遺伝性褐色細胞腫[神経線維腫症1型(レックリングハウゼン病),フォン・ヒッペル・リンドウ病,コハク酸脱水素酵素遺伝子(SDHB/SDHD)]長崎甲状腺CL
内分泌代謝(副甲状腺・副腎・下垂体)専門の検査/治療/知見 長崎甲状腺クリニック(大阪)
甲状腺専門・内分泌代謝の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外(Pub Med)・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科(第二内科)で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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Summary
神経線維腫症1型(NF1、レックリングハウゼン病)で褐色細胞腫に甲状腺髄様癌・消化管間質腫瘍 (GIST)・ガストリン産生腫瘍(ガストリノーマ)・Hurthle細胞腺腫合併。神経線維腫症1型に神経膠芽腫・甲状腺乳頭癌・甲状腺髄様癌合併。Von Hippel-Lindau(フォン・ヒッペル・リンドウ)病でも褐色細胞腫が発生。コハク酸脱水素酵素遺伝子SDHB変異は悪性度高く、SDHD変異は頚動脈小体から多発性パラガングリオ-マをおこし悪性度低い。SDHB変異を有する腹部パラガングリオ-マに合併した甲状腺乳頭癌、SDHB/SDHD変異を有する甲状腺パラガングリオ-マの報告あり。
Keywords
神経線維腫症1型,レックリングハウゼン病,褐色細胞腫,甲状腺髄様癌,甲状腺乳頭癌,フォン・ヒッペル・リンドウ病,コハク酸脱水素酵素遺伝子,SDHB変異,SDHD変異,甲状腺パラガングリオ-マ
神経線維腫症Ⅰ型(NF1、レックリングハウゼン病)と内分泌腫瘍
神経線維腫症Ⅰ型(NF1、レックリングハウゼン病)でも褐色細胞腫が発生します。他臓器の神経内分泌腫瘍、消化管間質腫瘍[gastrointestinal stromal tumor (GIST)]や甲状腺髄様癌を合併した症例も報告されています。
[Am J Med. 2013 Feb;126(2):174-80.][BMJ Case Rep. 2020 Jun 28;13(6):e235129.]
神経線維腫症-甲状腺髄様癌-褐色細胞腫症候群[Arch Anat Pathol (Paris). 1970 Jun;18(2):137-42.]の他にも、褐色細胞腫と
- 消化管間質腫瘍[gastrointestinal stromal tumor (GIST)];穿孔性小腸病変
- ガストリン産生腫瘍(ガストリノーマ)
- 良性甲状腺濾胞腺腫(好酸性細胞型、Hurthle細胞腺腫、ハーテル細胞腺腫、ヒュルトレ細胞腺腫)
の合併報告があります。[Am J Case Rep. 2021 Jan 16:22:e927761.]
神経線維腫症1型(NF1、レックリングハウゼン病)に
- 神経膠芽腫と甲状腺乳頭癌が同時発生[Ann Med Surg (Lond). 2022 Mar 28;76:103556.]
- 甲状腺髄様がん[神経線維腫症1型(NF1)関連甲状腺髄様がん(MTC)またはC細胞過形成]を合併;NF1遺伝子とRETがん原遺伝子変異が同時に同定[J Clin Res Pediatr Endocrinol. 2021 Aug 23;13(3):342-346.]
