甲状腺と睡眠障害:不眠症,メラトニン,メラトニン受容体作動薬(刺激薬)ロゼレム®(ラメルテオン),レム睡眠とノンレム睡眠[長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見③ 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学附属病院 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
長崎甲状腺クリニック(大阪)以外の写真・図表はPubMed等で学術目的にて使用可能なもの、public health目的で官公庁・非営利団体等が公表したものを一部改変しています。引用元に感謝いたします。
甲状腺・動脈硬化・内分泌代謝・糖尿病に御用の方は 甲状腺編 動脈硬化編 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等 糖尿病編 をクリックください
厚生労働省「令和元年国民健康・栄養調査結果の概要」によると1日の平均睡眠時間は、
- 6時間未満は男女ともに約4割(男性 37.5%、女性 40.6%)
- 6時間以上7時間未満は男性 32.7%、女性 36.2%
睡眠の確保の妨げとなる最大のものは、
- 20~29歳では、男女ともに「就寝前に携帯電話、メール、ゲームなどに熱中すること」(男性:43.2%、女性:42.7%)
- 40~49歳の男性は「仕事」(38.8%)
- 30~39歳の女性は「育児」(30.9%)
長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。不眠症の治療、メラトニン受容体作動薬のロゼレム®(ラメルテオン)の処方を行っておりません。内科、精神科、神経科、心療内科を受診してください。
Summary
脳の松果体から分泌される睡眠ホルモンのメラトニンは加齢とともに減少。メラトニン受容体作動薬(刺激薬)ロゼレム®(ラメルテオン)は耐性・依存症・認知症の副作用なし。安全性は高いが即効性に欠け効果は弱い。また、メラトニンは視床下部-下垂体-甲状腺軸へ関与し、基礎実験では①サイログロブリン遺伝子の発現調節②甲状腺の成長と機能を阻害③甲状腺癌(甲状腺未分化癌も含む)に対して抗腫瘍活性を持つ。高齢者の不眠治療は就眠制限・刺激調整・高照度光療法。夕食後のカフェイン、タバコのニコチンを避ける、ブルーライト対策。甲状腺機能低下症では深いノンレム睡眠が減少。
Keywords
甲状腺,睡眠ホルモン,甲状腺機能低下症,ロゼレム,レム睡眠,ノンレム睡眠,ブルーライト,不眠,メラトニン,ラメルテオン
以下は、本ページ
甲状腺と睡眠障害:不眠症,覚醒ホルモン,オレキシン,スボレキサント(ベルソムラ®),レンボレキサント(デエビゴ®),ナルコレプシー
睡眠は、心(脳)と体を休めるのに必要不可欠なものです。体は横になっていれば回復しますが、脳は睡眠を取らない限り回復しません。脳が積極的に休む時間が睡眠です。脳が深い眠りに入ると成長ホルモンが分泌され、筋肉や骨の成長を助け、疲労物質を分解します。
1 日の睡眠と覚醒のタイミングを司るのは体内時計です。人間は起床直後に太陽光を浴びると体内時計がリセットされて動き出し、暗くなると眠ります。これが狂うのが不眠症です。太陽光による体内時計のリセットが起床直後に行われないと、眠れる時間に狂いが生じます
成人の5人に1人が不眠症状を持っているとされます。
不眠症は、
- 寝つきが悪い(入眠困難)
- 途中で目が覚める(中途覚醒)
- 朝早く目が覚める(早朝覚醒)
- ぐっすり眠った感じがしない(熟眠障害)
の4つに分類されます。
加齢、精神的ストレスによる不眠と思っても、実は甲状腺の病気・何かしらの病気が隠れている可能性があります。
- 甲状腺機能低下症/橋本病、先端巨大症(成長ホルモン産生下垂体神経内分泌腫瘍)などによる閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)
- 甲状腺機能低下症;睡眠の質が低下するとの報告あり[Risk Manag Healthc Policy. 2019 Dec 19:12:369-374.]
