高血圧・糖尿病・メタボ、実は副腎の病気/副腎腫瘍(クッシング症候群)[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 長崎甲状腺クリニック 大阪]
内分泌代謝(副甲状腺・副腎・下垂体)専門の検査/治療/知見 長崎甲状腺クリニック(大阪)
甲状腺専門・内分泌代謝の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外(Pub Med)・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 大学院医学研究科 代謝内分泌病態内科学教室で得た知識・経験・行った研究、日本甲状腺学会で入手した知見です。
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Summary
副腎皮質ステロイドホルモンのコルチゾールが過剰・自律性分泌されるクッシング症候群。軽症型プレクリニカル クッシング症候群は糖尿病、高血圧、高脂血症、骨粗鬆症などメタボリック症候群/生活習慣病と同じで動脈硬化進行。症状は中心性肥満・ムーンフェイス・野牛様脂肪沈着、多毛・にきび・赤色皮膚線状・皮膚薄く皮下出血、浮腫、ステロイド精神病、免疫力低下。セレスタミン等副腎皮質ホルモン剤長期服用で医原性クッシング症候群。血中コルチゾール・ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)、尿中遊離コルチゾール測定。診断はデキサメサゾン1mg抑制試験→8mg抑制試験。治療は副腎腫瘍摘出。
Keywords
副腎皮質ホルモン,コルチゾール,クッシング症候群,プレクリニカルクッシング症候群,ACTH,副腎皮質刺激ホルモン,医原性クッシング症候群,甲状腺,副腎,デキサメサゾン1mg抑制試験
褐色細胞腫は、 高血圧・糖尿病、実は副腎の病気/副腎腫瘍(褐色細胞腫) を御覧ください。
原発性アルドステロン症は 高血圧、実は副腎の病気/副腎腫瘍(原発性アルドステロン症) を御覧ください。
副腎皮質ステロイドホルモンの1つ、コルチゾールが過剰かつ自律性分泌される病気をクッシング症候群と呼びます。軽症型および初期には典型的なクッシング徴候を認めず、糖尿病や高血圧、高脂血症、骨粗鬆症などメタボリック症候群/生活習慣病とほぼ同じで、動脈硬化も進行します(プレクリニカル クッシング症候群・サブクリニカル クッシング症候群)。
- 副腎腺腫:結節性過形成と同じくPRKACA、GNAS遺伝子変異があるとコルチゾールの自律産生能が高い
- 副腎過形成:結節性過形成でcAMP-プロテインキナーゼ(PKA)系を恒常的に活性化させるPRKACA、PDE8B遺伝子変異
- 副腎癌
- ACTH産生下垂体腺腫(クッシング病)
- 異所性ACTH産生腫瘍
- 医原性:ステロイド剤の長期使用で起こる
医原性クッシング症候群
- セレスタミン配合錠[抗アレルギー剤、耳鼻咽喉科・内科などで簡単に出されますが実はステロイド含有](抗アレルギー剤、実はステロイド、トンデモナイ事に!)
- 経口副腎皮質ステロイド剤;膠原病・ネフローゼ症候群・気管支喘息などで使用されますが、それらの治療が最優先です
クッシング症候群の症状は、コルチゾール過剰状態が長く続くと、より顕著に現れます。
- お腹が出ている割に手足が細くなりる(中心性肥満)
- 顔もむくんだ赤ら顔になる(ムーンフェイス)
- 首回りも脂肪が蓄積し(野牛様脂肪沈着)、甲状腺超音波(エコー)検査すると脂肪が邪魔で甲状腺が見えにくくなる
- 多毛、にきび、腹部や臀部(でんぶ;尻)に赤いスジ(赤色皮膚線状)ができる
- 腕や下肢の皮膚が薄くなり、毛細血管が透けて皮下出血しやすくなる(あざができる
- ナトリウムの体内貯留が亢進し、内分泌性浮腫もおこる
- 精神的にも不安定になる(ステロイド精神病)
- 免疫力が低下、感染症をおこしやすく、敗血症で亡くなることがあ
- 子供で発症すると骨の発育が止まり低身長に
- ステロイド高血圧、ステロイド高脂血症、ステロイド骨粗しょう症
下垂体性(クッシング病)と異所性ACTH産生腫瘍では、ACTHが皮膚のメラノコルチン受容体を刺激して色素沈着が生じます。
クッシング症候群の骨粗鬆症・尿路結石
クッシング症候群の診断には、
- 血中コルチゾール・ACTH(脳下垂体から出る副腎皮質刺激ホルモン)を測定
- 尿中遊離コルチゾール(UFC)(基準範囲 20〜100 μg/Cr=μg/day)を測定
- 負荷試験(デキサメサゾン抑制試験)で診断[デキサメサゾン1mg抑制試験で抑制されねば8mg抑制試験]
抗結核薬リファンピシン、糖尿病治療薬ピオグリタゾン(アクトス®)は、肝臓での薬物代謝酵素CYP3A4を誘導し、デキサメサゾン分解が亢進するため、偽陽性になる
