縦隔内甲状腺腫、上縦隔腫瘍 [甲状腺超音波(エコー)検査 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー検査 甲状腺機能低下症 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌病態内科学教室で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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Summary
上縦隔に入り込んだ甲状腺腫瘍は気管・食道・大血管・心臓を圧迫し気道閉塞・嚥下困難(飲み込みにくい)・上大静脈症候群をおこすため良性でも手術適応。気道閉塞し緊急甲状腺亜全摘術になる症例も。超音波(エコー)・CT/MRIで鎖骨下動脈・腕頭動脈を越えているのを確認。80歳を超えた高齢者の縦隔内甲状腺腫は気管・食道を軽く圧排しても大血管・心臓を圧迫していなければCTで注意深く経過観察。縦隔内甲状腺腫が急激に大きくなったり気管・食道を高度に圧排、大血管・心臓も圧迫した場合、本人・家族が希望するなら手術適応。甲状腺腫以外の上縦隔拡大は胸部大動脈瘤など。
Keywords
上縦隔,甲状腺腫瘍,手術,気道閉塞,超音波,エコー,CT,縦隔内甲状腺腫,上縦隔拡大,甲状腺
縦隔は狭い場所なので、縦隔内に進展した甲状腺腫瘍は、気管・食道・大血管・心臓を圧迫します。よって、上縦隔に入り込んだ甲状腺腫瘍は、例え良性であっても手術適応になります。[Minerva Med. 1989 Jun;80(6):565-70.](甲状腺腫瘍診療ガイドラインより改変)
縦隔内甲状腺は、甲状腺手術症例の1-20%(施設により異なるのでしょう)と報告されます。
上縦隔(縦隔の上の部分)に入り込んだ甲状腺腫瘍(赤↓)の最終確認は、肺(胸部)CTですが、甲状腺エコー(超音波)検査で、ほぼ判ってしまいます。
ただ、縦隔内にまで超音波は届かないため、入り込んでいる甲状腺腫瘍(縦隔成分)の質的診断(良悪性の鑑別、のう胞・腫瘍の鑑別)ができません(甲状腺の病気にCT、MRIは有用でない )。
縦隔内甲状腺腫は、甲状腺手術症例の1-20%(施設により異なる)と報告されています。
福島医大の報告によると、手術となった縦隔内甲状腺腫は
だそうです。長崎甲状腺クリニック(大阪)では、濾胞性腫瘍と同程度、腺腫様結節も内分泌外科へ手術紹介しています。
縦隔内甲状腺腫では
- 気管食道圧排(88%)
- 何らかの自覚症状[高度の呼吸不全、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)も含む](37%)(第53 回日本甲状腺学会 P-215 当科における縦隔内甲状腺腫の診断・治療方針)
呼吸困難(59%);息切れ(39%)、体位による呼吸困難(20%)
嚥下障害(43%);主に固形物で、咽頭喉頭逆流を伴うことも
[Arch Surg. 2004 Jun;139(6):656-9; discussion 659-60.]発声障害;頻度は低いが、声帯の可動性を評価するために術前の間接喉頭鏡検査が必要[Surgery. 2006 Mar;139(3):357-62.]
が起こります。
縦隔甲状腺腫瘍で気道閉塞
胸骨下まで進展し、気道閉塞したため、緊急甲状腺亜全摘術を施行した中毒性多発性腺腫様結節(腺腫様結節が遺伝子変異をおこし制御なく甲状腺ホルモン産生する病態)が報告されています。病理診断は、良性の腺腫様結節だったそうですが、縦隔内へ進展した甲状腺腫瘍(胸腔内甲状腺腫または胸骨下甲状腺腫)は、いつ気道閉塞してもおかしくありません。(第56回日本甲状腺学会 P1-098 気道閉塞を来たし緊急甲状腺亜全摘術を施行した中毒性多発性腺腫様結節の一例)
生後3か月の女児における非中毒性多結節性甲状腺腫により気道閉塞をおこしたケースもあります。外科手術により救命。[Laryngoscope. 2014 Nov;124(11):2636-9.]
胸腔内甲状腺腫(胸骨下甲状腺腫)の呼吸困難を伴う急性増悪時に、内視鏡補助下覚醒経鼻挿管による緊急甲状腺摘出術を施行。[Int J Surg Case Rep. 2014;5(12):1251-3.]
縦隔甲状腺腫瘍で食道圧排
縦隔甲状腺腫瘍で食道圧排すれば、食物の通過が悪く、嚥下困難(飲み込みにくい)をおこします。
縦隔甲状腺腫の5〜9%において[Arch Surg Chic Ill 1960, 141 (1) (2006), pp. 82-85.]、特に右の上縦隔甲状腺腫瘍は上大静脈を圧排するため上大静脈症候群(SVC症候群)がおこります。 ただ、上大静脈症候群を呈するまで進展するのは10cmを越える甲状腺癌がほとんどですが (日臨外医会誌 52: 2881-2886, 1991)[J Surg Case Rep. 2011 Jul 1;2011(7):7.]、
- 10cmを越える良性濾胞腺腫;右上肢の腫脹感で発症、右腕頭静脈の圧排、狭窄を認めたそうです(日臨 外医会誌 55(7), 1723-1727,1994)
- バセドウ病の巨大甲状腺腫[Intern Med. 1993 Jan;32(1):80-3.]
