マクロTSH血症・抗ヒトTSH自己抗体IgG[橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]

甲状腺：専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪

甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科（内分泌骨リ科）で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。

長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。

マクロTSH血症

TSHと抗ヒトTSH自己抗体IgGの結合により大分子TSH（マクロTSH）が形成される病態をマクロTSH血症と呼びます（Clin Endocrinol (Oxf). 2015 Dec;83(6):923-30.）。

市販のTSH測定キットでは、マクロTSHも同時に測定してしまうため偽高値になります。

マクロTSH血症では、正常範囲のFT4に比し不適切なTSH上昇[TSH不適切分泌症候群(SITSH)]になり、潜在性甲状腺機能低下症類似の検査所見を呈します（と言ってもTSH>10.0 μIU/mL は潜在性でなく顕在性ですが）。

マクロTSHのホルモン活性は低く、甲状腺を刺激しないため無症状です。マクロTSH血症を潜在性甲状腺機能低下症と誤認したとしても、

1. 潜在性甲状腺機能低下症の2/3は無症状なので、マクロTSH血症を疑う理由がない
2. 潜在性甲状腺機能低下症の1/3は顕在性甲状腺機能低下症と同じ症状なので、該当する症状があったら（本当は甲状腺以外が原因なのに）甲状腺のせいにされ、誰もマクロTSH血症を疑わない。

マクロTSH血症の頻度は、

1. 潜在性甲状腺機能低下症の検査所見を示す患者の0.79％（200人に1人以上）。（Eur J Endocrinol. 2016 Jan;174(1):9-15.）
2. 不妊女性の0.17%（Thyroid. 2018 Oct;28(10):1252-1260.）

とされます

マクロTSH血症の診断（証明）は、

1. ポリエチレングリコール（PEG）法；TSHの換算式が確立していないため換算値を出せませんが、血清TSH沈殿率>70%で、TSH偽高値かマクロTSH血症いずれかである証明になります。
    
2. ゲル濾過法；TSHが分子量約150kDa以上で溶出され、確実性が高い方法。実験室・研究室内の学問的興味でしか行えない検査。マクロTSH血症の証明になりますが、抗マウスIgG型異好抗体(HAMA)も150kDa付近に存在するため鑑別が必要。中性条件下でゲル濾過を行うと、IgG分画近傍にピークが出現、マクロTSH血症なら酸性条件下でピークは消失。酸性条件下でピークが消なければ、IgG型異好抗体。
   ゲル濾過中にTSHが自己抗体から解離する可能性もあるとの事です。
   [Eur Thyroid J. 2021 Mar;10(1):93-97.][Clin Endocrinol (Oxf). 2015 Dec;83(6):923-30.][Eur J Endocrinol. 2016 Jan;174(1):9-15.]
     
3. マクロTSH血症の確定診断は、患者血清とヒト合成TSHで大分子TSHが生成され、大分子TSH分画の凍結融解で28kDaの遊離TSHが確認されることです。しかし、実験室・研究室内に限定され、学問的興味でしか行えない検査。
    
4. さらに抗ヒトTSH自己抗体IgGの証明として、I-125 hTSHが患者血清に結合し、非標識hTSHで競合阻害されるIgG-bound TSHを確認する事です。（protein G法）
    
5. 2step測定法のアーキテクト®（アボットジャパン）；患者血清中の抗体を洗い流す測定法につき、ある程度は抗ヒトTSH自己抗体IgGも洗い流されるので、1step法と比べるとTSHは大幅に低下します。しかし、マクロTSH自体は洗い流されないので依然、偽高値の状態は続きます[Eur J Endocrinol. 2016 Jan;174(1):9-15.]。
   
   報告例；TSH 119.0 μIU/mL（1ステップ法）→31.8 μIU/mL（2ステップ法）
    
   即ち、市販のTSH測定キットでマクロTSH血症を完全に解除できるものはありません（困ったもんだ）。

（Thyroid. 2018 Oct;28(10):1252-1260.）（日本甲状腺学会雑誌 April 2019；10（1）：57.）（第64回 日本甲状腺学会 41-3 LH高値を示したマクロTSＨ血症の一例)

マクロTSH血症にマクロLH血症を伴ったケースも報告されています。FSH高値ながらマクロFSH血症は認めないようです。60歳男性で、血清LH 61.4 IU/L(2.2–8.4 IU/L)、血清FSH 13.7 IU/L(1.8–12.0 IU/L)、血清遊離テストステロン 19.4 pg/mL(4.6–19.6 pg/mL)（第64回 日本甲状腺学会 41-3 LH高値を示したマクロTSＨ血症の一例)[Clin Chem Lab Med. 2022 Dec 13;61(6):e81-e84.]

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