- 血中コルチゾールを朝夕測定し、ほぼ同じ値であれば正常なコルチゾール日内変動が消失
(コルチゾールは午前8時頃ピークになりますが、この時間の採血は不可能なので午前9時頃採血します。
真夜中以降最も低いコルチゾールになりますが、この時間の採血は不可能なので午後6時頃採血します)
- コルチゾールを産生する副腎腫瘍(ほとんど良性副腎腺腫、時に副皮質腎癌)、ACTH産生下垂体腺腫自体を画像診断で見つけ出す。手術で摘出し、病理標本から組織型が分かる
DHEA-S(デヒドロエピアンドロステロンサルフェート);副腎性男性ホルモンで、ACTHの分泌抑制を反映し、クッシング症候群において低値になります。しかし、DHEA-Sが高値の場合、副腎皮質癌が疑われます。
副腎腫瘍が原因のクッシング症候群では、副腎腫瘍摘出が治療の第一選択です。
- 大阪公立大学医学部附属病院(旧 大阪公立大学医学部附属病院)でも腹腔鏡手術が主流
- 副腎腫瘍が大きく、腹腔鏡手術では摘出困難な方、副腎癌が疑われる方は、開腹手術による副腎腫瘍摘出
副腎腫瘍切除後は、副腎皮質ホルモンの補充を行います(下記)。
下垂体腺腫が原因のクッシング病(ACTH産生下垂体腺腫)では下垂体腺腫の切除手術を行います。目安としては1年~2年程度であるといわれています。
両側性副腎腫瘍によるクッシング症候群の種類
両側性副腎腫瘍によるクッシング症候群の種類は、
- 両側副腎皮質腺腫;両側の単発腫瘤。腫瘤が被膜で覆われる、非腫瘍性副腎組織は著明な萎縮
- 両側副腎皮質大結節性過形成[Primary macronodular adrenal hyperplasia (PMAH)];結節部は被膜で被われず、副腎全体が様々な皮質結節で、非結節性の皮質はほとんど無い
- 原発性色素性結節性副腎疾患(primary pigmented nodular adrenocortical disease:PPNAD):若年発症/家族性発症が多く、副腎は腫大しない。Carney(カーニー)症候群での合併あり
[Basic & Clinical endocrinology.5th ed, pp. 343-358, Appleton & Lange,Stamford, 1997.]
非常に稀なPrimary macronodular adrenal hyperplasia (PMAH)
Primary macronodular adrenal hyperplasia (PMAH): ACTH非依存性の大結節性副腎過形成で、非常に稀なクッシング症候群です。Primary macronodular adrenal hyperplasia (PMAH)の遺伝子変異に、ARMC5変異があり、腫瘍抑制遺伝子であろうとされます。ただ、ARMC5変異は、ステロイド合成を低下させるとされ、クッシング症候群との関係は明らかではありません(N Engl J Med 2013; 369:2105-2114)。
両側性副腎腫瘍によるクッシング症候群の治療
両側性副腎腫瘍によるクッシング症候群(最初から両側性の場合、あるいは片側性の副腎腫瘍を摘出した後に、残りの副腎に発生した場合)は、両側の副腎を摘出すれば生きられないため、
- 下記の薬物治療をおこなう
- 副腎腫瘍核出術で、副腎腫瘍だけを取り出し、最低1個副腎を残します。ただし、副腎皮質腺腫に限る
アルドステロン産生腫瘍の位置を特定するI-131 アドステロール副腎皮質シンチグラフィーは精度が低く、最近あまり行いません。
副腎腫瘍が過剰分泌した副腎皮質ホルモン(コルチゾール)により、
- 腫瘍が無い側の副腎は著しく抑制され萎縮(廃用萎縮)しています。副腎摘出術後も回復しないため低血圧、脱力、倦怠感、食欲不振など副腎不全をおこすため、術中からステロイド製剤を補充投与します。ヒドロコルチゾン300mg程から補充を開始、漸減して術後3週程で20mgまで減量できれば退院。その後もコルチゾール10-20mg/日(感染症・ストレス時レスキュー量として倍量)服用続けます(ステロイドカバー)。術後数ヶ月で遊離コルチゾールが増えれば(大体10 μg/dL以上)であれば、少しずつ慎重に減量。
罹病期間が短ければACTH分泌能の回復は早く、長ければ回復に時間を要する、または永久に回復しません。生理量(ヒドロコルチゾンで15 mg/日)まで減量できれば、ヒドロコルチゾンの夕食後服薬分を休薬して、翌朝のACTHを測定すると、回復が確認できます。
- 本来発症するはずの自己免疫性甲状腺疾患(バセドウ病、橋本病、無痛性甲状腺炎)が抑制されており、腫瘍摘出後、副腎皮質ホルモンが低下すると発症[副腎性クッシング症候群と自己免疫性甲状腺疾患(甲状腺機能亢進症/バセドウ病、無痛性甲状腺炎)]。
