大腸、便秘・下痢と甲状腺 [日本甲状腺学会認定 甲状腺専門医 橋本病 甲状腺機能低下症 バセドウ病 甲状腺超音波エコー検査 長崎甲状腺クリニック 大阪]
甲状腺:専門の検査/治療/知見① 橋本病 バセドウ病 甲状腺エコー 長崎甲状腺クリニック大阪
甲状腺専門の長崎甲状腺クリニック(大阪府大阪市東住吉区)院長が海外・国内論文に眼を通して得た知見、院長自身が大阪市立大学(現、大阪公立大学) 大学院医学研究科 代謝内分泌病態内科学で得た知識・経験・行った研究、甲状腺学会で入手した知見です。
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甲状腺編 では収録しきれない専門の検査/治療です。
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Summary
甲状腺機能亢進症/バセドウ病は腸管運動が活発で吐き気・軟便・下痢、嘔吐すれば甲状腺クリーゼの可能性。甲状腺機能低下症は腸管運動が低下して便秘。橋本病(慢性甲状腺炎)・バセドウ病の発症に腸内細菌叢(腸内フローラ)が関与。大腸内視鏡の抗コリン剤注射は甲状腺機能亢進症、活動性甲状腺眼症(緑内障発作の危険)に禁忌。上部消化管障害のある甲状腺クリーゼ患者に無機ヨウ素(ヨード)とプロピルチオウラシル(PTU)を持続浣腸で直腸内に投与する方法あり。直腸周囲膿瘍にヨードホルムガーゼを使い甲状腺機能低下症に。
Keywords
甲状腺機能低下症,橋本病,嘔吐,便秘,甲状腺機能亢進症,下痢,甲状腺,腸内フローラ,甲状腺クリーゼ,バセドウ病
- 甲状腺ホルモンと便秘・下痢
- 漏出性便失禁と甲状腺機能
- 甲状腺機能障害と排便
- 腸内細菌叢(腸内フローラ)と甲状腺
- 大腸内視鏡の抗コリン剤注射は甲状腺機能亢進症、甲状腺眼症(緑内障発作の危険)には禁忌
- 浣腸と甲状腺
- 授乳中の女性の直腸周囲膿瘍にヨードホルムガーゼを使うと
- 痔核と甲状腺
過敏性腸症候群(IBS)・大腸憩室・大腸穿孔・S状結腸捻転と甲状腺
便は、食物が胃腸で消化・吸収された後の余りものです。
便の性状で腸の健康状態をみるブリストルスケールがあります。
青枠は甲状腺機能低下症、赤枠は甲状腺機能亢進症/バセドウ病における便の状態です。
硬便・軟便が長期間続く時は、甲状腺の病気を疑う必要があります。もちろん、腸自体の病気、甲状腺の病気と胃腸の病気が合併している可能性もあるので、胃カメラ・大腸カメラは必要です。[胃カメラ・大腸カメラは、かわさき消化器内科クリニック(大阪市平野区瓜破)]
甲状腺機能亢進症/バセドウ病と下痢
甲状腺機能亢進症/バセドウ病では、腸管運動が活発になり過ぎて、吐き気・軟便・下痢をおこします[Gut. 1989 Jan;30(1):26-9.]。
- 元々、胃腸が過敏な人
- 慢性萎縮性胃炎を持っている消化能力の低い高齢者
は嘔吐(吐いてしまう)・腹痛をおこす事もあります。(J Fam Pract. 2017 Feb;66(2):E1-E2.)(Br Med J. 1976 Jul 24; 2(6029): 209–211.)
