クレチン症 新生児マススクリーニング(NBS)[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺機能低下症 エコー 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会 学術集会で入手した知見です。
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新生児マススクリーニングの手順[(表)バーチャル臨床甲状腺カレッジより引用]
長崎甲状腺クリニック(大阪)は小児科ではありません。小児クレチン病(先天性甲状腺機能低下症)の診療は20歳以上とさせて頂いております。
Summary
先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)の新生児マススクリーニングは2000人に1人見つかり成果が大きい。治療すれば知能予後・低身長改善)。しかし、ろ紙血TSH測定で不安定。中枢性甲状腺機能低下症を見逃すため札幌市、神奈川県などはFT4も測る。出生後TSHサージが過ぎる生後4-6日で行う。出生体重 2,000g 未満の低出生体重児は視床下部・下垂体系の発達悪くTSHが上昇しないため2回目採血。濾紙血TSH値カットオフ値は自治体により大きく異なる。治療は生後2週間以内に甲状腺ホルモン(チラーヂン)補充療法(10μg/kg/日)開始。
Keywords
先天性甲状腺機能低下症,クレチン症,新生児マススクリーニング,治療,ろ紙血,TSH,FT4,TSHサージ,低出生体重児,甲状腺
先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)新生児マススクリーニング(NBS: neonatal mass-screening)は、1978年、札幌市が独自に行いました。1979年、それを見習い、国単位の先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)新生児マススクリーニングが、世界に先駆け日本で開始されました。
先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)は、新生児マススクリーニング中、最も成果が上がっている病気で、約2,000人に1人見つかり、治療がなされます。
その発見率は以前より増えており、早産児・低出生体重児の増加、TSH陽性基準値の引き下げのためと考えられます。
新生児マススクリーニングの大半は、ろ紙血(ろ紙に染み込ませた血)でTSHのみを測定する簡易検査(Lancet. 1975 Dec 20;2(7947):1233-4.)なので、先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)の1%を占める中枢性甲状腺機能低下症を見逃す可能性があります。
[8自治体のみ(札幌市、神奈川県、山口県、徳島県、東京の1部など)では、甲状腺専門医の意見に耳を傾け、中枢性甲状腺機能低下症を見つけるためにTSHとFT4の両方を測ります。8自治体合わせて、新生児全体の20%を占めます]
ガイドラインにおいて、ろ紙血TSH値の基準値は15~30 µIU/mL(全血値)が推奨されています(基準値を推奨って、何??)。しかし、あきれたことに、ろ紙血TSH値の基準値は自治体によって大きく異なり、自治体により先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)が公然と見逃される危険があるのです。(普通、全国で統一するやろ・・・)
先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)で、生後1ヶ月までに診断されるのは約10%、3ヶ月以内は35%、1歳までが70%、ほぼ100%診断されるのは3~4歳と報告されています(Horm Res. 1997;48(2):51-61.)。
裏を返せば90%が最初のスクリーニング検査で診断できていないと言うことです(遅いわ!全国統一の基準を作るべきと筆者は考えます)。まあ、最も重症な子供は、(新生児マススクリーニングをすり抜ける場合を除けば)最初に見つかるだろうから、統計的に見れば劇的な成果と言う事でしょう。
出生後TSHサージ:胎児の視床下部-下垂体-甲状腺の制御システムは未発達です。正常児では出生時の寒冷刺激に反応してTSHが急上昇し(TSHサージ)、制御システムが機能し始めます。
生後3日までは、出生後TSHサージという出生に伴うTSHの急上昇がおこり、血中のTSHは高値なります。生後3~5日にかけて徐々に低下、安定します。そのため、新生児マススクリーニングは生後4-6日で行う事になっています。
「TSH高値=甲状腺機能低下症」として判定するため、生後4日と5日の測定はTSHサージを甲状腺機能低下症と誤って判定する可能性あり。生後6日に行うべきと筆者は考えています。
治療は生後2週間以内に甲状腺ホルモン(チラーヂンS)補充療法(10μg/kg/日)を開始します。脳神経の発達が遅れてはならないので、原因を調べるより治療が優先されます(それは最もだが、TSHサージが原因で偽高値が出ただけの正常児を治療してどないすんねん!?)。
- 二度付けや、ろ紙を垂直に立てて乾燥させた場合は、TSHが高値になる偽陽性(「二度付け禁止」て、串カツみたいやな・・)
- 高温多湿な場所で乾燥させれば、TSH低値の偽陰性(日本の夏は高温多湿なんだけど)
になります。(表;バーチャル臨床甲状腺カレッジより引用)
低出生体重児の新生児マススクリーニングの手順
出生体重 2,000g 未満の低出生体重児、早産児は視床下部・下垂体系の発達が悪く、先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)であってもTSHが上昇しないため、
- 1回目採血:生後4-6日目
- 2回目採血:1回目の結果にかかわらず
①生後1か月
②体重が2,500gに達した時
③医療施設を退院する時
のいずれか早い時期 に行います。
ヨード(ヨウ素)含有消毒剤でTSH上昇
周産期(出産前後)に使用されるヨード(ヨウ素)含有消毒剤が皮膚からの吸収され[皮膚からのヨウ素(ヨード)吸収]、胎児/妊婦・新生児の甲状腺ホルモン合成を抑制します。そのため、TSH上昇がおこり、新生児マススクリーニング陽性になります。
自治体により大きく異なる新生児マススクリーニングの判定基準
初回に全血TSH値(※)が即精密検査を要する基準(15~50 µIU/mL)以上の新生児は、即精密検査を自治体指定の医療機関で行います。
即精密検査を要する基準未満でも全血TSHが7.5~12 µIU/mL以上の場合、2回目採血を初回採血医療機関に依頼します。再度、全血TSH値が7.5~12 µIU/mL以上の場合は精密検査になります。
皆さん、おかしいと気付かれたでしょうか?、「15~50 µIU/mL以上の」、「7.5~12 µIU/mL以上」と言う表現。信じられない(あきれた)事に、濾紙血TSH値の基準値は、自治体によって大きく異なります[自治体ごとに先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)の判定基準が異なるなど医学を馬鹿にしている]。
参考までに、表の下部には例として新潟県の基準が示されており、
- 即精密検査を要する基準 30 µIU/mL以上
- 再検査を要する基準 8~30 µIU/mL
この8、30の値が自治体により異なるのです(日本全国で統一しろよ🤬)(表;バーチャル臨床甲状腺カレッジより引用)
※成人で測定する血清TSHとは正常範囲が異なります。
ろ紙血中のTSH値は(全血値なので)、通常の採血による血清TSH値と異なります(ヘマトクリットによる補正が必要)。
血清中TSH値≒1.6 x 全血TSH値
日本小児科学会ガイドラインでは?
