先天性心疾患[心房中隔欠損症(ASD)・動脈管開存症(PD)]と甲状腺[日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 バセドウ病 長崎甲状腺クリニック(大阪)]
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甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
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先天性心疾患と甲状腺
Summary
40歳以降の先天性心疾患では心房中隔欠損症(ASD)が最多。甲状腺機能亢進症/バセドウ病、甲状腺機能低下症/橋本病でも一定の率で合併。甲状腺機能亢進症/バセドウ病に心房中隔欠損症(ASD)合併すると左心房→右心房短絡路(シャント)により心臓-肺を行き来する無効な循環血液が生じ心臓に負荷を掛け心不全・不整脈。肺高血圧悪化、肺炎に。先天性心疾患の中で最も、感染性心内膜炎おこし難い。動脈管開存症の予防投与を含めた新生児一過性甲状腺機能低下症に甲状腺ホルモン剤投与しても未熟児動脈管開存症の発症率に無関係。
Keywords
先天性心疾患,心房中隔欠損症,ASD,甲状腺機能亢進症,バセドウ病,甲状腺機能低下症,橋本病,動脈管開存症,予防投与,甲状腺ホルモン
先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)の乳児は、先天性奇形、特に先天性心疾患のリスクが高い(J Clin Endocrinol Metab. 2002 Feb;87(2):557-62.)。
報告では、新生児マススクリーニングで先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)と診断された乳児の13.6%が先天性心疾患を有し、
- 心房中隔欠損(ASD)65.4%
- 残りは心室中隔欠損(VSD)、動脈管開存症(PDA)、肺動脈狭窄(PvS)、大血管転位(TGV)、大動脈弁狭窄(AS)
でした。
特に、先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)の種類、重症度と先天性心疾患の頻度との間に有意な関係はありませんでした。
(J Biol Regul Homeost Agents. 2020 Jul-Aug;34(4 Suppl. 2):91-97.)
原因として、胎児の心臓が形成される過程で、甲状腺ホルモンが関与するためとの説があります。しかし、体内では母体から胎盤を通して入ってくる甲状腺ホルモンが主であるため、本当かどうか分かりません。
全年齢で最多の心室中隔欠損症(VSD)は自然閉鎖するので、40歳以降の先天性心疾患では心房中隔欠損症(ASD)が最多(高齢者心不全の原因として見つかる場合もある)。甲状腺機能亢進症/バセドウ病、甲状腺機能低下症/橋本病でも一定の率で合併します。
先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)の乳児は、心室中隔欠損症(VSD)や心房中隔欠損症(ASD)など先天性心血管の頻度が高い[J Clin Endocrinol Metab. 2002 Feb;87(2):557-62.]。
甲状腺機能亢進症/バセドウ病に心房中隔欠損症(ASD)を合併すると、左心房→右心房への短絡路(シャント)が増加。心臓-肺を行き来する無効な循環血液が増え、心臓に余分な負荷が掛かる結果、右心不全・不整脈[心房細動(Af) ・頻脈性不整脈]・肺高血圧症を誘発・悪化、肺炎も起こし易くします(第57回 日本甲状腺学会P2-038 心房中隔欠損症を合併し全身浮腫が診断の契機となったバセドウ病の1 例)。
さらに、妊娠により循環血液量が増えると、増々、心臓に負荷が掛かります。
一方、先天性心疾患の中では、最も感染性心内膜炎 を起こし難いです。
左右シャントによるII音の固定性分裂、相対的な肺動脈弁狭窄胸骨による左縁第2 肋間の収縮期雑音を認めます。
1990年代まで心房中隔欠損症(ASD)の治療は、人工心肺で心臓を停止させ、開胸して直接欠損穴を塞ぐ侵襲の大きい外科手術が主体でした。2000年代になるとアンプラッシャー閉塞栓(心房中隔閉塞栓)を使った低侵襲のカテーテル手術が主流になります。
カテーテル手術時に甲状腺機能亢進症状態だと、心房細動(Af) ・心房粗動(atrial flutter; AF)を誘発するリスクが高くなります。[J Formos Med Assoc. 2017 Jul;116(7):522-528.]