- 甲状腺機能亢進症/バセドウ病;不安やうつ病などを引き起こしたり、悪化させて不眠症を誘発[Indian J Endocrinol Metab. 2011 Jan;15(1):23-6.]、睡眠相後退症候群 覚醒障害(睡眠時遊行症)
- むずむず脚症候群(レストレスレッグ症候群)
- 肺胞低換気症候群
- 高血圧(甲状腺の高血圧)
- パーキンソン病(ドパミンアゴニストなど治療薬の副作用)
メラトニン受容体作動薬―ロゼレム®(ラメルテオン)
- 従来のベンゾジアゼピン系睡眠薬のような抗不安作用はなく、不安が強いため不眠症になっている人に効果ありません。
- 睡眠を深める効果は強くないので、
①入眠障害
②高齢者の夜間せん妄
③術後の不眠
に有用と思われます。夕食後に飲めば、寝る前に効きそうです。
- せん妄を予防する効果はありますが、せん妄が起きた場合に抑える効果はありません。
- (実臨床の場では)安全性が高いものの、即効性に欠け、単剤で明確な効果を期待するのは難しい印象です。
- メラトニン分泌が必ずしも後退していない睡眠リズム障害のケースで効果を期待するのは難しい。
ロゼレム®(ラメルテオン)と抗うつ剤ルボックス®(フルボキサミン)は併用禁忌
ロゼレム®(ラメルテオン)と抗うつ剤ルボックス®・デプロメール®(フルボキサミン)は併用禁忌です。ロゼレム®(ラメルテオン)は肝臓の薬物代謝酵素CYP1A2で分解されますが、ルボックス®・デプロメール®(フルボキサミン)はCYP1A2を阻害するため、ロゼレム®(ラメルテオン)の血中濃度が20倍以上に上昇します。
また、ルボックス®・デプロメール®(フルボキサミン)は、添付文書で「眠気、意識レベルの低下・意識消失等の意識障害が起こることがあるので、本剤投与中の患者には、自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させないよう注意すること。」と記載されており、服薬中の自動車の運転は禁止されています。
一方、ジェイゾロフト®(セルトラリン)、パキシル®(パロキセチン)、レクサプロ®(エスシタロプラム)は、「十分注意させる」のみで、禁止はされていません。
メラトニン-睡眠以外の作用(甲状腺などへの影響)
睡眠ホルモンのメラトニンは、睡眠以外の作用もあります。
- アレルギー疾患(アトピー性皮膚炎)を改善する神経免疫学的作用(Int J Mol Sci. 2014 Aug 4; 15(8):13482-93.)(Prog Brain Res. 2010; 181():127-51.)
- 抗酸化作用があり、酸化ストレスや紫外線(UV)によるDNA損傷を防ぐ作用(J Pineal Res. 2001 Aug; 31(1):39-45.)
- 視床下部 -下垂体 - 甲状腺軸への関与(Life Sci. 1981 Nov 9;29(19):1929-36.)
- カルシトニンを産生する甲状腺のC細胞でもメラトニンが作られ、パラクリン的な調節を行います。TSH刺激により産生されたメラトニンによりサイログロブリン遺伝子の発現が調節されます。(J Physiol Pharmacol. 2015 Oct; 66(5):643-52.)(Histol Histopathol. 2012 Nov;27(11):1429-38.)
- 動物実験の話ですが、甲状腺の成長と機能をメラトニンが阻害します。(Neuro Endocrinol Lett. 2002 Apr;23 Suppl 1:73-8.)
- 基礎実験の話ですが、p65リン酸化の阻害と活性酸素の誘導により、甲状腺癌(甲状腺未分化癌も含む)に対して抗腫瘍活性を有する(Redox Biol. 2018 Jun;16:226-236.)
