穿刺細胞診の注意(穿刺時出血,甲状腺血管腫)[橋本病 バセドウ病 甲状腺超音波エコー検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見② 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外(Pub Med)・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 代謝内分泌内科で得た知識・経験・行った研究、毎年開催される日本甲状腺学会で入手した知見です。
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Summary
甲状腺穿刺細胞診の主な有害事象の一つは穿刺時出血、穿刺後出血;最悪、気道閉塞により窒息。注意しても唾を飲む方におこる。用手圧迫、再度、超音波エコー、造影CT、喉頭ファイバー行い出血・喉頭腫大を確認後入院。甲状腺機能亢進症/バセドウ病、TSH高値の重度甲状腺機能低下症は甲状腺内部血流が異常増加し穿刺で大出血の危険。甲状腺ホルモン正常化し血流低下を待つ。頚動脈に接する・連鎖して拍動する、下甲状腺動脈直下の小さな甲状腺腫瘍は穿刺難。甲状腺血管腫は何度穿刺細胞診しても血液成分のみで穿刺後出血の危険。最下甲状腺動脈穿刺で大出血。
Keywords
甲状腺,穿刺細胞診,穿刺,出血,超音波,エコー,頚動脈,甲状腺機能低下症,甲状腺機能亢進症,バセドウ病
どんなに気を付けても、あるいは甲状腺機能亢進症/バセドウ病・TSH高値の重度甲状腺機能低下症など血流が多い甲状腺を避けても、穿刺細胞診の有害事象は一定割合で起こります。
順天堂大学の報告では、穿刺細胞診した663 例の内、
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穿刺細胞診直後の甲状腺全体に及ぶ腫脹[1 例、0.13%(1000人に1.3人の確率で起こる)][穿刺細胞診後、急激な甲状腺びまん性腫脹(急性反応、急性一過性甲状腺腫大)]
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腫瘍側方に出現し、組織を圧排しながら増大する無エコー域[7 例、0.93%(100人に0.93人の確率)](1. と同じ事象が局所的に起こったと推察されます)
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穿刺細胞診の最中もしくは直後に穿刺部位に出現した点状から索状の高エコー域[5 例、0.67%(200人に1.34人の確率](おそらく軽度の穿刺時出血と推察されます)
が起こったそうです。無事象群と各有事象群間において腫瘍径や血管密度、内部エコーなどに差は無く、予測は難しいとの事です。(第57回 日本甲状腺学会 O1-5 穿刺吸引細胞診後に甲状腺超音波所見が変化した症例の検討)
これらは、無自覚性が多く、術者(穿刺を行った人)も患者さんも気が付かないので、上記の如く予想以上に高い確率で起こっています。野口病院の報告でも、連続して100例を穿刺細胞診して、1時間後に再度超音波(エコー)検査を行った所、
- 無自覚性の血腫(甲状腺被膜と前頚筋の間に5mm大)
- のう胞内出血(嚢胞内出血)
- 甲状腺全体の腫脹
を1例(1%)ずつ認めたそうです(第53回 日本甲状腺学会 P-8 甲状腺穿刺吸引細胞診後に起こる無自覚性の血腫形成や甲状腺びまん性腫脹)。
ドイツでも穿刺細胞診の有害事象は1%で、甲状腺内血腫または発声障害だったそうです。[Nuklearmedizin. 2018 Dec;57(6):211-215.]
