甲状腺と震災、水害、台風、避難生活、クラッシュ症候群[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外(Pub Med)・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。
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甲状腺編 では収録しきれない専門の検査/治療です。
Summary
地震、水害、台風など巨大災害時の避難生活は余震、避難所のストレスから甲状腺機能低下症/橋本病、甲状腺機能亢進症/バセドウ病が基になる高血圧、狭心症・心筋梗塞が顕在化、たこつぼ型心筋症、致死性不整脈、甲状腺クリーゼ誘発。共用トイレは汚く水分摂取を控え、甲状腺機能亢進症/バセドウ病で脱水。車の中で寝泊まりすると甲状腺機能亢進症/バセドウ病は凝固能亢進のため血栓症(深部静脈血栓、肺梗塞;エコノミークラス症候群)。避難所には甲状腺の薬を忘れずに!。がれきに挟まれおこるクラッシュ症候群、急性コンパートメント症候群。
Keywords
災害,避難所,甲状腺機能低下症,橋本病,甲状腺機能亢進症,バセドウ病,血栓症,エコノミークラス症候群,急性コンパートメント症候群,クラッシュ症候群
もはや現在の日本で巨大災害は他人事ではありません。地震や豪雨はいつ起きるか分かりません。豪雨で河川が氾濫し、緊急避難を余儀なくされたり、外出先で被災し家に帰れなくなったりします(帰宅難民)。また、自分は大丈夫でも、通院している病院・薬局が被災して休業するかもしれません。
甲状腺の病気を持つあなたも被災に備えねばなりません。甲状腺の薬が切れると病状が悪化、最悪、命を失う危険性もあります(甲状腺クリーゼ、粘液水腫性昏睡、甲状腺機能亢進症/バセドウ病再発による突然死)
2018年は災害の年でした。特に長崎甲状腺クリニック(大阪)のある西日本は北部大阪地震、台風21号に続けて見舞われ大変でした。長崎甲状腺クリニック(大阪)は、大阪市の南に位置するため、北部大阪地震では揺れただけで特に被害はありませんでした(揺れ始めた時は、ついに南海地震が来たのか!揺れ終わると、言うほど大した事なかったやん!と高をくくっており、まさか大阪北部とは夢にも思いませんでした)。しかし、台風21号では網戸の網が3カ所破れた他、屋上の3層ある防水構造の1層が剥がれかけ、屋上すべての防水工事をやり直さねばならなくなり、予想を超える被害が出てしまいました(実は火災保険に入っていたため、修理費が出ました!火災保険は台風災害にも適応されるのです)。
地震、水害、台風などの巨大災害時の避難生活ではなどの巨大災害時の避難生活では、
- 余震や、避難所でプライバシーが完全に守られない、眠れないストレスから高血圧、狭心症・心筋梗塞など心血管障害が起こり易いとされます。甲状腺機能低下症/潜在性甲状腺機能低下症/橋本病では、すでに動脈硬化が進行し狭心症・心筋梗塞が隠れている可能性があり、ストレスで顕在化する危険があります(甲状腺機能低下症/潜在性甲状腺機能低下症から動脈硬化と狭心症/心筋梗塞)。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病では、既に甲状腺ホルモンの直接的、交感神経を介する間接的刺激により、心筋細胞の酸素需要が高まり、相対的な心筋虚血状態にあります。ストレスで狭心症、心筋梗塞に移行する可能性があります(甲状腺機能亢進症/バセドウ病から急性冠症候群、弁膜症、肥大型心筋症、突然死)。また、たこつぼ型心筋症、致死性不整脈、甲状腺クリーゼが誘発される危険性があります(バセドウ病の突然死)。
- 同様の理由で甲状腺機能低下症、甲状腺機能亢進症/バセドウ病では高血圧が悪化・顕在化します(甲状腺の血圧管理・高血圧 )。冬なら避難所内に暖房があるという保証は無く、あってもドアが開いていれば寒気が流れ込み血圧上昇します。意外にも避難所には自動血圧計が設置されている事が多く、血圧管理はできますが、降圧薬をもらいに行こうにも病院も被災し機能していません。
- 避難所の共用トイレは、大抵誰も掃除しない(掃除道具無い、ドメスト無い、水も無い)ため、汚いです。行きたくないので、水分摂取を控え、脱水おこします。 甲状腺機能亢進症/バセドウ病で発汗量多い場合、脱水おこす危険性は高いです。
また、脱水状態では、血液が濃く(粘っこく)なり、脳梗塞や下記の深部静脈血栓症(DVT)の危険が生じます。