高齢者における不眠症の治療は
- 下記の快適な睡眠を得るための工夫
- 高照度光療法(できるだけ部屋を明るく)・夕方日光をできるだけ浴びる
- ロゼレム®(ラメルテオン)
快適な睡眠を得るために
- 就眠制限(早く床に入らない)
刺激調整療法[眠くなってから寝床に入る、寝床は寝るためだけに使う(本など読まない、スマホを使わない)。入眠できないときは、いったん寝床を出て、眠気を覚えてから寝床に就く。]
- 夕食後はカフェインを含む茶・コーヒー・チョコレートを避ける
- アルコールは一時的に寝つきが良くなりますが、効果が減弱し睡眠が浅くなり、夜中に目が覚めやすくなります、寝る前は避ける
- タバコのニコチンは脳を刺激し眠りにくくするので避ける
- ブルーライト対策が必要(下記)
- 寝る直前にホットミルクを飲むと、新陳代謝が良くなり脳が活性化するので、かえって睡眠の質が悪くなります。就寝の1~2時間前なら、ホットミルク中のトリプトファンがセロトニンに変わるので、睡眠の質が良くなります。ただし、あまり動かない夜間なので、ホットミルクのカロリーは燃焼されず中性脂肪として体に蓄えられ肥満・メタボリック症候群の原因になります。
- 毎朝、同じ時刻に起床し、太陽光を浴びて体内時計をリセットする。休みの日でも2時間以上遅く起きない。(体内時計のリズムが整えられる)
- 日中を活動的に過ごす;運動量の低下、エネルギー消費量の低下は不眠の原因
- 太陽の光を十分浴びる(メラトニンが増加)
- 昼寝はしないか、30分以内に留める
快適な睡眠を得るために
5. ブルーライト対策
ブルーライトは太陽光線の成分で、短波長の青色光線です。 LED・液晶・スマートフォンのディスプレイからも発生します。
ブルーライトは、
- 広がりやすく(散乱率が高い)、チラつきが生じるため、疲れ目の原因になる
- 高エネルギー量で、網膜中心部の黄斑にダメージを与え、黄斑変性の原因になる
- 昼間と同じ光と脳が認識し、睡眠ホルモンのメラトニン分泌が抑制され、夜も覚醒状態になります(不眠症)
総睡眠時間は年齢とともに減少し、18歳以降は一定になります。
レム睡眠
レム睡眠(REM=rapid eye movement)はその名の通り、急速な眼球運動を特徴とする浅い睡眠です。レム睡眠中、身体は休息状態でも脳の活動は完全に抑えられていません。
レム睡眠は、新生児では高い割合を占めますが、成長と共に減少し、思春期以後は一定の割合になります。一晩で3~6回反復、入眠直後は5~10分、早朝覚醒直前は20~40分の長さ。
レム睡眠時の身体は休息状態のため、四肢筋・頸筋や下顎筋で筋緊張は著しく低下している(要するに身体は動かない)が、脳は活動しており、覚醒時と同様の低振幅・不規則な脳波の状態。具体的で色付きの夢を見ることが多い。自律神経の活動も不規則になり、心拍数・呼吸が不規則になります。
ノンレム睡眠
深いノンレム睡眠時に夢を見ることは少なく、見たとしても断片的で具体性に乏しいものになります。
ノンレム睡眠時は体の疲労度や健康状態により長さが変わります。年齢による変化は小さく、小児期は約8時間、老年期は約5時間です。朝方にかけて減少します。
ノンレム睡眠時の筋緊張は、レム睡眠時程低下しません。副交感神経亢進優位に成り、心拍数が低下します。
甲状腺とレム睡眠・ノンレム睡眠
健常人にTSH(甲状腺刺激ホルモン)放出ホルモン(TRH)を投与すると、睡眠効率の低下と早期のコルチゾール上昇が誘発されます。
甲状腺機能低下症では深いノンレム睡眠が減少します。(Acta Med Austriaca. 1999;26(4):132-3.)
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
も御覧ください
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,浪速区,生野区も近く。