甲状腺髄様癌の検査、細胞診、シンチグラフィ、RET遺伝子検査[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺の基礎知識を初心者でもわかるように、長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が解説します。
その他、甲状腺の基本的な事は甲状腺の基本(初心者用) 橋本病の基本(初心者用)を、高度で専門的な知見は甲状腺編 甲状腺編 part2 を御覧ください。
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Summary
甲状腺髄様癌の細胞診は約50-60%の診断率。腫瘍細胞は少なく、多形細胞・類円形細胞(豊富な細胞質の細胞、核は偏在)、紡錘形細胞など多様。核内クロマチンは粗くゴマ塩状、背景にアミロイド様無構造物質。カルシトニン染色、アミロイドのコンゴレッド染色が有用。I-123 MIBGシンチグラフィーの感度は約40%、オクトレオチドシンチグラフィーは乳頭癌、濾胞癌でも同率で陽性になり意味無し。甲状腺髄様癌が確定すると遺伝カウンセリングとインフォームド・コンセントの後、RET遺伝子検査が可能。RET遺伝子変異の種類から甲状腺髄様癌の型を診断、切除範囲も決めて予後予測。
Keywords
甲状腺髄様癌,細胞診,アミロイド,MIBGシンチグラフィー,オクトレオチドシンチグラフィー,RET遺伝子検査,RET遺伝子変異,検査,診断,遺伝カウンセリング
(以下の細胞診の所見は、医療関係者以外の方は無視してください。写真のみご覧になり、「こんなものか」と思っていただければ十分です。)
甲状腺髄様癌の細胞診断は比較的容易と強科書に書いてありますが、実際、それほど容易でなく、45.7-63%の診断率とされます[J Surg Oncol.2005;91:56-60, Endocr Pract.2013;19:920-7.]。筆者自身の経験でも、それ位です。
甲状腺髄様癌の細胞像は
- 腫瘍細胞は少なく、多形細胞・類円形細胞(豊富な細胞質の細胞、核は偏在)、紡錘形細胞など多様
- 島状・索状の細胞集団
- 細胞間の結合性は低下し、散在傾向
- 大型核・多核・偏在する核もあるが、核膜は薄く不整が無い
- 核内クロマチンは粗くゴマ塩状(神経内分泌腫瘍の特徴である)、核内細胞質封入体を認めることも
- 背景にアミロイド様の無構造物質がみられることも
(写真;バーチャル臨床甲状腺カレッジより)
(左)多形細胞・類円形細胞。大型核・偏在する核、核膜は薄く不整が無い、核内クロマチンは粗くゴマ塩状
(右)紡錘形細胞。背景にアミロイド様の無構造物質
実際、こんな典型的な所見は見た事がありません。
教科書的には、比較的簡単に診断できるとされる甲状腺髄様癌。しかし、必ずしも血清カルシトニン値が上昇せず(カルシウム負荷では上昇、FNA-カルシトニンで陽性)、超音波検査(エコー)でも腺腫様結節・良性濾胞腺腫・濾胞性腫瘍と鑑別難、甲状腺髄様癌と確定できないのでRET遺伝子検査も行えない。
この様な時、副腎褐色細胞腫/傍神経節細胞腫の診断に欠かせないヨードMIBGシンチグラム(I-123 MIBGシンチグラフィー)が有用な場合もあります。甲状腺髄様癌も、副腎の副腎褐色細胞腫/傍神経節細胞腫も同じ神経内分泌細胞が起源なので当然と言えます[両者が合併するのは多発性内分泌腺腫症2型(MEN2)]。
ただ、甲状腺髄様癌に対するヨードMIBGシンチグラム(I-123 MIBGシンチグラフィー)の感度はさほど高くなく、38.7%とされます(Q J Nucl Med Mol Imaging. 2008 Dec;52(4):430-40.)
※ヨードMIBGシンチグラム(I-123 MIBGシンチグラフィー)は、副腎褐色細胞腫/傍神経節細胞腫にしか保険適応がありません。
オクトレオチドシンチグラフィーの有効性も報告されています。認可されているオクトレオスキャン®は膵臓、消化管、肺、気管支などの神経内分泌腫瘍に保険適応があり、医学的には甲状腺髄様癌も含まれますが、保険診療上は認められない可能性が高い(高額なのと、おそらく、審査する側に専門知識が無いため)。
オクトレオチドシンチグラフィーは、ソマトスタチン受容体シンチグラフィー(somatostatin receptor scintigraphy:SRS)とも呼ばれます。甲状腺髄様癌などの神経内分泌腫瘍は、ソマトスタチン受容体を持っているため、放射性同位元素(アイソトープ)でラベルしたソマトスタチン様の合成ホルモンに結合します。(ソマトスタチンは、神経内分泌細胞のホルモン分泌を制御するホルモンです)[Yale J Biol Med. 1997 Sep-Dec;70(5-6):523-33.]
しかし、困った事にオクトレオチドシンチグラフィーは、分化型甲状腺癌(乳頭癌、濾胞癌)でも、甲状腺髄様癌と同率で陽性(陽性率40~75%)になるため意味がありません。[Digestion. 1996;57 Suppl 1:36-7.][Neuroendocrinology. 2009;90(2):184-9.]
99mTc(テクネチウム)骨シンチグラフィー
99mTc(テクネチウム)骨シンチグラフィーは、甲状腺髄様癌骨転移の診断に有用。X線検査よりも早期に発見できます
RET遺伝子変異は散発性髄様癌で60%以上、遺伝性髄様癌で90%以上に認められます[Curr Opin Oncol. 2012 May;24(3):229-34.]。逆に、散発性髄様癌の40%未満、遺伝性髄様癌の10%未満がRET遺伝子変異陰性なのは、意外な気がします(一体、どんな遺伝子変異なのだろうか?)。
甲状腺髄様癌のRET遺伝子検査が、2016 年4 月より保険適応となりました(但し、甲状腺髄様癌が確定した患者のみで、血縁者は自費。遺伝子検査に先立って遺伝カウンセリングと遺伝子検査実施に関するインフォームド・コンセントが必須。)
甲状腺髄様癌が、確定または、ほぼ確定すると、RET遺伝子変異の種類から甲状腺髄様癌の型(甲状腺髄様癌の原因)を診断し、切除範囲の決定、予後の予測等を行います。
例え、家族歴や随伴症状・既往歴から散発型と考えられても、そのうちの10~15%はRET遺伝子検査により遺伝性と診断されます。そのため、遺伝性か散発性かの最終診断にはRET遺伝子検査の実施が推奨されています。(Thyroid. 2015 Jun;25(6):567-610.)(Ann Endocrinol (Paris). 2019 Jun;80(3):187-190.)
RET遺伝子変異のほとんどはミスセンス変異であるため、正常の遺伝子多型との鑑別が必要です。遺伝子多型(polymorphism)を遺伝子変異と誤って解釈すると、不必要な予防的甲状腺全摘手術を行う可能性があります[ただし、癌に変わりないんだから、後の憂い(一生の恐怖)を考えると半葉切除でなく、全摘した方が良いと筆者は思います]。
具体的なRET遺伝子変異は上記 甲状腺髄様癌の原因 を御覧ください。
現時点では、検査会社により検索するエクソン部位・費用・報告書の記載方法などが異なるため、改善の余地があります。
※長崎甲状腺クリニック(大阪)ではRET遺伝子変異検査を行っておりません。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。