甲状腺とインフルエンザワクチン接種と亜急性甲状腺炎・小児急性散在性脳脊髄炎(ADEM)[橋本病 バセドウ病 エコー検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会 学術集会で入手した知見です。
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長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。インフルエンザワクチン接種、小児急性散在性脳脊髄炎(ADEM)診療を行っておりません。
Summary
インフルエンザワクチン接種も亜急性甲状腺炎の原因に。ウイルス抗原と甲状腺細胞抗原が似た構造をしている場合、細胞障害性T細胞が、両者を同じと認識(交差反応、交差認識)して亜急性甲状腺炎の免疫反応がおこる。小児急性散在性脳脊髄炎(ADEM)の47.8%で抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)が陽性となり、徐々に低下。TPOAb価が高いほど、小児急性散在性脳脊髄炎(ADEM)の重症度は下がる。甲状腺悪性リンパ腫治療でリツキシマブ(抗CD20抗体、リツキサン®)を使用すると、インフルエンザワクチン接種しても抗体ができない可能性あり。
Keywords
インフルエンザワクチン,亜急性甲状腺炎,小児急性散在性脳脊髄炎,ADEM,抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体,TPOAb,甲状腺悪性リンパ腫,リツキシマブ,リツキサン,抗体
以下、本ページ
- 甲状腺とインフルエンザワクチン
- 甲状腺の病気プラスαでは特にインフルエンザワクチン接種が必要
- インフルエンザワクチン接種で亜急性甲状腺炎に
- 妊婦用インフルエンザワクチン 小児インフルエンザワクチン
- ワクチン接種の問題点(卵アレルギー他)
以下、甲状腺と免疫力・インフルエンザ
- インフルエンザと亜急性甲状腺炎
- インフルエンザウイルスに加湿は無効!
- 新型インフルエン
ザ・鳥インフルエンザ
- ゾフルーザ、予想通り早々と耐性インフルエンザウイルス
- インフルエンザ迅速診断キットの落とし穴
- タミフル耐性変異インフルエンザウイルス
- タミフル予防投与
- タミフルDS(ドライシロップ)で先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)?
- 乳製品アレルギーにイナビル®(ラニナミビル)、リレンザ®(ザナミビル)は避ける
- 麻黄湯(マオウトウ)は甲状腺機能亢進症/バセドウ病で要注意
- 二峰性発熱
- インフルエンザ脳炎
- インフルエンザ肺炎 インフルエンザ急性肝炎
- 皮膚のマスクトラブル、過度なアルコール消毒と甲状腺
飛沫感染で人から人に感染するインフルエンザ。もはや国民病になってしまい、毎年1000万人(日本人の10人に1人)が罹ります。甲状腺機能亢進症/バセドウ病であれ、甲状腺機能低下症/橋本病であれ、インフルエンザと無関係ではいられません。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病で未治療(見つかっていない)、治療途中、服薬自己中断など甲状腺ホルモンが正常でない時にインフルエンザに感染すると、致死率が十数%の甲状腺クリーゼを起こし、生命に危険が及ぶ可能性があります。
また、甲状腺ホルモンが正常化していない甲状腺機能低下症/橋本病では、インフルエンザ感染により致死率が十数%の粘液水腫性昏睡に至る危険性があります。さらに、インフルエンザは亜急性甲状腺炎の誘因となるウイルスの一つです。
インフルエンザワクチンは、年によって当たり外れがありますが、大体60-70%の予防効果があります(N Engl J Med. 2013 Dec 26;369(26):2481-91.)。予防効果だけでなく、インフルエンザの重症化と死亡率を減らす軽症化効果もあります(Pediatrics. 2017 May;139(5). pii: e20164244.)。
インフルエンザワクチンを、お近くの医療機関で適切な時期に接種してください[長崎甲状腺クリニック(大阪)では行っておりません]。
以下のデマに惑わされないで下さい。
「WHOがインフルエンザワクチン接種は無意味と認めた」はウソです。原文(WHO「How can I avoid getting the flu?」)では「The best way to avoid getting the flu is to get the flu vaccine every year.(インフルエンザを避ける最も良い方法は、毎年インフルエンザワクチンを接種する事)」となっています。
確かに、一年前のワクチン効果は消えてしまうので、毎年、打たねば無意味ですが・・・。それにWHOは新型コロナウイルスのデマ情報(人-人感染しない等)を流し続け、完全に信用を失いましたが・・・。
甲状腺の病気だけでなく、米国疾病予防センター(CDC)がインフルエンザハイリスク群と認めた以下の状態では、インフルエンザワクチン接種の必要性が更に高いです。
- 5歳未満(小児クレチン症 小児バセドウ病・乳幼児バセドウ病 小児橋本病 )
