バセドウ病と異なる、つわりによる妊娠時一過性甲状腺機能亢進症 [日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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長崎甲状腺クリニック(大阪)では、妊娠前、妊活中より当院で甲状腺機能を管理している方の妊娠時一過性甲状腺機能亢進症にのみ対処しております。
本来、甲状腺ホルモン値は妊娠前、妊活中に調べて調整しておくべきものです。当院と常時提携していない産婦人科からの妊娠後甲状腺ホルモン高値の紹介はお断りしております。
Summary
妊娠時一過性甲状腺機能亢進症は妊娠8~13週頃に胎盤がつくるhCGが甲状腺を刺激しておこる。hCGは、つわりの原因で、かつTSH(甲状腺刺激ホルモン)と構造が似ている。つわりが強ければ甲状腺異常が無くてもおこり、血中hCGは50000-75000 IU/L以上の高値に。動悸、不整脈が強くない限りは安静・経過観察でしのぐ。TRAb、TSAb陰性でバセドウ病と鑑別。バセドウ病妊婦は妊娠時一過性甲状腺機能亢進症をおこし易い。糖尿病妊婦は潜在的胎盤機能低下のため遷延したり、妊娠後期におきる。双胎妊娠も遷延。Mirror症候群(ミラー症候群)とも鑑別要。
Keywords
妊娠時一過性甲状腺機能亢進症,妊娠,胎盤,hCG,甲状腺,バセドウ病,鑑別,ミラー症候群,双胎妊娠,遷延
妊娠8~13週頃、一時的に甲状腺機能が亢進します。胎盤がつくるホルモンのhCG[ヒト絨毛(じゅうもう)性ゴナドトロピン、薬局で普通に売っている妊娠キットで測るhCGです]は、TSH(甲状腺刺激ホルモン)と構造が似ています。
hCGが多い場合、甲状腺が刺激され甲状腺機能亢進症を起こします(妊娠時一過性甲状腺機能亢進症)。甲状腺に異常がない人でもおこり、アメリカ甲状腺学会によると全妊婦の1-3%[Thyroid. 2011 Oct;21(10):1081-125.]・日本人妊婦の3.3%[J Clin Endocrinol Metab. 2009 May;94(5):1683-8.]が妊娠時一過性甲状腺機能亢進症を来します。、つわりの強い人に多く、血中hCGは50000-75000IU/l 以上の高値になります。
甲状腺機能亢進症状(多汗・暑がり・手指振戦など)に乏しいのが特徴ですが、
- 甲状腺機能亢進症状が異常に強い時
- 耐えられない動悸、不整脈が起きた時
は無機ヨード剤(KI:ヨウ化カリウム)治療を行います。
妊娠時一過性甲状腺機能亢進症はバセドウ病と鑑別が付き難い場合がありますが、
- バセドウ病の自己免疫抗体であるTSHレセプター抗体(TRAb)、TSAb(TSHレセプター抗体[刺激型]、甲状腺刺激抗体)が検出されない
- 血中hCGが妊娠週数別のhCG正常値より遥かに高い(表;妊娠週数別のhCG正常値 看護rooより)
などの特徴があります。
(例外あり逆!妊娠時一過性甲状腺機能亢進症じゃないよ、バセドウ病)。
通常の妊娠時一過性甲状腺機能亢進症は自然に回復します。例外は、
- 遷延する妊娠時一過性甲状腺機能亢進症
- 双胎間輸血症候群(TTTS)でも妊娠時一過性甲状腺機能亢進症
- ごく稀に甲状腺クリーゼ をおこす場合があります(2023.12の時点で海外2例、日本1例のみ)。[JCEM Case Rep. 2023 Jun 30;1(3):luad064.][AACE Clin Case Rep. 2022 Jan 3;8(3):124-127.][臨床雑誌内科 109巻2号 , 2012年2月 , pp.350-352]
