橋本病(慢性甲状腺炎),巨大甲状腺腫の手術,I-131 アイソトープ治療[橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外(Pub Med)・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科(内分泌骨リ科)で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会 学術集会で入手した知見です。
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甲状腺編 では収録しきれない最新・専門の検査/治療です。
長崎甲状腺クリニック(大阪)は内科系甲状腺専門医ですので、手術を行っておりません。また、I-131 アイソトープ治療も行っておりません。
Summary
腫瘍は無いが気道圧迫や増大傾向、嚥下困難、縦隔進展などで橋本病(慢性甲状腺炎)を手術すると甲状腺悪性リンパ腫が見つかる事がある。しかし、大多数の内分泌外科は腫瘍が無ければ手術を断る。ガリウムシンチグラフィ(Ga シンチグラフィ)で、集積があれば甲状腺悪性リンパ腫の存在確率は高くなり、内分泌外科も納得するかもしれない。橋本病(慢性甲状腺炎)の巨大甲状腺腫において99mTc(テクネチウム)シンチグラフィーの取り込みを認める場合、または橋本病(慢性甲状腺炎)を基盤とした無痛性甲状腺炎低下症期(回復期)の場合にI-131 アイソトープ治療が有効なケースもある。
Keywords
気道圧迫,橋本病,甲状腺悪性リンパ腫,巨大甲状腺腫,治療,I-131,アイソトープ,甲状腺,手術,内分泌外科
橋本病の巨大甲状腺腫では、明らかな腫瘍がなくても、気道圧迫や嚥下困難をおこす場合があります。まずは、甲状腺中毒症にならない程度に甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)を補充し、TSH(甲状腺刺激ホルモン、甲状腺に刺激を掛けるホルモン)を抑制します(TSH抑制療法)。(Endocr J. 1999 Feb;46(1):221-6.)
しかし、それでも効果に乏しいなら、甲状腺全摘出手術、I-131 アイソトープ治療が考慮されます。
明らかな腫瘍がなくても、気道圧迫や増大傾向、美容上の理由などで、橋本病を手術するケースがあります(Khirurgiia (Sofiia). 2005;(3):28-32.)[J Nippon Med Sch. 2003 Feb;70(1):34-9.]。
九州の野口病院では、10年間で58例、このような手術を行ったそうです。しかし、
- 摘出した甲状腺の手術標本では、16%に甲状腺悪性リンパ腫(8例がMALT、1例が形質細胞腫)が見つかる
- 甲状腺悪性リンパ腫が隠れている場合、術前の甲状腺超音波(エコー)検査での後方エコー増強が特徴
(第58回 日本甲状腺学会 P1-7-5 慢性甲状腺炎の判断で手術を行い、術後に悪性リンパ腫と診断された症例の検討)
倉敷中央病院においても、レボチロキシン(甲状腺ホルモン剤、チラーヂンS)によるTSH抑制療法が無効で、かつ橋本病の巨大甲状腺腫が徐々に増大し、気管狭窄が悪化する症例を手術対象にしています。(第54回 日本甲状腺学会 P223 当院で切除手術を施行した橋本病による巨大甲状腺腫の10例)
橋本病急性増悪も手術適応になる場合があります。
果たして、内分泌外科は、明らかな腫瘍がなく、気道圧迫や増大傾向だけで、橋本病を手術してくれるの?
果たして、内分泌外科は、明らかな腫瘍がなく、気道圧迫や増大傾向だけで橋本病を手術してくれるか?気道圧迫による息苦しさを患者本人が強く主張する場合を除き、長崎甲状腺クリニック(大阪)が以前提携していた内分泌外科を含め、断る内分泌外科は多いでしょう(特に大学病院クラス、その点、民間病院は融通が効く)。
これまで九州の野口病院くらいしか、やってくれる病院はありませんでしたが、筆者の恩師、稲葉 雅章 先生[大阪公立大学(旧 大阪市立大学) 代謝内分泌内科 名誉教授]の大野記念病院(甲状腺・内分泌センター)でも、頼めばおこなってもらえるようになりました。
大学病院をはじめ、名の通った高次機能総合病院でさえ、内分泌外科・甲状腺外科医は圧倒的に不足しています。外科医自体、成り手が減り続けているのも原因の一つでしょう。乳腺外科医は比較的いるのですが、内分泌外科・甲状腺外科医は、それらの病院でも1人、2人位です。
甲状腺悪性リンパ腫が存在する、少なくとも存在する可能性を証明できれば、引き受けてくれる内分泌外科もあるかもしれません。ガリウムシンチグラフィ(Ga シンチグラフィ)で、集積が認められれば甲状腺悪性リンパ腫が存在する確率が高くなります(甲状腺悪性リンパ腫の診断)。
また、腺腫様甲状腺腫の形態が認められ(橋本病を基盤とする腺腫様甲状腺腫)、かつ増大傾向と気道圧迫があれば、腫瘍に対する手術として大義名分が立つため、甲状腺全摘手術を行ってくれる内分泌外科・甲状腺外科は多いと考えられます。
橋本病の抗体が慢性疲労の原因?
