甲状腺ホルモンと高コレステロール血症・高LDLコレステロール血症・PCSK9[橋本病 動脈硬化 甲状腺機能低下症 長崎甲状腺クリニック 大阪]
動脈硬化:専門の検査/治療/知見[橋本病 バセドウ病 エコー 長崎甲状腺クリニック大阪]
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。
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長崎甲状腺クリニック(大阪)は甲状腺専門クリニックです。甲状腺と無関係の高脂血症の診療を行っておりません。
Summary
内分泌(甲状腺・副腎・下垂体)の病気で高コレステロール血症・高LDLコレステロール血症に。高コレステロール血症の約11%は甲状腺機能低下症が原因[LDL受容体数減少、T4-LDL複合体形成低下、PCSK9(前駆蛋白質転換酵素サブチリシン/ケキシン9型)増加、ANGPTL6増加]。甲状腺刺激ホルモン(TSH)も甲状腺ホルモンとは無関係にコレステロール代謝を調節。甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS,レボチロキシン ナトリウム)補充すれば、血液中のコレステロール代謝分解が促進。甲状腺機能低下状態でコレステロールを下げる薬(主にスタチン)を飲むと横紋筋融解症の危険。
Keywords
甲状腺,眼瞼黄色腫,甲状腺機能低下症,PCSK9,ANGPTL6,高コレステロール血症,悪玉コレステロール,高LDLコレステロール血症,コレステロール,甲状腺ホルモン
甲状腺・副腎・下垂体など内分泌の病気で、コレステロールが高くなります。しかし、それらホルモンに異常がなければ、内分泌(甲状腺・副腎・下垂体)無関係の遺伝性高脂血症または肝臓・腎臓などによる非遺伝性高脂血症が考えられます。
内分泌(甲状腺・副腎・下垂体)の病気が原因の高脂血症
- 甲状腺機能低下症による高コレステロール血症(脂肪分解の低下)
- 副腎皮質ホルモン分泌過剰[クッシング症候群あるいはACTH産生下垂体腺腫(クッシング病)]による脂肪同化作用
- 成人成長ホルモン分泌不全症 による脂質代謝の低下
- 女性更年期障害 男性更年期障害
以下、内分泌(甲状腺・副腎・下垂体)無関係の遺伝性高脂血症,遺伝性高コレステロール血症、非遺伝性高脂血症
甲状腺機能低下症と高コレステロール血症
高コレステロール血症の約11%は、甲状腺ホルモンの低下(甲状腺機能低下症)が原因とされます。甲状腺ホルモン剤であるチラーヂンS(一般名:レボチロキシン ナトリウム)を補充すれば、血液中のコレステロール代謝(分解)が促進され、自然と低下していきます。
もし、甲状腺ホルモンが低下しているのに気付かずにコレステロールを下げる薬(主にスタチン)を飲むと、横紋筋融解症という恐ろしい副作用が起きる確率は高くなります。(Endocr J. 2006 Jun; 53(3):401-5.)(Eur Thyroid J. 2015 Mar;4(1):62-4.)
横紋筋融解症とは、筋肉が崩壊し、含まれていたミオグロビン、カリウム(K)、カルシウム(Ca)などが血中に放出されて、急性腎障害(AKI)→急性腎不全・透析に至る致命的な病態です。
甲状腺機能低下によって、コレステロールを下げる薬(主にスタチン)の分解(代謝)・排泄が低下することが原因とされます。
高コレステロール血症がある人は、コレステロールの薬を飲む前に、血液中の甲状腺ホルモンを調べましょう!
甲状腺機能低下症により高コレステロール血症が起きるメカニズム
甲状腺ホルモン及び甲状腺ホルモン受容体(TR) β1は肝臓でのコレステロー ル代謝・分解に重要な役割を持っています。
血中の悪玉コレステロール(LDL)を肝臓に取り込んで低下させるLDL受容体数は、甲状腺ホルモンにより増加します。また、甲状腺ホルモン[サイロキシン(T4)]はLDLに結合し、T4-LDL複合体はLDL受容体に認識されて細胞内に取り込まれ、血液中のLDLは低下します。
甲状腺機能低下症では、これらの作用が低下し、
- LDL受容体数が減少する
- T4-LDL複合体の形成が低下する
ため、血液中の悪玉コレステロール(LDL)が上昇します。
また、最近では、甲状腺刺激ホルモン(TSH)も、甲状腺ホルモンとは無関係に血漿コレステロール代謝を調節し、高脂血症の進行に関与します。しかしながら、そのメカニズムはまだ解明されていません。
[Clin Chim Acta. 2022 Feb 15;527:61-70.][Mol Biol Rep. 2022 Nov;49(11):11025-11035.]
甲状腺ホルモンによるLDL受容体遺伝子プロモーターの制御は、SREBP-2(Sterol Response Element Binding Protein-2)を介する経路と介さない経路の両方が報告されています。(Front Endocrinol (Lausanne). 2018 Sep 3;9:511.)
介さない経路での甲状腺ホルモンによるコレステロール調節は色々なメカニズムが報告されています。しかし、PSCK9以外で確定的なものはありません。
甲状腺ホルモン値とPCSK9は相関し
- 甲状腺機能亢進症でPCSK9は減少→LDL受容体増加→LDLコレステロール低下
- 甲状腺機能低下症でPCSK9は増加→LDL受容体減少→LDLコレステロール増加
尚、自己免疫抗体[TSHレセプター抗体(TRAb),抗サイログロブリン抗体(Tg抗体)・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)]とPCSK9の間に相関はありません。
[Eur Rev Med Pharmacol Sci. 2021 Sep;25(17):5511-5517.]
さらに、TSHが肝臓のPCSK9発現を調節しているとの研究報告もあります[Metabolism. 2017 Nov;76:32-41.]。
アンジオポエチン様タンパク質6(angiopoietin-like protein 6:ANGPTL 6)は、グルコースおよび脂質代謝を調節する新規代謝調節因子です。甲状腺機能低下症患者では血清ANGPTL6値が上昇し、TSHとFT4 値の両方が関連しています。現時点では、それが直接的な関連によるものなのか、それとも代償的なメカニズムによるものなのか、まだ解明されていません。[Metabolism. 2015 Oct;64(10):1279-83.]
甲状腺機能正常化しても高コレステロール血症なら
甲状腺機能低下症を治療して、甲状腺ホルモンが正常化しても高コレステロール血症・高LDLコレステロール血症(悪玉コレステロールが高い)が治らない場合は?
- 甲状腺以外の内分泌異常、①副腎皮質ホルモン分泌過剰[クッシング症候群あるいはACTH産生下垂体腺腫(クッシング病)]による脂肪同化作用、②成人成長ホルモン分泌不全症 による脂質代謝の低下、③女性更年期障害 男性更年期障害 による脂質代謝の低下
- 家族性高コレステロール血症(家族性高脂血症)、原発性高脂血症
が考えられます。2.の場合、
- 第一に悪玉コレステロール(LDLコレステロール)を多く含む食品を控える(食事療法)
- 食事療法で改善無ければ、コレステロールを下げる薬の使用
皮膚黄色腫症は、脂質を貪食して泡沫状になった組織球(マクロファージ)で構成されます。表皮の血管周囲に生じ、線維化や炎症性変化を伴います。
皮膚黄色腫症は脂質代謝異常が原因ですが、はっきりした脂質代謝異常がない場合もあります。
脂質代謝異常で起きる場合、
- 家族性高コレステロール血症
- 甲状腺機能低下症、ネフローゼ症候群などに伴う高コレステロール血症
と原因は様々。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市,浪速区も近く。