甲状腺機能性結節(機能性甲状腺腫,プランマー病,中毒性多結節性甲状腺腫)の治療[橋本病 バセドウ病 甲状腺機能亢進症 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。
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長崎甲状腺クリニック(大阪)では甲状腺機能性結節(機能性甲状腺腫,プランマー病,中毒性多結節性甲状腺腫)の治療を行っておりません。
Summary
甲状腺機能性結節(機能性甲状腺腫,プランマー病,中毒性多結節性甲状腺腫)の治療①エタノール注入(PEIT)は廃れた②放射性ヨード(I-131)のアイソトープ治療で手術と同等効果。効果発現に時間が掛かり、バセドウ病、バセドウ病眼症に移行する可能性③機能性甲状腺乳頭癌の可能性あれば手術。抗甲状腺薬(で甲状腺機能を正常化した後に行う。ヨウ化カリウム(KI)は甲状腺機能亢進症悪化の可能性④抗甲状腺薬だけで甲状腺機能正常化⑤ラジオ波焼灼術(RFA)は普及せず。転移性機能性甲状腺分化癌は甲状腺全摘手術後にI-131 アブレーション治療。
Keywords
ラジオ波焼灼術,甲状腺機能亢進症,甲状腺機能性結節,治療,手術,プランマー病,中毒性多結節性甲状腺腫,アイソトープ,機能性甲状腺腫,PEIT
かつて主流だった経皮的エタノール注入療法(PEIT)は、
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本当に、甲状腺ホルモン過剰産生を改善させるのかエビデンス(明確な証拠)がない。有効な事もあれば、無効な事もある
-
ほぼ全例に反回神経麻痺、ほとんど一過性だが、エタノール注入が多過ぎると永続性の反回神経麻痺になる
ため、廃れました。
欧米では放射性ヨウ素(I-131)アイソトープ治療にて、手術と同程度の治療効果です。甲状腺機能亢進症/バセドウ病よりも多くの放射性ヨウ素(I-131)を必要とするため、2~3回の分割照射になります(あくまで欧米の話)。
1回でするなら 28 mCi くらい、それでも効果不十分で追加投与になる場合や、あきらめて外科手術になる場合もあります。
手術と比べて、効果が出るのに時間が掛かり(約半年)、約40%で甲状腺腫(甲状腺の腫れ)は縮小。
反回神経麻痺(2%)・副甲状腺機能低下症(2%)
(Surgery. 2002 Dec;132(6):916-23; discussion 923.)
一方で、中毒性多結節性甲状腺腫患者の92%は、1回または2回の放射性ヨウ素(I-131)治療で治癒。甲状腺容積は43%減少し、副作用はほとんど認めなかったとする報告もあります[Arch Intern Med. 1999 Jun 28;159(12):1364-8.]。
ただし、日本においては外来で行える13.5mCi(500MBq、通常のバセドウ病に使用する量)が多く、結節の大きさや数にもよるでしょうが、欧米の報告に比べ治療抵抗性はありません。効果不十分なら3~4カ月間隔で追加投与になります(内分泌甲状腺外会誌 35(3)167-172,2018)[Ann Nucl Med. 2011 Dec;25(10):749-54.]。
甲状腺機能正常でタイミングよく止めれないため、永続性甲状腺機能低下症に移行していきます。
機能性甲状腺乳頭癌・濾胞癌の可能性がある場合は手術になりますが、きちんと悪性の評価をしないまま放射性ヨウ素(I-131)アイソトープ治療に突入する医療機関もあるのは危ないことだと思います。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病に移行
甲状腺機能性結節(機能性甲状腺腫,プランマー病,中毒性多結節性甲状腺腫)に放射性ヨウ素(I-131)治療を行うと、甲状腺機能亢進症/バセドウ病に移行することがあります(移行する理由)。postradioiodine immunogenic hyperthyroidism、放射性ヨウ素治療後免疫性甲状腺機能亢進症とも表現され、
- 機能性甲状腺腫全体の1.1%