日本小児科学会ガイドライン(1998年)では、血清TSHで30 µIU/mL以上、FT4で1.5 ng/dL以下の場合、精密検査よりも治療を優先するよう勧めています。
先天性甲状腺機能低下症マススクリーニングガイドライン(2014年改訂版)によると、潜在性甲状腺機能低下症は、全血TSH ≧10 μIU/mL(生後6か月未満)、≧5 μIU/mL(生後6か月以上)と定義されます(Clin Pediatr Endocrinol. 2015 Jul; 24(3):107-33.)。
同ガイドラインでは、「潜在性甲状腺機能低下症で治療を行っていない場合には、甲状腺機能検査を行いつつ、慎重に経過を観察する。一方、治療を行っている場合には、治療を一旦中止しての再評価や病型診断も念頭におく。」とあります。
一般的に、軽度の先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)が持続する場合、生後6ヵ月頃を目途に治療開始します。しかし最近では、ボーダーラインのTSH高値と軽度の身体および知的発達障害が関連する報告を受けて(Lancet Diabetes Endocrinol. 2016 Sep;4(9):756-765.)、より低いTSH値でも治療開始する傾向にあります(要するに、日本のガイドラインは時代遅れと言う訳です)。
それに対して、過剰診断・過剰診療との声もありますが、筆者は違うと思います。日本の社会はセーフティネットこそあるものの、原則、競争社会です。進学、進級、全てに試験があります。最初から軽度の身体および知的発達障害を背負わされてはたまりません。ボーダーラインのTSH高値は早急に治療すべきと考えます。
前述の様に、改善すべき点は多々ありますが、先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)の新生児マススクリーニングは劇的な成果を上げています。
- 約6,000人に1人しか発見できなかった先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)が約2,000人に1人見つかり、早期治療が可能に
- 軽度の甲状腺ホルモン合成障害が見つかるようになり、異所性甲状腺など甲状腺形成異常の比率が80%以上から40-50%に低下
- 知能予後は、明らかに改善
- 低身長も明らかに改善
(表)バーチャル臨床甲状腺カレッジより引用
第58回 日本甲状腺学会で、千葉県における新生児マススクリーニングの動向が詳細に報告されました。1998-2014年の17年に及ぶ統計で、血清TSH≧10 μIU/mL の先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)は、
- 年々、増加している
- 2009,2010,2014年を除き、冬場で有意に多い
- 2009,2010年のインフルエンザ流行年に多く、流行前の夏場から増えだした
というものです。(第58回 日本甲状腺学会 O-1-3 新生児マススクリーニングにおける先天性甲状腺機能低下症陽性率と濾紙検体TSH平均値の季節変動:AH1pdm09の影響)
長崎甲状腺クリニック(大阪)の独自解釈
あくまで長崎甲状腺クリニック(大阪)の独自解釈と断った上で、以下のように考えます。
- 先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)が年々増えているのは、環境ホルモンが原因の一つではないでしょうか?環境ホルモンの中には、甲状腺ホルモンをブロックするものが数多くあります。(環境ホルモンの甲状腺ホルモン作用への影響)
- 先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)が冬場で有意に多いのは、甲状腺ホルモンは冬場に必要量が増え、不足が大きくなるためと考えます。甲状腺ホルモンは新陳代謝を活発にし、熱を産生する代謝ホルモンなので、寒いほど多く必要になるのです。(甲状腺ホルモンの季節変動)
- インフルエンザ流行年に先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)が増える理由:インフルエンザが流行すると言う事は、年間の気温が低い(冷夏~極寒など)可能性があり、甲状腺ホルモンの必要量が増える(甲状腺ホルモンの季節変動)
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
も御覧ください
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,浪速区,生野区も近く。