以前より、言われていたことですが、例え甲状腺機能が正常に保たれていても、
- 橋本病である事自体
- 抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体:TPOAb)が高い事自体
が、慢性疲労などの症状に関与している可能性があります。
良性甲状腺疾患[良性甲状腺腫瘍、甲状腺のう胞(甲状腺嚢胞)など]で甲状腺切除手術を受けた後、甲状腺ホルモン剤投与により甲状腺機能が正常に保たれている橋本病患者と非橋本病患者を比較した報告があります。抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体:TPOAb)のカットオフ値を 121.0 IU/mL にすると、その値以上では慢性疲労、毛髪の乾燥、精神不安、乳癌・早期流産、QOL低下の頻度が有意に増加します。 (Thyroid. 2011 Feb;21(2):161-7.)。
橋本病は慢性甲状腺炎、リンパ球性甲状腺炎とも呼ばれる甲状腺の慢性炎症です。抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)は、その炎症の強さを示す指標でもあります。即ち、炎症により放出される炎症物質・サイトカインが慢性疲労、髪の毛の乾燥、精神不安などの原因と考えればつじつまが合います。
ただし、「橋本病自体・抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)高値自体が慢性疲労などの原因になるか?」については、現時点で一般的に認めれれてません。
橋本病の甲状腺を全摘出手術すると慢性疲労が回復??
信じ難い論文が発表されました。ノルウェーのTelemark Hospital、Stavanger University Hospitalからの論文です。(Thyroidectomy Versus Medical Management for Euthyroid Patients With Hashimoto Disease and Persisting Symptoms: A Randomized Trial. Ann Intern Med. 2019 Apr 2;170(7):453-464.)
甲状腺機能低下症/橋本病に対し、十分な甲状腺ホルモン剤(レボサイロキシン、日本ではチラーヂンS)補充して甲状腺機能正常を維持しているけれども、持続的な全身倦怠感などの症状を有する患者に甲状腺全摘出手術を行えば、症状が改善するとの内容です。
具体的には、甲状腺ホルモン剤補充で甲状腺機能正常だが症状を有する橋本病患者で、かつ血清抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)価が 1000 IU/mL を超える150人(18〜79歳)が対象。甲状腺全摘出手術をした者と、してない者に分け、健康調査 (SF-36) の総合健康スコア、疲労質問スコアなどを18ヶ月後に最終判定。
結果は、表の如く、甲状腺全摘出手術群は、
- 総合健康スコアが改善するも、健常人には届かず
- 慢性疲労頻度が82%から35%に減少するも0%にはならず
前述のように橋本病(慢性甲状腺炎、リンパ球性甲状腺炎)の炎症により放出される炎症物質・サイトカインが原因なら、甲状腺全摘出して炎症の源が消滅すれば、炎症物質・サイトカインもほぼゼロまで低下します。連鎖して抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)価も下がるでしょう。
一般的に、慢性疲労などの自覚症状を改善させる目的で甲状腺全摘出手術を行う施設はありません。当然、日本でも皆無です。しかし、ノルウェーのTelemark Hospitalに続いてシカゴ大学でも同様の結果を発表しており、海外では普及する可能性があります。シカゴ大学の報告では、生活の質が改善するだけでなく、医療費も安く済むとされます。[Surgery. 2021 Jan;169(1):7-13.]
さらに驚いたのはインドの報告で、
- 抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)価は339 ± 98.2 から 58.75 ± 25 IU/Lに低下
- 皮膚アレルギー・好酸球増加症、関節リウマチ、白斑、免疫性血小板減少性紫斑症(ITP)、セリアック病など甲状腺以外の自己免疫疾患も改善
- 1型糖尿病およびアジソン病は変化無し
[Niger J Clin Pract. 2021 Jun;24(6):905-910.]
橋本病の巨大甲状腺腫にI-131 アイソトープ治療
橋本病の巨大甲状腺腫にI-131 アイソトープ治療を行う試みがあります。甲状腺機能低下症に対して甲状腺ホルモン剤を補充し、血中甲状腺ホルモン値が正常範囲になっても巨大甲状腺腫が縮小せず、かつ喉(のど)の圧迫感が強く、飲み込みにくい(嚥下障害)状態が続く場合、I-131 アイソトープ治療の対象になる場合があります。
九州の田尻クリニックでは行っているようです。(第58回 日本甲状腺学会 P1-10-5 T4投与にても大きな甲状腺腫が持続する橋本病甲状腺機能低下症の1例:甲状腺腫縮小に対するRI治療)
ただし、全ての橋本病巨大甲状腺腫に適応がある訳ではなく、99mTc(テクネシウム)シンチグラフィーで取り込み(集積)のある症例に限定されます。
橋本病を基盤とした無痛性甲状腺炎をおこしている場合
同じく田尻クリニックの報告で、橋本病を基盤とした無痛性甲状腺炎をおこしている場合、低下症期(回復期)にI-131 アイソトープ治療を行うと取り込み(集積)が良いとの事です。(第55回 日本甲状腺学会 P1-09-07 無痛性甲状腺炎に対して放射性ヨード治療を行った1 例)
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