- Plummer 病(プランマー病)の1.4%
- 中毒性多結節性甲状腺腫(TMNG; toxic multinodular goiter)の0.9%
- (結節形成しない)非自己免疫性家族性甲状腺機能亢亢進症(FNAH)の1.0%
に起こります。特に放射性ヨウ素(I-131)治療前に抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)が高値だと10倍の頻度でおこり易く、放射性ヨウ素(I-131)治療後はTRAb(TSHレセプター抗体)と共に抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体(TPO抗体)も上昇します。(Thyroid. 2006 Mar;16(3):281-8.) 。
日本の伊藤病院の統計によると、289例中2例の0.69%です(日本では、200人に1人以上と言う事になります)。(第58回 日本甲状腺学会 O-3-3 中毒性単結節性甲状腺腫(toxic adenoma; TA)の131I内用療法(RIT)後にバセドウ病を発症した2症例)
放射性ヨウ素治療後甲状腺機能亢進症(postradioiodine immunogenic hyperthyroidism)/バセドウ病に移行する理由は、全くもって不明です。筆者の個人的推論ですが、
- 亜急性甲状腺炎の経過中にバセドウ病へ移行するのと同じく、炎症によるサイトカイン上昇や血中に飛び散った甲状腺組織(腫瘍の破片)が抗原となって、潜在的に存在するバセドウ病を顕在化させた(亜急性甲状腺炎とバセドウ病、橋本病(慢性甲状腺炎)の合併/移行)
そう考えると、アイソトープ(放射性ヨウ素;I-131)治療後にバセドウ病眼症が発症・悪化するのも同じ原理です[バセドウ病眼症(甲状腺眼症)が悪化]。
- 元々、バセドウ病と機能性甲状腺腫(甲状腺機能性結節)が合併するマリンレンハート症候群: Marine-Lenhart症候群で、機能性甲状腺腫のホルモン産生が優位だったが、放射性ヨウ素治療後(サイトカインの上昇で?)バセドウ病が優位になった
と考えています。いずれにしても、眠っていたバセドウ病が顕在化したと考えるのが自然でしょう。
逆もあり、バセドウ病を放射性ヨウ素(I-131)治療後、機能性甲状腺腫に移行
逆にバセドウ病を放射性ヨウ素(I-131)治療後、機能性甲状腺腫に移行した報告もあります(Arq Bras Endocrinol Metabol. 2014 Jun;58(4):398-401.)。
甲状腺眼症(バセドウ病眼症)に移行
甲状腺眼症(バセドウ病眼症)に移行した報告があります(第62回 日本甲状腺学会 P17-2 放射性ヨウ素内用療法後に甲状腺眼症が顕在化したPlummer病の2例)。筆者が気付いたのは、放射性ヨウ素(I-131)治療前の
- TRAbは1.0-1.9 IU/Lのグレーゾーン(カットオフ値2.0未満)、TSAb値は不明
- 甲状腺機能亢進症は軽度ながらFT3優位
のため、最初からバセドウ病と機能性甲状腺腫(機能性甲状腺腫,プランマー病,中毒性多結節性甲状腺腫)が合併するマリンレンハート症候群: Marine-Lenhart症候群だった。そして、放射性ヨウ素(I-131)治療により、潜在的なバセドウ病が呼び起され、甲状腺眼症(バセドウ病眼症)に至った可能性があります(Case Rep Endocrinol. 2014;2014:423563.)。
手術の場合、先に抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)投与して甲状腺機能を正常化します(手術をより安全に行うため)。※ヨウ化カリウム(KI)使用は慎重に(下記)
潜在性甲状腺機能亢進症であっても、腫瘍自体が大きすぎたり、癌組織を含む可能性があるなら手術適応。
ヨード欠乏地域の欧米では、甲状腺機能性結節へのヨウ化カリウム(KI)投与は、甲状腺機能亢進症を増悪させるため禁忌です。(Clin Endocrinol (Oxf). 1977 Aug;7(2):121-7.)