15件のコホート研究において、穿刺細胞診時の血腫または出血は最大6.4%とされます[Endocrinol Metab (Seoul). 2023 Feb;38(1):104-116.]。
甲状腺穿刺細胞診における穿刺時・穿刺後出血
甲状腺穿刺細胞診に際して最も注意すべき合併症は、穿刺時あるいは穿刺後出血で、最悪、気道閉塞により窒息に至ります。気道閉塞症状(呼吸困難)が急速に進行すると、気管内挿管が必要で、その後に甲状腺全摘出術になります。(Am J Otolaryngol. 2005 Nov-Dec;26(6):398-9.)(Laryngoscope 2006;116:154―156)(G Chir. Aug-Sep 2010;31(8-9):387-9.) (第66回 日本甲状腺学会 P26-5 超音波ガイド下穿刺吸引細胞診による頸部出血で喉頭浮腫を来たし緊急手術を要した1例)
甲状腺には血管が多く、血流が豊富です。甲状腺穿刺吸引細胞診では、甲状腺に直接、針を刺すため、穿刺時あるいは穿刺後出血が起こっても不思議ではありません。穿刺時・穿刺後出血は、そう頻繁に起こりませんが、飛行機事故と同じで起これば大惨事になります。
特に、のう胞性腫瘍(嚢胞性腫瘍)の排液を行う場合、粘稠な液が多いため太い針(21G)を使用します(輸血用の18G針を使う施設もありました)。当然、刺し口も大きくなるため、出血の危険が増します[のう胞内出血(嚢胞内出血)]。また、穿刺当日は何もなくても、塞がった刺し口は完全に固まるまで脆弱なため、無理な力が掛かると、穿刺2週間後でも出血をおこします(穿刺後遅発性出血)。
また、甲状腺動脈の外膜を傷付けて仮性動脈瘤が生じ、後日、破裂する場合があります(甲状腺動脈瘤破裂で命の危険)。
穿刺時あるいは穿刺後出血の予防と対処
甲状腺穿刺時(針を刺す直前)は必ず、「絶対に、唾(つば)を飲まないで下さい。」と患者さんに注意しますが、それでも唾を飲む方が稀におられます(認知症気味の高齢者、精神遅滞のある方など)。針が甲状腺に刺さった状態で唾を飲むと、針が曲がり、甲状腺内に出血がおこります。最悪、気道閉塞(窒息)に至る。
このような場合、
- 用手圧迫行い、嚥下痛が持続しているか確認
- 再度、超音波(エコー)プローブを当て、出血の有無を確認します。1時間しても超音波(エコー)画像に(出血しているのに)変化を認めない事もあります。だから、ここで帰宅を許可するのは危険です。
- その時は、造影CT、耳鼻咽喉科に依頼して喉頭ファイバーを行います。出血・喉頭腫大が確認されれば入院し、ステロイド投与(最悪、気道確保)。造影CT、喉頭ファイバーで異常が無くても、(特に抗凝固剤を服薬していると)遅発性の出血もあり得るので、入院して抗凝固薬を点滴するのが無難と筆者は考えています。
- 検査所見で改善が認めれば10日程で退院。
(第54回 日本甲状腺学会 P148 FNA施行時に合併した甲状腺出血により気道狭窄をおこし入院を要した症例)
甲状腺穿刺細胞診後の巨大血腫・活動性出血
(報告例)甲状腺穿刺細胞診から3時間後、重度の呼吸困難をきたし、気管内挿管。造影CTで気管を圧排する巨大血腫(上の写真左)と、活動性出血を示唆する造影剤の漏れ(上の写真右)を確認。
右鎖骨下血管造影にて下甲状腺動脈(ITA)からの活動性出血を同定し、n-ブチルシアノアクリレート(NBCA)を用いた経カテーテル動脈塞栓術(TAE)で止血したそうです(下の写真)
(BMC Surg. 2021 Apr 27;21(1):220.)。
穿刺細胞診するには、あまりにリスクが大きく、断念せざる得ない場合があります。たとえば、
- 頚動脈に接する小さな甲状腺腫瘍
- 頚動脈近傍で、頸動脈に連鎖して拍動する小さな甲状腺腫瘍
- 下甲状腺動脈直下で穿刺困難の小さな甲状腺腫瘍
- 気管に接した小さ過ぎる甲状腺腫瘍
甲状腺乳頭癌の可能性があるため、穿刺細胞診したくても、頚動脈や気管を刺してしまう危険を考えれば断念するのが正しいと思います。「退く勇気」も大切なのです。その代わり、甲状腺腫瘍が大きくならないか、腫瘍マーカーは上昇しないか、定期的に経過を見る必要があります。
総頚動脈に接する甲状腺乳頭癌リンパ節再発
甲状腺に発生する血管腫は非常に稀で、日本の報告例もわずかです(日臨外会誌 72(3),579―583,2011)。
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,天王寺区,東大阪市,生野区,浪速区も近く。