神経線維腫症1型(NF1、レックリングハウゼン病)とは
神経線維腫症1型(neurofibromatosis 1;NF1、レックリングハウゼン病)は、3000-3500人に一人の頻度で存在し、日常よく出くわす病気です。軽症例は診断されていない場合が多い。
神経線維腫症1型(NF1、レックリングハウゼン病)は、常染色体性優性遺伝につき、両親どちらかがこの病気なら、子に遺伝する確率は50%です。
一方で、家系内発生は50%程で、患者の半数以上に家族歴はなく、突然変異により発症します。
神経線維腫症1型(NF1、レックリングハウゼン病)では、癌遺伝子NF1の(機能獲得型変異)が95%に認められます。NF1遺伝子がコードするニューロフィブロミンは、Rasタンパクの機能を抑制します。
神経線維腫症1型(NF1、レックリングハウゼン病)の症状は、
- 皮膚の多発性神経線維腫:ほぼ100%に認められますが、数個から全身を覆うまで個人差が大きい
- カフェオレ斑:ほぼ100%に認められる
- 眼病変
- 穿孔性小腸病変;小腸神経線維腫[Am J Case Rep. 2021 Jan 16:22:e927761.]
- 骨変形
- 知能障害
- 高血圧
- 悪性末梢神経鞘腫(schwannoma)
- 腎嚢胞、腎動脈狭窄(腎血管性高血圧)、腎動脈瘤
- 悪性腫瘍の合併率はやや高い。神経線維腫が急に大きくなった場合は要注意。
- 乳がんの発生率が高いとの報告あり(Genet Med. 2020 Feb;22(2):398-406.)
神経線維腫症1型(NF1、レックリングハウゼン病)自体の根本的な治療は無い。皮膚の神経線維腫は皮膚科、形成外科で治療。
フォン・ヒッペル・リンドウ病は3-4万人に1人の稀な病気です。多発性内分泌腺腫症2型(MEN2)と同じく常染色体優性遺伝で、ほぼ全例にVHL癌抑制遺伝子異常を認めます。
- 脳脊髄の血管芽腫:脳腫瘍の症状
網膜血管芽腫:ほとんど無症状だが、放置すると網膜剥離・眼内出血
- 副腎褐色細胞腫(両側性のことがある)は良性で、幼児期以降、中年期までに10-20%の患者において発生
- 腎臓癌(腎細胞癌)の淡明細胞癌が多発(副腎褐色細胞腫と鑑別要)。膵腫瘍は悪性
- 腎のう胞(腎嚢胞)
- 内耳リンパ嚢腫
など多彩な病変。
VHL遺伝子の変化は甲状腺の腫瘍形成における晩期事象と考えられ、VHLタンパク質発現の減少は甲状腺腫瘍における分化の喪失および浸潤性の増加と関連します。[Endocr Pathol. 2000 Summer;11(2):145-155.]
褐色細胞腫の約30%にコハク酸脱水素酵素の遺伝子異常を認めるとされます。
欧米の報告によると、コハク酸脱水素酵素遺伝子(SDHB、SDHD)変異を持つ褐色細胞腫は、全褐色細胞腫のそれぞれ約5%を占めるとされます。家族性だけでなく、散発性の褐色細胞腫でも変異が認められるとされます。
- SDHBの変異は悪性度が高く、腹部のパラガングリオ-マ(傍大動脈、膀胱内など)から高率に(8割以上との報告もある)遠隔転移をおこします(J Clin Endocrinol Metab. 2007 Mar;92(3):779-86.)[JAMA. 2004 Aug 25;292(8):943-51.]。
副腎外褐色細胞腫の約50%がSDHB 変異陽性(J Clin Endocrinol Metab. 2006 Nov;91(11):4505-9.)
- SDHDの変異は
頚動脈小体から多発性パラガングリオ-マをおこす
悪性褐色細胞腫の頻度はSDHB変異と比べて低い(0-7%)
[JAMA. 2004 Aug 25;292(8):943-51.](J Clin Endocrinol Metab. 2006 Nov;91(11):4505-9.)
甲状腺との関連で
- SDHB変異とTERT プロモーター変異を有する腹部パラガングリオ-マに合併した甲状腺乳頭癌[J Endocr Soc. 2022 May 10;6(7):bvac076.]
- SDHB、SDHD変異を有する甲状腺パラガングリオ-マ[Endocr Relat Cancer. 2015 Apr;22(2):191-204.]
の報告があります。
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
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