※チラーヂンを服薬中の橋本病/甲状腺機能低下症妊娠で甲状腺クリーゼ が起きた報告はゼロです。
橋本病合併妊娠時一過性甲状腺機能亢進症
甲状腺機能正常橋本病に合併した妊娠時一過性甲状腺機能亢進症
妊娠時一過性甲状腺機能亢進症の治療
通常の妊娠時一過性甲状腺機能亢進症は、妊娠10週でピークになり、妊娠13週頃に沈静化するので、余程、動悸、不整脈が起きない限り安静・経過観察でしのぎます。
下記にある重度の妊娠時一過性甲状腺機能亢進症の場合、ヨウ化カリウム(KI)を使用します。筆者の経験では、ヨウ化カリウム(KI)使用量は、20-30mg、不十分なら50mgが妥当と考えます。
甲状腺クリーゼ をおこした報告(海外の報告は2023.12の時点で2例のみ)では、抗甲状腺薬(メルカゾール)・無機ヨード(ヨウ素)・β遮断薬・副腎皮質ステロイド投与など母体の救命を最優先した治療を行っています。メルカゾール胎児奇形なんて言ってられない緊急事態だったことが伺えます。[JCEM Case Rep. 2023 Jun 30;1(3):luad064.][AACE Clin Case Rep. 2022 Jan 3;8(3):124-127.]
日本の報告は2012年の1例だけです。[臨床雑誌内科 109巻2号 , 2012年2月 , pp.350-352]
※チラーヂンを服薬中の橋本病/甲状腺機能低下症妊娠で甲状腺クリーゼ が起きた報告はゼロです。
バセドウ病寛解中の妊娠時一過性甲状腺機能亢進症
「バセドウ病妊婦は、妊娠初期に妊娠時一過性甲状腺機能亢進症をおこしやすい」と言う網野先生の論文があります。妊娠前から既に寛解していて、無投薬で甲状腺機能正常を維持しているバセドウ病妊婦の44%が、妊娠初期に妊娠時一過性甲状腺機能亢進症を起こすとの事です[J Clin Endocrinol Metab. 1982 Jul;55(1):108-12.]。
筆者が思うに、寛解しているとは言え、バセドウ病では
- 甲状腺内の血管増生が著明で、甲状腺内血流が増加しやすい
- 残存するバセドウ病抗体(TRAb,TSAb)とhCGの相乗効果で甲状腺を刺激する
などの理由ではないでしょうか?
バセドウ病が寛解して数年後、TSAbも陰性化した妊婦に起きた軽度妊娠時一過性甲状腺機能亢進症 下甲状腺動脈血流速度(ITA-PSV)測定
抗甲状腺薬 プロパジールで甲状腺機能正常を維持しているバセドウ病妊婦の妊娠時一過性甲状腺機能亢進症
甲状腺機能正常だがTSAb(TSHレセプター抗体[刺激型]、甲状腺刺激抗体)陽性妊婦の妊娠時一過性甲状腺機能亢進症
無投薬で甲状腺機能正常だがTSAb(TSHレセプター抗体[刺激型]、甲状腺刺激抗体)陽性の女性が妊娠した際の妊娠時一過性甲状腺機能亢進症 超音波(エコー)画像
無投薬で甲状腺機能正常だがTSAb陽性の女性が妊娠した際の妊娠時一過性甲状腺機能亢進症 超音波(エコー)画像 下甲状腺動脈血流速度(ITA-PSV)測定
妊娠時一過性甲状腺機能亢進症は軽度の甲状腺機能亢進にとどまる事が多いが、双胎妊娠になると、重度でバセドウ病並みの甲状腺ホルモン高値を呈する場合があります(2個の胎盤で倍のhCGを作るためです)。しかも、遷延します。[Clin Endocrinol (Oxf). 1997 Jun;46(6):719-25.]