- 車の中で寝泊まりする場合、避難所であっても狭いスペースで寝ると体位変換、下肢挙上できなくなり、下肢血流が悪化、血栓症[深部静脈血栓(DVT)、肺梗塞]起こります(エコノミークラス症候群)。特に、 甲状腺機能亢進症/バセドウ病では凝固能が亢進しているため、血栓症おこす危険性が更に高くなります(バセドウ病/甲状腺機能亢進症で血栓できやすい?)。
- 風呂は、近くの温泉施設などの無料券が配布されたり、自衛隊が定期的に簡易風呂を設置しますが、不足します。甲状腺機能亢進症/バセドウ病は、新陳代謝が活発過ぎて皮脂が増え、ニキビができたり、汗のため汗疹(あせも)ができやすくなります。風呂に入れなければ雑菌が繁殖し毛包炎、皮膚炎おこす危険性があります。(甲状腺ホルモン異常と皮膚・脱毛 )
災害拠点病院は、トリアージで選別された重症患者の対処に掛かり切りになるため、甲状腺の薬まで構ってくれません(当たり前だ)。それこそ、着の身着のままの避難を余儀なくされる差し迫った避難なら仕方ありませんが、避難勧告・指示が前もって出ている余裕のある状況なら甲状腺の薬を忘れてはなりません。
こんなことを書いたら怒られますが、大抵、甲状腺の薬は1-3カ月処方なので、数日分ずつ早めに薬をもらい、その分を緊急避難用のリュックなどにストックしておきます。さすがに、2年以上経てば薬の有効期限(賞味期限)を過ぎるので、数カ月おきに新しいものと入れ替えるのが良いでしょう。
河川の氾濫、堤防の決壊など水害の場合、薬が流されてしまう事もあります。
前述の様に、震災、避難所の過剰なストレスで甲状腺機能低下症/橋本病、甲状腺機能亢進症/バセドウ病が悪化する環境にあります。
服薬を欠くと、甲状腺機能低下症/橋本病では最悪、命の危険:粘液水腫性昏睡に、甲状腺機能亢進症/バセドウ病では、最悪、命の危険:甲状腺クリーゼ に至る危険性があります。
特に妊婦が甲状腺の薬を切らすと大変な事に。流早産の危険が生じます(橋本病/甲状腺機能低下症妊娠)(バセドウ病/甲状腺機能亢進症妊娠)
避難前には必ず家の電気のブレーカーを落とさねばなりません。1995年の阪神淡路大震災では、地震による停電から復旧する時に、倒れた電気ストーブや破損した電気配線に通電すると起きる「通電火災」が、建物火災の6割を占めました。
家が無人になっているため発見が遅れ、避難先から帰ってくると家は焼け落ちています。
室内にガスの臭いが充満し、ガス漏れが疑われる時は、まず窓を開けます。電気器具である換気扇をつけると、漏電した電気がガスに引火し爆発する危険があります。
厚生労働省による避難所における感染症発生のリスクアセスメントで、新型コロナウイルス感染症と食品媒介性感染症(感染性胃腸炎、食中毒)リスク評価はもっとも高い「3」です。高温多湿の環境下、十分に衛生管理ができない場所で、食材、弁当などが感染源になる危険性があります。食中毒菌やノロウイルスによるものがあり、避難所での感染性胃腸炎や食中毒が過去に発生しています。
甲状腺ホルモン値が正常化していない甲状腺機能低下症患者が感染すると、
- 免疫不全状態のため重症感染症化する危険
- 、粘液水腫性昏睡 に至る可能性
甲状腺ホルモン値が正常化していない甲状腺機能亢進症/バセドウ病患者が感染すると
- バセドウ病の活動性が上がる危険
- 甲状腺クリーゼ に至る可能性
があります。
2019年、関東地方を襲った台風19号のために第62回 日本甲状腺学会も大変な事になりました。2019年10月10日(木)~12日(土)、群馬県前橋市で開催されるはずの同学会は、10月10日の開催直後からバタバタしていました。すでに12日の新幹線・国内線は計画運休が決定しており、筆者も学会場へ向かう途中、新大阪駅の電光掲示板でそのことを知りました。台風が過ぎ去るまで現地に滞在するのも一つの方法かもしれませんが、超大型なので災害に巻き込まれる可能性も十分ありました(前橋市でもそれなりに被害が出た)。交通機関に被害が出れば復旧する保証は無く(長野新幹線は一部浸水した)、早く帰らないと地元に戻れなくなる差し迫った状況だったので、筆者は早々に引き揚げました。台風が直撃する12日のプログラムは大幅に変更されながらも、午前中まで学会が続けられたのには驚きました。
阪神淡路大震災で370名以上の報告があったクラッシュ症候群(クラッシュシンドローム・挫滅症候群)で低カルシウム血症と代償性の2次性副甲状腺機能亢進症が起こります。
2時間以上がれきの下敷きになり、筋肉が挫滅、がれきの圧迫から解放された時、
- 横紋筋融解症;挫滅筋から放出されたミオグロビン(Mb)、カリウムが血中に流れ込み、ミオグロビン(Mb)が腎臓の尿細管を閉塞、急性腎機能障害(AKI)・急性腎不全、高カリウム血症をおこし致死的になります。(Ren Fail. 1997 Sep;19(5):647-53.)
