甲状腺と高マグネシウム(Mg)血症[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波(エコー)検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌病態内科学教室で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。
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腸から吸収されたマグネシウム(Mg)は、腎臓の糸球体でろ過→95%が再吸収され、5%が尿中に排泄されます。
腎機能を反映するeGFRが30以下に低下するとマグネシウム(Mg)の排泄障害が生じます。
長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。高マグネシウム(Mg)血症自体の治療を行っておりません。
Summary
緩下剤・浸透圧下剤、酸化マグネシウム(カマグ、マグミット®、マグラックス®、ミルマグ®)は副作用の少ない安全な薬だが、高齢者など腎機能低下(腎不全)患者に使用すると、高マグネシウム(Mg)血症、マグネシウム中毒で最悪死亡の危険。甲状腺機能低下症/橋本病では腎血流低下し慢性腎不全になるので、便秘に酸化マグネシウム服薬するのは要注意。高マグネシウム血症の症状は、筋力低下、アキレス腱反射など深部腱反射低下、悪心・嘔吐など消化器症状、低血圧、徐脈、末梢血管の拡張による手足の熱感で、甲状腺機能亢進症/バセドウ病、甲状腺機能低下症/橋本病の様。
Keywords
マグネシウム,腎不全,高マグネシウム血症,マグネシウム中毒,甲状腺機能低下症,橋本病,低血圧,徐脈,甲状腺機能亢進症,バセドウ病
緩下剤・浸透圧下剤、酸化マグネシウム(MgO、通称カマグ、マグミット®、マグラックス®、ミルマグ®)は、副作用の少ない安全な薬です。
酸化マグネシウムは難吸収性物質ですが、高齢者を始め、腎機能低下した(腎不全)患者に使用すると、排泄が追い付かなくなり高マグネシウム血症をおこします。最悪、死亡の危険性もあります。このような患者へには「血中マグネシウム値の定期検査を行うよう」添付文書が改訂されましたが、そもそも、マグネシウムを体外に排泄できない腎不全患者に酸化マグネシウムを投与する事自体が間違いなのです(本末転倒)。
ラクツロースは肝不全の高アンモニア血症に使用されますが、慢性便秘症にも浸透圧下剤として保険適応になりました。
また、心機能低下した患者で徐脈、心不全が悪化する危険性のため、慎重投与。
血中マグネシウム(Mg)濃度の正常値は1.8~2.4 mg/dL で、徐脈性不整脈をおこす血清マグネシウム濃度は3.0 mg/dL 以上です。
高マグネシウム血症においては、副甲状腺細胞がマグネシウム(Mg)を同じ2価陽イオンのカルシウム(Ca)と誤認するため、PTH分泌が低下して低カルシウム血症を来します。(副甲状腺が高マグネシウム血症を高カルシウム血症と間違える。)
血清マグネシウム濃度が
- 5.0 mg/dL 以上は心電図でPR延長・QRS幅増大・T波の増高がみられます
- 10 mg/dL 以上で深部腱反射の消失、心抑制による低血圧、呼吸抑制・CO2ナルコーシスが生じます
- 15 mg/dL で心肺停止
[Medicina (Kaunas). 2023 Jun 24;59(7):1190.][Acta Clin Belg. 2019 Feb;74(1):41-47.]
甲状腺機能低下症/橋本病では、便秘のために酸化マグネシウム(通称カマグ、マグミット®、マグラックス®、ミルマグ®)飲む事が多いです。
- 甲状腺機能低下症/橋本病では、心拍出量減少(N Engl J Med. 1977 Jan 6; 296(1):1-6.)、腎血管収縮(N Engl J Med. 2001 Feb 15; 344(7):501-9.)、アルブミンの血管外漏出による循環血漿量減少(Am J Med Sci. 1999 Oct;318(4):277-80.)などに伴う腎血流低下で慢性腎不全の事がある(甲状腺機能低下症で腎機能低下)
- 慢性腎臓病(CKD)では、潜在性甲状腺機能低下症、顕在性甲状腺機能低下症が多いです。
(慢性腎臓病(CKD)の甲状腺機能低下症)
よって、腎機能低下のため、甲状腺機能低下症/橋本病では高マグネシウム血症になり易いのです。
腎機能が正常でも、便秘状態では酸化マグネシウムの腸内滞留時間が延びるため高マグネシウムになる事があります。
以上から、血中甲状腺ホルモン濃度が正常範囲に到達していない甲状腺機能低下症/橋本病では、酸化マグネシウム服用による高マグネシウム血症から、心拍出量減少(N Engl J Med. 1977 Jan 6; 296(1):1-6.)、徐脈が増悪する危険があります。
高マグネシウム血症の症状は、
- 筋力低下[甲状腺機能亢進症/バセドウ病よる筋力低下、甲状腺機能低下症・橋本病と筋力低下(甲状腺機能低下性ミオパチー)の様]
- 嚥下障害(甲状腺腫・甲状腺腫瘍による食道圧排の様)
- アキレス腱反射など深部腱反射の低下(甲状腺機能低下症/橋本病の様)
- 悪心・嘔吐など消化器症状(甲状腺機能亢進症/バセドウ病の消化管運動亢進、甲状腺機能低下症/橋本病による便秘の様)[甲状腺ホルモンと便秘・下痢]
- 低血圧、徐脈(甲状腺機能低下症による徐脈の様)
末梢血管の拡張による手足の熱感・皮膚紅潮(甲状腺機能亢進症/バセドウ病の様) - 精神症状;傾眠(眠い)・無気力・昏睡(甲状腺機能低下症の精神障害、粘液水腫性昏睡の様)
高マグネシウム血症の検査所見は、
- 血清Mg濃度:2.7 mg/dL(2.2 mEq/L)以上
- 心電図異常:
PR・QT延長(甲状腺機能亢進症/バセドウ病・甲状腺機能低下症で二次性QT延長症候群)
QRS幅拡大
P波の消失・完全房室ブロック(甲状腺機能低下症による徐脈性不整脈)
[Medicina (Kaunas). 2023 Jun 24;59(7):1190.][Acta Clin Belg. 2019 Feb;74(1):41-47.]