田尻クリニックの報告では、妊娠11週のピーク時、FT3 22.7 pg/mL、FT4 >7.77 ng/dL、hCG 252,340 mIU/mL にまで上昇したそうです。(第57回 日本甲状腺学会P2-090 双胎妊娠中に甲状腺ホルモンが著明な高値を示した妊娠時一過性甲状腺機能亢進症の一例)
- 妊娠時一過性甲状腺機能亢進症は、妊娠32~39週頃に発症する場合もあります[Gynecol Endocrinol. 2020 Aug;36(8):662-667.]。バセドウ病が発症し難い時期ですが、非自己免疫性家族性甲状腺機能亢進症と甲状腺機能性結節(機能性甲状腺腫,プランマー病)は妊娠後期に顕在化するため、鑑別が必要です。[非自己免疫性家族性甲状腺機能亢進症妊娠(FNAH)、妊娠中に見つかる甲状腺機能性結節(機能性甲状腺腫)]
- 糖尿病妊婦は、潜在的胎盤機能低下により黄体ホルモン産生能が低い。そのためhCGが過剰産生され、妊娠後期に妊娠時一過性甲状腺機能亢進症をおこす可能性があります。[Gynecol Endocrinol. 2021 Apr;37(4):312-314.][Gynecol Endocrinol. 2020 Aug;36(8):662-667.]
秋田大学の報告では、妊娠29週で軽度の甲状腺機能亢進症を認め、血中hCG 20万mIU/mL 以上の高値が診断の決め手になったそうです。(第57回 日本甲状腺学会 P2-021 妊娠後期に一過性甲状腺機能亢進症を発症した糖尿病合併妊娠の一例)
また、妊娠時一過性甲状腺機能亢進症を発症すると妊娠糖尿病と糖尿病女性の妊娠が悪化します[Gynecol Endocrinol. 2013 Apr;29(4):336-9.]。
遷延する妊娠時一過性甲状腺機能亢進症として
- hCGに過敏反応するTSH受容体変異による遷延性妊娠甲状腺中毒症が報告されています(Lys183Arg 変異の母娘例)(N Engl J Med. 1998 Dec 17;339(25):1823-6.)。
妊娠終了まで、無機ヨード(ヨウ素)、あるいは抗甲状腺剤が必要です。妊娠終了後数カ月で、甲状腺中毒症は消失します。
- 双胎妊娠の妊娠時一過性甲状腺機能亢進症は重度(2個の胎盤で倍のhCGを作るため)です。重症の頻脈・不整脈を誘発する場合には、ヨウ化カリウム(KI)を妊娠17週頃まで投薬します。(Clin Endocrinol (Oxf). 1997 Jun;46(6):719-25.)
更に、倉敷中央病院の報告では、双胎妊娠33週まで妊娠時一過性甲状腺機能亢進症が持続(妊娠32週で血中hCG-β 90000 mIU/mL)し、その時点で帝王切開。さらに1 ヶ月後まで甲状腺中毒症が持続したそうです。2児ともに低出生体重児で、出生後のTSHサージは見られず、中枢性甲状腺機能低下症のため甲状腺ホルモン補充に。(第59回 日本甲状腺学会 O5-6 甲状腺中毒症が持続し,新生児に中枢性甲状腺機能低下症をきたした双胎妊娠の1 例)
妊娠20週まで潜在性甲状腺機能亢進症でも、妊娠25週にギリギリ顕在性甲状腺機能亢進症に移行した報告もあります。(第64回 日本甲状腺学会 39-3 双胎妊娠に伴うhCG高値により妊娠一過性甲状腺中毒症が遷延した1例)
- 双胎でもないのに出産まで続いた遷延性妊娠時一過性甲状腺機能亢進症のケースが報告されています。中通総合病院によると、妊娠8週からhCG高値が持続し、出産までTSH抑制は解除されなかったそうです。(第65回 日本甲状腺学会 P13-5 妊娠後期まで甲状腺中毒症が継続したことにhCG高値の関与が疑われた1例)