- 65歳以上(高齢者バセドウ病 甲状腺機能低下症/橋本病)
- 妊娠中・産後2週間(妊娠 出産/授乳とバセドウ病 妊娠 出産/授乳と橋本病/甲状腺機能低下症 )
- 介護施設の長期居住者
- BMI 40以上の超肥満、糖尿病、腎・肝機能障害、免疫不全、副腎皮質ステロイド剤・免疫抑制剤を服薬中(甲状腺眼症:バセドウ病眼症、橋本脳症、亜急性甲状腺炎、橋本病急性増悪)
- 先天性心疾患
- 気管支喘息やCOPD(慢性気管支炎、肺気腫)、アスピリン不耐症(要するに呼吸器に問題ある場合)
インフルエンザワクチン接種も亜急性甲状腺炎の原因になります。不活化されたインフルエンザウイルスなので、感染力はないけれども、生きたインフルエンザウイルスに対するのと同じ免疫反応が起きるため、別に不思議ではありません。
ウイルス抗原と甲状腺細胞抗原が似た構造をしている場合、免疫細胞である細胞障害性T細胞が、両者を同じと認識(交差反応、交差認識)して亜急性甲状腺炎の免疫反応がおこります。(Hum Vaccin Immunother. 2016 Apr 2;12(4):1033-4.)(J Endocrinol Invest. 2010 Jul-Aug; 33(7):506.)(Kaohsiung J Med Sci. 2006 Jun; 22(6):297-300.)。
インフルエンザワクチン接種後、亜急性甲状腺炎発症までの期間は2日から8週間とされます。(Kaohsiung J Med Sci. 2006 Jun;22(6):297-300.)(Indian J Endocrinol Metab. 2018 Sep-Oct;22(5):713-714.)(Hum Vaccin Immunother. 2016 Apr 2;12(4):1033-4.)
また、B型肝炎ウイルスワクチン接種でも亜急性甲状腺炎を発症した報告があります(Endocr J. 1998 Feb;45(1):135.)。
これらは、autoimmune/inflammatory syndrome induced by adjuvants(ASIA)と呼ばれ、免疫反応を誘発する目的でワクチンに含まれるアジュバント(Adjuvant、免疫補助剤)が原因です(J Autoimmun. 2011 Feb; 36(1):4-8.)。
特に、HLA遺伝子のDRB1 *01を有する人に起こり易いとされます(Expert Rev Clin Immunol. 2013 Apr; 9(4):361-73.)。
長崎甲状腺クリニック(大阪)では扱っておりませんが、甲状腺機能亢進症/バセドウ病・甲状腺機能低下症/橋本病・糖尿病の女性は、妊娠3カ月以降に妊婦用インフルエンザワクチン接種した方が良いでしょう。近隣の婦人科を受診ください。
妊婦がインフルエンザに感染すると胎児もダメージを受けます。
- 妊娠前期の妊婦が高熱を出すと、胎児の神経管閉鎖障害の危険性が2倍になり、かつ、その他の出生異常を引き起こす危険も増す
- 出産時における母体の高熱は、新生児痙攣(けいれん)・脳性麻痺などの危険因子
になります。
母体にインフルエンザワクチン接種すると、母親のインフルエンザに対する抗体が胎盤移行し、生後6カ月まで乳児の体内に残るため(受動免疫)、乳児のインフルエンザ感染が63%減少します。
インフルエンザ感染者の約40%は15歳未満の小児です。
6歳未満の小児に対するインフルエンザワクチンの発病予防効果は50-60%で、半数以上の小児のインフルエンザ感染を防げます。
生後6カ月から8歳までの小児では、インフルエンザワクチン1回接種よりも2回接種の方がインフルエンザ予防効果が高い(JAMA Pediatr. 2020 Jul 1;174(7):705-713.)。
甲状腺の病気を持つ小児もインフルエンザに感染すれば、大人と同じくヤバイ事になります。(甲状腺機能低下症と免疫力低下・甲状腺とインフルエンザ)
は、必ずインフルエンザワクチンを接種しましょう。
日本では安全な皮下注射
日本でのインフルエンザワクチン接種は、基本的に皮下注射で、筋肉注射が認められていません。一方、ガーダシル®/シルガード9®(HPVワクチン)、シングリックス®(帯状疱疹ワクチン)は、筋肉内注射で、皮下注射は認められていません。
ただし、日本以外では筋肉注射が普通で、WHOも筋肉注射の方を推奨しています。筋肉注射の方が、局所的な有害事象が少なく、抗体が産生されやすい(免疫抗体獲得能が高い)とされます(Microbiol Immunol. 2010 Feb;54(2):81-8.) が、筋肉内の神経を刺してしまう危険性を考えれば、皮下注射の方が安全です。
日本国内では、かつて抗生剤や鎮痛薬の筋肉注射による大腿四頭筋短縮症が社会問題となったため、ワクチンの筋肉注射にも慎重になったという時代背景があります。
注射部位を揉まない
インフルエンザ予防接種ガイドラインには、「インフルエンザ予防接種後には注射部位を揉まずに血が止まる程度に押さえるだけでよく、揉む場合でも数回程度にとどめる。あまり強く揉むと皮下出血を来すこともある」と記載されています。(予防接種ガイドライン等検討委員会:インフルエンザ予防接種ガイドライン. 予防接種リサーチセンター, 2013, p11.)