胃腸に問題ない人で嘔吐する場合、生命に危険が及ぶ甲状腺クリーゼの可能性があります。
下痢がひどくて、抗甲状腺薬メルカゾールが吸収されない
下痢がひどくて、抗甲状腺薬のMMI(メルカゾール)を吸収できず、メルカゾール12錠(60mg)/日+プレドニン(ステロイド)10mg/日飲んでも、甲状腺機能亢進症/バセドウ病が全く改善しない症例も報告されています。メルカゾール注射薬(投与量は6錠分に相当する30mg/日)で、驚くほど改善し、無事に甲状腺全摘手術を行えたそうです。(第58回 日本甲状腺学会 P1-10-1 甲状腺機能正常化が困難なバセドウ病の術前管理におけるチアマゾール(MMI)の有用性)
治療的診断でメルカゾール注射薬の効果を見れば、下痢によるメルカゾール吸収障害と推測できます[Thyroid. 2006 Jul;16(7):691-5.]。一般的には不可能ですが、研究目的でメルカゾール内服後の血中メルカゾール濃度を測定し、低値を証明すれば確定です(あすか製薬に頼むしかねーな)。(第67回 日本甲状腺学会 O7-2 下痢によりチアマゾール吸収不良を起こしたバセドウ病の1例)
現在、メルカゾールはフィルムコーティング錠ですが、かつて(2021.04より以前)は糖衣錠でした(メルカゾール糖衣錠がフィルムコーティング錠へ!)。それでも、メルカゾール錠2.5mgと5mgには、添加剤として乳糖水和物が含まれます。乳糖を含むメチマゾール(メルカゾール)またはプロピルチオウラシル錠剤を服薬した後、重度の下痢を発症したラクターゼ欠乏症バセドウ病女性の報告があります。乳糖を含まないメチマゾール錠剤で下痢は消失。[J Endocrinol Invest. 1997 Oct;20(9):569-70.]
甲状腺機能低下症と便秘
甲状腺機能低下症では、腸管運動が低下して便秘気味になります。
しかし、小腸の運動に問題なく、大腸の機能低下が原因と考えられています[Gut. 1989 Jan;30(1):26-9.]。
甲状腺機能低下症では、
- 小腸の蠕動運動は正常
- 直腸内圧の閾値が高くなりに排便反射が起こりにくい
- 直腸の最大許容容積が小さくなる
- 便秘になる人の33%は、元々、便秘の経験がある人
[J Gastroenterol Hepatol. 1999 Apr;14(4):384-7.]
便秘が非常に強いと腸閉塞(イレウス)・偽性腸閉塞症に至ることもあります。(甲状腺機能低下症で偽性腸閉塞症、食餌性腸閉塞[昆布(こんぶ)、ワカメ、寒天・みつ豆])
粘液水腫性昏睡など、重度の甲状腺機能低下症では巨大結腸症をきたす場合もあります。[Minerva Anestesiol. 1996 Jul-Aug;62(7-8):271-5.][Ann Pediatr Endocrinol Metab. 2016 Dec;21(4):230-234.]
右は手塚治虫のブラックジャックに登場した「ウンコのしかた」、新刊「ウンコとトイレの関係」の著者、徳川先生。
まさかこの人が考えたのではないでしょうが、太腿と上半身の角度を35度にすると、直腸と肛門が直線になり、便が出やすくなるそうです。
甲状腺機能が正常化しても硬便・軟便が続く場合
甲状腺の病気だけが原因の便秘・下痢なら、甲状腺機能が正常化すれば解決するはずです。
甲状腺の病気を治療して、甲状腺機能が正常化した後も硬便・軟便が続く時は、胃腸の病気が合併している可能性があります。胃カメラ・大腸カメラを行うべきです。
漏出性便失禁(便意を伴わず、知らないうちに便が漏れる)の原因は、
- 加齢による肛門括約筋のゆるみ
- 直腸がんや直腸の神経障害[ヒルシュスプルング病(Hirschprung病))]で便が溜まっている信号が伝わらず、排便指令が来ない
などです。
ヒルシュスプルング病(Hirschprung病)は腸が動かず慢性便秘と、腸が便で満タンになった後は漏出性便失禁をおこします。ヒルシュスプルング病(Hirschprung病)は
- ダウン症の合併が多く、甲状腺機能低下症もダウン症で合併が多いため(ダウン症候群と甲状腺の病気)、3疾患が合併する場合があります[J Pediatr Endocrinol Metab. 1998 Mar-Apr;11(2):241-6.][Am J Dis Child. 1986 May;140(5):479-83.]