- 妊娠糖尿病では潜在的胎盤機能低下のため黄体ホルモン産生が低く、hCGが過剰産生されて妊娠時一過性甲状腺機能亢進症は遷延。その後、妊娠中期以降にも再度、妊娠時一過性甲状腺機能亢進症をおこす可能性があります[Gynecol Endocrinol. 2020 Aug;36(8):662-667.]。
埼玉医科大学総合医療センターの報告では、妊娠24週で FT4 2.15 ng/dL に再上昇、さらに上昇し妊娠32週で FT4 3.22 ng/dL になったためKI 50mg 開始。妊娠37週でFT4 2.04 ng/dL に改善したそうです。(第62回 日本甲状腺学会 P33-5 2度の妊娠でいずれも妊娠後期にFT4再上昇を認めKIでコントロールされた妊娠期一過性甲状腺機能亢進症の遷延例)
また、妊娠時一過性甲状腺機能亢進症によって妊娠糖尿病が悪化します[Gynecol Endocrinol. 2013 Apr;29(4):336-9.]。
甲状腺ホルモン剤[レボチロキシン(チラーヂンS)]補充中に遷延性妊娠時一過性甲状腺機能亢進がおこると
元々、橋本病/甲状腺機能低下症妊娠で甲状腺ホルモン剤[レボチロキシン:チラーヂンS]服薬中に遷延する妊娠時一過性甲状腺機能亢進症をおこしたなら、悪阻(つわり)が無くなっても甲状腺ホルモン過剰状態が続きます。TSH>3.0 μU/mLの甲状腺ホルモン不足状態にならないよう慎重にチラーヂンSを減量していき、ついには中止しても甲状腺機能亢進症のままです。ここで初めて遷延性妊娠時一過性甲状腺機能亢進症が判明します。妊娠糖尿病が見つかれば、遷延性妊娠時一過性甲状腺機能亢進症をおこしている可能性を考慮しましょう。
双胎間輸血症候群(そうたいかんゆけつしょうこうぐん:Twin-to-twin transfusion syndrome:TTTS)は、一卵性双胎児が1つの胎盤を共有し(1胎盤2羊膜)、栄養血管が一部つながっている(吻合血管)ため胎盤血流が多い児と少ない児に分かれ異常な発育をする病態。片方の血液をもらい血流が多い児(受血児)は羊水過多・心不全、血液が盗られ血流が少ない児(供血児)は発育不良・腎不全・肺低形成が起き、どちらも正常な発育が望めません。
双胎間輸血症候群の治療は、胎児鏡を用いて胎盤表面吻合血管を焼き切り、血流を均等にするレーザー凝固術(fetoscopic laser coagulation)です。
双胎間輸血症候群(TTTS)も妊娠時一過性甲状腺機能亢進症の原因となります。合併症のない双子妊娠と比較して、hCG値は有意に高く、妊娠時一過性甲状腺機能亢進症を起こしやすい[Eur J Obstet Gynecol Reprod Biol. 2009 Jun;144(2):124-9.]。
その理由として考えられるのは、胎盤容積増大とレシピエント胎児の羊水過多症による胎盤低酸素症です。
レーザー療法が有効であった場合、hCG濃度は著しく低下し、甲状腺ホルモン(FT3,FT4)もそれに伴い次第に減少します。(Endocr J. 2015;62(10):949-52.)[Front Endocrinol (Lausanne). 2021 Jul 16;12:705567.]
Mirror症候群(ミラー症候群)あるいはバランタイン症候 (Ballantyne 症候群)は、パルボウイルスB19感染、双胎間輸血症候群、胎児心疾患などによる胎児水腫から胎盤が破壊され、hCGが多量に放出される病態です。hCGによりVEGF、インターロイキン6(IL-6)などの産生が誘導されます。
Mirror症候群(ミラー症候群)は妊娠8~13週以降にもおこるため、バセドウ病と鑑別が必要です。[Gynecol Endocrinol. 2020 Aug;36(8):662-667.]