カテーテル手術前の心拍数80〜110/分だったが、手術当日120~130/分まで増加し術中に甲状腺機能亢進症と判明。それでもカテーテル手術を行ったそうです[BMJ Case Rep. 2022 Sep 21;15(9):e250427.]。
アイゼンメンジャー症候群(肺動脈の不可逆的閉塞, 逆の右左シャント)になると心房中隔欠損閉鎖手術は禁忌です。心肺同時移植が必要となります。
卵円孔開存症(PFO:Patent Foramen Ovale)は、出生後に閉鎖する心房中隔の穴(卵円孔)が閉鎖せずに残っている病態です。成人の20-30%に存在し、臨床上、問題になる事はほとんどありません。しかし、まれに深部静脈血栓が、右心房から左心房に入り込み、脳へ飛んで脳梗塞や一過性脳虚血発作になります(奇異性脳塞栓症)。
特に、若年性(60歳以下)の塞栓源不明脳塞栓症(原因不明の血栓による脳塞栓症)では、
を疑わねばなりません。1.-3.は血液検査で容易に診断できます。発作性心房細動(Af)は、洞調律に戻っていると分かりませんが、甲状腺機能亢進症/バセドウ病があれば予測は付きます。
卵円孔開存症(PFO)による奇異性脳塞栓症は、腹圧が掛かり、静脈圧↑→右心房圧↑し、左心房へのシャント血流増加した時に起こりやすくなります。
卵円孔開存症は心エコーでも見つけ難く、異常なしと判断してしまう可能性があります。マイクロバブルテストが有用。
甲状腺乳頭がんによる凝固能亢進で生じた血栓(甲状腺がんと血栓症)が、卵円孔を通り、奇異性脳塞栓症を起こした報告があります(J Clin Neurosci. 2012 Nov;19(11):1593-4.)。
動脈管開存症(PD)は、右心室→肺へ血液を送る肺動脈と、左心室→全身へ血液を送る大動脈が、動脈管という血管でつながったままの状態です。
胎内では動脈管が胎児の血液循環に必要ですが、出生後肺呼吸に切り替わると自然閉鎖しなければなりません。自然閉鎖しないのが動脈管開存症(PD)で、肺を介さず酸素を取り込めない肺動脈→大動脈直接シャントにより全身酸欠になります。十分な、循環血液量増加により心臓に負荷が掛かります。
また、菌に汚染された静脈血が肺というフィルターを通さず直接動脈血に混ざるので、感染性心内膜炎 おこす危険性があります。
(図 Webloo辞書より)
妊娠末期のロキソプロフェン(ロキソニン®)等の非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDs)投与は、プロスタグラン(PG)産生を抑え、胎児の動脈管を収縮させるため禁忌です。一方、アセトアミノフェンの鎮痛作用は未だよく分かっておらず、中枢性の作用機序などが考えられており、末梢作用は弱く、動脈管への影響少ないため、禁忌ではありません。
先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)の1.75%に動脈管開存症(PD)を認めたとされます[J Pediatr Endocrinol Metab. 2014 May;27(5-6):485-9.]。
動脈管への甲状腺ホルモン作用は明らかではありません(はっきり言って関係ないと思います)。甲状腺ホルモン製剤が未熟児動脈管開存症の発症を予防するとの説がありますが、実際どうなのでしょうか?。
- 動脈管開存症の予防投与を含めた新生児一過性甲状腺機能低下症に対する甲状腺ホルモン製剤投与;一過性甲状腺機能低下症の低出生体重児(1,250g以下で在胎25-28週の早産児)で、甲状腺ホルモン製剤を投与しても未熟児動脈管開存症の発症率は変化しない。(Cochrane Database Syst Rev. 2007;(1):CD005945.)
- 動脈管開存症に対する甲状腺ホルモン製剤の予防投与;在胎32週未満の早産児に甲状腺ホルモン製剤の予防的投与しても効果なかった。(Cochrane Database Syst Rev. 2007;(1):CD005948.)
