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浸潤型微小甲状腺乳頭癌    [日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波(エコー)検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]

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甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪

甲状腺専門長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科学講座で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。

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他医からの甲状腺微小乳頭癌経過観察の引継ぎはお断りしています。

Summary

浸潤型微小乳頭癌は浸潤・転移しやすい甲状腺微小乳頭癌だが頻度は1%以下。浸潤型微小乳頭癌は小さ過ぎて(1mm以下)甲状腺内の原発巣が見つからない状態でも転移する事がある。大抵、肺転移・骨転移が先に見つかり、原発巣を探していくと甲状腺微小乳頭癌にたどり着く。浸潤型微小乳頭癌の肺転移は通常型の甲状腺微小乳頭癌と異なり、孤立性で原発性肺がんと鑑別困難。TBLBで採取した組織が甲状腺分化癌に特有のサイログロブリンを発現しないことがある。不明熱をおこす浸潤型微小乳頭癌未分化転化する甲状腺微小乳頭癌もある。

Keywords

浸潤型微小乳頭癌,浸潤,転移,甲状腺微小乳頭癌,肺転移,骨転移,未分化転化,肺がん,サイログロブリン,甲状腺

浸潤型微小乳頭癌とは

甲状腺乳頭癌には、大半を占める「死なない癌」と少数ながら激しい浸潤・転移を伴う「死ぬ癌」の2種類があります。

甲状腺微小乳頭癌の中には、浸潤・転移しやすい浸潤型微小乳頭癌が確かに存在します。浸潤・転移しやすい甲状腺微小乳頭癌か否かを調べることは現時点で不可能で、浸潤・転移するかどうか経過観察するしかありません。

浸潤型微小乳頭癌の頻度は甲状腺微小乳頭癌の1%以下と考えられます。浸潤型微小乳頭癌である危険性を考え甲状腺微小乳頭癌をすべて手術するなら、結果的に無駄な手術も増えるでしょう。他領域の専門医に比べると甲状腺専門医の数は遥かに少なく、甲状腺外科専門医・内分泌外科専門医は更に輪を掛けて少ないのが実情です。進行癌など優先順位を考えれば、とても手が回らないのも事実です。

浸潤型微小乳頭癌は、筆者も幾度か遭遇しています。大抵、肺転移・骨転移が先に見つかり、原発巣を探していくと甲状腺微小乳頭癌にたどり着くと言うものです。

野口病院の報告では、原発巣が甲状腺分化癌(甲状腺乳頭癌,甲状腺濾胞癌)で遠隔転移治療目的で放射性ヨード内用療法施行した112 症例(甲状腺乳頭癌:99、甲状腺濾胞癌:13)の内、甲状腺微小癌が5 症例(4.5%)[甲状腺微小乳頭癌:4 例(4%)、甲状腺微小濾胞癌1 例(7.7%)]存在した。その詳細は、

  1. 平均年齢66.4 歳(51-82)
  2. 転移病巣は肺転移3 例、骨転移1 例、肺転移と骨転移両方1 例
  3. 5 例中4 例は転移を契機に発見され、1 例は術後経過観察中に転移を指摘
  4. 甲状腺内にあった原発巣の大きさは5 例中3 例が5mm 以下、5mm 以上の病変は石灰化を有した
  5. 2 症例にリンパ節転移を認めた

で、浸潤型微小乳頭癌は無視できない存在です。(第57回 日本甲状腺学会 P1-065 分化型甲状腺微小癌の遠隔転移についての考察)

8年以上して浸潤型微小乳頭癌と判明

通常型の甲状腺微小乳頭癌として治療を受けずに8年以上経過観察した後、頚部リンパ節転移もないのに、画像で確認できる肺転移を来した浸潤型微小乳頭癌が報告されています(Thyroid. 2009 Mar;19(3):309-11.)。

この様な報告を見ると、通常型の甲状腺微小乳頭癌であっても油断できないと思います。

浸潤型微小乳頭癌は、小さ過ぎて見つからなくても転移する

浸潤型微小乳頭癌は、小さ過ぎて甲状腺内の原発巣が見つからない状態でも転移するケースがあります。神戸市立医療センター中央市民病院の報告を見るとゾッとします。(第60回 日本甲状腺学会 O4-6 オカルト癌で発見された微小乳頭癌の2症例)

  1. 【症例1】 74歳男性。胸部CTで右肺腫瘍1か所と左鎖骨上窩リンパ節腫大15mmを認め、FDG-PET/CT陽性。生検行い肺は扁平上皮癌、リンパ節は腺癌疑いだがサイログロブリン染色一部陽性。甲状腺超音波(エコー)検査で甲状腺内に腫瘍なし。リンパ節腫大は甲状腺癌転移と考え、甲状腺全摘術と左頸部郭清術施行。摘出甲状腺の病理組織に1mm以下の甲状腺微小乳頭癌を計4か所認めた。術後I-131 シンチグラフィーにて、左頚部リンパ節集積を認め、転移リンパ節がまだ残っていた。 