副腎皮質ホルモン合成阻害薬のメチラポン(メトピロン®)がクッシング症候群の治療薬として認可されました。メチラポン(メトピロン®)は、副腎皮質ホルモン(コルチゾール)合成酵素の11-β-ヒドロキシラーゼを可逆的に阻害、コルチゾールを低下させます(Psychoneuroendocrinology 32 (5): 503–7.)。
- 手術不可能なクッシング症候群患者の治療
- 副腎摘出手術前に血中コルチゾール値を低下させる場合
- 手術後に遺残病変があってコルチゾールが下がり切らない場合
に有用です。副作用として、
- 11-β-ヒドロキシラーゼより上流にあるアンドロゲン系の副腎皮質ホルモンが増加するので、男性化・多毛症
- 効きすぎて副腎クリーゼ(急性副腎不全)、副腎出血
- 自己免疫性甲状腺疾患(甲状腺機能亢進症/バセドウ病、無痛性甲状腺炎)を発症
副腎腺腫からのコルチゾールの自律性分泌(下垂体からの制御を受けない分泌)は認めるものの、上記クッシング徴候にまで至らない病態はサブクリニカルクッシング症候群と呼ばれます。クッシング症候群より高齢、クッシング症候群への移行は稀で、クッシング症候群とは別物と考えられています。
症状はメタボリック症候群の各症状のみで、、生活習慣病・メタボリック症候群と診断されている中に混じってる可能性があります(厚生労働省 難治性疾患克服研究事業,平成22 年度研究報告書.2011, 139―146.)。
副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)を数年-数カ月、長期間投与すれば、人工的にクッシング症候群を作り出す事になります(医原性クッシング症候群)。もちろん、膠原病やネフローゼ症候群、気管支喘息など、副腎皮質ホルモン剤(ステロイド剤)を止めれば命に係わる、止めれば悪化するため、止む得ない場合も多くあります(甲状腺で言えば、橋本病急性増悪)。
しかし、中には、本来、長期投与の必要が無いのに、あるいは、医者がステロイドを含む薬である事を知らずに、漫然と投与すると、不必要なクッシング症候群が作られます。その典型例が、花粉症、アレルギー性鼻炎の治療薬セレスタミン®です。
セレスタミン®は、抗ヒスタミン剤(d-クロルフェニラミン)と副腎皮質ホルモン(ステロイド;ベタメタゾン)の合剤です。たかがアレルギー性鼻炎の治療に、まさか強力な副腎皮質ホルモン(ステロイド)剤が含まれていることに処方する医師すら知らない事があります。
それこそ花粉症の時期に限定して短期間、あるいは頓服的に使用するなら問題ありません。しかし、何年も毎日服用した場合、トンデモナイことになります。セレスタミン®1錠中に
ベタメタゾン0.25mg=8.33 x [コルチゾール20mg(健康な人が1日に必要な副腎皮質ホルモンの上限値)]
含まれます。要するに、正常の8倍以上の過剰な副腎皮質ホルモンが体内に存在し、様々な有害症状(医原性クッシング症候群)起こすと同時に、自身の副腎は廃用萎縮し、もはや自力で副腎皮質ホルモンを産生できなくなります。
血液検査では、本来の副腎から分泌されるべきコルチゾールが低値になります。
急激なセレスタミン®中止と感染症、ストレスなどによる副腎皮質ホルモンの需要増大で急性副腎不全/副腎クリーゼになります。
整形外科の関節注射でクッシング症候群・中止で副腎不全
整形外科によっては、関節注射にステロイド剤を混ぜるで施設があります。それこそ、1週間、2週間に一度でも、数年続ければ医原性クッシング症候群になり、関節注射の中止で急性副腎不全/副腎クリーゼをおこします。大抵、関節注射を受けるのは高齢者で、注射液にステロイド剤が入っていることなど気にも留めません。
クッシング症候群でのプロラクチン(PRL)値
クッシング症候群での血中プロラクチン(PRL)基礎値・TRH試験での反応は正常との報告が多いです(J. Clin. Endocrinol. Metab., 51: 1048-1053, 1980.)。
クッシング症候群での成長ホルモン(GH)値
クッシング症候群での成長ホルモン(GH)基礎値、hGRH負荷試験による反応共に抑制されます。ただし、1-12週の短期間の副腎皮質ステロイド薬投与は、hGRH負荷試験による反応に影響しないとされます。(Nat Rev Endocrinol. 2013 May;9(5):265-76.)(Life Sci. 1988;42(9):979-84.)
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
長崎甲状腺クリニック(大阪)は日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医[橋本病,バセドウ病,甲状腺超音波(エコー)検査など]による甲状腺専門クリニック。大阪府大阪市東住吉区にあります。平野区,住吉区,阿倍野区,住之江区,松原市,堺市,羽曳野市,八尾市,東大阪市,天王寺区,浪速区も近く。