大動脈弁二尖弁は、本来3 枚の弁尖が2 枚しかない状態で、人口の1〜2%に存在します。大動脈弁二尖弁の異常な弁構造は、弁尖の線維症、石灰化を促し、大動脈弁閉鎖不全や大動脈弁狭窄症の原因になります。しかし、チアノーゼには至りません。
ターナー症候群では、甲状腺の病気と共に大動脈弁二尖弁などの先天性心疾患を合併します。[Eur J Endocrinol. 2020 Oct;183(4):463-470.][J Hum Reprod Sci. 2017 Oct-Dec;10(4):297-301.]
(Michigane Healthより改変)
単心室症は左右心室の片方ないか、非常に小さく、動脈血と静脈血が常に混ざり合うため、酸素欠乏状態・チアノーゼが持続する稀な先天性心疾患です。
成人の先天性心疾患に、内分泌疾患の合併は多くありません。単心室症に原発性副甲状腺機能亢進症と無脾症を合併した29歳男性の報告があります。若年発症なので多発性内分泌腺腫症1型(MEN1)、 2型(MEN2) を疑いますが、発見時の年齢で甲状腺腫瘍・下垂体腫瘍・膵臓内分泌腫瘍は無かったとの事です。(第44回 日本小児循環器病学会P-150 成人期に原発性副甲状腺機能亢進症を発症した無脾症の1例)
ダウン症候群は甲状腺の病気(10-20%)と先天性心疾患(40%)の合併が多いです。ダウン(Down)症候群の二大死因は先天性心疾患と呼吸器感染症です。
ターナー症候群も甲状腺の病気と共に先天性心疾患を合併します。[Eur J Endocrinol. 2020 Oct;183(4):463-470.]
大動脈縮窄症(coarctation of aorta:CoA)は、動脈管閉鎖により大動脈遠位部が狭窄する病態。ターナー症候群の約20~30%に合併[J Clin Res Pediatr Endocrinol. 2015 Mar;7(1):27-36.]。
大動脈縮窄症(CoA)では、
- 狭窄部より近位の上行大動脈は高血圧(上半身高血圧)、頭痛、左室肥大、遠位部は下肢血流低下による間欠性跛行
- 半数以上で心室中隔欠損症(VSD)などの先天性心疾患を合併
- 狭窄が高度、あるいは先天性心疾患を合併していれば乳幼児期から心不全
- 狭窄が軽度、かつ先天性心疾患がない(単純型大動脈縮窄)か軽度なら、最大、成人期まで無症状の場合もある。
学校の心電図検診で左室肥大の要精査で見つかることがある
たとえ無症状であっても、脳出血、心血管障害などの合併症のため短命。
確定診断には、心エコー、造影MRI、大動脈造影。
(図;MayoClinic HPより)
先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)の0.75%に大動脈縮窄症を認めたとされます[J Pediatr Endocrinol Metab. 2014 May;27(5-6):485-9.]。
ラットを用いた動物実験では、腹部大動脈縮窄により慢性的な甲状腺血流増加が生じました。血管床の容積は26%増加し、甲状腺濾胞容積は0%増加。甲状腺濾胞上皮細胞は高細胞となり核容積も増加しますが、甲状腺濾胞上皮/コロイド体積比は変化なし。甲状腺のヨウ素(ヨード)吸収は血管床の増加に伴い増加。[Arkh Anat Gistol Embriol. 1979 Jun;76(6):106-10.]
フェイス症候群症候群(PHACE症候群)は、
- 大きな乳児顔面血管腫
- 後頭蓋窩の脳奇形;Dandy-Walker 症候群など
- 大動脈縮窄症、動脈管開存症(PD)
- 眼の奇形・血管腫、先天性白内障
- 舌甲状腺腫、先天性甲状腺機能低下症(クレチン症);、血管腫のインターフェロンアルファ療法によって増悪[Arch Dermatol. 1996 Mar;132(3):307-11.]
- 成長ホルモン分泌不全[J Pediatr Endocrinol Metab. 2019 Nov 26;32(11):1283-1286.]
甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
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長崎甲状腺クリニック(大阪)とは
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