卵アレルギーとインフルエンザワクチン
インフルエンザワクチン製造過程で鶏卵を使用するため、わずかにニワトリ胚細胞成分が残ります。しかし、高度に精製されているため卵成分はほとんど含まれません。
卵アレルギー(鶏卵アレルギー)とインフルエンザワクチンについて、米国予防接種諮問委員会 (Advisory Committee on Immunization Prac tices:ACIP)が基準を公開しており、
- 「卵を食べたところ、蕁麻疹のみを経験した卵アレルギーの既往がある人には接種する」→しかし筆者は、救急施設のある病院での接種が安全と考えます
- 「卵を食べたところ、蕁麻疹以外の症状(血管浮腫、呼吸困難、意識障害、繰り返す嘔吐等)を経験した人、エピネフリン等の救急医療行為を必要とした人にも接種してもよい。ただし、重症アレルギー状態を管理できる医療者(救命救急施設のある病院)によって行われるべきである。」
- インフルエンザワクチンを接種したところ、重篤(重症)なアレルギー反応を経験した事がある人にワクチン接種は禁忌
(United States, 2016–17 Influenza Season. http://www.cdc.gov/mmwr/volumes/65/rr/pdfs/rr6505.pdf)
これは、MRワクチンでも同じ事が言えます。もろに卵成分を含む薬剤も存在します。耳鼻咽喉科などでよく処方される塩化リゾチーム製剤は、卵白由来のリゾチームが主成分なので、鶏卵アレルギーがある人への投与は禁忌。
では、小児期に卵アレルギーの既往があり、気管支喘息で副腎皮質ステロイド吸入薬を使用中の人にインフルエンザワクチンを初回接種する場合は?→「接種後30分間は院内で経過を観れば良い」が一般的な正解らしいが、筆者は「万が一に備え救急施設のある病院での接種が安全」と考えます
急性散在性脳脊髄炎(ADEM:acute disseminated encephalomyelitis)は、インフルエンザワクチン、B型肝炎ワクチン、日本脳炎ワクチンなどによるアレルギー性脱髄性脳脊髄炎です。1000万回接種で1〜3.5人に起こります。稀ですが、
- ワクチンが原因である
- 後遺症が残る
- 生命に関わる
点が問題です。
急性散在性脳脊髄炎(ADEM)では、ワクチン接種後4週間以内に脳脊髄炎、視神経炎が出現します。
髄液中の脱髄を示すミエリン塩基性タンパク(MBP:myelin basic protein)上昇が特徴です。
救命後、多発性硬化症(MS)に移行するものもあります。
ワクチンを打たなくても感染後ADEMをおこすことがあり、発疹性ウイルス[麻疹(はしか)、風疹、水痘・帯状疱疹]、ムンプスウイルス、インフルエンザウイルス感染後に発症。[Vaccine. 2019 Feb 14;37(8):1126-1129.]
甲状腺の病気に合併した報告として、甲状腺クリーゼをおこした4か月後に急性散在性脳脊髄炎(ADEM)を発症したケースがありますが、因果関係は不明です。(第53回 日本甲状腺学会 P166 血漿交換が著効し、経過中に急性散在性脳脊髄炎を併発した甲状腺クリーゼの1例)
小児急性散在性脳脊髄炎(ADEM)の47.8%で抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPOAb)が陽性となり、徐々に低下していく。TPOAb価が高いほど、小児急性散在性脳脊髄炎(ADEM)の重症度は下がる。[Mult Scler Relat Disord. 2020 Nov;46:102573.]
普通に考えれば、TPOAb価が高いほど、小児急性散在性脳脊髄炎(ADEM)の重症度は上がりそうなものですが、真逆です。その理由は全く不明。
甲状腺/甲状腺外悪性リンパ腫のワクチン接種
甲状腺/甲状腺外の悪性リンパ腫治療でリツキシマブ(抗CD20抗体、リツキサン®)を使用すると、正常リンパ球にも抑制が掛かり、治療後にインフルエンザワクチン接種しても抗体ができない可能性があります(それでも接種しますが)。患者にインフルエンザをうつさない様、家族への接種も推奨されます。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
最後までお付き合いいただき、誠にありがとうございました。
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,生野区,天王寺区,浪速区,東大阪市も近く。