バセドウ病/甲状腺機能亢進症のアイソトープ(放射性ヨウ素; I-131)治療後の管理[橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺の基礎知識を初心者でもわかるように、長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が解説します。
その他、甲状腺の基本的な事は甲状腺の基本(初心者用)、橋本病の基本(初心者用)を、高度で専門的な知見は甲状腺編 甲状腺編 part2 を御覧ください。
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バセドウ病で長崎甲状腺クリニック(大阪)を受診される方への注意
バセドウ病の治療開始(再開)後、頻回の副作用チェックが必要なため①大阪市と隣接市の方に限定②来院できず薬を自己中断する方をお受けできません。
長崎甲状腺クリニック(大阪)ではバセドウ病/甲状腺機能亢進症のアイソトープ(放射性ヨウ素; I-131)治療自体を行っていません。
Summary
アイソトープ、放射性ヨウ素(I-131)は体液(唾液、汗、尿、糞便)に排泄され他人を被曝させるため、放射線量が半分になる8日間(半減期)まで妊婦や子供と近距離での接触避ける。排泄後2回水を流し、男性も便座に座り排尿、男女とも最低6ヵ月間は避妊する等制限あり。現実はバセドウ抗体(TRAb)が激増し元の抗体量に戻るのに2年以上掛かり、妊娠するとTRAbが胎児バセドウ病おこす。治療後1年間は甲状腺ホルモンが乱高下。数年で放射線治療後甲状腺機能低下症になり甲状腺ホルモン剤の服薬が生涯必要。中途半端な少量I-131では甲状腺機能亢進症再発・甲状腺癌の危険が残る。
Keywords
アイソトープ,放射性ヨウ素,I-131,被曝,避妊,TRAb,甲状腺癌,甲状腺機能亢進症,再発,バセドウ病
アイソトープの放射性ヨウ素(I-131)は体液(唾液、汗、尿、糞便)に排泄され、触れた人を被曝させます。また、甲状腺に取り込まれた放射性ヨウ素は、ガンマ線を出し続け、周囲の人を被曝させます。
そのため、アイソトープ(放射性ヨウ素; I-131)治療後、放射線量が半分になるまでの8日間(半減期)(筆者は、ほぼ完全に放射線が消失する14日までにすべきと考えます)は、
- 妊婦や子供との近距離での接触をなるべく避ける(だっこ、おんぶは15分以内なら良いとされますが、医学的根拠が充分でない基準です。可能な限り避けるべきと筆者は考えます。)
- トイレを放射能汚染させないため、排泄後2回水を流し、男性も便座に座り排尿する(3日間で良いとされますが、医学的根拠が充分でない基準です。)
- 男女とも最低6ヵ月間は避妊する。[古い古い考えです。男性は、それでよいです。アイソトープ(放射性ヨウ素; I-131)治療後、甲状腺ホルモンは低下しますが、バセドウ抗体(TRAb)が激増し、元の抗体量に戻るのに2年以上掛かります。それまでに妊娠した女性では、胎盤を通過したバセドウ抗体(TRAb)が、胎児の甲状腺を刺激し胎児バセドウ病が発症。最悪、子宮内胎児死亡に至ります(アイソトープ治療後妊娠)]
アイソトープ(放射性ヨウ素; I-131)治療後バセドウ抗体(TRAb)の変化;これを見ると、「6ヵ月だけの避妊で良い」などと、とても言えません。そもそも、妊娠予定女性にアイソトープ(放射性ヨウ素; I-131)治療を勧めること自体、おかしい。(アイソトープ治療後妊娠)
アイソトープ(放射性ヨウ素; I-131)治療後1年間は甲状腺ホルモンが乱高下します。
- 減少後再上昇67%
- 上昇後減少して再上昇17%
- ゆっくり減少16%
(Ann Nucl Med 2005;9:297-308)]
甲状腺濾胞細胞のまとまった破壊が急激におきるごとに、甲状腺ホルモンが一時的に上昇すると考えられます。アイソトープ(放射性ヨウ素; I-131)治療後、最低4ヵ月は月1回の甲状腺ホルモン測定が必要です。
複数回、甲状腺ホルモンが乱高下する場合
さらに甲状腺ホルモンが乱高下する場合もあります。アイソトープ(放射性ヨウ素; I-131)治療後、3回にわたり甲状腺ホルモン上昇と下降を繰り返した報告があります。その過程において甲状腺腫は縮小傾向で、甲状腺濾胞の急激な破壊が3回おこったためと考えられます。(第60回 日本甲状腺学会 P2-3-2 放射性ヨード内用療法後に特異な経過を示した1症例)
強烈な破壊性甲状腺炎をおこす場合
特に、甲状腺ホルモンが正常化していない状態で、アイソトープ(放射性ヨウ素; I-131)治療を行った場合、効率良くI-131を取り込み(集積し)過ぎて、強烈な破壊性甲状腺炎がおこる可能性があります。バセドウ病の再発と鑑別が必要です(甲状腺内血流、99mTcシンチグラフィーにて)。強烈に甲状腺組織が破壊された後は、甲状腺萎縮・甲状腺機能低下症に至り、治療成功です。
アイソトープ(放射性ヨウ素; I-131)治療後1年間はどんな治療をするか
放射性ヨウ素治療後の数か月間は、その時点での甲状腺機能に応じて抗甲状腺薬、甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)、および2つの併用を行います。
いずれの治療を行っても、甲状腺機能は
- バセドウ眼症の新規発症/悪化
- 体重増加
- 心血管イベント
に関連しません(要するに、どんな治療しても起こってしまう)。そして、どんな治療しても1年後の放射性ヨウ素治療の結果(成功、失敗)に変わりはありません。
[Clin Endocrinol (Oxf). 2022 Nov;97(5):664-675.]
数年で、放射線治療後甲状腺機能低下症になり、甲状腺ホルモン剤、チラーヂンS錠(レボチロキシン ナトリウム)の服薬が生涯必要になります。しかし、
- 二度とバセドウ病の再発なく
- 服薬している限りいつ副作用が起こっても不思議でない抗甲状腺薬MMI(メルカゾール)、PTU(プロパジール、チウラジール)とおさらばして
- 甲状腺専門医側も、非常に甲状腺機能を管理し易くなります。
新たに提唱された「甲状腺機能正常を目指した治療目標」のため、中途半端な量あるいは少量のアイソトープ(放射性ヨウ素; I-131)を使用した場合、甲状腺機能亢進症が再発するのは当然と思います(新しく提唱された治療目標)。筆者に言わせれば、甲状腺機能亢進症/バセドウ病を甘く見過ぎています。
一方、アイソトープ(放射性ヨウ素; I-131)治療が成功して、甲状腺重量が10g以下に十分縮小し、甲状腺ホルモン補充療法が必要となった後でも、稀に甲状腺中毒症状態になる場合があります。
- 無痛性甲状腺炎の合併;バセドウ病の約80%は橋本病の破壊抗体[抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)]も持っているので仕方ない
- バセドウ病再発;バセドウ病の活動性が高過ぎれば仕方ない[Ther Adv Endocrinol Metab. 2017 Jul;8(7):111-115.]
(第60回 日本甲状腺学会 P2-3-3 バセドウ病のRI治療により甲状腺が十分縮小したにもかかわらず 再び甲状腺機能亢進症を呈した無痛性甲状腺炎とバセドウ病再発例について)。
ましてや、中途半端に甲状腺組織が残存していれば、そのリスクはさらに高くなります。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
も御覧ください
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。