- 乳酸アシドーシス;乳酸は虚血で生じた無酸素代謝産物
- ①急性腎不全に伴う低カルシウム血症
②腎障害が無くとも、障害された筋肉や皮下軟部組織の細胞膜透過性が亢進、カルシウムが細胞内に入り込み、長期に渡り低カルシウム血症
→代償性の2次性副甲状腺機能亢進症(Emerg (Tehran). 2017;5(1):e7.)
→高カリウム血症の心毒性が高まる(Japan Medical Association Journal. 2005;48(7):341–52.)
が起こります。注意を要するのは、
- 救出された直後は、症状が特にないケースが多く、重症でも分かりにくい
- 救出後、数時間で血中カリウムが上がる始める場合がある
- 救出後、尿が出なくなったり、吐き気、手足のシビレ、意識障害が生じればクラッシュ症候群の可能性が高い
救出後、直ちに生理食塩液の輸液
生理食塩液を 1/2に希釈した half saline の過剰投与により長期に渡る低ナトリウム血症をおこします。(Emerg (Tehran). 2017;5(1):e7.)
高カリウム血症にカルチコール®静注、GI療法(高カリウム血症の治療)
被災現場で病院前緊縛止血された止血帯を外す時に、横紋筋融解症・乳酸アシドーシスをおこす危険があります。
急性コンパートメント症候群と甲状腺
急性コンパートメント症候群は、閉じた筋膜の区域(コンパートメント)内で組織浮腫や血腫により内圧が上昇、神経圧迫および筋肉虚血が起こる状態。災害時における急性コンパートメント症候群の原因は、
- クラッシュ症候群
- 外傷(骨折・打撲)、やけど
- 甲状腺機能低下症(Thyroid. 1995 Aug;5(4):305-8.)(Am J Emerg Med. 2017 Jun;35(6):937.e5-937.e6.)
急性コンパートメント症候群は、直ちに適切な治療(緊急筋膜切開術)をしなければ、
- 筋肉とその領域の患肢が壊死
-
クラッシュ症候群(クラッシュシンドローム・挫滅症候群)・横紋筋融解症へ移行
-
感染症合併
し、致死的になり、救命しても一生、障害が残ります。(Curr Rev Musculoskelet Med. 2012 Sep; 5(3):206-13.)
一酸化炭素は、急性中毒を引き起こす最も一般的なガス状物質です。
火災で発生した煙は、高熱のために軽くなり、高い所(天井、階段・吹き抜けを通り上の階)に溜まります。有毒な一酸化炭素(CO)を含んでいるので、煙を吸わないように姿勢を低くしゃがみながら避難します。
また、煙は火元から遠ざかると、温度が下がって重くなるため下降し、視界を悪くしますす。
小型発電機は燃料を使って発電するため、有害な一酸化炭素を放出します。室内や車内など換気できない場所での使用は避けたほうが良い。
一酸化炭素中毒は脳や内分泌系、甲状腺・副腎に損傷を与え内分泌障害を引き起こします。
- 甲状腺機能低下症(adjusted hazard ratio = 3.8; 95% confidence interval [CI]: 3.2-4.7) ;糖尿病、高脂血症、精神障害があるとおこりやすい。一酸化炭素中毒後1年以内が最もおこりやすいが、4年後も依然とリスクが高い。[Sci Rep. 2019 Nov 11;9(1):16512.]
- 副腎不全(adjusted hazard ratio = 2.5; 95% confidence interval [CI]: 1.8-3.5);副腎不全を発症するリスクは、特に女性および若年患者において高くなります。一酸化炭素中毒後1年しても依然とリスクが高い。[Sci Rep. 2022 Sep 28;12(1):16219.]
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。