ヨード(ヨウ素)過剰摂取地域の日本において、ヨウ化カリウム(KI)投与は、禁忌とまで行きませんが慎重にすべきです。伊藤病院の統計では、特に多単結節性の中毒性多結節性甲状腺腫(TMNG; toxic multinodular goiter)にヨウ化カリウム(KI)投与すると、76.9%で甲状腺機能亢進症が悪化したとの事です。(第58回 日本甲状腺学会 O-1-1 ヨウ化カリウム(KI)投与による自律性機能性結節性の甲状腺機能への影響)
その一方で、単発性の機能性甲状腺結節;Plummer 病(プランマー病)で根治治療を希望されない症例に対してヨウ化カリウム(KI)の長期投与を試みた報告もあります。6か月以上の間、甲状腺機能が改善したので、内服中止すると甲状腺機能亢進症が再燃。バセドウ病と異なり免疫寛解はないため、止めれば再発するのが当たり前。さらに、年単位での治療効果報告が無いため、本当にヨウ化カリウム(KI)の長期投与が良いのか分かりません。(第59回 日本甲状腺学会 P4-5-1 ヨウ化カリウムで治療した自律性機能性結節の3 例)
もちろん、抗甲状腺薬(メルカゾール、プロパジール、チウラジール)だけでコントロールできる軽症の甲状腺機能性結節(機能性甲状腺腫)も存在するので、絶対に放射性ヨード治療、手術しなければならない訳ではありません。[Thyroid. 2019 May;29(5):625-630.]
但し、機能性甲状腺乳頭癌の可能性がある場合は、本人が断固拒否しない限り手術になります。
肝臓がん等に行われているラジオ波焼灼術(RFA)、レーザー焼灼術、高密度焦点式超音波治療法などを、甲状腺に応用している施設もありますが、保険適応は無く、普及していません。ラジオ波焼灼術(RFA)は手術に比べると低侵襲で放射線被曝を伴わず、腫瘍縮小効果がありますが、肝臓よりはるかに小さい甲状腺に行うので、焼灼範囲が広くなると、周囲組織にダメージを与える可能性があります。また、機能性甲状腺乳頭癌だった場合、周囲のリンパ節郭清が出来ない難点があります。
甲状腺機能性結節(機能性甲状腺腫,プランマー病,中毒性多結節性甲状腺腫)は、手術摘出すれば治癒します。ただし、
- 左右両側の甲状腺機能性結節
- 甲状腺癌が強く疑われる
場合を除き、片葉切除(半切除)あるいは部分切除になるため、甲状腺組織が残ります。
術後再度、甲状腺中毒症を認めたら、
- 手術のストレスで無痛性甲状腺炎を起こした
- 切除しなかった非機能性結節が、機能性結節化した
- 実は、非自己免疫性家族性甲状腺機能亢進で、残りの甲状腺組織が活動を始めた
転移性機能性甲状腺分化癌の治療は厄介です。通常の甲状腺分化癌(乳頭癌、濾胞癌)と同じく、甲状腺全摘手術後にI-131シンチグラフィーを兼ねてI-131 アブレーション・アジュバント・治療を行います。甲状腺癌自体が甲状腺ホルモンを産生するため、転移巣が多ければ、I-131 アブレーション・アジュバント・治療後の甲状腺癌細胞崩壊による甲状腺中毒症も強くなります。
日本甲状腺学会の報告例では
- 非機能性甲状腺癌よりもI-131 取り込み(集積)は良いが、乳頭癌でなく転移性機能性甲状腺濾胞癌であったため効果は不十分(転移性甲状腺濾胞癌の特徴)
- 2回目のI-131 治療後、通常の甲状腺機能性結節で報告があるように(放射性ヨード治療後甲状腺機能亢進症/バセドウ病に移行)、甲状腺機能亢進症/バセドウ病に移行
I-131 治療後に「プレドニゾロン20mg投与し4週間掛けて減量」を繰り返す事で、TRAb陰性化と甲状腺機能亢進症/バセドウ病の改善に成功したそうです。
(第53回 日本甲状腺学会 P-209 131I内照射により誘発された TSH 受容体抗体がプレドニゾロン治療で陰性化し、甲状腺機能亢進症が軽快した転移性機能性甲状腺濾胞癌の一例)
最初から遠隔転移を認める転移性機能性甲状腺乳頭癌、転移性機能性甲状腺濾胞癌では、甲状腺全摘手術前にメチマゾールを投与し甲状腺機能を安定させます。[BMJ Case Rep. 2013 Mar 1:2013:bcr2013008909.]
遠隔転移を伴う転移性機能性甲状腺乳頭癌;胸骨転移[BMJ Case Rep. 2013 Mar 1:2013:bcr2013008909.]
遠隔転移を伴う転移性機能性甲状腺濾胞癌;肺転移[BMJ Case Rep. 2013 Mar 1:2013:bcr2013008909.]
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。