- 多発性内分泌腺腫症2A型(MEN 2A)で甲状腺髄様癌を合併
甲状腺機能障害の直腸肛門生理学に関する報告として、
- 甲状腺機能亢進症患者の肛門圧[最大安静時圧(MRP)および最大圧迫圧(MSP)]は低くなる
- 甲状腺機能亢進症患者では、直腸バルーン感覚(排便の閾値感覚、排便を我慢できなくなる限界値)は低い
- 甲状腺機能低下症患者では、直腸バルーン感覚(排便の閾値感覚、排便を我慢できなくなる限界値)は高い
- 甲状腺機能低下症患者の最大直腸容積は低い
- 甲状腺機能低下症患者の33%と甲状腺機能亢進症患者の40%は、甲状腺障害の発症前に腸機能障害の症状を経験している
[J Gastroenterol Hepatol. 1999 Apr;14(4):384-7]
便1グラム当たり、約1000億個の腸内細菌が含まれています。糞便の約60%は腸内細菌です。
ヒトの腸管には約100種類、約40兆個の善玉菌・悪玉菌・日和見菌から成る「腸内細菌叢(腸内フローラ;お花畑の様に見えるため)」が存在します(善玉・悪玉コレステロールとは無関係)。
善玉菌はアミノ酸やビタミンを産生し、免疫能を高めたり、病気の原因になる細菌やウイルスを排除します。
一方、悪玉菌は有害物質を産生し健康を損ねます。
日和見菌は基本的には有用ですが、時に有害となります。
腸内細菌の多様性の喪失、善玉菌の減少と悪玉菌の増加で、
- 大腸がん、乳がん
- 動脈硬化、肥満、糖尿病(Diabetes Care. 2014;37:2343-50.)
- 関節リウマチ
- アトピー性皮膚炎
などの発症、増悪がおこります。腸管でのバリア機能低下により、腸内細菌とその生成物が血中へ入ると免疫反応→サイトカイン増加と慢性炎症が惹起されます(Diabetes Care. 2014;37:2343-50.)。
橋本病(慢性甲状腺炎)や甲状腺機能亢進症/バセドウ病の発症にも同様の理由で腸内細菌叢(腸内フローラ)が関与している可能性があります(Clin Immunol. 2017 Oct;183:63-74.)(Clin Exp Immunol. 1988;72:288-92.)
エルシニア食中毒の原因菌、Yersinia enterocoliticaが甲状腺機能亢進症/バセドウ病を誘発する可能性があるのは有名です(エルシニア食中毒)。
橋本病(慢性甲状腺炎)や甲状腺機能亢進症/バセドウ病の後天的な発症要因であるストレス・喫煙などは腸内細菌叢(腸内フローラ)に悪影響との報告があります(Clin Immunol. 2017 Oct;183:63-74.)。
橋本病(慢性甲状腺)と共通の免疫機序を持つセリアック病は、小麦・大麦・ライ麦などに含まれるグルテンという蛋白質に免疫反応が起こり、小腸粘膜損傷し下痢、消化吸収不良になります(パンや麦製品を食べると下痢、セリアック病と橋本病は密に関係)。セリアック病でも、腸管バリア機能低下により、腸内細菌とその生成物が血中へ入り免疫反応を引き起こすと考えられます。
逆に
- 橋本病(慢性甲状腺炎)患者の約50%に小腸内悪玉細菌の過繁殖を認める。健常コントロール群が5%なので、10倍です。
- 橋本病(慢性甲状腺炎)患者の腸上皮粘膜にリンパ球浸潤とバリア機能の低下を認めます(J Clin Gastroenterol. 2002;34:237-9.)。
- 甲状腺機能亢進症/バセドウ病患者でも小腸内悪玉細菌の過繁殖を認める(Curr Microbiol. 2014;69:675-80.)。
腸内細菌叢(腸内フローラ)は神経伝達物質のセロトニン・ドーパミン・ノルアドレナリン・アセチルコリンなどを産生するため、甲状腺機能亢進症/バセドウ病、甲状腺機能低下症/橋本病の精神症状に部分的な影響を与える可能性があります(Clin Immunol. 2017 Oct;183:63-74.)。
腸内細菌叢(腸内フローラ)は食事によって大きく影響されるため、善玉菌が増える食物繊維やオリゴ糖を努めて食べるのがよいでしょう。
ただし、甲状腺機能低下症/橋本病などで甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)を服薬されている人は、食物繊維、乳製品によるチラーヂンS吸収障害に注意(チラーヂンS吸収障害をおこす食べ物)。
悪玉菌は高たんぱく、高脂肪食で増えるため、適量たんぱく質、適量脂肪食が良いでしょう。過度のたんぱく制限、脂肪制限は体の免疫力を低下させるので好ましくありません。
適度な運動、十分な睡眠も腸内環境を健康に保つには必要です。
大腸内視鏡検査、内視鏡的粘膜切除術(EMR)、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)、ポリペクトミーの前処置に行われる抗コリン剤注射は、
- 甲状腺機能が正常化していない甲状腺機能亢進症/バセドウ病には禁忌です。
- 長期にわたって活動性のある甲状腺眼症(バセドウ眼症)のみ、緑内障発作の危険があります。ただし、活動の停止した甲状腺眼症(バセドウ眼症)は、緑内障との因果関係ありません。(Ophthalmology. 1997 Jun;104(6):914-7.)