の報告もあります。
上大静脈症候群(SVC症候群)では、外因性圧迫(悪性の場合は静脈浸潤も加わる)による主要静脈系の狭窄と血栓症を引き起こして、
- 頸部の皮静脈の拡張
- 前胸部皮静脈の拡張
- 顔面・頸部の浮腫
- 腕を頭の上に数分間保持すると顔が真紅に変わる(ペンバートン法)[Thyroid Off J Am Thyroid Assoc., 13 (4) (2003), pp. 407-408]
も認めます。
原疾患の治療が間に合わない時は、SVCステントが有用。
※上大静脈症候群(SVC症候群)の46-81%は、肺癌とその縦隔リンパ節転移です(Semin Intervent Radiol. 2017 Dec;34(4):398-408.)。
縦隔甲状腺腫瘍で無気肺
胸骨の後方まで縦隔伸展した巨大甲状腺腫(腺腫様甲状腺腫)が無気肺を引き起こした報告があります[Endokrynol Pol. 2022;73(4):794-795.]。
縦隔内甲状腺腫の超音波(エコー)/CT 画像
ケース①
縦隔内甲状腺腫の超音波(エコー)画像においては、鎖骨下動脈・腕頭動脈の高さでも甲状腺腫瘍が確認できます(要するに鎖骨下動脈・腕頭動脈を超えて甲状腺腫瘍が、縦隔へ伸展している)。
もちろん、CT/MRIでも容易に確認できます(高齢者の縦隔内甲状腺腫参照)。
ケース②
ケース③
ケース④
甲状腺超音波(エコー)検査で見える範囲内に、上縦隔甲状腺腫瘍の一部でもあれば診断可能です。しかし、甲状腺そのものが低い位置にあり、鎖骨を超えた甲状腺下極の下に甲状腺腫瘍が存在する場合[要するに超音波(エコー)が届かない上縦隔内に、甲状腺腫瘍が、すっぽり入っている]、細胞診は気管支鏡に頼るしかありません。どこの施設でも行える訳ではありませんが、超音波気管支鏡下穿刺吸引針生検(EBUS-TBNA)が有効です。ただし、リスクが大きく、患者の苦痛も大きいため、筆者はお勧めできません。どのみち手術になるので、摘出した腫瘍を術中迅速病理診断するのが良いでしょう。
80歳を超えた高齢者の縦隔内甲状腺腫は手術すべきか?非常に迷うところです。気管・食道を軽く圧排するも自覚症状なし、大血管・心臓まで圧迫していない段階では、危険を冒して手術するよりも、慎重に経過を見る方が賢明でしょう。
CTで注意深く経過を観察し、縦隔内甲状腺腫が急激に大きくなったり、気管・食道を高度に圧排し、大血管・心臓までも圧迫した場合、本人・家族が希望する限りは縦隔内甲状腺腫摘出術の適応となります。
(第55回 日本甲状腺学会 P1-07-05 気道狭窄症状を示した高齢者縦隔内甲状腺腫の1例)
80歳以上の高齢者における縦隔甲状腺腫は、80歳未満の場合と比べて、気管転位と気管軟化症が多いものの、甲状腺全摘術での合併症発生率は同程度。[Int J Surg. 2014;12 Suppl 2:S148-S152.]
高齢者の巨大胸骨後甲状腺腫
胸骨後甲状腺腫とは、甲状腺体積の50%以上が胸骨上縁より下にある病態。
高齢者の巨大胸骨後甲状腺腫は、まれだが呼吸困難等を伴う重篤(重症)な病態であり、甲状腺摘出術の適応。[World J Clin Cases. 2024 Jan 26;12(3):643-649.]
縦隔内甲状腺腫と言えども腫瘍の大部分は甲状腺内にあるため、大抵の手術は頚部操作のみで可能です。大き過ぎる場合(巨大縦隔内甲状腺腫)、胸骨切除が必要になります(甲状腺手術で胸骨切開/胸骨切除 )。
胸腔内甲状腺腫または胸骨下甲状腺腫は、甲状腺体積の50%以上が胸骨上縁より下にある病態。
- 2〜22%で悪性
- 10%から30%以上に甲状腺手術の既往歴
- 胸郭のスペースは狭いため、頸部甲状腺腫よりも頻繁に隣接臓器の圧迫を引き起こす。気管、食道、血管、神経の圧迫により、呼吸困難、嚥下障害、上大静脈症候群、鎖骨下静脈血栓症、嗄声、ホーナー症候群がおこる。
- 急性増悪する場合がある。
- 外科切除の適応。呼吸困難症状のある患者には早期の気管減圧が推奨される。
重度の呼吸困難では、挿管と準緊急手術が必要になる場合も。
急性増悪時には内視鏡補助下覚醒経鼻挿管による緊急甲状腺摘出術[Int J Surg Case Rep. 2014;5(12):1251-3.]
[J Thorac Dis. 2012 Nov;4 Suppl 1(Suppl 1):41-8.]
胸腔内甲状腺腫または胸骨下甲状腺腫 胸部X線[J Thorac Dis. 2012 Nov;4 Suppl 1(Suppl 1):41-8.]
高齢者の巨大胸骨後甲状腺腫 CT画像。甲状腺摘出術を施行。[内分泌外会誌 36(4):250-254,2019]
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- 甲状腺編
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,浪速区,天王寺区,東大阪市,生野区も近く。