    さすがに1mm以下の甲状腺微小乳頭癌は、エコーで見つけるのは不可能です。筆者はこれまで2mm台・3mm未満の甲状腺腫瘍なら簡単に見つけてきましたが、例えプレミアム超音波診断装置ARIETTA 850 SE(甲状腺特化型)を用いても、1mm以下を見つけるのは無理です。
     
  2. 【症例2】 70歳女性、歩行障害を認める。MRIで第3-4胸椎に腫瘍を認め、生検にてコロ イドを含んだ濾胞様構造だったがサイログロブリン染色陰性。しかし、血清サイログロブリンは8380 ng/mL[抗サイログロブリン抗体(TgAb)陰性]と異常高値、FDG-PET/CTで集積は胸椎のみ、甲状腺超音波(エコー)検査で左葉に数mmの腫瘍を認めるも、穿刺吸引細胞診は良性。甲状腺癌脊椎転移と考え、胸椎の放射線外照射30Gyと胸椎腫瘍切除後に甲状腺全摘術行う。摘出甲状腺左葉に、肉眼で見える3mmの結節を認め、甲状腺乳頭癌だった。

    この症例では3mmの甲状腺腫瘍を見つけているものの、細胞診による判定ができず。状況証拠から浸潤型微小乳頭癌の診断になりますが、エコー所見は甲状腺乳頭癌濾胞型甲状腺乳頭癌のどちらだったのでしょうか?

浸潤型微小乳頭癌の肺転移

浸潤型微小乳頭癌の肺転移は、必ずしも、びまん性多発性小粒状とは限りません。孤立性で原発性肺がんと鑑別困難な症例も存在します。

しかも、TBLBで採取した組織が甲状腺分化癌に特有のサイログロブリンを発現しないことがあります。

また、頚部リンパ節転移が見当たらないのに肺転移する事があります(信州医誌,59(2):89~95,2011)(日呼吸会誌 46(7):578-582,2008.)(Thyroid. 2009 Mar;19(3):309-11.)。

肺CTで肺転移の有無を定期的に確認する必要があると筆者は考えております。

浸潤型微小乳頭癌の肺転移

不明熱をおこす浸潤型微小乳頭癌

通常の甲状腺乳頭癌でも無症状のケースが圧倒的に多いのに、不明熱をおこす浸潤型微小乳頭癌が報告されました。患者は31歳女性。夜間の38度以上の弛張熱と多関節痛が持続し、

  1. まず膠原病が疑われるも、抗核抗体陽性(speckled pattern)以外、膠原病関連の自己抗体は全て陰性。 関節エコーで滑膜炎を認めず否定的。
     
  2. 次に感染症を疑うも、エプスタイン‐バールウイルス (EBV) サイトメガロウイルス(CMV)トキソプラズマ症クラミジアなど否定的
     
  3. 困った時の全身CTにて、 左頸部に最大10mmのリンパ節腫大を複数認めリンパ節生検。 生検後に弛張熱と多関節痛は消失(おそらく、このリンパ節が最大量の炎症性サイトカインを産生していた)。病理組織は、スリガラス状の核と濾胞構造を有する乳頭状異型細胞、免疫染色でTTF-1・サイログロブリン陽性。

甲状腺乳頭癌のリンパ節転移と診断。甲状腺エコーで気管に接して5mmの辺縁不正な低エコー結節を認め、微小乳頭癌が確定。結果として、浸潤型微小乳頭癌による腫瘍随伴症候群(本症では多関節痛と弛張熱)と考えられた。(第61回 日本甲状腺学会 O12-2 多関節痛と弛張熱を契機に診断された頸部リンパ節転移を伴った 浸潤性甲状腺微小乳頭癌)

こんな浸潤型微小乳頭癌は筆者も見た事が無く、浸潤型微小乳頭癌の恐ろしさが良く分かります。

不明熱の精査目的でおこなったFDG-PET/MRI検査で、肺転移・肝転移の同時多発転移を伴う多発性浸潤型微小乳頭癌を同定した報告があります。[World J Clin Cases. 2022 May 16;10(14):4661-4668.]

そもそも、腫瘍随伴性神経症候群(PNS)は、悪性腫瘍の遠隔免疫効果によって引き起こされます。小細胞肺癌患者でよく発生しますが、甲状腺がん患者においてはまれです。抗SOX1抗体陽性腫瘍随伴性神経症候群による自律神経障害をおこした甲状腺微小乳頭癌の報告があります、甲状腺全摘術後に症状は速やかに消失し、血清抗SOX1抗体は陰性化。[Medicine (Baltimore). 2023 Apr 21;102(16):e33499.]

未分化転化する甲状腺微小乳頭癌

甲状腺微小乳頭癌と言えども未分化転化する危険があります。

  1. 未分化転化し、4カ月で5mmの増大を認めた高齢者甲状腺微小乳頭癌(第65回 日本甲状腺学会 P18-6 積極的経過観察中に未分化転化をきたした甲状腺微小乳頭癌の一例)
  2. 転移リンパ節が未分化転化した多巣性(多発性)甲状腺微小乳頭癌[JAMA Otolaryngol Head Neck Surg. 2013 Apr;139(4):415-8.]

の報告があります。

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長崎甲状腺クリニック(大阪)


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