- 活動性中の甲状腺眼症(バセドウ眼症)で、ステロイド剤治療を受けているなら、ステロイド緑内障の危険性はあると考えます。
抗コリン剤は、副交感神経をブロックし、相対的に交感神経を優位にするため、甲状腺ホルモンの作用を増強させ、甲状腺機能亢進症/バセドウ病を悪化させます。甲状腺ホルモンが正常化して、かつ安定した状態なら、さほど影響はないでしょう。そのため、添付文書では「注意」になっていますが「禁忌」にはなっていません。
未熟児は、ヨウ素(ヨード)含有消毒剤の皮膚吸収またはヨウ素(ヨード)造影剤の静脈内投与で甲状腺機能低下症をおこしやすく、ヨード造影剤(ヨーキシタラミン酸ナトリウム)浣腸でも重度の甲状腺機能低下症に至ります。[Eur J Pediatr. 2009 Apr;168(4):499-500.]
上部消化管障害のある甲状腺クリーゼ患者に、無機ヨウ素(ヨード)とプロピルチオウラシル(PTU)を持続浣腸で直腸内に投与する方法があります。無機ヨウ素(ヨード)の約40%が吸収されます。[Thyroid. 1995 Oct;5(5):403-5.]
また、プロピルチオウラシル(PTU)坐薬を作成した報告もあります[Thyroid. 2002 Jul;12(7):627-31.]
日本看護協会による「緊急安全情報」(2006年)によると、立位でのグリセリン浣腸はチューブが直腸壁に直角に当たって腸穿孔の危険が高いそうです。「立ったままの姿勢で浣腸」できるのか筆者には分かりませんが・・・。肛門が締まるのでチューブが入らない、肛門が緩いと液が入ってもすぐに漏れ出してしまうので無理と思うのですが・・・・。おそらく、医療従事者以外の方が、薬局で買った市販の浣腸を使う際の注意だと思います。
授乳中の女性の直腸周囲膿瘍に対してヨードホルムガーゼを使用し、生後2週間の母乳育児で一過性甲状腺機能低下症が誘発された報告があります。母親がパッキングヨードホルムガーゼを中止し、乳児に甲状腺ホルモン剤を投与して解決。(J Pediatr Endocrinol Metab. 2004 Apr;17(4):665-7.)
痔核患者における橋本病(慢性甲状腺炎)発症リスクは、比較対照者の2.06倍(95%信頼区間[CI] = 1.02、4.19)とされます。[Front Endocrinol (Lausanne). 2020 Oct 8;11:577767.]
甲状腺機能低下症において、肥満による腹腔内圧上昇が直腸筋へのストレスを増大させ、痔核を形成する可能性がある[Front Endocrinol (Lausanne). 2020 Oct 8;11:577767.][Korean J Fam Med. 2014 Sep;35(5):227-36.]
内痔核は肛門管静脈叢のうっ血により形成され、アルコール過飲、下痢、妊娠・出産が誘因になります。上直腸動脈に一致して3 時、7 時、11 時の位置に好発。症状は鮮紅色の出血で、血栓性内痔核では著しい腫脹をきたす。
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甲状腺関連の上記以外の検査・治療 長崎甲状腺クリニック(大阪)
- 甲状腺編
- 甲状腺編 part2
- 内分泌代謝(副甲状腺/副腎/下垂体/妊娠・不妊等
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長崎甲状腺クリニック(大阪)は
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