- hCGが甲状腺を刺激し甲状腺機能亢進症
- VEGFによる著明な浮腫(むくみ)
を起こします
血中hCGは高値、エコーで胎盤の肥厚を確認します。
緊急帝王切開により母体の甲状腺機能亢進症、浮腫(むくみ)は改善します。
確かに、妊娠前期の甲状腺機能亢進症は、妊娠時一過性甲状腺機能亢進症と安易に考えてしまいがちです。しかし、本当にバセドウ病の場合もあるので要注意。
隈病院の報告では、妊娠中に発症した甲状腺中毒症の86.2%は妊娠時一過性甲状腺機能亢進症ですが、14.8%は妊娠中に発症したバセドウ病との事です。発症時期も微妙に異なり、
- 妊娠時一過性甲状腺機能亢進症は妊娠10.8±3.0(7.8-13.8)週
- 妊娠中に発症したバセドウ病は妊娠14.5±9.5(5.0-24.0)週
(第57回 日本甲状腺学会 P1-013 妊娠関連甲状腺中毒症における4 分類と出現頻度)[Thyroid Res. 2017 Aug 8:10:4.]
妊娠14週以降の発症ならバセドウ病の可能性大ですが、本当にややこしいケースもあります。以下は、日本甲状腺学会で実際に報告されたケース(第62回 日本甲状腺学会 P33-1 妊娠中の診断に苦慮したバセドウ病の一例)
妊娠9週で悪阻が強く、妊娠12週5日には重症妊娠悪阻で入院を要する状態。母親に妊娠悪阻(つわり)歴あり。脈拍 157/ 分、眼球突出なし、甲状腺触知せず、手指振戦、四肢麻痺あり。FT3 14.35 pg/mL, FT4 6.28 ng/dL(FT3優位ではない), TSH 0.01 μIU/mL 未満, TRAb 1.2 IU/L(カットオフ値2.0、グレーゾーン), hCG 65200 mIU/mL(16000-16万), K 2.6 mEq/L. 甲状腺超音波(エコー)検査でバセドウ病特有の血流増加は軽度。あまりバセドウ病らしくない状態(手指振戦はバセドウ病を疑う)、普通に考えれば妊娠時一過性甲状腺機能亢進症の診断になります。脈拍 157/ 分なので経過観察は難しくKI 50 mg を開始。
妊娠22週、FT3 4.64 pg/mL, FT4 1.92 ng/dL(軽度高値), TSAb 107 %(正常値<120%、グレーゾーン)で、バセドウ病を確定できない。
出産56日後、発熱 (39.8 ℃)、心窩部痛、下痢、FT3 15.87 pg/mL, FT4 6.74 ng/dL, TRAb 7.0 IU/Lでやっとバセドウ病確定。
最後までバセドウ病を確定する根拠は見つかりませんでしたが、妊娠時一過性甲状腺機能亢進症を否定できる根拠が2つだけありました。
- 手指振戦、四肢麻痺などは妊娠時一過性甲状腺機能亢進症では稀
- 妊娠12週5日のhCG 65200 mIU/mL、正常値は16000-16万 mIU/mL につき正常です。
重症妊娠悪阻(つわり)と考えられた消化器症状は、甲状腺機能亢進症/バセドウ病によるものだったのです。
Hyperreactio Luteinalis(黄体化過剰反応:HL)は、
におけるヒト絨毛性ゴナドトロピン (hCG) 刺激(高hCG血症、hCGに対する高感受性)が原因で両側性・多房性卵巣腫大・黄体化嚢胞形成を来す病態。非常にまれな良性疾患です。
hCGだけでなく、未治療の甲状腺機能低下症患者で上昇した甲状腺刺激ホルモン (TSH)も卵巣を刺激します。[Cureus. 2021 Feb 26;13(2):e13573.]
Hyperreactio Luteinalis(黄体化過剰反応:HL)では、
- 妊娠中急速に増大する卵巣腫瘤;片側発生のこともある。卵巣腫瘍 として外科的切除になる場合も
- もちろん、妊娠時一過性甲状腺機能亢進症もおこります
- 卵巣捻転のため緊急手術になることも
画像は、スポークホイール状の卵巣。
妊娠が中断されれば自然軽快。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。