲状腺腫、甲状腺機能亢進症/バセドウ病の巨大甲状腺腫のよう)、喉頭痙攣(けいれん)による短時間の呼吸困難、顔面けいれん
- 脊髄前角細胞の変性、末梢神経の脱髄(運動神経)→手指の振戦・筋痙攣(けいれん)、筋収縮時の筋線維束性収縮、筋力低下、筋萎縮(甲状腺機能亢進症/バセドウ病のよう)
- 末梢神経の脱髄(知覚神経);深部感覚優位の軽徴な感覚障害
- 男性ホルモン作用の低下による精巣萎縮、女性化乳房、女性様皮膚変化、甲状腺腫大
- 耐糖能障害、脂質代謝異常症
- 肝機能障害
- ブルガダ(Brugada)症候群(ポックリ病)を合併
球脊髄性筋萎縮症の検査所見;高CK(CPK)血症を認める場合あり
球脊髄性筋萎縮症の治療には、多系統萎縮症と同じく、セレジスト®(タルチレリン)(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン誘導体;TRHアナログ)が有効との報告あり(J Child Neurol. 2009 Aug;24(8):1010-2.)。
末梢神経障害(手足先のしびれ/脱力)、臓器腫大、内分泌異常(女性化乳房)、甲状腺腫大があり、クロウ・フカセ症候群(POEMS症候群)と間違えられた球脊髄性筋萎縮症の報告があります(Med Princ Pract. 2016;25(3):286-9.)。(写真→)
スティッフパーソン症候群(Stiff person syndrome:stiff-person症候群)とは
スティッフパーソン症候群(Stiff person syndrome:stiff-person症候群)は、100万人に一人の超稀な自己免疫疾患で中年女性に多い。
スティッフパーソン症候群の70%以上に抗グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)抗体が認められ、自己免疫が原因と考えられています。抗GAD抗体は、抑制性神経伝達物質のγ-アミノ酪酸(GABA)合成を阻害し、脊髄前角に始まる脊髄運動ニューロンの抑制を減弱させます。
スティッフパーソン症候群の症状は、
- 体幹・四肢における進行性の筋硬直、有痛性の筋攣縮
- 広い空間を横切ることに対する恐怖(偽性広場恐怖)、過剰な驚愕反応
- 腰椎の過前弯などの強直性変形
- インスリン依存性糖尿病(30%)、自己免疫性甲状腺炎(10%)、白斑、悪性貧血を伴う萎縮性胃炎(5%)を合併[J Neurol Neurosurg Psychiatry. 2015 Aug;86(8):840-8.]
- 乳癌、肺癌、大腸癌、甲状腺癌、悪性リンパ腫を合併[Muscle Nerve. 2012 May;45(5):623-34.]
スティッフパーソン症候群の診断は、
- 血清、髄液中の抗グルタミン酸デカルボキシラーゼ(GAD)抗体
- 筋電図
スティッフパーソン症候群の治療は、
- ベンゾジアゼピン系薬剤(ジアゼパムなど)、バクロフェン
- 副腎皮質ステロイド、免疫グロブリン静注療法、リツキシマブ、血漿交換(プラズマフェレーシス)
スティッフパーソン症候群(Stiff person syndrome:stiff-person症候群)と甲状腺
甲状腺機能亢進症/バセドウ病にスティッフパーソン症候群を合併した9歳の女児の報告があります。四肢の痛みはのようですが、強直間代けいれん発作、進行性歩行障害はでは説明できません。筋電図検査は、傍脊髄および下肢近位筋群の正常な運動単位の持続的な活動を認めます。[Child Neurol Open. 2016 Dec 15;3:2329048X16684397.]
52歳の白人女性で同様の報告があります[Endocr Pract. 2005 Jul-Aug;11(4):259-64.]。
甲状腺機能低下症/橋本病の合併報告もあります[J Neuroimmunol. 2022 Jun 15;367:577865.]。
リツキシマブ投与で甲状腺眼症(バセドウ病眼症)とスティッフパーソン症候群の両方が改善した報告があります[Intern Med. 2010;49(3):237-41.]。
脊髄損傷の約75%が頸髄損傷で、損傷部位が高位程、生命にかかわります。頸髄損傷特有の症状は、呼吸筋麻痺と高体温・低体温です。
第5頸髄の障害で、横隔神経の障害による呼吸障害が生じます。胸式呼吸が障害され、胸郭運動は消失、気管支内に痰・分泌物が貯留し無気肺や肺炎になりやすい。腹式呼吸によって代償されます。
実験レベルの話ですが、外傷性脊髄損傷において甲状腺ホルモンのトリヨードサイロニン(T3)がオリゴデンドロサイト(希突起膠細胞)の成熟を促すのに最も効果的です。しかし、治療用量のトリヨードサイロニン(T3)の全身投与は、甲状腺機能中毒症を誘発する危険があります(J Neural Eng. 2017 Jun;14(3):036014.)。
甲状腺濾胞癌や甲状腺低分化型の頚椎転移による頸椎浸潤と頚髄圧迫の報告があります(Medicine (Baltimore). 2017 Oct;96(41):e8215.)(J Laryngol Otol. 2000 Oct;114(10):808-10.)(甲状腺分化癌(乳頭癌・濾胞癌)は骨転移)。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市も近く。