甲状腺機能低下症/橋本病
緩下剤、酸化マグネシウム(通称カマグ、マグミット®、マグラックス®、ミルマグ®)は甲状腺機能低下症の治療薬、甲状腺ホルモン剤:チラーヂンS(一般名:レボチロキシン ナトリウム)の吸収障害をおこします。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病
甲状腺機能亢進症/バセドウ病では交感神経刺激作用により、胃酸分泌亢進し、消化管潰瘍(胃十二指腸潰瘍)おこしやすく、胃酸分泌抑制薬のプロトンポンプ阻害薬(PPI)を使用する事があります。(胃十二指腸潰瘍)[甲状腺機能亢進症/バセドウ病と消化管潰瘍(胃十二指腸潰瘍)]
酸化マグネシウムは、胃酸で塩化マグネシウム→腸内で重炭酸マグネシウム→難溶性の炭酸マグネシウムとなり、腸壁の水分を吸収し便を軟化させます(冒頭の図)。プロトンポンプ阻害薬(PPI)で胃酸が低下すると、塩化マグネシウムが形成されず、下剤効果が減弱します。
甲状腺以外への影響
キノロン系抗菌薬はマグネシウムと難溶性のキレートを形成するため、吸収が阻害され、効果が減弱します。キノロン系抗菌薬の服用後2時間以上空け、酸化マグネシウムを服用する必要があります。
セフェム系抗生物質のセフジニル(セフゾン®他)、セフポドキシムプロキセチル(バナン®他)、マクロライド系抗生物質のアジスロマイシン(ジスロマック®)の吸収も低下させます。
高マグネシウム血症の治療は、
- グルコン酸カルシウムの投与;カルシウム(Ca)でマグネシウム(Mg)に拮抗させる
- 利尿によるマグネシウム(Mg)排泄、透析による除去(血液中のMgイオンは遊離型が70%で透析効率が良い)
高マグネシウム血症の予防として、容易に高マグネシウム血症をきたす高齢者、腎不全患者の便秘症には
- 腸管上皮機能改善薬
アミティーザカプセル®(ルビプロストン)
リンゼス®(リナクロチド)
グーフィス®(エロビキシバット);回腸末端部の上皮細胞で胆汁酸再吸収を行う胆汁酸トランスポーターに対する阻害薬。大腸管腔内に胆汁酸が留まると、水分泌や消化管運動が促進されます。
- セレキノン;消化管運動を活発にすると言いますが、筆者の経験では効いた験しが無い
- 大建中湯(ダイケンチュウトウ);
①低カリウム血症[偽性アルドステロン症(偽アルドステロン症)]の原因になる甘草は含まれていない。
②しかし、ニンジン(甲状腺ホルモン類似の交感神経刺激作用がある)を含むため、心房細動(Af) 頻脈性不整脈などがある方、甲状腺機能亢進症/バセドウ病で甲状腺機能がまだ正常化していない方にはお勧めできません[甲状腺機能亢進症/バセドウ病の交感神経刺激症状(発汗、動悸、体重減少、不眠、手の震え、高血圧など)を悪化させます]。逆に、甲状腺機能低下症/橋本病の方には丁度いいかも
- 調胃承気湯(チョウイジョウキトウ):漢方便秘薬、低カリウム血症[偽性アルドステロン症(偽アルドステロン症)]の原因になる甘草(カンゾウ)を含む。
- 大黄甘草湯(ダイオウカンゾウトウ):漢方便秘薬、低カリウム血症[偽性アルドステロン症(偽アルドステロン症)]の原因になる甘草(カンゾウ)を含む。
の投与が勧められます。
アミティーザカプセル®(ルビプロストン)は、(大腸ではなく)小腸上皮のClC-2クロライドチャネルを活性化し、腸管内への水分分泌を促進させ便を軟らかくする薬です(クロライドチャネルアクチベーター)。
パントシン®(パンテチン)は水溶性ビタミンで、ビタミンB群の1つ(ビタミンB5)です。腸管運動促進作用だけでなく、
- 甲状腺機能亢進症、妊産婦、授乳婦などパントテン酸欠乏症の予防及び治療効果
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動脈硬化の進展抑制作用
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血清総コレステロール・中性脂肪低下作用、HDL-コレステロール増加作用
ミルク・アルカリ症候群(milk-alkali syndrome)は、
大量の牛乳+[炭酸カルシウム(CaCO3)、酸化マグネシウム(MgO)などのアルカリ性薬剤]の同時摂取で高カルシウム血症→急性腎障害(AKI)・臓器の石灰化
が起きる病態です。[Mayo Clin Proc. 2009 Mar;84(3):261-7.]
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。